バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

雪のバーゼルを歩く



   外灯が、ライン川の水面に揺れている。
 幾筋も。
 ライン川の川べりを歩き終わろうとした時、真っ暗な空から、白い雪が落ちてきた。
 霙のような水分を含んだ雪から、フワフワとした軽い雪に変わる。
 足を速める。

   坂道に差し掛かると、足は思うように動かなくなった。
 雪は容赦なく、頭へ肩へ積もり始める。
 少し行くと、白と赤のコートを着込んだ、お巡りさんが交通整理をしているところへ出くわした。

   外灯の光りが始まっている高さから、雪は勢い良く舞い降りてきて、あっと言う間に頭は真っ白になっている。
 家の窓が開いて、スイス娘が雪の降る様を見て、なにやら騒いでいる。
 毛皮の靴、毛皮のコート、毛皮の帽子が降る雪にも、気になる素振りを見せず、ゆっくりと歩いていく。
 雪など珍しくもなく、買い物の事・子供達の事・恋人達の事を考えながら歩いているのかも知れない。

   暗闇の中から突然現れてくる雪は実に美しい・・・などと、感傷に耽っているのは俺だけかもしれないな。
 車道でさえも、白くなり始めた。
 闇の中に、電車の窓からこぼれてくる灯りが浮かび上がって見える。
 皆、家族の待つ、暖かい家路へと急いでいるのだろう。
 子供達が、ソリを持って騒いでいる。
 ここは、バーゼル。
 北にフランスとドイツの国境を持つ街、バーゼル。
 街の中を流れるライン川と降りしきる雪が、一層この街を美しく見せてくれる。

                    *

   急ぎ足で駅に戻ると、午後六時。
 一時間の散歩で見たものは、素晴らしい光りと影。

          ♪ 雪の降る街を~~
           ♪ 雪の降る街を~~
            ♪ 想いでだ~~けが、通り過ぎていく~~
             ♪ 雪の降る街を~~

   こんな唄が似合う街、バーゼル。

   後一時間もすれば、私はバーゼルを発たなければならない。
 明日はウイーン。
 もっともっと滞在したい街。
 なぜ、こんな美しい街が、旅人を立ちとどまらせる事が出来ないのか。
 貧しい旅人を、暖かく包んでくれるような町になって欲しいものだ。
 高い。
 物価が高いのだ。

   冬のヨーロッパの厳しさはまだまだ続く。
 この厳しさは、逆に心の温かさに結びつくような厳しさなのだ。
 皮膚を切り裂くような白い雪を見ていると、暖かく燃え盛る暖炉が人を癒してくれるのだろう。
 冬の厳しさは、人の心の温かさであるのかも知れませんな。
 日本に降る雪も、ここバーゼルに降る雪のようであって欲しいものです。

                    *

   ここバーゼルの駅の構内には、フランスがあるんです。
 フランス国鉄がこのバーゼルにある。
 言葉は、ドイツ語として、私の耳の中に入ってきます。
 雪を握って冷たくなって、ジ~~~~ンとしていた手が、暖かく感覚を取り戻してきます。

   駅前の大きな看板が、ひと際目立っている。
 もちろん、日本の「サンヨー」。
 私が日本から持ってきたラジオ(パルサー)は、85スイスフラン(10000円)もします。
 私はこれを日本で、3000円で購入しましたから、ヨーロッパでの人気の高さと言うものが分るのです。

   地下には、日本を紹介した大きなパネルがあります。
 しかし、そこはまるで私が見てきた台湾のようでもあります。
 看板がすべて漢字で埋められています。
 どうも日本の様子とはどう見ても、違うのです。
 スイス人の、日本の印象と言うものは、あんなものなんでしょうね。

   もう午後七時。
 そろそろ、旅の準備。
 20:02発ですから。
 私は今、スイスと言う国を、一日で出国しようとしています。
 こんなにも素晴らしい街を。
 これも貧乏旅行のせい?
 雪が好きだし、雪の似合う街も好きなのに。
 もうすぐ、十四日が終る。


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