バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

≪ユーゴスラビア≫国境の街



  眠っていたようだ。
 目を覚ますと、出国カードが乗員全員に配られているところだった。
 休憩は二度。
 乗客の半分ほどは、休憩所であるレストラン風の建物へ歩いていく。
 生理現象とバスの中で、同じ姿勢でいる苦痛から解放されるために、皆の後について歩く。

  建物の中は、ガラ~~ン・・・・としてて、客はバスの乗客達と他に二、三人いる程度。
 全てがセルフサービスで安い。
 コーラは8Dr(64円)。
 時計を見ると、夜の11:00。
 もう外は暗闇が覆っていて、まるでここが何処なのかわからない。

  時間からして、ギリシャの第二の都市、国境に近い北の街テサロニキ付近である事に間違いはない。
 外灯らしきものもなく、ただ闇が広がっているだけ。
 遠くへ目をやっても、国道に外灯はなく、同じく月明かりだけ、闇が広がっている。
 やたらと暖かい乾いたバスの中と違い、ヒンヤリとした外気が心地よく、寝起きの頭をスッキリしてくれる。

  バスに戻る。
 左側の一つ前のシートには、アグネス・チャンを少し大人にしたような、理知的な顔立ちをした女が座っている。
 その横に座っている男性は、彼氏かも知れないし、夫婦かも知れないが、大した男前でもない。

  バスが再び動き出すと、その女が席を立ち自分のシュラフを通路へ広げ始めた。
 なんと、乗客の迷惑を考えず、通路で手足を伸ばしてゆっくり寝ようとしているではないか。
 大胆と言おうか。
 我がままとでも言おうか。
 旅慣れているとでも言えば良いのだろうか。

  イスタンブールで買った毛皮を出しておいた為、冬のヨーロッパを甘く見たのか、俺のシュラフはバスの腹の中に納まっている。
 このことが、間違いの元と思い知らされる時が来るとも知らず。
 シュラフは旅人の命だと言う事を思い知らされるのだ。

  眠ったり起きたりの繰り返しで、バスの暖房が効き過ぎて乾燥しているせいか、やたらと喉が渇く。
    ”ワインを買ってるじゃん!”
 ワインを取り出して、・・・・・・・・・?
    ”栓抜きを買うの・・・忘れてた・・・。”
 栓抜きがないのである。
 ガックリ!

                    *

  再び目を覚ました時、バスは停まっていた。
 時計を見ると、十二月一日午前1:20を指している。
 ユーゴスラビアとのボーダー(国境)だろうか。
 料金所のような建物が見える。
 あたりは暗く、建物だけがライトに照らされ、ボンヤリと浮かび上がっているのが見える。

  1:35、パスポートと出国カードが集められた。
 眠りを覚まされたせいか、皆押し黙ったままパスポートと出国カードが集められる作業に見入っていた。
 全員から集めている訳でもないという事は、どういう事なんだろう。

  バスから見える免税店は閉まっている。
 一時間二十分ほどバスの中で待たされた後、再びパスポートを受け取ると、バスはトンネルのような建物の中を通り抜けると、バスは再び停まった。
 今まで停まっていたのが、ギリシャ側のボーダーで、今度はユーゴスラビア側のボーダーという事らしい。
 バスに乗ったまま、国境を越えたわけだ。

  バスが停まるとすぐ、共産圏特有の地味な軍服に同色のオーバーコートを着込み、帽子には赤い星のマークがつけられている、国境警備員が乗り込んできた。
 乗客たちのパスポートに、入国日の入ったスタンプを押して回りながら、乗客たちを観察していく。

  バスの中での入国手続きが終ると、乗客たちはバスを下りて近くにあるBANKに押しかける。
 俺も皆について下りた。
 免税店は閉まっているものの、ここの両替所だけは灯りが付いている。
 しかし、どうやら係官は眠っているようだ。
 気持ちよく眠っているので、起こすのは可哀想だとも思っていられず、ドアをドンドンと叩き眠っている係官を叩き起こした。
 ソファで気持ちよく眠っていた係官は、睡眠を邪魔されて気分悪そうに、しかめっ面で起きてきた。

  ここでマネーチェンジ(両替)をして、使い切れなかったギリシャのお金と少しばかりのドルをユーゴのお金に換金しておくのである。
 残っていたギリシャ通貨60Dr(480円)も両替しようと差し出す。
    係官「硬貨はダメ!紙幣だけにしてください。」
    俺 「何でダメなの?」
    係官「ダメなものはダメなの、ハイ次!」
    俺 「わかったよ!」
 仕方なく、US10$札を指し出した。

      ≪1US$≒18.13\$≒325円≫
      ≪1ユーゴ≒18円≫
      換金手数料は1.5%。

  全員?両替を済ませると、バスは乗員の数を確認して、午前3:30ユーゴのボーダーを発ち、再び暗闇に向かって走り始めた。


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