宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

こちらの岸辺にて(彼岸の人へ)


あなたの子供は もう皆 あなたの年を越しました。
それだのに皆 子供面です。おかしいです。

 お母さんの話が多いですね。お母さんが好きなんですね。
 でも もう あなたはお母さんを追い越しているんではないでしょうか?

 たった一つだけは 生まれた時から追い越してますよ。
 でもそれ以外、何一つ、 母を超えることは死んでもないでしょうね・・・


子供達の誰一人 死んでも あなたを追い越せる者はいません。
それはちっとも情けない思いではなく、たった一つ何かを思い返すだけでも
切なさで胸がちぎれてしまいそうな・・・誰がそんな生を生きられるでしょう?


母よ、あなたは偉かった!
それはただあなたが私達の母親だったから ではないことを皆が知っている。
眼が開いた人ならば 誰でもがあなたの生に感嘆せずにはいられなかった。

 あなたは あなたの人生を残さないのですか?

と あの教師は言ったけれど、

 私の人生をですか?
 私の人生など とるにたらないものですよ。
 私にもし筆力があるならば 私が著してみたいのはただ一つ。

母の人生だけだった。

でもいざとなったら、あなたの人生のどこから 何から?
私はたった一行の文章さえ書けない。
父の遺伝か、あなたの育て方か、綺麗な喋り方と言われている私は時に 
ではせめてはまとまった何かを言葉にしてみたいと願ったが、それも覚束ない。
言葉より先に想いは溢れ、胸が痛くなる。


あなたは 幸せに逝った。
私はそれを知っている。決して不幸ではなかった。
小さな骨の一本一本まで生きたあなたのことを 
あなたのことを知る人以外にどのような言葉で伝えられよう。






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