宇宙は本の箱

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恋愛小説ーある十年の物語 番外編


健気に人に尽くす、そんな女の子に見えた。芯のしっかりした女の子に見えた。
しんちゃんは、人に頼られる女の子に頼られる男になりたいと言った。
けれど、しんちゃんは実は私のことは何も知らないに等しかった。

私は優等生と一緒の時は優等生だった。不良に好かれれば不良だった。
好きな人の前ではそこそこ女だったかもしれず、酒場では最後まで飲んでいた。
しんちゃんはそういう私を知らない。

私はほとんど誰に対しても受身である。
一人一人の理想など知る由もないが、よく理想の人と言われた。よく結婚も申し込まれた。
一生男性に愛される人だと言った人は、それは包容力があるからだと言った。
後年詩人さんは、あんたはいいと思うよ。こうして男と話が出来て、酒が飲めて、なにより女だしさ。と言ったが、それは同僚のまっちゃんが、俺は浮気性じゃない。精神面と肉体面の両方が満たされたら一人の女しかいらんのや、と言ったと同じようなことなんだろう。
私はたまにひどく頑固になる時があり、そういう時はもう誰にも有無を言わせないが、それ以外のことは大抵黙ってやり過ごす。
自分のそういうところは女性より男性に心地よいのだろう。それだけのことだ。
私はそう思っている。

今でもそうだが、子供の頃、若い頃の私は特に、とっつき辛いとか、話しかけ辛いとか、難しいとか言われ、ほとんどの人達に敬遠されていた。
そういう人達にとって、私はどうでもいい存在である。

ある人達にとって私は女の範疇に入らない。だから男性に女性扱いされる筈がないのはもっともだ。もし同じ人を好きになっても、女の自分が負ける筈がないと自信を持っている。
そういう事を口に出して言う女性もいるし、そういう女性と同じ感覚の男性もいる。
だからちっとも女らしくもなく雑な女が男性の中にいるのがよく分からないのである。
なんとなく少しはひっかかるが、きっと同性と思われているのだろうと思える。

私はそういう感覚を至極普通の感覚だと思っている。
だからもしそういう感覚の人と、ある同じ人を好きになったら私は絶対負けると思っている。
普通って強いことだと思う。普通さに時にうちのめされる時もある。
私は、たとえ相手が私を好きでも、絶対そういう普通の感覚の人に勝とうとは思わないのである。人はこれをヘンと言う。

年取った今も、私の話相手は大抵男性である。
親しげに寄ってくるのは男性ばかりだから自然そうなるに過ぎないが。
私は自分の思うようにしか生きないといわれている。
それも実は、人の心が私 みたいなことなんである。

半年に一回。一年に一回。二年に一回。
たったそれだけしか会わない娘に、しんちゃんが一体何をどう感じていたか。
実際私もまた、付き合った当初のしんちゃんと、家に行った時のこと以外は、しんちゃんのことは何も知らないに等しかったのである。
ただ何をしてもなにを聞いても、私の中の一等最初頃のしんちゃんのイメージが変わることはなかった、ということだけは言える。

分かり合える。尊敬しあえる。
親友。



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