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エジプト 10月のバラ 【2】
「マイフレンド!」黒人店主が勢いよく微笑む。あんたもかいっ(笑)。
抱きついてこんばかりの、馴れ馴れしい女性店主を無視して、
2階の階段をあがった。
それが、そもそも間違い、の始まりだった―――――。
2階は所狭しと、香水入れのガラス瓶が棚に陳列されていた。
私背の高い店員に供されたカシス茶を飲みつつ、カモになるであろう生贄の役を先刻の復讐のつもりで、その役を妻に負わせた。
ベティーチャンが「中年になってグレたような」女主人が「クリスタル!」と主張する2本の「夫婦茶碗」ならぬ「2本の香水瓶」(笑)を手にするまで、先ほどまで馬に乗って揺られていたのと同じくらいの時間を要した――――。
「そんな安値では、ボスに首になるわ・・」と首をたれながらげんなりして言う店主の言動から「ゴッドファーザー」を彷彿させられ、ややビビッタが、
「嘘や、嘘や、。目の前におるのが、そのボスや。交渉せえよ!」
彼女に押し付け、カシス茶のまずさに眩暈を覚え、口直しにと、彼女の生ぬるいコーラなんぞを飲んでいたら、
「・・・・・・えーと、あのー、えーーーと・・・・・・・」
・・・・・・・・こっちまで句読点だらけの、かくも彼女の時間は優雅に流れているのであった。
結局、1本1万2000円だったクリスタルなるグラスを8000円で両者が折れることになった。
めでたい結末かどうかは、定かではない。
しかし、まぎれもなく我が家の家宝になるべく、手に入れたものだ。
が、・・・・・今だもって、食器棚の奥深く眠っているままだ。
一緒に買った、クレオパトラとアレキサンドリアという怪しげな香水とともに。
この店の名前を明かすことはできない・・。
が、スフィンクス正面のチケット売り場を出たところすぐにある。
誰でもすぐわかる。通りかかれば、間違いなく「マイフレンド~~~」とにこやかに、ベティちゃん(?)が手を引っ張っていってくれるだろう。
私たちにとって忌々しいのは、モーセスだ。
いったいいくらのマージンを手に入れたのだろう・・・私たちの20$と合わせても、今日明日仕事なさらずともよいでのはなくて??
ピラミッド側の入り口まで馬で行こうと促すモーセスに断った。
モーセスは、名残おしい・・・・・なんて素振りは露にもださず、妻に不敵な微笑みを投げかけ、あっさり子分とラクダと馬3頭を従え、去っていった。
また、私たちのような上カモを求めるのか、今日はもうあがり!とドンチャンやらかすのかは、定かではない・・・・。
しかし、なさけないことに、鼻の欠けたスフィンクスにさして興味も湧かず、結局彼らの後を追うような格好で、ホテルへ戻ることにした。
その名を冠する香水をベティにつけられ、すっかりその気になってる我が相棒「クレオパトラ様」はこう仰った・・・。
「クフ王のピラミッド、入ろうよ」という強い要求であったが、機嫌が悪い私は、
「そんなん、ただの尿臭い、石のなかや!もう、なしなし!」
と、砂漠に埋もれかけていた私の威厳を(そもそも最初からあったっけ?)探し当てたかのごとく、断固として受け付けなかった。
「なんでよぉ~~~~。。。」
「目には目をじゃ!」
―ここはメソポタミアではなくて、エジプトです!―
と、突っ込んで欲しかったのだが、彼女は余裕がないんか、はたまた薄学なのかは存ぜぬが、しばらく無口になってしまった。
―やっぱ、無知なだけや―と、ほくそえんでいたら、すごい切り替えしがあった。
彼女の一言は、しばらく呆然とさせられ、やがてその意味が飲み込んだときこの地に吹き荒れる熱砂の嵐のなかへ巻き込まれたような気分になった―――。
クフ王のピラミッドを見上げて横切りながら、
「たかが、こんなもんかーと、思うとっても、やっぱり近くで見上げたらすごいの
ぉ~~。ほれ、見てみなや!・・」と暢気な私にこう告げたのだ。
「今晩ね、ダンスパーティーがあるからって、さっきのラクダのおじさんに誘われた」
え??
頭が少し、クラクラしてきた――――。
「クフ王のピラミッドなんて、テレビとかで何度も観てるし、でも見聞してみんとと思って、案外・・いや、しょうもなぁ~~・・・と、カイロタワーやギザのホテルから見上げて思ってたけど、、、こうして麓(?)で見上げると、やっぱ、すんごいわぁ~~~~~!!」
などと感心していると、
「夜、ダンスパーティーがある。。って、さっきのラクダのおじさんに誘われた」
と、我が相棒はのたまう・・・。
頭が少し、クラクラしてきた・・・。
ダンスパーティー・・・・・・・・・・・。
零コンマ、数秒の間、走馬灯のように駆け巡る・・・・。
―――怪しげな、ベリィーダンスを見せる、看板もないような地下の暴力バー。
二人は金などなく、、、身包み剥がされて、翌日、、、黒く澱んだナイル川に浮かぶ・・・・・・・・・・。
「ば、ばかばかばかばか!!どこまでお人よしなんだ!!あっ、、だからアタシと一緒になれたんだけど、、テヘ♪・・・ちゅうちゃう!!・・。カモがネギしょって、こちらで鍋まで用意してどぉ~~すんのっ?!ここは、エジプトなんだよ。
エ・ジ・プ・ト!!わかる?わかるでしょっ!!??」
「ん?でもね・・・」
「でもね、もへちゃこもないっ!夜誘われて、のこのこついて行くご婦人の顛末はさっきみたいに、40$なんかでは、もぉ~~、すまんのよっ!明日からミコノスの白い家見たくないの??一生、あのラクダ野郎と暮らしてろっ!」
まぁ・・・・・・自分でも感心するくらい、矢次早に、呪いの言葉で罵った。
で、・・・・やれやれ、、単純な彼女のオツムを改悛するには、労力を使い切るもんやと、ほとほと疲れきったところへ・・・。
「でも、ファミリーのパーティー、、って言うとったよぉ~~」
・・・・・・・・・・・・・・。
ファ、ファミリィ~~?・・・・。
「ファミリィーのパーティー・・」
ゆっくりと、空耳のような言葉を記号のように暗誦した・・・。
ファミリーといえば、マフィア!
拉致され、翌日には・・・・二人はナイル川の・・・・・・・・・。
私の頭の中は、彼女と異なり、逞しい想像力と予知能力と、美しい詩的言語力が備わっていた。
「行こうよ・・」
彼女は、あいも変わらず、状況判断、の素振りもみせず、お気軽にのたまう。
「あのねぇ~~・・・・・」
「君も、一緒に、って言うとったよ」
「ふぅ~~・・・・・・・・・・・・・」
頭は、かなりクラクラしてきた・・・。
そういえば、気になってしょうがなかった、空が黄色い原因がわかった。
空高く、砂塵が舞いつづけているようだった―――――。
「ふぅ!」
妻に聞こえよがしに、もう一度、深いため息をついた。
なんら、効果はないようだった。。。
今晩の「悪夢」を思いつめながら、一人、気だるい、憂鬱な午後3時のプールサイドである・・・。
妻は今朝の朝食に続き、昼食にもほとんど手をつけず、部屋へ帰った。
「胃の調子が悪い・・・・・そうだ」
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