生命の滴――







宇宙物理学者であるフランスのユベール・リーブズはこう語ります。
―――宇宙開闢のときから、物理法則の形式のなかでは「生命の誕生」は組み込まれていた。
しかし、それは可能性であって必然性ではないのだ―――。

誰かのまたたきの間のような時間で、宇宙の開闢から地球誕生までの歴史をたどってきましたが、今夜から舞台は地球になります。
宇宙の進化と物質の進化、そして生命の進化は連続しているものだと、証明しましょう。
 時は約40億年前です。
地球を形成するのは、前回述べましたようにケイ酸素の核、そして炭素の地殻、メタン、アンモニア、水素、水蒸気、二酸化炭素からなる混合気体の大気です。
太陽の紫外線と、激しい稲妻の作用で、大気を構成する分子が壊され、乖離して、より複雑な分子へと編成され、最初の有機化合物が誕生するのです。
さまざまな原子が再結合してアミノ酸を生み出していきました。
大気中の冷たい層のなかで水蒸気が集まり、有機化合物の分子を含んだ激しい豪雨となって降り、この状態が約5億年(!)続くのです。
 果てることなく地球を潤しつづける分子の雨のなかには、アミノ酸以外に脂質の元となる脂肪酸も含まれていました。
この時期、ホルムアルデヒトとシアン化水素が大変重要な働きをしたそうです。
この二つの気体分子に、ご存知の太陽がエネルギー源となっている紫外線が作用して、後に遺伝子の本体DNAを構成する4種類の塩基のうちの2つが生み出されました。
「私たち」の「元」は、すでにこの雨のなかに存在していたのです。
そして、大気の層が分子の化学組成を促進したのみならず、保護する役割も果たしました。
宇宙開闢では、温度が起動の役目を果たしましたが、地球上では特定の自然環境が役目を果たしていくのです。

地球と惑星に雨が降り続けます。
約5億年ものあいだ、降りつづけます――。
前回述べた、精妙な分子が干潟で結合して、最初の生命の「しずく」を生み出します。
 これまで、「生命」は雨がもたらした海から生まれてきた、というのが定説でしたが、今日では干潟や沼地など、日中は乾燥していて夜は冷たく湿っているという乾燥湿潤を繰り返す場所から誕生したというのが有力らしいです。
この環境により、塩基が粘土状のなかで自然に結合して、核酸の鎖状小分子を作り出すことがわかったのです。
これが原型となり、遺伝情報を伝えるDNAが形成されていくのです。
これらは液滴です。前生命物質と呼んでもさしつかえないでしょう。
そしてこれらの液滴は何百万年もの間、化学反応を様々に起こしながら、「淘汰」されていきます。
それらの「なか」では、後でいう4種類の塩基からなるRNA(リボ核酸)という特種な鎖状
分子が含まれていました。これらは、自己増殖するのです。
【「繁殖」=種の保存が確保されるのです。】
生物とはナニか?
一般には
①「自己」と「多」の堺をもち、
②代謝を行い、
③自己増殖する能力のあるシステム―――
である特質をもつ「構造」です。
細胞も動植物も等しく――――。

 そして、生物の前夜祭ともいえる液滴のなかでは、さらに化学進化が進み、糸状のRNAがわずかながら進化して、二重螺旋構造が形成されていくのです。
これがDNA(デオキシリボ核酸)です。
そして、当時の地球上には、この核酸をもつ液滴の細胞を破壊したり、増殖を妨げる環境がないことから、わずか数百年というレベルで爆発的に増加していきました。
 そしてすばらしいメカニズムが出現したのです。
そう、光合成と呼吸です。
そして液滴の分化が生まれてくるのです。
ひとつは、海中に入ってくる太陽光と発酵物質から発生する二酸化炭素を利用してエネルギーを生むのです。
もう一方は、エネルギーに富んだ物質と他の液滴が放出する酸素を吸収するため移動をはじめます。
これが「藻類」と「細菌」の分化であり、そして後の植物と動物の分化へ通じる道です。
いよいよ生命が物質と通じながら巡る旅が始まったのです――――。

物資と生命が通じ、めぐり合う旅の始まりです―――――。
 久しく平穏に生きていた単細胞たちはやがて進化の道を歩まざるをえなくなります。
原始細胞が増えるにつれ、自ら吐き出す廃棄物により自家中毒を起こすのです。
やがて単細胞は寄り添って多細胞に進化するわけです。もちろん生き残るための「手段」であるわけではありません。化学的コミュニケーションともいうべき、ある種の物質をやりとりするなどの遺伝子に関する小さな変化の積み重ねの結果、細胞の「機能」の特殊化が生まれてきたのです。
そして、ある説によれば、「共食い現象」というべき、細胞が互いに他の種の遺伝子を取り込み、それらの遺伝子が他の細胞と混ざり、自己の遺伝子を半分ずつもつ生殖細胞という特殊な細胞が生まれるようになります。物質の交換という優性生殖が生まれたのです。。
性の出現という物質界の革命です。
セックス万歳!!!!!なわけです。
そして同時に、生体内部への「時間の導入」という現象が出現しました。個体の老化、消滅です。
そうです、死です――――。
死は性と同じく生命にとって重要で、自然が発展しつづけるのに必要な原子、分子、無機塩などを「再循環」させる働きをします。
 宇宙の原子の数は、これまで「私たち」がたどってきた約150億年前の開闢以来一定なので、死により原子の大掛かりなリサイクルが行われ、新たな生命の「蘇り」が可能になってきたわけです。

 宇宙という【複雑性】は常に、単純なものの組み合わせにより発展していったのです。
あの始まり、における二つのクオォーク。炭素原子と結合する対称的な4つの原子。遺伝子を構成するわずか4つの塩基。動物界と植物界を分けた二つの、ただしそっくりの分子。そして今回お伝えした、二つの性です・・。


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: