The Violent Blue




彼は目を覚ますと西へ向かう。
朝焼けのあと、すべてが嘘に見えた。
蜃気楼にも飽き飽きしていた。

「時々すべての人間が馬鹿げて見え、それと同じだけ、あるいはそれ以上に自分を滑稽に、恥ずべく者のように感じた。
これは異常なことではないことを知りながら。」
ほとんどの人間がこういう馬鹿げた錯覚に囚われるのだということを彼は知っていた。いや、正確に言うと、妄信していたのだ。
例えば、ゲシュタルト崩壊という現象のように。
平仮名の「の」や「つ」や「ひ」といった文字をずっと見ていると妙な心持になり、その字を「の」や「つ」と認識できなくなる。変な形をした記号のように思えてくる。これが他の対象にまで進むと、身近な人物に違和感を持ち、自分が自分でないかのような感覚。この時、彼は単なる各々の認識でのみ世界は成立しているのではないかという考えを初めて思いついた。そしてそのことにひどく興奮した。まるで物理学者が新しい公式を発見したときのように。
彼はまだ若かった。
自分を過信していたし、経験も乏しかった。
このようにして彼はサハラ砂漠に旅に出たのだった。

そして、彼が今現実に直面したのは、残念ながらやはり人間の愚の部分であった。
彼は神に嘆いた。
「神よ、私をお許しください。そして、いくつかの事に目を瞑ってくれるでしょうか?さもなければ、私は、この世界で生きる自信がこれっぽっちもありません。誰しもが望んでいる筈の平和な世界さえままならない世の中なのですから。私が出来る限りの努力をもって、すべての人を同様に愛したいと思いますが、私はまだくだらない妄想や悪魔の誘惑に絶え得るかどうか確信がもてやしないのです!」
彼はサハラ砂漠の渇いた土に跪き、無意識に砂を掴んだ。
その手から零れ落ちる砂は彼の理想のようにも見えたのだ。


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