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日系議員の使い道 容貎前面に日本叩き役



 東西ドイツが統合したのはもう十年も前のことになる。

 その統一ドイツが最初に処理しなければならなかったのが、東西冷戦のために延び延びになっていたポーランドなど東欧諸国との戦後賠償問題だった。

 とくにポーランドは最初に侵攻した国であり、占領後もポーランド人をクルップなどドイツ企業がこき使ってきた経緯もある。それを踏まえて交渉が始まった。

 一方、このころ米国でも同じように戦時中にドイツ企業でこき使われたユダヤ系市民が、その賠償を求める訴訟を山のように起こしていた。訴えた相手は関係ドイツ企業の米国支社である。

 しかし、米連邦裁判所はそうした訴訟について「すでに西ドイツ政府とホロコーストの被害者やイスラエル政府との間に賠償交渉が成立している」からとみんな門前払いの判決を下していた。

 でも、訴訟窓口だったロサンゼルスのミルバーグ&ワイス弁護士事務所は、それぐらいではあきらめない。どこかに裏道はないかと探し歩いて、見つけたのがドイツと東欧諸国の賠償交渉だった。ここにこの企業賠償問題を混ぜ込めないだろうか。

 幸い、大統領は弁護士上がりとくる。ミルバーグ提案はすんなり理解され、賠償交渉の場に米国の弁護士が加わることになった。

 かくて九九年二月、ドイツの政府と企業が共同で五十億ドルを拠出して償いとする「記憶・責任・未来」基金が誕生する。戦争責任を民間企業にも問う全く新しい手法が成立した。もっとも、クルップはナチスと一体となって占領地に進出して企業拡大を図った。それでニュールンベルク裁判でも有罪判決を受けている。

 さて、この新手法を生んだミルバーグは考えた。これを応用してどこかよそからもカネを取れないだろうか、と。そしてこのロスの法律事務所は動き出した。

 それから五カ月後、カリフォルニア州議会の日系議員、マイク・ホンダが唐突に「日本への戦後補償要求」決議案を提出した。彼はいう。「日本は南京虐殺にも、従軍慰安婦にも、強制労働をさせた連合軍兵士にもこれまで謝罪も賠償もしていない」

 南京事件も慰安婦騒ぎもいろいろ疑義がある。現に駐米日本大使が反論までしている。日本人の血が通っているなら、いわれない言いがかりに立ち向かうのが筋だろう。それはともかくとして聞きなれた「南京」や「慰安婦」に加えて、この日系議員はこれまでに登場していなかった「捕虜の強制労働」問題を付け加えていた。

 どういう意図かと思ったら、追いかけるように「捕虜に強制労働をさせた日本企業から賠償金を取りたてられる」という法案が白人議員から出された。いわゆるヘイデン法である。

 ここまできて、関係者はハハーンとひざをたたく。法案の行間からミルバーグの笑みがもれ聞こえてくるようだ。

 でも、議会はもめた。A・ボック議員は過去に遡及する法案のいい加減さに加え、「戦争犯罪をいうならヒロシマこそ議論すべきだ」といい、外野からはリビジョニストのチャルマーズ・ジョンスンも「小金もち日本にたかるあさましい意図」と批判する。

 しかし、見かけも血筋も日本人のマイク・ホンダの前座決議が利いて法案は成立する。

 前に三菱自動車での集団セクハラ訴訟があった。日本は女性蔑視が当たり前、三菱がセクハラを推奨した、というでっち上げ訴訟だが、これもポール・イガサキEEOC(米雇用機会均等委員会)副委員長を告発人にして、そうか、日系人がそこまで言うならと、米国中がこのいんちき訴訟を支持している。

 マイク・ホンダの役回りもまさにイガサキと同じだった。彼らは日本人の容貎を利用されたピエロだった。で、成立したヘイデン法はというと、米国人、英国人、オランダ人などの元連合軍捕虜が幾百人も名乗りをあげ、予約されたようにミルバーグの法律事務所が原告代理人になり、新日鉄や三菱など十四社を被告に名指した。

 ロサンゼルス・タイムズは「賠償額は総額一兆ドル(百十兆円)になる」と試算もした。

 しかし、米連邦裁判所は昨年、すでにサンフランシスコ講和条約で解決済みだとして却下した。

 実をいうと米政府はこの問題にあまり触れられたくない事情がある。というのも、ジュネーブ協定で使役を認められた兵士も含めて「すべての捕虜が虐待された」(講和条約一六条)ことにして、中立国にあった日本の資産を接収していた。これは明確な国際法違反でそれが掘り返されるとまずい、という判断があった。

 日本企業は米国の本質を学ぶいい機会だったが、哀れをとどめるのが日本人の面汚しを買ってでたマイク・ホンダだろう。

                  ◇

 クリントン政権が土壇場で日系のノーマン・ミネタを商務長官に指名した。何をさせるのかと思ったら日本の捕鯨問題で経済制裁を吹っかけてきた。続いてフカヒレのためのサメ狩りも、マグロもだめだと言い出してきた。

 彼はブッシュ政権にも残る。引き続き日本のカタキ役を務めさせられるのだろうか。(編集委員)

* 高山正之の異見自在


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