バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

ソフィアの裸体を見てしまった。



  出来上がったラーメンを持って、3階のドアを開ける・・・・・・。
   ”OH~~NO!”
 部屋の中から甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた・・・と同時に、ソフィアのヌードが鮮やかに目の中に飛び込んで来た。
しっかり・・・・見てしまった。

    俺  「アイム・・・ソ~リー・・!」
 と言って、あわててドアを閉めるが・・・見えてしまったものは・・どうしようもない。
 いくらストーブの周りが暖かいと言っても、プライベート・ルームでもないこの部屋でヌードになっているなんて・・・・俺、知らなかったんだもんね。
 俺が・・・・・・悪いの?
 どうやら、シャワーを浴びた後、誰も居ないストーブで肌を乾かしていたようだ。

 暫くして、そ~~~と・・・ドアを開けると、青いガウンを着たソフィアがソファーに座り編物を手にしていた。
    俺    「すんません・・・。」
    ソフィア 「OK!」
 ちょっと、顔が赤らんでいる。
 ストーブのせいか??
 裸を見られた事に対する恥じらいなのか。

 ガウンの下から、ピンクに染まったきれいな足が前に投げ出されている。
  (きれいな・・・裸だったなー!もう随分ご無沙汰・・・・だもんな。鼻血が出そうだ。)
 ソフィアの前のソファーに座り、ノートにペンを走らせていると、先ほど台所で一緒だった”リン”と”ジョアンナ”が部屋に入ってきて本を読み出した。

 部屋は8帖ほどの狭い所で、中央に昔ながらのよく学校で使われていたようなストーブがあって、それを取り囲むようにソファーが二つ置かれている。
 太陽の光りも、月の灯りも届かず、小さな豆球が一つ薄暗い部屋をなお暗くしている。
 ストーブを囲んで四人の沈黙が続いた。

    鉄臣 「東川さん!本、返しに来たわ!」
    俺  「わざわざ・・持って来てくれたの?後で良いのに!」
    鉄臣 「もう一冊は、他の人が読んでいて持って来れんかっとわ!」
    俺  「良いよ!ありがと!」
    鉄臣 「また、持って来ますよって・・。」
    俺  「もう帰るの?本はいつでも良いよ。一度読んでるんだから。」
    鉄臣 「わかってま!」

 いつの間にか、闇が広がっている。
 女どもが、チラチラと俺を見る。
 目を閉じると、先ほどのソフィアの美しい裸体が目に浮かんでくる。
  ”このまま、消えるなよ・・・・。”

                       *

 宿からすぐ下のトースト屋へ夕食を取りに外へ出た。
 ”鉄臣”も、明日の夜汽車でアテネを発つ・・・と言ってた。
 ブルガリアのソフィアへ行くとか。
 簡単な夕食をとって、三人になってしまったルーム・メイトの”ドゥ-シュン”と”アラビック”をつれてティ-・タイムを取りに下のキッチンに再び下りて行くと、またカナダ娘達とはちあわせ。
 スープを作っている所だった。
 皆、考える事は同じと言うことらしい。

 こう寒くては、ストーブの周りか、ベッドの中か、それともキッチンに来て暖かい物を啜る以外に、長く寒い夜を楽しく過ごす方法はないのである。
 そして、キッチンは唯一楽しく和気あいあいと、おしゃべりに花を咲かせる所でもあるのだ。

                     *

 夜は、宿の全員がストーブの周りに集まった。
 ギリシャの”ソフィア”、レバノンの”ダゥ-ド”通称”アラビック”、カナダの”リン”と”ジョアンナ”、ユーゴスラビアの”ドゥ-シュン”、そして日本人の”俺”の六人。
 そして、こんな暖かいファミリーな異国での楽しい夜も、明日が最後の日となる。
 ”ISH”の玄関には、日本人客が置いていったのか、数羽の折鶴が風に揺れている。
 もう何日も風雪にさらされていると見えて、薄汚れてしまっている。
 折鶴には、”1975、Aug.?日”と書かれ、日本人の女の子の名前が入っていた。
 彼女達が、感謝をこめてここのマスターに贈ったものに違いない。

 そんな優しい”ISH”に来て、もう一ヶ月が過ぎようとしている。
 ここに初めて来た時は、「ここで、一ヶ月も過ごすのか?」と、ちょっと不安な気持ちで見上げた”ISH”に、今では数えきれないほどの楽しい思い出が蘇って来る。
 これからも、日本人が居て、カナダ人、アメリカ人・・・・世界の若者達が、この”ISH”を基点として飛び立っていく事だろう。
 日本に戻ったとしても、もう二度と訪れることのない”ISH”かも知れないが、いつまでも志を持った世界の若者達が集まる・・・そんな、”ISH”であって欲しいと願っている。
 そして、我々が幾度となく交わした会話が、ここ”ISH”のキッチンで、ストーブの周りで、これから先もずっと続いてくれる事を祈ろうではないか。

  ”有難う!ISH!”


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