宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

流れ流れて止まざれば!


子猫はもう退屈で退屈で、遊んでやると部屋でひとしきり暴れてから私の膝の上やら背中の上やらで寝てしまった。

私は折角研究所からいただいたのに長らく放置してあった本を広げた。
パソコンの傍に贈呈袋のままに置いていたのはその中の二冊がすでに幾度かは読んだ本だったからで、あとの一冊は健造先生の著書ではなかったからだが・・・もっと早く読めば良かった。先生の生涯は知っていたつもりでも胸がつまってしまった。


人は二十歳までにはもうほとんど出来上がっているものだと言われたのは安岡先生。古今東西の偉人をみれば、人はほとんど二十歳までに萌芽を見ると言われたのは先生。息子生涯の敵ケーシは15歳で85%出来上がっている、残りの人生で15%だと統計上のことを言い、二十歳以降はその土壌の上に自己展開がなされるのだと私もあの子達に言って来たが、健造先生の生涯、二十歳までを紐解けばまさしくそういう感じ。

藁を背負い、薪を背負う時間、便所に入り、人が寝る時間、それだけが先生の勉強時間。幾日もの徹夜で鼻血で茶色く汚れた本。教科書がなく借り物を全部写した何十日間かの夜。
けれどそんなのは序の口。
知ってはいたけれども、もう頭は下がりっぱなしだ。そんなのが死ぬ三ヶ月前まで。
あんなに毎日かかさず坐っていたのに、ここに来て中断しがちながら今日は思わず東の空に向かって瞑目した。

先生は少年期の頃からの健造ノートを何冊も残されていて、そのあちらこちらに素晴らしい詩を残されているが、それらのノートの上にも書かれているという先生の座右の銘  

流れ流れて止まざれば
 岩をもついに貫かる


先生は二宮金次郎よりソクラテスより偉いけれども、末端の不肖の弟子はプラトンのプの字にもなれず、ただのプー太郎のようだ。
先生の見事な生涯。

読んでみてください。
『山本健造』




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