バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

ギリシャが消える



  アテネ・オリンピック競技上前まで来た時、忘れ物に気が付いた。
 公園へバックパックを置いて行く訳にもいかず、さりとて重いバックパックを背負ってUターンする事もかなわない。
 結局、バスオフィス(オモニア)まで行き、コンソラス(バス会社)のオフィスに荷物を預けて、NO2のトロリー・バスに飛び乗った。
 なんと、一ヶ月も滞在しててトロリーバス初乗車でした。

  ギリシャにきて、乗り物に乗ったのは、船でギリシャ本土のピレウスに着き、ピレウス港からアテネまでの地下鉄が唯一の乗り物です。
 今回のトロリーバスは二回目。
 別に経費節約と言う訳でもないのですがこの街、歩いて移動するに十分な小さな街なのです。

  ISH近くの駅まで往復して11Dr(88円)。
 13:15にはオフィスへ戻ることが出来ました。

  この”Consolas Express”は、アテネ~ロンドン間を往復しているバスで、アテネからは毎週火曜日と土曜日の14:00に出発して、サロニカ(ギリシャ)~ベオグラード(ユーゴスラビア)~ザグレブ(ユーゴスラビア)~ベニス(イタリア)~ミラノ(イタリア)~ジェノバ(イタリア)~パリ(フランス)~カレー(フランス)~ドーバー(海峡)~ロンドン(イギリス)と五カ国の都市を周り、三日と九十分で走り抜ける長距離バスなんです。

  逆にロンドンからは、毎週水曜日と土曜日の朝、アテネに向けて逆のルートを走りぬける。                                   アテネ~イタリア間、1500Dr(12000円)。
    アテネ~パリ間、1700Dr(13600円)。
    アテネ~ロンドン間、1800Dr(14400円)。
 なんとも気の長い、バスの旅なんです。

  五カ国を結ぶ旅。
 それも社会主義の国も通過しちゃおうってんだから、なんとも凄い旅になりそうです。
 海に囲まれた島国・日本では、ちょっと考えられない旅ではないか。

                 *

  トロリー・バスでバスオフィスまで戻ると、いつの間にかオフィスの前には同じバスに乗り込もうと乗客たちで溢れている。
 大半が俺と同じ様な毛唐の若い放浪者だ。
 出発予定時間になってもバスは現れない。
 ガイドらしき女性が、ただ一度乗客名簿の確認に来ただけで、バスが遅れていて”ご免なさい。”とか、どのくらい遅れるのか・・・・何のコメントもなし。

  ”いつまで待たせんのかな?”
 などと呟きながら、あたりを見回す。
 毛唐たちの手荷物を見ると、食料に飲み物がほとんど準備されているではないか。
 慌てて近くの食料品店に飛び込んだ。
 考えてみると、三日間もバスの中へ閉じ込められるんだから、なんともうっかりしていた自分が恥ずかしい。

  一本34Dr(272円)のワインと38Dr(304円)分のパンを購入。
 ”もう忘れ物はないか?!”と考えるが、何も浮んで来ない。
 ところがこのあと、とんでもない忘れ物をしてしまい、大変な思いをする羽目になる。
 この時は思いもよらなかった事態を迎えるのである。
  あ~~~~~あ!

  およそ二時間待たされて、午後4時やっとバスが到着。
 アテネの街もうっすらと暗闇が忍び寄ってきていて、街の外灯にも灯が灯り始めた。
 バスの席は自由だ。
 後ろから四つ目のNO31・32のシートに腰を下ろした。
 乗客が多い割には、いくつか空席があるほど大きなバスである。

  一番後ろの席には、仲間だろうか俺のような薄汚い旅行者達が、一塊陣取っている。
 他に、運転手が二人に、ガイドが一人。
 いよいよ、一ヶ月ちょっと過ごしたアテネの街も、ISHの宿と仲間達ともお別れの時間がやって来た。
 長い間待たせてきたことについて、何の弁解もせず大きなバスが音もなく、スーッ!と滑り出した。

  いつも陽だまりののイスに腰掛け、のんびりと行き交う車の列を眺めていた、カフェテラスの前をバスが滑っていく。
 ひょっとして、俺の残像がバスの中の俺を見ているのかも知れない。
 ”旅を 急ぐな!”
 そう言っているように。
 俺が去っても、いつものように、カフェテラスにはいろんな人生を持った旅人達が、次から次へと現れては消えていくのだろう。
 それがもう何年も前に過ぎていったことのように。

  多くの乗客たちを乗せた大きなバスは、乗客分の感傷を乗せてギリシャを北 上、E92号線を通り右に海を見ながら、ギリシャ第二の都市・テサロニキを通過して、ユーゴスラビアとの国境へと向かっている。
 国境までの距離、およそ640㌔。
 素晴らしい地中海の眺めがこの目に飛び込んでくるはずが、バスは闇の中を走っていく。
 この目にはもう、ギリシャは消えた。
 過去のものとなってしまったようだ。


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