++inakamiso++

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太陽と月


    分からない何かを探すためにずっと旅をしているんだ。
       そして今日、この世に存在する最後の大陸に渡った。


大陸について海から1時間ほど歩いたところ…人口100人程度のスターレール村。
いつだって枯れ葉が落ちていることで有名だ。
そしてこの村には宿、レストラン、喫茶店、どれも1店づつしかないらしい。
枯れ葉の上を歩くのは意外とおもしろかった。
まずは宿に行こう。
その音を聞きながら歩いていると結構はやく見つかった。

「ぉ、ここだな。」

周りと違ってずいぶん古そうな感じだ。
ロビーは中央にカウンターがあって、その両端にドアがある。
両サイドには風景画が2つづつ。
質素な感じで僕の好きな雰囲気の宿だ。今日はよく寝れるかもしれない。
…しかしこの前泊まった宿は特にひどかったなぁ…。
…ピカピカキラキラピカピカキラキラ…あんなところで寝れるわけがないじゃないか。
まぁそれはいいとして、これが無事に済むといいけど…。

「すいません。」僕はなるべく小さな声で言った。

とにかく正体をばらしたくない。

「1泊か?」宿のおっさんがカウンターの奥から顔を出した。

“おじさん”というよりは“おっさん”という呼び方の方があっているタイプだと思う。
しかも着ているものが何故かタンクトップシャツだった。

「はい。1泊。1人で。窓の少ないところをお願いします。」

「物好きだな。まぁでもここには窓のない所があるんだけどな。ようやく人
目を見たぜ。いままで誰も泊まったことがねぇんだ。…それよりその格好どうにかなんねぇか?暑苦しくてしかたねぇぞ。」

僕は頭からすっぽり布をかぶっていた。しょうがないじゃないか。
ここでばれたらこの大陸を見てまわる事が難しくなってしまう。

「すいません。でもいいんです。これで。」

むしろ僕から言わせればおっさんのほうは寒そうだけど。。

「…ま、お前がいいならいいとするか。ところでお前どっからきた?」

「…言わないといけませんか?」

はやく終わってほしい…。
なるべく声を発しないようにしないといけないんだから。。

「なんだぁ?無愛想だな。」

だから早く終われせたいんだって…あ!そうだそうだ!

「すいませんが一つだけ聞かせてください。ここには伝説のようなものはあ
りますか?」

これを聞かなかったら旅をしてる意味がない。
お願いだから何も言わずに答えてくれ…。

「答えないといけないか?」

はぁ…他をあたるしかないかな…。

「別に…嫌ならいいです。」

「おいおい!待てよ。お前は諦めがはやいな。たまにはねばることも大切だぞ。答えないとも言ってないだろ?教えてやるよ。『when the light smile at the darkness, the true last land will appear in this world』だ。興味深いだろ?」

「そうですね…どうもありがとうございました。」

ふぅ…これで他の人とこの会話をしなくてよくなった…。

「あぁ。そういうことなら俺に聞けば大体分かると思うぜ。部屋は右側のドアをはいって15番目のドアを蹴りな。」

「分かりました。ありがとうございます。…ぁの…僕は旅をしてるんです。」

おっさんが微笑むと、右側のドアが開いた。


廊下は微妙に長かった。でも絵画や花はまったくなかった。

「15番目…15番目…ここか。」

ドン!そして言われた通り蹴ってみた。

「痛…もうちょっと優しく蹴って欲しいな…。」

…ドアがしゃべった…。
今までしゃべる椅子やたんすなどには会った事があるけど、ドアは初めてだった。

「君はしゃべれるの?」

「ここのおやっさんがそぅしてくれたんだ。」

「そぅか…ごめんよ、今までやったことなかったもんだから…」

「いいよ。謝ってくれるだけで十分だよ。どうぞ」

ギィーっという音とともに、ゆっくりドアが開いた。

「これからは気をつけるよ。」

「優しいね。」

「そういってくれるのは君だけだよ。ありがとう。」

「いいえ。」

今度はパタンと扉がしまった。
そしてふと疑問に思った事を実行してみた。

「…あのぉ…ドアさん?」

反応なし。っと。普通のドアだ。どうも蹴らないと反応しないらしい。
まぁそうでないとプライバシーってもんがないよなぁ。。
実際そんなに気にした事はないけど。
しかしこの部屋もまた質素で僕の好きな感じだな。
ドアから見て右奥にベッド。
ベッドの左横に小さめのテーブルとランプが置いてある。
部屋の左側には大きなテーブルと椅子。
天井からアンティークなシャンデリアが釣り下がっていて、窓がなくてもすごく明るい。
僕はベッドの上で大の字になった。
はぁ…無事に済んでよかった…。
あぁいうのは凄く気を使う。。
しかしビックリしたな…そうか。あのおっさん魔法が使えるのか。
だからドアも勝手に開くししゃべる力を与えることもできる。

……強いのかなぁ…。

ま、それはもしもの事だもんな。うん。
そうだ!ここの伝説…なんか引っかかるような気がするんだけど…。
『when the light smile at the darkness, the true last land will appear in this world』
だったっけ?そんな感じだったはず…うーん………よう分からん…。
それより腹減ったなぁ…。考えても分からんし、なんか食べに行くか!


そういえばあのレストランには何があるんだろ。
楽しみだなぁ。
今回はドアをできるだけ優しく蹴った。
それからドアと少し会話をして、また微妙な長さの廊下を歩く。
ロビーのドアまでやってくると…やっぱり勝手に開いた。

「…ちょっと食事に行ってきます。」

さっきより小さな声で済ませた。

「行け行け。ぁー…あそこのあれには気をつけろよ。なんだったかな…ま、
行けば分かるだろ。ここは24時間開いてるから好きなときに帰って来ていいぞ。」

「分かりました。」

そして宿の入り口が開いた。

「あれってなん…!!!」ドスン!

出たとたん、自分とまったく同じ格好をした人間(頭から布をかぶっているってことだ)が向かいに倒れている。

「だ、大丈夫ですか?」

思わず少し大きめな声を出してしまった。

「ぅ…!!」

その人はバッ!っと起き上がると、まだ座っていた僕の手をつかんで走り出した。無論、僕も走る事になった。


それから10分程走り続けたと思う。
ずっと手を離してくれなかったから逃げようもなかったし…。
あまり関わりたくないんだけどなぁ。。
そういえば晩御飯…まぁいっか。確かレストランも遅くまで開いていたし。
それよりどうしたんだろう。ずっとあんな格好で走り続けて。。
森の奥の少し切り開かれた場所まで来ると、その人がようやくとまった。
そして適当な丸太に座る事に…僕は無意識に対象に座れる場所を探していた。

「はぁはぁはぁ…ごめんなさい。驚いたでしょう。」

それなりに…え?!女の子??

「ほんとにごめんなさい!!」

「ぃ、いえ…それより大丈夫ですか?さっきぶつかったから…」

「え?ぁ、えぇ。大丈夫です。私が悪いんですから。そちらこそ大丈夫ですか??」

「はい。僕は。貴方が大丈夫ならいいんです。なにかあったんですか?ここまで来た事ですし、僕でよかったら話聞きますよ。」

ここなら僕ら以外に誰もいないし、普通に声を出しても大丈夫だろう。
それにこの格好の限り声から彼女にばれることはなさそうだし。。
この子をこのままほっとくわけにもいかないからね。。

「ぁ、ぁの…その…悪いですし………やっぱりいいですか?」

「はい。どうぞ」

僕はなんとなくにこっとした。
そしてなんとなく、彼女の顔が和らいだようなような気がした。
お互い顔は見えていないはずなのに…。

「私…あのぉ…ちょっとした…お姫様みたいな感じなんですね。それで…そ
のなんか…そういうのが嫌になったっていうか…周りの人の言うような子じゃないんです!私…もっと自分というのが欲しいんです。みんないるんだけど、ほんとのところではいつも1人で…。でも、1人じゃ寂しいんです……ぅ…うぇーん…」

な、泣き出しちゃった!!どうしたらいいんだろう???

「…えっと…大変だったんですよね。僕もその気持ち分かります。なんていうか…僕もちょっと…なんですよ。誰も僕のほんとの性格を知らないのに…いろいろ言ってきたり…僕のせいじゃないのに僕のせいにしたり…そんなことないのに悪い事は全て僕のせいなんですよ……でももしかしたら、そうなのかもしれないんですけどね。。」

…って僕は何言ってんだ!

「さっきのは忘れて下さい!作り話です!…ってそういうわけじゃないんですけど…とにかく忘れて下さい!!」


……ぇ?!!……………暖かい………………母さんを思い出すな……


「貴方…もしかして……その…この呼び方は良くないんですけど…悪魔の子…じゃないですか?」

…やっぱりばれた!!逃げないと…!でも……

「きっと私もあなたも同じなんですよ。私と貴方だけじゃない。みんな本当は同じなんです。それをみんなは理解しようとしないだけなんですよ…。」

逃げないと…はやく行かないとこの子に被害が及ぶかもしれない。

「行かないで下さい…貴方が今行こうとしてるのは間違いです。貴方はもう逃げなくていいんです。そうだわ…貴方となら世界をかえれるかもしれない」

世界をかえる…???
そういうと彼女は、僕から離れて目の前に立つと、頭の布をスッととった。
サラッとした銀色の髪、吸い込まれそうなくらい綺麗な水色の瞳…
め、女神?!!
ダメだ!これは余計早く行かないと!!!
走り出そうとしたとたん、今まで僕を隠していたものがとれた。

「…!!!」

「とっても綺麗な黒髪。それに輝く金色の瞳…ほんとに綺麗ですね。羨ましくなっちゃいます。」

僕の手を握って、にっこりしながら彼女が言った。
その言葉が僕の心の奥にしみた…綺麗な黒…綺麗な金色…それを言われるとは思ってもみなかった。
いつだってこの色はみんなに嫌われてきたからだ。
それでも僕は自分の髪、瞳の色が好きだった。
なんだか初めて他人に認められたようで凄く嬉しかった。
それに羨ましいだなんて…。

…それでも他はそうは思わないだろう…。やっぱりはやく行かないと!

「…僕は…違うんです。君やみんなとは。でも、ありがとうございます。」

今言える精一杯の言葉を言ったつもりだ。
本気で行こうとしたその時、彼女に手を引っ張られた。

「痛っ!!」

手が抜けるかと思った…。
びっくりして彼女をみると、今にも泣きそうな顔で立っていた。

「そんなことなんかないです!私はそのために家を出たんですから!私は…私は女神かもしれないですけど、普通の女の子なんですよ?!貴方もそう!普通の女の子と男の子がお話してなにが悪いんですか!!こんな格好だってほんとはしなくていいんです!そう…そうよね…むしろ女神だから貴方を守ります!女神は世界の平和と秩序守る存在だもの。そうよ!私が貴方を守ります!!」

一生懸命そう言う彼女を見て、一瞬唖然とした。

…そして何故か笑いがこみ上げてきた。

「はは…ははははは(笑」
「な、何ですか??」

「ごめんなさい。君の言ってる事が何故か笑えてしまって。」

彼女が顔を赤くしたのが横目に見えた。

「し、失礼ですよ!こっちは真剣なんですから!」

「ごめんごめん。ははは(笑)でも止まんないや。ははははは(笑」

ボフっと枯れ葉に倒れこんだ。
立ってられないくらい笑える…(笑
彼女はしばらく黙って顔をふくらしていた。
それが彼女も急に笑い出した。
どうも僕の笑いがうつったらしい(笑

「ふふふふふ(笑)何だか私も笑えてきちゃいました。ふふふふふ(笑」

「ははははは(笑)はぁはぁ…僕は太陽。君は?」

「私は月です。これからご一緒してもよろしいですか?…ふふふふふ(笑」

「もちろん。よろしく!…ははは…ははははは(笑」

「こちらこそよろしくお願いします!…ふふふふ(笑」

それから5分ほど2人で笑っていたような気がする。
なんでか分からない。何故か笑いが止まらなかった。
もしあれを見てる人がいたら、間違いなく狂ったと思うだろうな。
でも久しぶりに心の底から笑えたんだ。


ある程度落ち着いた頃にいつもの格好をして言った。

「そろそろ行こうか?」

それを見た彼女は少し悲しそうだった。
それでもこの格好をしない限り人前にでれない。
彼女も僕も、まだ正体をばらすわけにはいかないんだ。
そのことは彼女も十分承知していることだろう。

「…ですね。」

彼女も同じ格好をした。

暗い不気味な森の中を歩き出す。
けれど2人の会話は途切れないかった。
今まで旅をしてきた場所、そこであったこと、彼女の家のこと…とにかくたくさん話した。
本気で楽しくてしょうがなかった。
すると突然、彼女が会話を割った。

「ちょっとごめんなさい…」

「ん?何?」

「ぁの…ここってさっきの場所のような気がするんですけど…。」

…今なんて言った?

「…ぇ……確かに…。うーん……よほど話してるのが楽しかったんだろぅね」僕はにこっと微笑んだ。ほんと何年ぶりだろぅ。

「微笑んでる場合じゃないですょ!!この森で迷ったら出られないんですから!」明らかに慌てていた。

「大丈夫、大丈夫。僕に任せて☆」

「ぇ…??」

「ちょと静かにしててね……give me the sky's vast, give me the earth' energy, give me the ocean's azure, and give me the conduct from the god. Show me the way that I have to go. (空の広大さを、地のエネルギーを、海の蒼さを、そして天の導きを…我の歩むべき路を現したまえ)」

人前でこれを口にするのは初めてだ。
まぁ今まで一人でいたからなんだけど。。。
ゆっくりと僕の足から蒼い光が伸びて往く。

「わぁ…vvすごぃ、すごぃ☆」彼女は驚きながらも喜んでいた。

まるで僕がはじめてこの術をつかったときみたいに。
僕はそれをみているのが楽しかった。

「結構綺麗でしょ?」

「ぅん!ほんとすごい!綺麗☆これどこまで伸びてるの??」彼女は興味津々だった。

「僕らが森からでられる場所まで」

「ぅゎー☆☆」

こんなに喜べるものなのだろぅか。と少し思ったがそれは言わないことにした。
彼女が愉しければ僕も愉しいから。

…いつまでもこの時間が続くといいなぁ…。





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