福井県民国~for maniac people~

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第8話 結末


 いや、まだ希望はある。隙だ。隙さえ狙えば・・・


 ヤブを人質に取られてから未だこう着状態が続いている。ヤブの先輩だった、そしてこの電車ジャックの主犯格の男はヤブの首を絞めながら運転席の前で私たちをにらみつけている。警戒しているようだ。男の後ろでは運転手らしき人が壁にのたれかかっていた。なんと、その人の腹からは真っ赤な血が流れていた。あの傷がここで起きたことを物語っている。畜生、この男もやっぱり拳銃を持っているのか。これでは隙を見つけても返り討ちにあってしまう。どうすればいいんだ。

 しかしこのまま続くと思われていたこう着状態は、以外にも男の方から破られた。
「どうだ。絶好のチャンスを踏み潰された気分は?さぞかし残念だろう。だけどな、俺を殺したとしてもな、どうせ助からないんだよ。運転手がこうなっている以上、この電車は誰にも止められない。誰にも止められないんだよ!」
 男は勝ち誇ったように話を続ける。しかしチャンスというものはどこから来るかわからないものだ。さっきまで動かなかった運転手の頭がかすかに動いたのだ。彼は盗み見るように犯人の男を見上げ、死角になっていると分かると、こちらを向いた。綾香もそれに気付いたのか、顔を一瞬ゆるませた。彼は場の状況を理解するのに時間がかかっているような顔をしていたが、理解したらしく、ポケットをまさぐり始めた。
 その間にも男の話は続く。
「てめえら、さっき客室の中でラブラブだったじゃねえか。俺もキュンとなったぜぇ~。そうだ、お前らここでキスでもしろよ。どうせ死ぬならその前に一回はしたいだろ?でも死んだらそのことも全部忘れるだろうけどな!」
 男の話はほとんど耳に入らなかった。私は目線が男にばれないようにしながら、運転手を見続けた。彼はポケットから何かを見つけたらしく、静かにそれを出した。あれは確か・・・
「スタンガンよ」
 綾香が耳に聞こえるのがやっとという位小さい声でつぶやいた。男には電車がレールを走る音で聞こえなかったらしい。まあこういう時に備えて護身用として持っていたのだろう。しかし何故・・・あ、そうか。ならば。
 私はジーパンの後ろポケットに入れ替えておいたあれを確認した。使い方はヤブから聞いただけだが、奇跡にかけるしかない。
 運転手の彼は、合図をするようにスタンガンを左右に小さく振った。
 ミッションリスタートだ。

「つうっ・・・痛っ!!」
 突然、男が足を痛がるように転げ落ちた。運転手の彼がスタンガンを当てたのだ。その一瞬に私は賭けた。ジーパンから素早く拳銃を抜くと、ヤブに言われたとおりカチャっとして、犯人の胸めがけて、

 撃った。

 パン。

 一瞬の沈黙。

 しかし不覚にも胸には当たらず、右のふくらはぎに当たった。その隙にヤブは腕をすり抜けて男の腹にパンチをかました。倒れる男。それをすり抜けるように運転席へ走る私。男はヤブと綾香が何とかしてくれる。私がすべきことは1つ。電車を止めることだ。
 でもやはり神というものは意地悪が好きらしい。遠くに大きな駅が見えた。しかも倒れていた運転手の彼は手すりをつかみながらこう言った。
「もうすぐ長崎駅に着く!それまでにブレーキをかけて下さい!そうしないと車止めにそのまんまぶつかりますよ!!」
 なぜ。まだ長崎に着くには時間があったはずなのに。まさか知らないうちに電車はスピードを上げていたのか。何とかとめなければ。
 と思ったその時だった。後ろで忌々しい声がした。振り向くと、あの男が銃を構えていた。
「てめえ・・・俺らの計画をどうしてくれる・・・死ねぇーーっ!!!!」
 男は銃を撃った。確実に私の胸に銃口が向いていた。やばい。しかし気が動転して動けなかった。死ぬかな、とも思った。目を閉じた。
 しかし目を開けても自分に銃弾は当たっていなかった。
 目の前には綾香がいた。
「うっ・・・」
 綾香は腹を押さえて倒れていく。
「綾香、綾香っ!!」
 私は必死に叫んだ。
 するとヤブが銃を構えた。
「てめぇーーっっっ!!!!!!!!!!!!」
 ヤブの放った弾は男の腹を捕らえた。男がゆっくりと倒れていく。

「・・・ちょっと、ちょっと!」
運転手の彼の声が聞こえる。
「何ボーっとしてるんですか!ブレーキかけて下さい!そこの――レバーを早く!!!」
 目の前はもう駅だった。そして遠くには車止めも見える。一刻も早くブレーキをかけなければ。しかしそこにはたくさんのレバーがあった。大事な部分は聞き取れなかった。どれだ。どれなんだ。
 そうだ。昔ゲーセンでやった電車でGO!を思い出すんだ。確か、確か・・・これだ!このレバーだ!
 私はその記憶を頼りに、レバーを思いっきり下げた。レバーは思ったより重かった。

 もしこれがブレーキじゃなかったら、

 死ぬ。

 お願いだ。電車でGO、
 電車でGOっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!



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