宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

何が辛くて?



若い頃、アベノの陸橋で車の流れを見下ろしていて、自分に絶対的に足りないものが何か分かった日があった。

私は人の心がなんとなく読めたから、いつも先回りした。
あいつの時も先回りして、その先を言えないようにした。
そしていつも「さよなら」って言った。
「さよなら」
「さよなら」
「さよなら」
何回となく繰り返した「さよなら」
もう一生あわないその「さよなら」

「ああ、私はふられなくっちゃいけない」
そう思った。
私はもう金輪際、自分からさよならは言わない。そう心に決めた。
Iにはそう言った。
「自分からさよならって言ってほしい」
「わしが?あなたに?どうして・・・?」
Iはいつも首をふった。
「わしが、なぜ?そんな馬鹿な!」

別れてしまったあとも言った。
「わしが?どうしてあなたに?そんな馬鹿な、そんな馬鹿な・・・・」
そうしてやっぱり目を閉じて、首をふった。

人の心が自分の思い通りになるって思っちゃいけないんだ。
手の平の上で、人の心を転がしちゃいけないんだ。
そんなつもりなくてもそうしてたこと。
よかれと思ってしてても、血を流させたこと、耳が聞こえなくなったこと、
いけないんだ、傲慢だ。
私は多分誰かにこっぴどくふられなくっちゃいけない。
そうしないとあまりに綺麗な心ばかりがそこにあって、
愛憎ってことがわからなくなってくる。


今日、ふいに、ほとんど記憶から忘れ去っていたそんなことを思い出した。


近年はまた恋愛ではないけれど、自分から言うよ。
人の心とか、自分の心とか、行く末とかが読めちゃうものは、
やっぱり今でも少々辛いかな。。。
辛くない間柄でありたいです。





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