バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

本場のフラメンコに遭遇



   午前十一時、もう昼近く、もう何人か居間に集まってワイワイやっている。
       おばちゃん「ヒコ!鍵!!!」
 後ろから、おばちゃんの声がする。
       おばちゃん「ロッカーの鍵は掛けちゃあダメだって言ってるでしょ!」
       俺    「・・・・・・・。」
       おばちゃん「もう電気は点けちゃだめ!外は明るいのよ。窓を開けなさい!」
       俺    「ごめんなさい。」

  朝から、宿のお袋の声が、寝不足の頭の中に”ガンガン”と響いてくる。
 居間に入るなり、今起きたばかりという顔をしながら、”薫”が声を掛けてきた。
       薫「昨日、あなた夢を見なかった??」
 どうやら、昨日占ったトランプのことらしい。
       薫「私、夢見ちゃったわよ!」
       俺「どんな?」
       薫「私が日本に帰ってからのことよ。嫌になっちゃうわ!」
 朝から元気が良い。

                         *

   夜九時になって、有志七人で、スペイン広場近くで本場のフラメンコが見られる店に入った。
 スペインで六年間、コックの修行をしている、スペイン語ベラベラの内藤さん(27歳)に案内してもらって、フラメンコを見ようという事になったのだ。
 タクシーで店に乗りつける。
 タクシー代(51Pts≒245円)

  このところ、マドリッドはずっと小雨続き。
 有志メンバーを紹介しよう。
 皆が先生(小学校の教師をしているらしい、ゴツイ顔をしているが優しそうな若者)と呼ばれている人、アフガンで逢った事がある青年、イタリアで野宿していた時駅で逢った青年、長谷川さん、まだ名前を教えてもらっていない青年、そして俺の七人がタクシー二台に分乗して、”タブラオ”という本場のフラメンコを見ながら食事や飲める店へやってきたのだ。

  ”タブラオ”とは、フラメンコを見せる酒場の事だと言う。
 我々の乗ったタクシーが先に”タブラオ”の前に到着した。
 路地裏のような寂しいところだ。
 小雨が降り続けているせいか、人通りはほとんど無い。

  店の方を見ると、重たそうな木製のドアが見えるだけで、窓もきらびやかなネオンもない。
 ここがフラメンコをやっている店だとは、旅行者は誰も思わないだろう。
 壁には、申し訳なさそうに、フラメンコの絵が書かれている、四角い灯りがついている。
 それだけが唯一、ここが”タブラオ”らしい建物であることを教えてくれている。

  タクシーの停まる音だけで、中からドアが開けられた。
 まだ少年のような顔立ちのスペイン青年が、店の制服をきて現れた。
 ドア・ボーイだろう。
 後発部隊が到着した所で、”タブラオ”の中に入った。

  ドアを閉めたとたん、店の中からフラメンコの歌が聞こえてきた。
 クリスマスの時の飾りつけだろうか、それともいつも飾り付けられているのか、キラキラと輝いて見える。
 客席はL型に配置されていて、隅にフラメンコの舞台が小さく造られていて、ギター・リストが二人、踊り子が六人舞台に上がっている。
 なんとも華やかで舞台は活気ずいていた。

  店は七割がた客で埋まっている。
 日本人も十人近く見つけることが出来た。
 後で教えてもらった事だが、この”タブラオ”は、ホセ・アントニア通りの近くにあり、店の名前は”ト―レベルメハス”というらしい。

  細長いテーブルに案内された。
 柱があったり、席が若干後ろの方ということで、ちょっと見えにくい場所に案内されてしまったようだ。
 我々が席につくと、タンバリンとギターでリズムをとりながら歌っていた余興が終わり、いよいよ本場のフラメンコが始まった。

                          *

   六人のダンサーが、一人一人踊りを見せていく。
       内藤さん「今踊っているのは前座で、後から良いのが出てきますからね。夜中の一時を過ぎないとダメなんですよ!」
       俺   「そうなんですか。」
       内藤さん「ダメって言っても、日本で見る一流ダンサーよりずっと上手いですから。日本人のダンサーもいますけど、スタイルが全然ダメですね。腰を振るだけは出来ますけど、ここにいる彼女達には太刀打ちできませんからね。貧しいジプシー達の生活から滲み出て来る踊りこそ、本場のフラメンコなんですよ。最高ですね。」
 内藤さんが熱く語る。

  彼は六年もスペインに住んでいるだけあって、歌の内容を理解しようと、ジッと耳をかたむけている。
 俺はジプシーたちの踊る身体の線にジッと見とれていた。
       内藤さん「今のは、南部の女ですよ。」
       俺   「・・・・・・。」
       内藤さん「あのダンサーは、ジプシーに近いですね。」
       俺   「・・・・・・・。」
       内藤さん「アラビック系の顔立ちをしてるでしょ!」
       俺   「なるほど。」
       内藤さん「あの女は、方言がちょっと分りにくいですね。」
       俺   「・・・・。」
 一人一人、踊り子を指差してはいちいち説明をしてくれる。


                         *

   ニ三人踊り終わったところで、前の席が空いたという事で、入り口の近くへ案内された。
 よく見れるようにと、内藤さんが交渉してくれたようだ。
 舞台の正面の少し後ろの席だ。
 ここだと、踊り子の踊っている表情も良く見えて、迫力が伝わってくるなかなか良い席へ移る事が出来た。
 小さな店なので、踊り子の熱気がムンムン伝わってくる。



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