バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

<シンタグマの狂人>


 ”ゲー!ゲー!”と朝早くから、二段ベッドの下で寝ているカナダ人が苦しそうに、むかついている。
 どうやら昨夜飲んだ”ウゾ”と言う地元で愛飲されている地酒のせいらしい。
 ”ウゾ”と言う酒は、ビンに入っている時は無色透明なのだが、飲むために器に入れると乳白色ににごってしまう有名なお酒である。
 あまりうまいと言う酒ではないが(どちらかと言うとまずい!)、アルコール度は46°とかなり強い酒であるらしい。
 棚の上を見ると、昨日新しかった”ウゾ”の小ビンが半分に減っているではないか。

  宿の奥さんが飛んできた。
    「どうしたの?」
    「飲みすぎたらしくて、シーツが・・・・・。」
    「あ~~~あ!早くどきなさい!」
 マットレスやシーツが汚れて朝から大騒ぎ。
 本人は気持ち悪いもんだから、台所へヨロヨロと歩き出した。
    「まったく・・・もう!洗濯代請求するからね!」
 と、お冠。

                    *

  昨日、奥さん専用の体重計を借りて計測した所59㌔。
 日本に居た時は、65~67㌔がベストだったから、およそ7㌔ほど痩せてしまっていた。
    「ろくな物食っちゃいないから、仕方ないか。」
 旅をするには、このくらいの減量で体調は十分なのかもしれない。
 旅の途中、こうして体重を量ったのはこれで三度目である。
 最初がタイで58㌔。
 二回目がトルコで63㌔と順調に回復していたのに、ここに来て楽をしていると言うのに、ダウンしているという事はどういうことなんでしょう。
 あまり栄養のある食べ物を食していないということなのか。

                    *

  午前中、久しぶりにシャワーを浴びる。
 コインを入れてもなかなかお湯が出てこない。
 髪が伸びていたので、自分の髪の毛に鋏を入れていると、コインを入れてから10分ほどして、やっと熱いお湯が出てくる始末。
 シャワーを浴びていると、若い女性がノックもせずに飛び込んで来た。
    「何だ?誰なんだ!」
 バタバタと走ってきたかと思うと、カーテン一つで仕切られた同じ部屋にあるトイレに飛び込んで座ったようだ。
 どうやら我慢しきれずに、飛び込んで来たようで、ジッと息を潜めていたが水を流す音で、沈黙を破りこちらを見ることなく出て行ってしまった。
 ここはシャワーもトイレもドミトリーなのだ、それも男女一緒の・・・ドミトリーなのでした。
 日本では信じられない・・・なんとも言い難い一瞬でした。

                   *

  午後から、例の通りシンタグマ広場のカフェに出かけた。
 この広場のもうひとつの名物は、三人の男達。
 一人の狂人と、二人のピエロ。
 二人のピエロは、縦笛を手にして、ピー!ピー!と笛を吹き鳴らしながら、おかしな格好でテーブルの間を器用に飛び回り、だれかれ構わずジェスチャー入りで話し掛けてくる。
 広場のすぐ横にあるタクシー乗り場が、彼らの仕事場なのか、はたまた遊び場なのかタクシーの誘導をはじめたりもする。
 これが、実に滑稽なのでカフェの人気者なのです。
 まるで小さな子どもが笛を吹きながら、得意になって交通整理をしているようで、見ているだけで時間の経つのを忘れてしまいそうだ。

  もう一人は完全な?狂人で、夕方になると現れてシンタグマの隣にあるオモニア広場に通じているStadiou St.(通りの名前)へとウロウロしながら、夜中まで活動する進出鬼没なおかしなおっさん。
 その格好は日によって変化する。
 ある時はドイツ軍の将校の出で立ちで、通りに立ちなにやら叫んでいるかと思えば、ある時はギリシャ正教の出で立ちで現れ、色のついた棒切れで十字架を作り、ノッシノッシと歩き回る。
 歩いている人に近づいては、やたらと大声で喚き散らしたり、道路に出て信号待ちの車に八つ当たりをしながら、実に自由奔放に歩き回っているのである。

  少々、おっかないところがあり「触らぬ神に祟りなし!」の精神で地元の人も旅行者も遠くで見て笑っている。
 そんな滑稽なシンタグマ広場の主人公達を、いつもの通りイスに腰掛けのんびりと過ごす。
 長く遠かったギリシャへの旅を思い返しながら、一時に安らぎを堪能しているのだ。

                    *

  ISHの宿に戻ると、イタリア人の若者が仲間になっていて、これでこの部屋のベッドは全て塞がってしまった。
 七つの国の人種が一つ部屋に勢ぞろいした訳だ。
    (カナダ・イタリア・イギリス・レバノン・ドイツ・アメリカ・日本)

  今日来たイタリア人は、報道写真家という事で今までベイルートで仕事をしていたと言う。
 イスラエル~アラブを往復するのが俺の仕事だと言って笑っている。
 ここアテネは、ほかにイスラエルのキブツに行く若者が集まる街出もある。
 キブツとは、イスラエルの若者が戦争に出ている為農業の働き手がない、その穴埋めをするように外国の旅行者達が働き手になって、お金を稼ぎながら旅行をしている。そういう場所をキブツと言うらしい??

  ヨーロッパの人たちは、ギリシャを基点にアラブへと向かい、アラブの戦火から逃れてくるアラブの逃亡者達が集まる所でもあるわけだ。
 レバノンの若者もその逃亡者の一人かも知れない。
 ドイツ人は30代半ばの男性で、フランス語・英語が喋れる。
 今はギリシャ語を勉強しているのだと言う。
 アメリカ人は、仕事できているらしく朝早く大きなカバンを持って出て行って、夜遅く帰ってくる。

  してみると旅行者は、カナダ人とイギリス人・・・・そして俺の三人だけ。
 カナダ人もこれからイスラエルのキブツに行くというし、なかなか皆忙しそうだ。
 レバノン人は相変わらずアラブの新聞を買ってきては、ジッとうずくまってラジオに耳をかたむけている。
 あまり感度が良くないらしく、俺が持っている日本製のラジオを貸してくれとうるさい。
 最近はドイツ人が少し外へ連れ出しているらしい。
 レバノンの内戦から逃げ出してきている可哀想なやつではあるが、逃げ出せるほど裕福だと言う事なのだ。
 内戦をしているレバノンに残っているのは、逃げ出せない貧しい人たちばかり、貧しい人たちばかりが内戦に巻き込まれている現実を見ると、可哀想とも言えず・・・卑怯な奴なのかも知れない。
 そんな彼も新聞などでイスラエルとアラブのことを話する時は何か生き生きとしているように見える。

  全ての人たちを不幸に落とし込む戦争はなぜ起こるのだろうか?
 誰がこんな無意味な戦争を・・・いつまで続けると言うのか?
 早く気がついて欲しいものだ。

                  <今日一日の出費>

     ≪宿泊費50Dr(≒400円)、栗40Dr(320円)、コーヒー・ジュース45Dr(360円)、夕食28Dr(225円)、ビスケット12Dr(100円)、サンドウィッチ20Dr(160円)≫

     焼き栗代が宿泊費とあんまり変わんないんだから嫌になっちゃう!


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