バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

トンネルを抜けるとそこは雪国だった!



  食事を済ませて、午後三時半バスに乗り込む。
 暫く走ると、雪を抱いた山々が見え始める。
 バスはだんだんとその山々に近づいているなと思うと、その見えていた山の中に吸い込まれて行くではないか。

  いくつかのトンネルを抜けると、本当にそこは雪国であった。
 あっという間に、バスから見える全てが雪に埋もれている。
 全てが雪景色。
 細かい雪が、ひっきりなしに降り注いでいる。

  午後五時半、夕暮れと共にバスは二十分ほど停まった。
 前には、大きなトラックが繋がっている。
 夜のライトに照らされた雪がキラキラ輝いて見える。
 人家の灯り、列車の窓からもれる灯り、山を登ってくる車のライトの灯り、そんな様々な灯りが、降りしきる雪の中に幻想的に浮かび上がってくる。

  バスの中でイタリア・パンをかじり、ギリシャ・ワインを口にしながら、”何日かかっても良いぞ!”と呟いている。
 山の上の、別荘だろうか、大きな建物が雪の中にたたずんでいる。
 ドライブインだろうか。
 なんとも美しく、まるで幻想の世界へ迷い込んでしまったような、雪景色がバスを包み込んでいる。
 長旅の疲れと、野宿して眠れなかった事も忘れ、バスの中から素晴らしいパノラマを観客席から、呆然と見とれている自分の姿をバスの窓に見る。

                     *

  午後八時半、チェーンを装着する為、バスは一時間ほど停車。
 その間乗客たちは、寒さを忘れ、閉じ込められていたバスから飛び出し、乗客たち同士で雪合戦をしたり、冷たい雪を口に含んだりして、バスのシートから解放された喜びと、降りしきる雪の美しさに、童心にかえって雪と戯れ長旅の疲れを癒してくれる。

  前も後ろも車で繋がっている。
 誰もクラクションを鳴らす者はいない。
 道は二台がやっとすれ違えれるような狭い道で、チェーンを巻く間一台の車も追い越しては行かない。
 追い越したところで、前は何処までも繋がっているのだから、とてもじゃないがそんな危ない事を誰も出来ないのだ。

  ジッと待つしかない。
 今晩はどうせバスの中で眠ることになる。
 チェーンを装着したバスは、ゆっくりと前の車について動き始めた。

                    *

  少し眠り、今度目を覚ますとバスは、峠の上で停まっていた。
 小さな街の灯りが遥か下に見える。
 近くではひっきりなしに、ブルドーザーが雪かきの為動き回っているのが見える。
 右の窓からは大きな彫刻が、下からのライトにくっきりと浮かび上がり、暗黒の天に向かってライトの光が、吸い込まれて行く様は、なんとも言えず暗闇に神秘的な輝きを放っている。

  その光りの中を細かい雪が、風花のように舞っている様の、なんと美しい事か。
 自然の織り成す美しい光景にしばし見とれていると、またバスはゆっくりと動き出した。
 今度は下り坂だ。
 雪が敷きつめられ、チェーンを履かないととても下りられないような、道なき道をゆっくり、ゆっくりとエンジン・ブレーキで注意深く滑って行く。

  針葉樹を覆う白い雪。
 何もかもが白い衣を着込んで、闇の中にジッとうずくまっている。
 あの細い電線さえも包み隠してしまった、白く細い雪の三本の線が、闇の中に現れては闇の中に吸い込まれて行く。

                    *

  どのくらい進んだのだろうか。
 注意深く下り、あの峠から見えていた街の中にバスは下りて行く。
 街に入っても雪は消えない。
 ・・・・・・又、眠っていたようだ。
 窓に顔を当てると、外気の凍ったような冷たさが、頬を伝ってくる。
 ゆっくりとあたりを見回す。
 国境のようだ。

  フランスの制服を着込んだ警備員だろうか?
 何人かあたりを動き回っている。
 道路標識が二つあり、ひとつは”Paris”、もうひとつは”ジュネーブ”と書かれていた。
 しかしバスは、Uターンする。
 何処へ行くのかパスポートも見せず、バスはまた走り出した。

  ・・・・・・・また、眠ってしまっていたようだ。
 今度目を覚ますと、”Paris”へ390Kmと書かれた標識を見つける。
 パリまでの距離だ。
 もうフランスに入っている。
 夜が明けている。

  どんよりと曇ってはいるが、雪は降っていない。
 隣にいたフランス人も、いつの間にかいなくなっていた。
 どこか途中で降りてしまったのかも知れないが、全然気がつかなかったほど、眠り込んでいたのだろう。

  遊牧地だろうか、牧草が丘陵地に広がっている。
 広い広い原野の中を、きれいな道路が何処までも真っ直ぐ伸びている。
 バスは雪の中と違い、快調に走っている。
 もう邪魔する物は何もないのである。

  ”パリ”まで290Km。
  ”パリ”まで130Km。
 バスは標識や家並みを後ろへ吹き飛ばしながら走る。
  ”パリ”まで40Kmまで来ると、あたりに残っていた雪も完全に姿を消し、大きな街が姿を現し始めた。
 パリの街はもうそこまで来ている。



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