充子さんからの手紙
充子さんと別れたその年の夏、日本へ帰っているはずの彼女から、手紙が届いた。
― 前略
無事日本に帰られましたか？
私は、あれからもう一度モロッコに行き（一ヶ月ほど）、
パリに戻って着ました。
もうパリも4ヶ月になります。
（後、二ヶ月ほどいると思います。）
東川さんと別れてのち（1ヶ月くらい）
大使館に行ってみました。
封書は見当たらなくて、
同封の絵葉書が一枚だけありました。
お手紙が遅くなってごめんなさい。
現在私は、パリの日本レストランで、
アルバイトをしています。
沢山の日本人が働いては、
やめていきました。
今いる３人のギャルソンは、
イギリスから渡ってきた人達です。
私は一応、今月25日でやめます。
パトロンから、暇だったらまた来て下さいと言われましたが、
まだ、パリ市内を全然知らないし、
田舎にも行きたいので、
働くのはもうやめようと思います。
それに、働き出したら、
日本へ帰れなくなってしまいますしね。
今年中には、帰りたいと思っています。
アマディオで一緒だった、
薫さん、佐久間さん、白谷さん、若木さんも日本です。
薫さんはまた、スペインに来たいとか言ってました。
たぶん、私も帰ったらまた、
こちらに来たいと思うようになるでしょうね。
東川さんは、徳島の実家で今は、
ひっそりと暮らしているのですか？
この夏は、薫さんと一緒に阿波踊りを見に行く約束をしたのに、
行けなくなってしまいました。
今年の日本の夏はどうですか？
パリは、毎日寒いのです。
それに、雨か曇りの日ばかりです。
現在は、働いていますので、
駅などで、リュックを担いでいる人々を見ると、
羨ましくなります。
働くのも良いですが、
日本に居るのと同じようになってしまいますね。
日本は少し前、コレラで大変だったと聞いています。
東川さんも、ひょっとして・・・・・？？？？
（でも、一年ほど前のことですから・・。）
帰りに私も、マニラに寄ろうと思っているのですが、
少し考えてしまいます。
なお、オープン・チケットは、6月で切れました。
でも、その一週間前に、運良く日本へ帰る人がいて売れました。
日本が私にとって、また一歩、
遠くなってしまったようです。
それでは、あまり阿波踊りやり過ぎて、
疲れませんように、お元気で。
さようなら。
充子
7月24日
東川義彦様 ―
園部充子
c/oRestaurautJaponais"MIKI"
63RuePierre-Charron
Paris8°
FRANCE
＊
この後の消息では、一度日本に帰られてまた、ヨーロッパへ何かを追いかけるように、旅立ったと言う噂を聞いた。
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