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バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)
ポルノ映画・愛のコリーダを見る。
隣で寝ていた日本人に起こされて、朝食に遅れてはならじと起き上がる。
ユースの規則にはいつも閉口してしまう。
いつからいつまでには部屋を出て行かなくてはいけないとか、食事の時間は5分でも遅れれば食べさせてもらえない・・・とか、ルーズな貧乏旅行をしている俺にとっては、全てが厄介な出来事なのである。
なんとか起きて、機内食のような朝食を取る。
AM九時半には、ロビーに出て同室の日本人と話をする時間を持つことが出来た。
一人は中野君といって、これからスペイン~イタリア~ギリシャを通ってアジアへ入ると言う、俺と逆のコースを辿ろうとしている彼。
もう一人は、時代遅れのような野郎で、一年間ロンドンで英語の勉強をしていて、その間ヨーロッパは何処へもいかず、パリからすぐ日本に帰るのだという彼。
少々間が抜けていて、キザな野郎なのだ。
どこか一昔前の人間と言う感じの、おかしな野郎にフランスのタバコを貰い、中野君と二人でユースを出た。
今夜パリを発って、マドリッド(スペイン)に向かう中野君とオーステルリッツ駅で別れて、サン・ミッシェル駅まで行くが、セーヌ川に沿ってまたオーステルリッツ駅に舞い戻り、そこからLYON駅まで歩いた。
もちろん、ツーリスト・インフォメーションを訪ねるためだ。
今日も相変わらずの曇り空。
雨も少し降り出してきた。
アテネで買い込んだタバコを吸いながら歩く。
リヨン駅から”PL、DELA BASTIUE(広場)”を抜けて、”DE L’EST”駅へ行くが、ここもTRAINだけの情報しか得られず、おまけに今日はインフォメーションが休みときている。
時には傘をさして、時にはタバコを吸いながら・・・のんびりと歩き回る。
NORD駅から”RUE LA FAYETTE(通りの名)”を抜け、”PL DELA BOURSE(広場)”へ出るとなにやら人が多く集まり騒いでいるのが目に入った。
よく見ると、RUE REAUMURの道いっぱいに、ビルの窓から印刷物やらトイレット・ペーパーらしき物が、紙吹雪のように舞っていて道路は足の踏み場がない程、紙で埋め尽くされ群集がなにやら騒いでいる光景に遭遇してしまった。
どこかの会社の倒産騒ぎなのか?
暫く様子を眺めた後、オペラ通りへ出るべく歩き出すと、パリ警察の車がサイレンを鳴らしながら数台集まって来るではないか。
雨はすっかり小降りになっている。
*
オペラ通りもシャンゼリゼ通りと並んで、パリでも有名な通りらしく、いろんな航空会社の事務所などが、大きな看板を掲げている。
あらゆる店のウインドウには、日本文字が氾濫していているのを見ていると、ここがパリだという事を一瞬忘れさせてくれる。
オペラ通りを抜けて、THEA-FRANCE広場に出て、昨日見つけておいた”OSAKA”と言う料理店に入った。
中に入ると、ほとんど日本人ばかりで、皆なかなか良い物を食っている。
俺 「ラーメン頂戴!」
ラーメン、9フラン(≒540円)也。
ラーメンといっても”みそラーメン”とか”醤油ラーメン”ではなく、一番安いただ”ラーメン”と書かれたラーメンを注文してこの値段である。
隣のテーブルでは、日本人娘三人がフランスの男を取り囲んで、”どう!私達フランス人の友達と食事よ!”とでもぬかす様に、ニコニコしながらビールを飲んだり、ギョーザや高いラーメンを平気で注文していやがる。
それでいて、フランス語が喋れないのだから、この三人娘もたかが知れていると言うものではないか。
どうせ上手くあしらわれてしまうに違いない。
普通のラーメンが9フラン(540円)、みそラーメンが12フラン(720円)、そしてお新香が4フラン(240円)。
店の壁には、大盛りラーメンを何杯か?を45分で完食すれば無料とか、何杯?かを60分で食べれば一年間無料と言うチャレンジ・コーナーが設けられていて、それをクリアーした人の名前が書かれているのが見える。
午後3時からは麻雀も出来るらしい。
少しばかりは庶民的な店なのだろうが、俺みたいな者にとってはそうそう来れる店ではないのだ。
*
”OSAKA”を出て、シャンゼリゼ通りを歩いていると、”OSAKA”の店で話をした日本人にまた偶然出合った。
新潟県出身の人で、二週間の休みを貰ってパリに見ていると言う。
新潟の彼「会社辞めて来てるんですか!良いですね。」
俺 「良いことないよ!日本に帰ったら、職探しに奔走しなくちゃなんないんだから。」
新潟の彼「そりゃ・・・そうですけど、僕には今の会社辞めてまで来る勇気はないな!」
俺 「でも、今辞めないと一生こんな旅出来ないじゃん!」
新潟の彼「そうですね。」
俺 「東京からパリまで飛行機ですか?」
新潟の彼「そうです。」
俺 「往復・・・どのくらいかかりました?」
新潟の彼「安いですよ!往復、17万円ですから。」
俺 「そうですね。」
彼と二人でシャンゼリゼ通りを歩き、凱旋門まで行く。
こんなロマンチックな所を、野郎と二人で歩かなきゃなんないとは、寂しくなってくるではないか。
新潟の彼「この凱旋門は、エレベーターで上まで上がれるんですよ。」
俺 「タダですか?」
新潟の彼「いえ~~!お金は要りますよ。」
俺 「じゃあ!やめた!」
暫く歩いて彼を映画館に連れて行ってあげる事にした。
今日は行くつもりではなかったのだが、彼にここで”愛のコリーダ”をやっているという事を教えてやると、彼は行きましょうと俺の手を引っ張るではないか。
新潟の彼「僕、あさって日本に発つんですよ。絶対見ておきたいから連れてってくださいよ!」
俺 「行くんですか?」
新潟の彼「ハイ!」
地下鉄に乗り込む。
(メトロの切符は一枚1.5フラン、回数券だと10枚で、10フランとお安くなっている。)
CHATELETに出て歩き、セーヌ川を渡り、”RSIANDRE DES ARTS”の中にあるいくつかの映画館の一つに、”愛のコリーダ”の看板を見つけて入る事にした。
一人、14フラン(840円)。
今日は日曜日で学割がきかないと言う。
偽学生証もちゃんと持ってきたのに残念だ。
IDカードを見せれば、10フラン(600円)で入れたのに・・・・・・・。
中に入ると、もう映画は上映されていた。
いきなり日本語が飛び込んで来た。
場内はシ~~~ンと静まり返っている。
息づまるようなシ~~~ンを見ていると、笑える所ではないところで笑い出したり、少し日本人とは感性が違うのかも知れない。
映画は一気に観終わった感じで、日本映画にはない迫力があった。
それは、変なボカシが全然ないからかも知れない。
アテネのポルノもすごかったけど、パリもすごいの一語にすぎる。
これ以上やると、ポルノではなく医学映画になってしまうと言うほど、感激に浸っている彼が隣にいる。
あれをちょん切る最後のシーンは、すごい迫力で”スナッフ”という映画にも劣らない見事な映画である。
主演の松田英子は新人の初々しさと演技を超えた本物を演じている。
これはポルノではない。
生の人間模様を描いている。
ひょっとして・・これは、演技ではないのかも知れない。
そのまんまやっているに過ぎないのではないか。
だとしたら、これは映画ではない。
これを見ただけでもパリに来たかいがあったというものだ。
イギリスでも、西ドイツでも上映禁止になった、貴重な映画であることに間違いはないだろう。
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