バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

グラナダの街で日本人と出逢った



  なかなか眠れない。
 割れたガラス窓から、外の冷気が部屋の中に入ってくる。
 寒いのだ。
 いま何時だろう。
 雪景色の駅前が、窓を通して見える。
 駅前には、何人かの人達が集まってきている。
 なんだろう、寒い!

  毛のついた靴、毛皮のコートを買っておかなかったら、今頃どうなっていた事か。
 何しろ、夏に日本を発ったもんだから、夏服しか持って来ていないのだから。
 パンティー・ストッキングを持ってきた事も大きな収穫だった。
 グラナダの雪は美しくもあり、厳しくもある、両刃の剣。
 今日は快晴!
 シェラネバダ山脈は、真っ白な雪で身を包み、キラキラと輝いている。
 日に輝くシェラネバダの山は、富士山に匹敵するほどの美しさと雄大さがある。

  ホテルを出ると、駅の方から大きな荷物を担いだ日本人が一人歩いてきた。

      彼 「コンニチワ!」
      俺 「今、着いたんですか?」
      彼 「ええ!あなたは?」
      俺 「昨日の夜です。」
      彼 「どちらに泊まっているんですか?」
      俺 「そこのホテルですけど。」

 すぐ目の前のホテルを指差す。

      彼 「・・・・・。」
      俺 「夜も遅かったものですから、取り合えずってとこですか。」
      彼 「いくらですか?」
      俺 「135ペセタ(650円)です。ちょっと高いですけどね。」
      彼 「ユースは無いんでしょうか?」

 彼がユースの本を取り出す。

      俺 「ユースは閉館のはずですけどね。冬季はやっていないという事ですけどね。」
      彼 「そうなんですか!」

 少し残念そう。

      俺 「今、駅へ行ってツーリスト・インフォメーションの場所を、教えてもらおうと思っていたとこなんですよ。」
      彼 「ああ!それなら、僕が今聞いてきましたから・・・。ここに住所を書いてもらってます。」

 ユースの本を開いてみせる。

      彼 「じゃあ!一緒に行きましょうか。良いですか?」
      俺 「ええ!良いですけど。」

 駅前の通りの突き当りを右に曲がって歩き出した。

      俺 「学生ですか?」
      彼 「そうです。あなたは?」
      俺 「俺は社会人ですよ。」
      彼 「休暇ですか?」
      俺 「いや!会社辞めて来てます。」
      彼 「辞めて・・・ですか。すごいですね。」
      俺 「辞めないと、六ヶ月も休暇をくれる会社など日本にないですよ!」
      彼 「もう六ヶ月もいるんですか!」
      俺 「もうそんなになるんかな!」

      彼 「どこどこ回ってきたんです?」
      俺 「東南アジアから中近東・ヨーロッパ・・・で、今はモロッコからの帰りですよ。」
      彼 「すごいですね。羨ましいな。」
      俺 「君は?」
      彼 「飛行機でイギリスに渡って、ロンドンから少し離れた所の家にホームステイして、英語の勉強をしています。」
      俺 「勉強ですか。高い志ですね。」

      彼 「九月にロンドンに入ったんですけど、勿体無くて休みを取って、ロンドンからマドリッド経由で、これからモロッコへ行きたいんですけど・・・・・。」
      俺 「モロッコも良い所ですよ。」
      彼 「そうなんですか。」
      俺 「安宿だと・・・少し、汚いですけどね。」
      彼 「そうでしょうね。これから何処へ?」
      俺 「これから、マドリッドへでも行って、そこで正月を迎えようかなって計画を立てているんですけど。君はモロッコへ渡ってから何処へ?」
      彼 「また、イギリスに戻ります。この四月には日本に帰るつもりなんです。」
      俺 「良い旅じゃあないですか。」
      彼 「そうなんですよ。」
      俺 「?????」

 資金は親の仕送りだと言う。
 なかなかいい身分ではないか。
 俺に比べて。
 俺などは、この旅が終れば失業者。
 彼とは違いすぎる。
 でも、俺は・・・・”こっちが良い!!!”

      俺 「東京?」
      彼 「そうです。荻窪に下宿してます。来年は吉祥寺に住みたいと思っているんですよ。」
      俺 「そうですか!俺は吉祥寺の駅から北へ、歩いて15分くらいの所にいるんですよ。」
      彼 「そうなんですか。良い所なんでしょ。」
      俺 「良い所ですよ。周りは畑で、のんびりしたもんですよ。」




© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: