ヒナコの伝言板。

ヒナコの伝言板。

vol.2


昨日結局気になってよく眠れなかったんだよね・・・。一応笹山さんたちには返事待ってもらってるけど、どうしたらいいかわからない。慶ちゃんは人事だと思ってかなりノリノリでやる気だし、ここでOKすればなんの苦労もなしに芸能界に足を突っ込むことができる・・・。遼は迷っていた。
やってみたいとは思うのだがどうしても決断に至らないのは遼の「あたしなんかじゃ・・・。」という気持ちがあったからに他ならない。
教室に向かう途中考え事をしながら歩いていたため、だれかと肩がぶつかった。

「あっごめんなさい。」

遼が反射的に謝るが向こうからは何の返事もない。
でもあの栗色のふわふわパーマの後姿には見覚えがある。2年生の中条理沙(ちゅうじょうりさ)だ。彼女は遼達の通う東高校の向かいにある私立城華(じょうか)学園に通う双子の妹とモデル業で芸能界入りを果たしている、この学校の有名人である。
最近は仕事が忙しくほとんど学校にはこないと聞いていたのだが・・・。
多少疑問に思いながら遼は教室のドアを開けた。

「あっ、遼おはよー。」
「おはよ。さっきあたし中条理沙とぶつかっちゃったよ。やっぱホントにかわいいよね。あの子は。」
「雪野!!中条理沙が来てるって本当か?」

そういってきたのは理沙ファンの男子だ。

「え・・・う、うん。ホント・・・。」

遼は勢いに圧倒されながら答えた。遼の返事を聞くと同時に理沙ファンは近くの仲間を引きつれ教室をでていった。

「あーあ、いっちゃったよ・・・。そんなにいいかな?2年のあの子でしょ?」
「そうそう、かわいいとは思うけど性格悪そうだし。」
「ねー、なんか気取っててやな感じだよね。」

クラスメートの女の子達が口々に話し出す。麻美子は腕を組んでイスに座ったまま黙って聞いていたがしまいに、大きなため息をひとつついて重々しく口を開いた。

「なによ、みんなして。それじゃあ、ひがみじゃん。みにくい!みにくい!あんな年下のガキ、やりたいだけやらせとけっつーの!!」
「へぇー、麻美子言うじゃん。」
「当然!!今のうちが花よ、あんなガキ。」
「きゃーまみちゃんかっこいー!」

菜々が歓声をあげると麻美子は不適な笑みを浮かべた。この怪しげな表情は何かをたくらんでいる証拠。自分がオーディションに受かることを確信しているのだろうか。遼は麻美子のたいした自信に半ばあきれながら黙ってその話を聞いていた。

  ・・・・・

「ねぇ、はるちゃん・・・、なんか元気なくなかった?今日一日・・・。」

学校の帰り道、いつもと同じように3人で帰ってるとふいに菜々からこんな言葉がでてきた。
実はバンドのヴォーカルに誘われてて・・・
なんていえるわけがない・・・。他のことならともかく声のことで目立ってもうれしくないし。

「え?別になんでも・・・ないケド。」
「いーや!絶対変だったね。なんか悩みでもあるんじゃないの?あたし達の仲じゃん。何でも話してごらん?」

麻美子が後ろ向きになって遼の目の前を歩く。

「なんでもないってば!もう二人とも心配しすぎだって。今日ね、慶ちゃんにご飯食べにつれってってもらう約束してるからうれしくって。だからかな??」
「へぇー、また始まったよ。遼の『慶ちゃん大好き病』・・・。」
「えへへ・・・。」
「でもいいなー、はるちゃん、慶介さん優しそうだし。」
「慶ちゃんはお兄ちゃんだよ?あたしにとって・・・。幼馴染みだし。」
「なぁにいってんの。本当は好きなくせに~。」
「え~??」

急にポケットの携帯のバイブ機能が作動した。
ディスプレイには『村上慶介』の文字。

「はい。もしもしー?」
「あっハル?学校おわったろ?夕飯食いいかねー?」

さっき苦し紛れについたウソが本当になって遼は驚いたが二人にばれぬように自然にふるまった。

「・・・うん、いく。」
「よし、じゃあ、まってるから、早く帰ってこいよ。」
「うん、じゃあ、後でね。」

電話のスイッチを切ると遼は二人の方に振り返った。

「じゃあ、あたし急ぐから・・・。また明日ね。バイバーイ!」

遼の後姿に手を振りながら麻美子が一回ため息をつく。

「あの子がもてない理由・・・、慶ちゃん・・・、だよね。毎日毎日慶ちゃん、慶ちゃんって知らない人が聞いたら絶対彼氏だと思うよ。あれじゃあ・・・。」

麻美子がガクッと肩を落とす。

「菜々もそー思ってたー。あれじゃあ、他の男の子だって手ー、だせないよねー?」
「慶介さんは遼のことどー思ってるんだろう・・・。」
「でもはるちゃん自身、男としてなのかお兄ちゃんとして好きなのかわかんないっていってるし。どーなんだろー。」
「うーん・・・。」

  ・・・・・

「ここ・・・?」

遼は慶介に冷たい視線を送った。二人が立っていたのは学校の近くのファミレスのドアの前だった。

「そぉだよ?なんか文句ある?」
「・・・ありません・・・。」

もっとさぁー、オシャレなレストランとかさぁー・・・。
まぁいいけどさぁー。

「あっ!慶介さーん!遼ちゃーん!こっち、こっち。」

奥の席でこちらに向かって手を振っている二人組みがいる。あの声は間違えなく昨日のバンドの二人組み・・・。

「ちょっと!慶ちゃん、あたし聞いてない。なんであの人たちがいるわけ?」

遼は小声で慶介の服を引っ張りながら呼び止めた。

「だって、CDの発売までそんなに日がないんだよ。早いとこ決めること決めなきゃさぁー?」
「はぁ?あたし、やるなんて一言も・・・。」
「遅かったねー。遼ちゃん学校だったの?」
「あ・・・あのっ!」

光一郎の問に答えもせず、遼は思い切ってきりだした。

「あたしやっぱり・・・。」
「とりあえず座ってよ。何か頼む?金なら社長ご子息の光がいくらでも持ってるから遠慮しなくていいよ。」

そういって彰がメニューを手渡す。

「げ?俺が払うのかよ?」
「当然だろ?」
「なんでだよ?(怒)この二人のはともかく彰のだけはイヤだね。」
「ったく・・・これだから金持ち人種は・・・。」
「あんだとー?好きで金持ちやってるわけじゃねーよ!」
「まぁまぁ、ここはマネージャーの俺が持とう!その代わり近い未来君達の歌で倍返しっていうのはどう?」
「もう!慶介さんもちゃっかりしてるじゃん!俺、生中追加!」

・・・じゃあ、あたしチョコレートパフェ・・・。じゃなくてー!

「・・・あのー!あたしやっぱりバンドのお話・・・。」
「うん?まさかやりたくないとか?」

光一郎の一言でみんなの動きがとまる。

「え・・・、まぁ、簡単に言えば・・・。」
「なんで?どーして?歌うの嫌いなの?」
「いえ・・・、歌うのは好きなんですけど・・・。」
「じゃあ、芸能界嫌いとか?」
「いえ・・・、芸能界もちょっと興味あるんですけど・・・。」
「じゃあ、じゃあ、俺らのことキライー?」

光一郎の顔は真剣そのものだ・・・。怖い・・・。

「いえー、そんなこともないんですけど・・・。」

その瞬間、パッと笑顔にもどり、ポンっと遼の肩をたたいた。

「なーんだ、なら大丈夫!きっとうまくいくよ。ただ不安なだけだろー?何の問題もない!No,probrem!!」

プロブレム・・・っていったって・・・・。遼は何とか断る口実を探して困っていた。するとみかねた慶介がひとつため息をつく。

「ハル・・・お前はかわいい!!」

は・・・?何がなんだかわからず遼はポカンと口をあけ、目が点になっている。慶介が続けた。

「かわいいし、美人だし、歌だってうまい!ハスキーボイスを気にしてるようだがそれもかなりかっこいい!お前に足んないのは勇気と自信だ。
俺はずっとハルを見てきたからわかる。本当は歌手やアイドルとかにあこがれてることも、その声にコンプレックス感じてやりたがらないことも・・・。」
「慶ちゃん・・・。」

じ~ん・・・。慶ちゃんあたしのこと分かっててくれたのね・・・?

「なんだ~、そんなこと気にしてたの?」
「そんなことって・・・、あたしにとっては大問題なんです。」
「じゃあさ、『雪野遼』としてじゃなく別人として歌うってのはどう?」
「へ?」

遼は彰の言葉に首をかしげた。

「普通の男4人組のバンドとしてデビューするのさ。まぁ、メンバーのプロフィールとか公開しないの今多いし。」
「なるほど。歌うたうだけだから顔見せる必要もねぇしな。もし売れたら、遼ちゃんの声がみんなに認められたってことで、ネタばらしってわけ?」

彰の提案に光一郎は乗り気だ。心配そうに遼がいう。

「でも、もし売れなかったら・・・。」
「そしたら俺たちの歌もその程度ってこと。でも心配しなくてもそのくらいの歌は作る自信がある。後はイメージどうりのメンバーだけなんだ。改めていう。遼ちゃん、俺たちのバンドで歌ってくれないか?君が必要なんだ。」

・・・。彰のクサイ台詞に思わず遼は顔が赤くなるのを感じた。
・・・あたしだってことがバレなければ・・・。

「・・・わかりました。できるだけ・・・がんばってみます。よろしくお願いします。」

そういうと遼はペコっと頭を下げた。

『い・・・やったぁ~!!』

彰と光一郎は二人で手を取り合ってよろこんでいる。遼は慶介と不意に目が合って思わずふきだした。
たぶん、慶ちゃんの言葉がなかったらこんなことになんなかっただろうな。やっぱりあたしにとって慶ちゃんってすごい影響力あるみたい・・・。


         vol.3に続く・・・   


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