バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

スペインで迎えた正月



   午後一時。
 ベッドから起き出して、ホールに向かう。
 すでに皆、集まっている。

       おばちゃん「遅いじゃないの!朝食はなしですよ。」
  おばちゃんの甲高い声が、ホールに響き渡る。
       俺    「朝食・・・・でないの??」
  暫くすると、紅茶とビスケット4枚、おばちゃんがテーブルまで運んできた。
       おばちゃん「今度からは、ダメですからね!!」
       俺    「ハイハイ!」

  毎日の食事のパターンが決まってきたようだ。
 12:00に朝食。
 14:00に昼食。
 夕食は、21:00。


                     *

   今日もいつの間にか、夕闇が迫って来た。
 時間の感覚がまるで無い生活。
 今年ももう終ろうとしているというのに。

  ホールでは、将棋を指している人、雑談している人、様々に余暇を過ごしている。
 旅人のつかの間の休暇。
 明日、正月を迎えるという気分はまるで無い一日が過ぎて行く。

                     *

   午後九時。
 夕食を取って、町へ繰り出す事にした。
 ほとんど気にならない程の雨が、降ったり止んだりしている。
 ソル広場とマヨ―ル広場を何度か、行ったり来たりして夜中の0時を待つ。
 夜店が数多く広場に並んでいる。
 多くの人が、夜店の周りを徘徊している。
 風船売り、とんがり帽子・お面・笛、シャンペンなどが夜店に並んでいる。

  日本で言う、夏祭りや秋祭りの雰囲気とでも言った方が良いのかも知れない程の賑わいを見せている。
 アマディオの女主人”アデラ”さんから、12粒の葡萄を貰ってきた。

       アデラ「零時が来たら、この12粒の葡萄を食べるんですよ!そうすれば、一年間病気や怪我をしませんからね。」

  夜店でそういった葡萄も売られている。
 葡萄の12粒は、一年の12ヶ月を意味しているらしい。
 日本でも、節句の日、歳の数だけ豆を食べるのと、よく似た習慣なのだろう。
 日本人もずいぶん見かける。
 団体さんもいる。

  タンバリンが売られている。
 そのタンバリンを打ち鳴らしたり、笛を吹いたり、歌を歌ったり、踊ったり、実に陽気に楽しんでいるのは、地元のスペイン人達ばかりだ。
 日本人はそれをジッと眺めているだけ。

                      *

   午後十一時。
 人々が急に、ソル広場に集まりだした。
 マヨ―ル広場にいた人達も、ここソル広場に集まりだしたのだ。
 何かある。
 午後11:45。
 ソル広場を埋め尽くした人達が、静かに広場の高い建物に取り付けられている時計を睨んでいる。

  時計台の時計の針が、0:00を指す瞬間を、1977年が始まる瞬間をジッと待っているのだ。
 向かい側のホテルらしい窓からは、TVカメラが広場を埋め尽くす群集を追い始めた。
 それを見つけた群衆が、カメラに向かって手を振って騒ぎ始める。

  俺はソル広場のほぼ真ん中にある(普段は中に入れないのだが、今夜は無礼講・・・。)芝生の縁に立ち、カメラと時計台をジッと睨み続ける。
 時計台はかなり大きなもので、中に人が入っているのが見える。
 その瞬間、時計台の針が0:00を指した。

  同時に爆竹を鳴らす音が、広場に響き渡った。
 誰が飛ばしたのか風船が、夜空に吸い込まれていく。
 シャンペンが抜かれ、用意しておいた葡萄が12粒、口の中に運ばれていく。
 時計台の鐘は鳴らず、”1977”の数字が明々と輝いていた。

                      *

   新しい年が今、始まった。
 やっと正月気分を味わっているが、日本の正月とはちょっと違っているのかな。
 これがスペインらしい正月なのだろう。
 しかし、その騒ぎも長くは続かなかった。
 零時を15分も過ぎた頃から、引き潮のように広場を埋め尽くしていた群集が、少しずつ家路へ帰っていく?
 そうではなかった。

  家路ではなく、飲んで騒ぐ為に、いろんな所へ集まり始めただけのようだ。
 マヨ―ル広場で知り合った日本人と、一時近くまでソル広場をうろついていたが、これと言って面白い事もなく、飲み屋に向かうしかないようだ。
 しかし、・・・金がない。

       俺「アマディオへ引上げるか!」


                      *

   アマディオに戻ると、”薫”や”石川君”がトランプに講じていた。
       薫  「良かった!」
       俺  「すぐ終ったから・・・・。」
       薫  「日本の除夜の鐘とはいかないわね。」
       俺  「葡萄食っただけかな。」
       薫  「トランプやんない?」
       俺  「そうだな。」

  トランプは”ドボーン”というゲーム。
 時の立つの忘れてゲームに熱中する。
 ・・・・・・。
       アデラ「いい加減に寝なさいよ!いつまで騒いでいるつもり!!!」

  アデラおばさんが、えらい剣幕で部屋に入ってきた。
 時計を見ると、午前4時。
 皆、渋々トランプを置いて、各々部屋へ引上げる事になった。

       俺  「せっかく盛り上がっていたのにな!今日はめでたい正月だぜ!」
       アデラ「あんたらは、いつも正月でしょ!」
       俺  「そういえば・・・そうか。」

                        * 

                 ≪十二月三十一日の家計簿≫

                   1、宿泊費   125pts
                   2、昼食費   47pts
                   3、夕食費   76pts
                   4、ビール(2本)54pts


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