ヒナコの伝言板。

ヒナコの伝言板。

vol.3


「はい!こちら、笹山・・・、おう、・・・遅いじゃん。早くおいでよ。うん・・・、そう、ヴォーカルも紹介できるから。うん・・・じゃあね。」

?ヴォーカルってあたしのこと?誰に紹介されるんだろ??

「笹山さん、まだだれかくるんですか?」
「うん、ベースの子が決まったからね、今日二人を合わせようと思って呼んだんだよ。もうくるっていってたから、あっあれかな?」

そっか、まだベースがいたんだ。自分のことで精一杯でそんなことすっかり忘れてた・・・。その人も笹山さんや木ノ下さんみたく優しい人ならいいな。
するとレストランのドアが開き、それらしい若い男が入ってくる。グレーのスーツのようにみえる制服は遼の東高校の近くにある城華学園のものだった。
へぇー、お城の人でもバンドなんかやるんだ・・・。私立といえばつんと気取って勉強しかやらないイメージだったのになんか意外・・・。

「どうも遅くなってすいません。」

その男はそれだけいうと無表情に席に座った。あまりの愛嬌のなさに全員はあっけにとられていたが、ふと我に返った彰がフォローをいれる。

「あっ・・・えーと、ベース担当の和泉淳(いずみじゅん)君。この前あった彼の学校の学祭でバンドやってたのをスカウトしたんだ。で、そっちに座ってるのが村上慶介さん。本職は美容師さんでマネージャーをしてくれる。」

「マネージャー?じゃあ、ヴォーカルは・・・。」

淳が遼のほうを見つめる。

「そう、彼女がヴォーカルの・・・」
「ちょっとまってくださいよ。じょうだんじゃない。ヴォーカルが女だなんて聞いてないっすよ。俺は遊びでやるなら付き合わないっていったはずです。」
「・・・遊びじゃないわよ。そりゃ、さっきまではやるつもりなかったけど、やると決めたら本当に真剣にがんばるもん。もう覚悟はきめたわ!
あんたこそ、ここまできてやめるだなんて中途半端なこと、男らしくないんじゃない?音楽やりたくてここにきたんでしょ?がんばろうよ。ね?あたし雪野遼。よろしく。」

そういって遼は右手を差し出した。
遼の勢いに圧倒されて淳は思わず握手に応じてしまった。

「なるほどね、あんたが東高の雪野遼か。」
「え?あたし東だなんていってない・・・。」
「しってるよ。顔は見たことなかったけど中条姉妹と君はうちの学校でわりと有名だし。しかし、マドンナがヤローとバンドとは・・・。評判さがるんじゃない?いいわけ?」
「??なにいってるのかわかんないけど、あたし男としてデビューするの。バレやしないでしょ?」
「へー、そりゃおもしろい。いいぜ?協力してやるよ。つまんない毎日がこれで少しは面白くなりそうだ。笹山さん、この話正式にお受けいたします。よろしくお願いします。」
「よし、決定!!」

二人の会話に慶介が付け足した。

「さっそくだけど、時間がないでーす。CDの発売日、光一郎君の誕生日だからあとちょうど一ヶ月ぐらい・・・。」

慶介がスケジュール帳を開く。

「一ヶ月??もうそんだけしかないんですか?」

驚いた表情で淳が飲みかけたコーヒーをテーブルに戻す。CDって作るのにどのくらいいるもんなんだろ?遼にはまったく見当がつかなかった。

「だから、早くメンバー集めたかったんだよ。でね、俺ら音は作れるんだけど文才なくて・・・。だから二人で詞書いてくれる?」
「でも遼ちゃんの言葉だと女の子っぽすぎでない?おれら男4人のグループだろ?」

彰に光一郎が続き、淳は手帳を広げメモの準備をしている。

「どんな感じのテーマですか?」
「恋!!」

光一郎以外の全員はその場で固まった。

「・・・恋?!4人の男のバンドなんだろ?今自分でいったじゃん。もっとクールなのにしないの・・・?」
「ちっちっち!だめだな~、慶介さん。」

光一郎は慶介に向かって人差し指を左右に振って舌打ちをする。

「今のビジュアル系は女心のわかるロマンチックなバンドがうれるのだ!人気バンドへの道!それは乙女心をつかむまでの道なり~!!」
「すてきです!!女心のわかるビジュアル系!!女の子の心に共感できる歌ならきっとうれますよ!!」

光一郎の音楽価値観に賛同したのは遼だった。賛同というかもはや光一郎マジック・・・。こいつ只者ではない。3人は思った。

「じゃあ、こういうのはどうですか?俺には女心なんてものはさっぱりわかんないから、彼女にイメージ出してもらって女っぽくなんないように言葉にしてみますよ。俺には木ノ下さんの価値観、さっぱりわかんないっすけど。」
「・・・お前オレに喧嘩うってんのか?」
「別に?わかんないからわかんないっていっただけですよ。」
「そういう態度が喧嘩売ってるっていうんだよ。」
「じゃあ、さっそく考えてきますね。明日にはなんとか形にしてきますよ。」

そういって淳は荷物を持って席をたった。

「おい!淳まだ話は終わってねぇー・・・。」
「おーい、雪野!いくぞ!!」
「え?」

そういうと淳は光一郎を無視して歩き出した。

「え?ちょ・・・ちょっとまってよー。」

あわてて遼も後を追う。

  ・・・・・

「淳君?」
「んあ?」
「実は楽しいんでしょ。」
「んー・・・。」
「さっきは木ノ下さんに生意気いったり、かわいげないとこあったけどなんか楽しそうな感じだったし。」
「まぁ、きらいなことじゃないからね。でも愛想ないのは地だからかわんないよ。」

二人はすっかり暗くなった夜道を歩きながら城華学園のある桜並木までやってきた。おもむろに淳が立ち止まる。

「ここだ・・・。」
「え?」
「朝、通学途中、桜の散ってる中で向こうからあんたの好きな人が歩いてきたらどう思う?」
「・・・好きな人っていうか、一目ぼれ・・・かな。桜が散ってる中で一人の男の子が向こうからやってくる。そっごく絵になってて・・・。他の生徒なんか目に入んなくて、ずっと見とれちゃう・・・。この風景、詞にするの?」
「うん、ここなら過去の経験から何か書けそう。もっとなんかイメージだしてよ。メモるからさ。」

淳はそういうとかばんから手帳とペンを取り出した。

「うーん、毎日毎日同じ時間にここを通る彼を私はいつもそっと見守る。ここでしか合うことができなくて、毎日通り過ぎるのを見守りつづける。」
「毎日毎日ね・・・。」
「ところで過去の経験って?詳しくききたいな~。」
「別になんだっていいだろ?ほら、続き、続き。」
「いーじゃん、そのくらい・・・。えーっと、彼が通るとコロンのかすかな香りが・・・。」
「はぁ?コロン?」
「そうよ!嗅覚、視覚、聴覚、女の子は五感をフル活動して全身で恋をするんだから!!」
「なんか気持ちわりいな、これだから女って奴は何考えてんだか・・・。」「なんかいった?」
「・・・ほら、続きは?」
「どもある日同じ時間に来なくて、一生懸命探しても見つかんなくて、でもやっとみつけたらすっごくうれしくてまた見守り続けるの・・・。」

遼はすっかり自分の世界に入り込んでしまっている。

「ストーカーじゃん・・・。これ。・・・まいっか、じゃあなんとか書いてみるわ。またなんか聞くかもしんないから連絡先教えといて。」
「あ・・・うん。」

遼は淳の差し出した手帳に自分の携帯番号を書いて返した。

「じゃあな。」

それだけいうと淳はさっさと一人で帰ってしまった。あたりはもう真っ暗。
・・・。夜道に女の子一人残して帰っていくなんてどういう神経してんだか、あのおぼっちゃまは・・・。


       Vol.4へ続く・・・


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