バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

お祈りと停電



  どうやら、・・・・忘れかけていた風邪をひいてしまったらしい。
 何時だろう?
 まだ外は明けていないと言うのに、何やらお祈りのような、異様な音が聞こえてくる。
 この音で目が覚めたらしい。
 久しぶりのシュラフの中は、一泊6ドラハム(360円)の宿らしい気分が味わえる。
 もう一度、寝直したようだ。

  午前9:20。
 ロビーへ下りていくと、打楽器の少年が訪ねてきた。
 今日の分の宿泊費を支払って外に出ようとすると、支配人に呼び止められて、宿のアドレス・カードを渡してくれた。
 言わないとくれない所が多いのに、なかなか親切ではないか。

  晴れてはいるものの、外は少し肌寒い。
 夏服では寒いし、毛皮では暑過ぎるといった一日になりそうだ。
 ツーリスト・オフィスに近い広場のカフェに陣取り、コーヒーを飲みながら、もう日本に帰ってしまった、ヒッチハイクの仲間達に年賀状を書く。
 全部で18人。
 これを全員に出すとなると、切手代がバカにならない。
 絵葉書8枚(4ドラハム≒240円)

                  *

  ガムを売る少年がやって来る。
 靴磨きの少年も、何人となく入れ替わり立ち代りやって来る。
       少年「0.3ドラハム(18円)で良いから、あんたの靴磨かしてくれよ!」
 しかし、ここは非情である。
 一人の少年に気を許すと、後何人もの少年に取り囲まれてしまう事は分りきっている事だからだ。

  そんなみすぼらしい少年達の横を、何食わぬ顔をした若い女性が通り過ぎていく。
 頭の先から足首まで、一枚の布で覆っているドレスが素敵だ。
 何とか手に入れたい。
 それに比べて、男共の服と言ったら・・・・・・いただけたものではない。

                  *

  午後三時近く、カスバにも宿にも近い、小さな広場へ移動する。
 もう三日も滞在していると、街の唯一の東洋人として認知してくれるのか、皆が声を掛けてくれるから嬉しい。
       ?「ハロー!友達!」
  清掃局の人だろうか?
 小さな手押し車を押して、町の中を掃除して歩いていく。
 見る間に、ゴミで散らかっていた広場が綺麗になって行く。

  このモロッコにも、物乞いは多い。
 こうやって、半日座っていると、物乞い達が波のように押し寄せてくるのだ。
 この国も階級の違いがあるのか、カバンを持って綺麗に着飾った子供達、汚い格好をした物を売って生活して学校に行けない子供達。
 貧富の差が激しいようだ。
 数人いた毛唐たちが席を立った。
 十五日が暮れ様としている。

                 *

  宿に戻ると、気のいいおっさんが、俺を呼び止めた。
       おっさん「へーィ!ジャポネ!Come!Come!」
 ニコニコしながら、手招きしている。
 おっさんに近づくと言った。
       おっさん「ジャポネ!フレンド!ツー・フレンド!Come!Come!」
 どうやら、日本人旅行者が二人今日到着したらしい。

 おっさん、俺の腕を取って二階へ引っ張って行く。
       おっさん「ユア-・フレンド!ジャポネ・フレンド!」
 まるで、日本人は皆友達とでも言うように、ニコニコしながらドンドン歩いていく。
 二階のある一室まで引っ張っていかれ、部屋のドアを叩いた。
       おっさん「オー!ジャポネ!ジャポネ・フレンド!」
 部屋の中にもおっさんが居た。
       もう一人のおっさん「オー!オー!ジャポネ、皆フレンドね!」
       俺  「イヤー!おっさんに引っ張られて来ちゃって・・・・お邪魔します。」
       部屋の住人「こいつら、日本人は皆友達だと思っているから・・・・。悪気は無いみたい。」

 また、おっさんが大きな声をあげた。
       おっさん「ジャポネ!フレンド!」
       俺   「分った!分った!サンキュー!MY・フレンドね。」
 ようやくおっさんは、良い事をしたと言う満足げな顔をして部屋の外へ消えた。
       俺   「台風みたいなおっさんやなー!今日着いたの?」
       青年  「ええ!今日。」

  二人部屋で、俺の部屋より綺麗にしている。
 一人はベッドの中に居た。
 旅は俺より長く、旅の途中で500US$を盗まれて、暫くパリでアルバイトをしていたと言う。
 ベッドの中に居た青年は、外国が始めてらしく彼に付いて回っているようだ。
 「一日、10$で旅する本」の日本語版を持っている。
 これから、俺と同じルートでロンドンに行くとの事。

       青年「東ヨーロッパは行かないの?」
       俺 「ユーレイル・パスが使える国だけ、取り合えず回っているんですよ。貰ったユーレイル・パスが切れちゃいますから。」
       青年「強行軍ですね。」
       俺 「宿代を浮かそうと思って、夜行列車で寝てるんですよ。」
       青年「そうですよね。北ヨーロッパは物価が高いですから。」
       俺 「そうなんですよ。」

  一時間ほど、二人といろんな話をしていると、突然明りが消えた。
       俺 「停電ですか。」
       青年「そうみたいですね。」
 この宿の使用人なのか、小さな子供達がロウソクを手に持って、各部屋を走り回っている。
 ロウソクで灯りをつけてまわっているのだ。
 いつもの事さ!とでも言わんばかりに、慌てる事も無く事に当たっている様は、宿泊者を安心させる。

  こう暗くては、寝るしかない。
 おまけに夜の冷え込みが厳しくなり、暖房のない部屋は身にこたえる。
       俺 「それじゃあ、俺はこれで。・・・部屋に戻りますわ!」
       青年「そうですか、じゃあまた明日。我々は二、三日ここに居ますから・・・・・。」
       俺 「どうも、お邪魔しました。楽しかったです。」

  廊下の出ると、ロウソクを持った少年に出くわした。
       俺 「俺の部屋にもロウソクを持って来てくれ!」
 少年が持っているロウソクを貰おうとすると、”OK!OK!”と手で俺の手を制すると、俺の前を歩き始めた。
 どうやら、”私が、ロウソクを部屋までお持ちします!”とでも言っているかのように、落ち着いて歩いていく。
 なかなか気が利いて、賢そうな少年だ。

  部屋に戻り、ロウソクの灯を頼りに、夕食を始めようとすると灯りが付いた。
 ・・・・・・と、思ったらすぐ少年がやって来て、ロウソクを回収し始めるではないか。
 なかなか良く働く少年達である。
 また、長い夜がやって来た。
 本を読み、今日一日のことを書きとめ、これからの事に思いをはせる。
 この街も良いけど、グラナダにも行ってみたい。
 今日逢った日本人も、南スペインの素晴らしさを語っていたではないか。

  アルジェシラスからマドリッドへ行かず、グラナダへ行って見ようと思い出した。
 少々の出費を覚悟して・・・・。
 今日は珍しく、夜更かしをしてしまったようだ。
 眠りに付いたのが、午後11:00過ぎ。
 旅の疲れは、眠る事で解決してくれる。
   ”お休みなさい!”



© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: