EVER LASTING LIE ~幾つもの夜を乗り越えた嘘~

EVER LASTING LIE ~幾つもの夜を乗り越えた嘘~

たばこ・・・・


学生時代。今から数年前の11月。大学4年の秋。ゼミで一人の女の子と仲良くなった。 俺は惚れた。卒業を間近に控えながら、内定はゼロ。でもどうでも良かった。いまだかつて、こんなに人を好きになったことはなかった。その子には、3年間続いている彼氏がいた。遠距離恋愛だった。しかし俺には関係なかった。俺は、何度もその子に気持ちを伝えた。彼女は、以前から彼氏との遠距離恋愛に限界を感じていたこともあり、俺へ気持ちが傾き始めていた。

彼女はタバコが嫌いだった。だから俺はなんの躊躇もなく禁煙した。マルボロライト。やめれる自信はあったし、実際、禁煙は苦じゃなかった。親友のSは俺の禁煙を見て「ほな、俺もお前と一緒にタバコやめるわ。前からやめたかってん。ええ機会や」と笑いながらタバコとライターを捨てた。

12月のある日、俺は彼女に「答えがほしいねん」と言った。彼女は「T君(俺)と付き合うかどうか、まだ迷ってる。でも、彼氏とは別れてくる。その後に答えを伝えるから待ってて」と言い残し、遠く離れた彼氏に会いに行った。俺はじりじりしながら、待った。数日後、彼女は戻ってきた。俺の部屋に来て、とりとめのない話をした。
そんな話、頭には入らなかった。俺は「答え」だけが気になっていた。でも、俺は聞けなかった。数十分後、彼女から切り出した。「別れてないねん。だからT君とも付き合えへん。ごめん」。彼女は本当に別れるつもりで彼氏に会いに行った。でも、実際に会ってしまったことによって、情が湧いてきてしまい、別れを切り出せなかった。そして帰ってきた。

それから数日、彼女と電話やメールをした。最初は「このままでもええかな」と感じていた。でも、耐えられなかった。もう、限界だった。彼女と話をすればするほど、気持ちが高ぶった。壊れそうだった。そして彼女も、無理をして俺と話してくれているのがよくわかった。

ある夜、彼女と携帯で話しながら、俺は決断した。彼女に言った。「この電話で、最後にする。メールももうしいひん。履歴も、メモリーも全部消すわ」。あえて、冷たい口調で言い放った。彼女はただ一言「わかった」と言った。全てを悟ったように、それまでの甘い話し振りが一転、向こうも冷たい口調だった。俺は、「じゃあ」と言って携帯を切ろうとした。いつもなら右手の親指で簡単に押せるはずのOFFが押せなかった。左手を無理やり右手に添え、ようやく切った。携帯を切るのにこれだけ意志の力が必要だったのは初めてだった。

携帯を切ってしばらく、何も考えられなかった。そして涙があふれてきた。止まらなかった。女に振られたことは何度もあったが、泣いたのは初めてだった。10分、いやもっと過ぎただろうか。涙が少し乾いた頃、ふと「タバコ吸いたい」と思った。

禁煙を誓い合っていたSに電話した。Sは俺と彼女のことを知っていた。だから俺が
「何にも聞かんと、タバコ買うて来てくれへんか。頼むわ」と言うと全て事情を察し
たようだった。Sは「わかった」それだけ言って電話を切った。

しばらくしてSが来た。無言でタバコを差し出した。俺も何も言わずマルボロライトを受け取った。禁煙してたかだか2ヶ月も経ってないのに、タールの匂いがすごく懐かしかった。火をつけ、深く吸った。深く深く吸った。息を吐いた。部屋中に、煙がたちこめた。俺は心の中で、「あぁ、禁煙の誓い、やぶってもうたなぁ。Sの勝ちやなぁ」と苦笑いしていた。ちょっと自己嫌悪に陥った。その様子を何も言わず見ていたSが、「俺も吸おっかなぁ」。普段クールなSに似合わないくらい、おどけて言った。そして、Sもタバコに火を付けた。Sも俺と同時に禁煙を破った。「あ、俺もタバコやめれんかったわ。おあいこやな」。

俺はまた、涙が止まらなくなった。Sに見せまいと、顔を壁に向けてこらえたが、泣けてしょうがなかった。必死に平静を装ってタバコを吸い続けた。

あの夜、叶わぬ恋の辛さを知った。親友のありがたさを知った。そしてあの一本のタバコの味は一生忘れられなくなった。


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