バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

ヒッピーの姿をした異邦人は泊めてくれない



  どのくらい時が過ぎたのだろうか。
 やはり、いつの間にか眠っていた。
 そして、いつの間にか白いシーツの中にもぐりこんでいた。
 よほど寒かったのか、無意識のうちにもぐりこんでしまっていたようだ。

  どうやら、南京虫は心配なさそうだ。
 天窓の小さな窓から、明りが射し込んでくる。
 もう太陽が天空まで昇っているに違いない。
 中庭を通して入ってくる明りだけでは、今何時なのか全く検討がつかない。

  相変わらず時計は機能を果たしていない。
 耳を澄ましても、時を刻む音は聞こえてこないのだ。
 階下へ下りて行くが、誰も居ない。
 荷物の増えたバックパックを担いで外へ出た。
 外へ出ると、すぐ地元の若者に捕まってしまった。

       若者「ハッシッシはどうだ!」
       俺 「ノー!」
       若者「安いバザーが今日で終る、ガイドをしてやろうか?」
       俺 「ノー!グッド!」

  手を振って断っても、話題を変えていつまでも付きまとって来る。
 時計の店があったので覗きこむと、午前9:20。
 本当かどうか分らないが、その辺の時刻なんだろう。
 早い朝だ。
 朝が早いと、朝食の費用がかかるのであまり良い事ではないのだ。

  今日の朝食は、昨日の残りのパンとチーズ。
 石畳の坂道をゆっくりと歩いていく。
 昨日見つけておいたペンションに顔を出すが、昨日話をしたマスターが不在らしく、部屋の向こうから女主人の声がした。

       女主人「ノー!コンプレ!」

  何度も叫ぶ。
 どうやら満室か、機嫌悪いのか泊まれないらしい。
 仕方なく、他の宿をあたるが、空室なのにもかかわらず、”ダメ!”とのこと。
 どうもヒッピーと間違われているようだ。
 間違われているのではなく、今の俺の姿はヒッピーそのものに違いない。
 我ながら汚い格好をしていると思う。

       俺 「断られるのも・・・・無理もないかー!」

  三件目にやっと良い返事がかえって来た。
 宿の名前は「PALACE」。

       俺   「おばさん、一泊いくら?」
       おばさん「6ドラハム(360円)だよ。泊まるのかい?」
       俺   「お願いします。」
       おばさん「こっちへ来な!」

  息子だろうか?小さな子供に案内されて部屋を見る。
 なかなか良い部屋だ。
 と言っても、昨日の宿よりもという事だ。
 荷物を部屋に置いて、鍵をかけ、階段を下りてロビーに出ると、さっき案内してくれた少年が一人で本を読んでいた。
 横に置いているカバンの中には、たくさんの本とノートがぎっしりと詰まっていて、良い学校に通っている良家の子息と言う感じがした。

  本を覗き込むと、アラビア文字だろう文字が、ミミズの這った跡のように書かれているのが見えた。
 暫くそのまま覗き込んでいると、少年がカバンの中から一冊の本を取り出して見せてくれるではないか。

       少年「フランス語だよ。」

  取り出された本は、アラビア語ではなく、フランスの本だった。
 こんなに小さな時から、外国語としてフランス語を習っているのだ。
 それもそのはず、モロッコはついこの前まで、フランスの植民地だったことを思い出した。
 少年はまだ、低学年だろう。

                   *

  重い荷物を担がなくても済むと思うと開放的になる。
 宿を出ると、外はもう人で溢れていた。
 ここはカスバの南。
 タンジールの港のすぐ西にあたり、”Ville Ancienne”地区に位置している。
 街は、この地区から南・西に延びている。

  まず南にあるツーリスト・オフィスを探しながら坂道を下りていく。
 すると今まで見る事が出来なかった、ビル群が建ち並ぶ、カスバとは随分違った様相を見せてきた。
 途中2、3人の地元の人たちに声をかけられながら、ツーリスト・オフィスを探し出し、中に入るとカウンターの奥に・・・・・・、美人が座っていた。

        美人「何か?」
        俺 「タンジール・マップが欲しいんですけど!」
        美人「分りました。」

  席を立つと、地図を一枚持って来てくれる。
 貰った地図を見るが、まるで分らない。
 文字は小さく、印刷が雑な為読みずらく、今日訪ねた宿の辺りは、道が書かれておらず真っ白のまま。
 それでもまあ、何とか街の雰囲気はつかめるから良しとしなくちゃいけないかと、自分に言い聞かす。

  ポスト・オフィスに向かう。
 なんとも簡単なオフィスだ。
 現地の人たちが集まっている窓口へいく。

        俺 「アエログラムはありますか?」
        窓口「アエロはここにはない。タバコ屋で売っているから、そこへ行きな!」

  そっけない返事が返って来た。
 表通りの、何でも売っている雑貨や兼タバコ屋へ出向くが、アエロ・グラムは売っていなかった。
 ”あっちへ行け!”、”こっちへ行け!”と振り回された挙句、ついに手に入らずじまい。
 仕方なく、絵葉書を数枚購入して、人込の中を歩く。

  バス・ステーションまで行くまでに、二、三人、バス・ストップでも一人の青年に英語で声をかけてくる。

       青年「何処へ行くの?」
       俺 「カサブランカへ行きたいんだけど。」
       青年「カサブランカなら、高いけど列車で行ったほうが良いよ。」
       俺 「そう、ありがとう!」

  言われたとおり駅へ向かう。
 カサブランカまで、1日三本走っている。
 駅には三、四人の旅行者が居るだけで静かなものだ。
 それの比べて、安いバス・オフィスは現地人でごった返している。

                    *

           ≪タンジール~カサブランカ≫

               07:15~15:26(八時間十一分)
               15:25~21:44(六時間十九分)
               18:08~02:03(八時間五分)

           ≪カサブランカ~タンジール≫

               07:35~13:44(六時間九分)
               18:35~05:30(十時間五十五分?)



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