宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

遥かに行ってしまった青年




「おばちゃん、僕、就職決まったし、もう卒業やから・・」とサンタさんが言ってきたのはもう十五年前くらいになるか。。。(子供の年から計算のしなおし)

「そう、じゃー就職祝いに卒業祝い しようか」

サンタさんは私にくっついて離れない下の子をバイクの後にのっけて夜の町を走った。
私はその頃はパジェロに乗っていて、サンタさんの後を走った。

若い子はよく食べた。見事!惚れ惚れする食べっぷり!!

それからサンタさんはまた子供をのっけてカラオケ屋に行った。
チューハイ青りんごなる甘い飲み物をはじめて飲んだ。
あれはジュースですよね。

私は音楽の先生に呼び出されて合唱隊に入れられたくらいだったけど、
あまりそんなふうには歌いたくなかったし、結婚してからは歌どころか、
大きな声を出すこともなくなっていたから、カラオケに行っても歌はほとんど歌わない。
かわりにサンタさんがいっぱい歌った。
サンタさんは良く通る声をしていたし、歌は上手だった。
おばちゃんもちょっとは歌ってえや、というので、
しようがない『ざんげの値打ちもない』を歌った。
好きなのね。でもあの裸の映像はちょっとよろしくなかった。
で、お口なおしに歌ったのが『今は幸せかい』


  ♪ 今は幸せかい  君と彼は

      甘いくちづけは 君を酔わせるかい

       星をみつめて ひとりで泣いた

        僕のことは 忘れていいよ

      今は幸せかい  君はもういない  


歌い終わると、サンタさんは下を向いて涙ぐんで「いい歌やね」って言った。

私が歌をうたうと皆かなしいって言う。昔々の恋人もよくそう言った。
最近ではTからもそう言われた。
でも、サンタさんが泣くとは思わなかった。
失恋でもしたあとだったのかもしれないと、その時は思った。
思ったけど、もう聞くこともなくなった。


また3月7日が来る。

「なぜ彼は死ななければならなかったんですか?」とTは聞いたけど、
狂ったように泣き叫び問うお父さんにも
「意味はあっても、死は運命だと、彼にはそう言いました」と、私は答えた。
そうして長い長い手紙をお父さんに書いて送った。


また3月7日が来る。
私はまだサンタさんの家には一回も行かないでいる。


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