つきあたりの陳列室

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OASIS


オエイシスとわたし



そのころ私はビートルズの恩寵を忘れかけていたし,日本のポップミュージックの番組を見ていても憂鬱だった.だから,洋楽のビデオクリップ紹介する短い深夜番組を見ていた.

ある日そんな番組で,異様にメロディの立った曲がかかった.まずアコースティックギターのソロ,そして野太いけれど伸びのある,鼻にかかった声がそれを追う.傲慢そうだけど繊細な声だった.そしてストリングスが幾重もかさなり,人生のほろ苦さを煽るように響いた.

カッコ良かった.綺麗だった.まるでビートルズだと思った.オアシスというバンドで,Wonderwallという曲だった.何回聴いても飽きなかった.この頃から洋楽雑誌を読みあさり,自分の知らなかった90年代の音楽を,貪るように聴き始めた.

オアシスには,他の連中にはない単純バカの力がある.とにかく必死に生きてりゃ良いことあるぜ,ていう感じを,声とメロディで体現してるんだ.そして,一曲のうちのどこかに必ず,繊細な部分がある.連中は楽天的で自信満々にも見えるけれど,じつは弱い奴,惨めな奴の気持ちってものをちゃんとわかってるんだ.それはこの世で二番目くらいに大切なことで,それがわかってるからこそ,オアシスの音楽は愛おしいと思うんだ.



アルバム感想文


DON'T BELIEVE THE TRUTH (6th)

◇旧来の魅力
従来のオアシス的魅力を味わえるのは前半です.#1 の怜悧さ,力強さ,単純さは,オープニングらしくて好みです.そして #3 "Lyla" 前半部のリアムの声の瑞々しさはまるで2ndの頃のようで(言い過ぎ?),アルバムのベストボーカルにしたいくらいです.

◇新しい魅力
一方,新しいオアシスを味わえるのは #5 以降で,個人的には #7-#8 が興奮のピークです.そして#7-10 の4曲では,バンドのソングライター4人全員が顔を揃えるという意味で圧巻です.そして2005年版 "All You Need Is Love" の #11が来ておしまい.

◇コメント
ノエルが言うには「かつてのアルバムを期待していたような連中を,いい意味で裏切るような曲を優先する.いわゆる世間のいうオアシス節だけは今回,絶対避けたかった」.また,アンディが#11について「こういう曲はあまり大げさな作りにしてしまうと,先の読めるありきたりな曲になる危険性がある」と言えば,「そう,ため息みたいな曲であるべきなんだ」とノエルが同意する.ふたりとも『先が読める曲はよくない』という認識をくり返し示唆しており(いずれも,Rockin'On 6月号),私は嬉しかったです.

◇演奏&音質
とにかく音がクリア.籠らない,濁らない,ボーカルを邪魔しない.そしてリアムの声が,楽器のリズムとかっちりシンクロしている.とくに#1, 11, 3 など,ミドル/スローな曲でのリアムの献身的なリズムキープは,物理的にも美しく,生理的にも気持ちよいです.

◇アートワーク
ノエルが直接担当した本作のアートワークは,いままででダントツにかっこいい.ジャケットは1stがかっこいいけど,ライナーノート,ケース,CD表面のデザインを総合すると,これはもうグラミーで賞を取っていいと思うほど.ぶっとく太字で書かれた読みやすい歌詞,ガレージに描かれた黄&青のアルバムタイトル.思わせぶりな表現一切なし.そして,ロゴが旧タイプに戻った! 個人的な悲願だったので,快哉.

◇その他
#9 の演奏は,"涙の乗車券", "Rain", "Tomorrow Never Knows"(いずれもBeatles)と似ています.#9を聴きながら"涙の乗車券"をどこまで歌えるかという遊びがマイブームです.

◇全曲レビュー
★★★☆☆ #01. Turn Up The Sun
★★☆☆☆ #02. Mucky Fingers
★★★☆☆ #03. Lyla
★☆☆☆☆ #04. Love Like A Bomb
★★★★☆ #05. The Importance Of Being Idle
★★☆☆☆ #06. The Meaning Of Soul
★★★★☆ #07. Guess God Thinks I'm Abel
★★★★☆ #08. Part Of The Queue
★★☆☆☆ #09. Keep The Dream Alive
★★☆☆☆ #10. A Bell Will Ring
★★★★★ #11. Let there be love





HEATHERN CHEMISTRY (5th)

1か月くらいかけて聴き込むと,じわじわと良さが感じられてきました.でも,何やらたどたどしいような,作為的な部分が気になって,素直に好きと言えません.ジャケットは,はっきりと嫌いだ.

#2 Force of nature
アルバム中,出だしがかっこいい唯一の曲.ゆっくりとメロディが変わっていく.尊大で渋いのに,不思議に明るい感じで最後を締めて,しかもありきたりじゃなくて,じつにいい.#5#9のように極端に単純な曲を除けば,曲中のバランスがダントツに良い.歌っていて,あ,今格好悪い,歌いづらいな,という所がない.

#9 She is love/ #5 Songbird
単純なアコースティックナンバー.2曲ともちょっと軽くて,名作といえるもんじゃないけど,良質の小品だし,気に入ってる.

#6 Little by little
今は好きだけど,出だしの陰気なメロディが格好悪いし,歌いづらい.サビの部分は,ボンジョヴィ的なかっこわるさを連想させ,一瞬拒否反応を示しました.今は平気.





STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS (4th)

やはり,好きなアルバムです.リスクを承知で新機軸に打って出た気概があって,どきどきしました.全体を覆う雰囲気がかっこいい.ジャケも大好きです.疲れきった夕方にシャワーを浴びてるとき,無心に楽しく茶碗を洗っているとき,鼻を突いて出るのは #3 Who feels love? と, #5 Little James.人生はうんざりするような作業を死ぬほど繰り返さないといけないけど,それは幸せなことかも知れないと思えました.Gas Panic!,Roll It Over の2曲が五つ星です.





BE HERE NOW (3rd)
わたしはこのアルバムがオアシスの全盛期だと思っています.重たいといわれていますが,苦もなくすらっと通して聴けます.ましてや,暗いとかいう意見に至っては,なんのことでしょう,感覚的に理解できません.ぎらぎら輝いているようにしか感じられません.隅から隅まで.大好きです.この作品を全肯定しています.

D'you Know What I Mean?
ビートルズ云々を抜きにして,オアシスにぞっこん惚れ込んだ最初の曲.CD買う金がなかなか入らなくて,ほとんどこの曲だけ,20回くらい試聴しました.

All Around The World
前作と同じような壮大な曲で終わらせていて,にくい.親しみやすくてチャーミングなメロディだもんだから,このアルバムの曲として最もよく口ずさんだものです.





(WHAT'S THE STORY) MONING GLORY? (2nd)

一曲一曲はすばらしい.でも初めから通して聴くと,Hey Now! と Cast No Shadow の間のどこかで聴き疲れてしまい,通して聴くことができない.

Hello

Wonderwall
中学時代にビートルズの特集番組を見た前と後では,私の人生に使われた色の数がまるで違ってるみたく,大学浪人時代にこの曲のPVを見た前と後では,私にとっての音楽っちゅうものの意味が,まるで変わったみたいな気がする.

She's Electric
こういう曲を作るあたりが,大好きさ.

Morning Glory
単純だけど,飽きないねえ.

Shampagne Supernova
大好きだけど,あまりしょっちゅうは聴かないです.





DEFINITELY MAYBE (1st)
sky51
三本柱の屋台骨(#3 Live Forever, #6 Supersonic, #10 Slide Away)がこの世紀のパビリオンをがっちりと支えてます. そして入口と出口を Rock'n'Roll Star と Married with Children が引き締めています.こうなれば間に何が挟まろうともたいした問題ではありません.全体が似通った雰囲気に裏打ちされていて,ファーストアルバムのマジックとはこうしたものかと不思議な気分になります.ジャケットの風景が内容とぴったりの色合いに滲んでいます.

★★★☆☆ #01 Rock'n'Roll Star
楽しそうなリアムの声がすべてを物語ってる.人生はくそったれなことばかし起きるけど,それでも生きる価値はあるって(アラン・シリトー『長距離走者の孤独』).

★☆☆☆☆ #02 Shakermaker
声きらい.

★★★★☆ #03 Live Forever
これまたリアムの声がいかにも気持ち良さそうに響いてて,若々しくて眩しい.これ以上シンプルにすると小ぢんまりしそうだし,これ以上手を加えると冗長になりそうだし,オアシスの身の丈にしっくり合った,会心の曲という感じです.

★★☆☆☆ #04 Up In The Sky
好みの,かっこいい曲なのですが,やや単調で,後半飽きがちです.

★★★☆☆ #05 Columbia
大好きです.あまり名曲という感じではありませんし,単調な曲ですが,なぜか飽きません.こういうノリがオアシスにぴったりなのでしょう.雰囲気でてます.

★★★★☆ #06 Supersonic
ここでアルバムが一気にギアチェンジするように感じます.重みが出て,艶が出て,十分あったまったエンジンが唸りをあげ,でもスピードはあまり上げない.しっかりタイヤが地を噛んでいる感じです.このふてぶてしい声.滴り落ちるペーソス.人生を肯定するような,ゆったりしたハンドクラッピング.そこらの新人バンドが出せる落ち着きと違いますね.

★★★☆☆ #07 Bring It On Down
のちの Fade Away などにつづく,疾走系チューンの系譜のはじまりだろうか.この曲はその中でも,とくに軽めで,かっこいい.

★☆☆☆☆ #08 Cigarettes & Alchol
たいくつ.

★★★☆☆ #09 Digsy's Diner
2nd では "She's Electric" にあたる,チャーミングな曲.かなり好きです.ベイシティローラーズの "Daydream Believer" に似てる?

★★★★☆ #10 Slide Away
爽快さと強さとペーソスとが同居している.のちに完全なバラードとして "Don't Go Away" として焼き直しされているけど,この曲はあくまで,若者の勢いと悩みとが,むき出しでごろんと放り出されていて,素敵なのです.

★★★★★ #11 Married With Children
絶品で完璧で100点.ノエルの声だと勘違いをしてしまったくらい,とても柔らかい声.これは,形式的には,アコースティックな小品だけど,とんでもない.私にとって,このアルバムで一番重要な曲です.いつ聴いても,何回聴いても,印象が変わらなくて,絶対的な美しさを感じます.





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