魔法使いの弟子 1


お嬢、いつの間にか私はあんたのことをこう呼ぶようになっていた
ありがとうよ、お嬢

最後の瞬間をあんたの腕の中で迎えられたことは、私の人生で一番うれしいことだったよ

私が死んだのは、その時が来たからなんだよ
確かに、もうちょっと生きていて、こうたんやこやまが大きくなるのや、あんたが幸せになるのを見届けたくなかったかと言えばウソになるけど、これも寿命
私は本当に、そりゃあ本当に幸せだったよ
私は、十分に生きたのさ

誰しも、肉体には限りがあるけど、命に限りはないのさ
死んで、それがよくわかったよ
だって死んだってこうしてあんたのそばにいられるし、それどころか死んでからの方が、あんたの気持ちも手に取るように分かるからさ

私が死んだ明け方
自分がもう死ぬんだと、はっきり分かったよ
その時は、私は半分肉体から抜け出ていて、ちょっと上の方から自分の身体を見ていた
となりでは、こやまが気持ちよさそうに寝てた

苦しかったかって?そんなことなかったよ、安心しな
数日前から私は、身体から出たり入ったりしてたんだ
身体に戻ったときは、息苦しいし、だるかったけど抜け出たら何ともないんだ
だから、ほとんどは身体の外から自分を見てたんだよ

自分の身体がもうおしまいだと感じたとき、あんたに最後のあいさつをしようと思った
肉体に戻ったときしか、あんたとお互いに触れ合うことは出来ないからねえ
肉体に戻ると、やっぱり息がしにくくて、「お嬢」って呼ぼうと思ったけど、声が出ない
でも、あんたにあいさつもしないで逝くわけにいかないだろう?

私は心の中で大声で「お~い、お嬢~っ!」って呼んだのさ
すると、いい子だねえ
こうたんが気付いてあんたを起こしてくれた

お嬢はすぐに気付いて、私を抱きかかえてくれた
そう、お別れの時が来たのさ

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