バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

ポルトガルとスペインのボーダーを行く



  たぶん・・・・朝の六時ぐらいだろうか。
 誰かに肩を叩かれて、列車がもうすでにリスボンの駅に、滑り込んでいることに初めて気がついた。
 もう車内に乗客は一人もおらず、すべて下りてしまっていた。
 まだ外は暗い。

  急いで列車を降りて、駅構内のベンチに座る。
 駅は小さいが建物だけは石造りの重厚さを感じる。
 早朝と言うのに、かなりの人達が構内を歩き回っている。
 駅員だろうか、制服を着込んだ、大きな腹を前に突き出した男達が、構内をゆっくりと歩いてきているのが目に入る。

  インフォーメーションは早朝のせいか、まだ閉められたままだが、売店は開いていてポルトガルのタバコを1箱買った。
        ≪タバコ16pr(≒168円)≫
 駅の外に出ると、夜がうっすらと明けようとしているところだった。
 駅前はちょっとした広場になっていて、何台か車が停まっている。

  食料を買い込もうと思い、あっちこっち探して歩くが、まだ店は開いていない。
 しょうがないので、”Bar”と書かれた店の中に入る。
 数人の客が朝食を取っている所だった。
       店 「いらっしゃい。何にします?」
       俺 「カフェ&パイ(7.0pr≒75円)」
       店 「OK!」
  ”こいつ何処から来たんだ”とでも言うように、こちらから目を離さない。

  食べ終わって、駅に戻る。
 ユーレイル・パスは10日まで使用可能なので、今日の夜マドリッドへ発つ予定で朝を待っていた。
 と、どういう訳か・・・・午前七時半発のマドリッド行きに乗り込んでいた。
 カナダの女性旅行者二人につられて乗ってしまっていたのだ。
 これが後々悔やまれた。
 夜行列車に乗れば、宿泊費をうかす事が出来たのに・・・後の祭りである。

  しかしそれも、マドリッドへ着くまでの、列車の窓から見える景色を眺めていると、そんな気持ちも少しずつ変化してきた。
 夜の移動では、こんな素晴らしい景色は見えなかったからだ。
 朝日を浴びて、なだらかな丘陵地が広がる。
 そんな中を列車は、上へ下へ、右へ左へ滑らかに滑って行く。

  結局、一時間半のポルトガル滞在になってしまった。
 ”また来るさ。”
 丘陵地の向こうに海が見える。
 朝焼けの美しい海が何処までも続いている。
 朝があけて、青空が姿を見せはじめ、リスボン郊外を眺めながら列車は走る。
 朝陽が登ったと言うのに、乳白色の月はまだ天空に見えている。
 芝生を敷きつめたような丘陵地には、朝陽を浴びた濃い緑が眩しく光っている。
 その丘陵地を犬を引き連れた男達が歩いて行く。
 肩には猟銃らしき物を担いでいるようだ。
 何を狩るつもりなのか。

  今度は川に沿って列車は走る。
 鉄橋を徐行運転しながら、踏切には必ず人が立っていて、旗を持って列車がやり過ごすのをジッと見ている。
 サボテンのような木に赤い実がなっている。
 何の種類の木なのかわからないが、低いダークグリーンの葉を持った木が、緑の丘陵地に点在しているのが見えてきた。
 広大な原野が広がり、赤い屋根を持った家がポツンと見えてきたと思ったら、後は一軒の家も見ることが出来ない、そんな状況を繰り返す。

  小さな川が澄んだ水をたたえている。
 この清らかな水が、丘陵地を潤しているのだろう。
 列車は誰にも邪魔される事なく、快適に滑って行く。
 その先にはマドリッド。

                   *

  午前十一時十五分、ポルトガルの国境の街である”ALEFANDEGA”駅に到着した。
 昨日、夜に通過した街だ。
 あの時は暗くて何も分らなかった街に、またやって来た。
 それも翌日だ。
 数人の係官が、民間人と変らない服装で列車に乗り込んできた。

      係官「英語は出来ますか?」
      俺 「バリバリよ!」
      係官「ポルトガルのお金はいくら持っていますか?」
 財布を取り出して見せる。
      俺 「200prぐらいです。」
      係官「それだけですか?」
      俺 「見ての通りよ。」
      係官「他の国のお金は?」
      俺 「US$で1200程持ってます。」
      係官「US$1200もですか??」
      俺 「取るんじゃあーねーよ!」

  そんなやり取りが全ての旅行者にも行われて、入国する時書いた紙とパスポートを係官に見せて、スタンプが押された。
 全ての手続きが列車の中で行われる。
 パスポートを係官に預けたまま、十一時二十五分列車が動き始めた。
 ポルトガルの係官が俺の隣のシートに座っている。

  午前十一時四十分、スペイン・ボーダーである”VALENCIA”駅に到着すると、ポルトガルの係官達が列車を降りていき、替わりに私服のスペインの係官が列車に乗り込んできた。
 また俺の隣のシートに座り、何十と言うパスポートを抱えてスタンプを押し始めた。
 係官達は俺の隣が気に入ったのではなく、俺がいつも係官達が座っているシートの隣にただ座っていただけのようだ。

  隣の車両にはカフェがあって、白い服を着込んだ人が昼食の欲しい人たちの数を数え始めた。
 俺はなぜか手を上げなかった。
 どうせ高い物を食わされるという思い込みがあったせいだろう。
 暫くすると、昼食を運んできた。
 機内食のようだ。
 人が美味そうに食べているのを見るのは辛い。
 空腹が襲ってきた。

  カフェに行く。
 サンドウイッチ、二つとミリンダ・ジュース(70pr≒735円)を買い込み、席に戻る。
 結局、高い買い物になってしまった?
 素直じゃないんだな俺。

  窓からは相変わらず丘陵地が、いつ果てるともなく続いている。
 羊・ラバ・牛などが放牧されている光景を目にする事もある。
 時々停車する駅は、何処も小さく、日本で言えば田舎の駅そのものだろうか。
 同じ国鉄といっても、日本の駅とは違い、規模も小さく設備もあまり良くないようだ。
 利用客も少ない。

  一日に数本走っている列車(TEE)だけは、さすがに国際列車らしく設備が整っている。
 チケットの検査は一度だけ行なわれる。
 駅のホームには、誰でも(お金を払わなくても)入れるようで、スペインの娘達がホームのベンチに座り、列車が通り過ぎて行くたびに笑顔で手を振っているのが見える。
 むさくるしい俺にも気がついたのか、あの愛くるしい目で微笑みながら手を振ってくれる。
 停車時間が短いのが残念だ。

  どのくらい眠ったのか、夕闇が迫っている。
 太陽が昇る前からシートにすわり、太陽が沈もうとしている今もシートに身を静めている。
 列車はまだマドリッドに向けてひた走っている。
 闇が丘陵地を支配するようになって、窓の外には灯りらしい灯りが見てこない。



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