つきあたりの陳列室

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文学

小説などの感想日記  [2005.10.06. 更新]




宮澤賢治
「宮沢賢治全集 I 」
冬と銀河ステーション 春と修羅 mental sketch modified

重松清
「疾走」 その1 その2 その3 その4 その5 その6

野矢茂樹
「無限論の教室」  講談社現代新書

川上弘美
「センセイの鞄」  その1 その2

Alan Silitoe
「長距離走者の孤独」

江國香織
「すいかの匂い」

「読書のすすめ 第十集」 岩波書店(フリーペーパー) 
その1 その2

北村薫
「詩歌の待ち伏せ(上)」 その1 その2 その3 その4 その5 その6

重松清
「疾走」 その1 その2 その3 その4




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高村薫

筆者の語り口そのものが好きで,嫌いな作品というのははありません.ただ,神々の火は読後感が辛く,短編のいくつかは印象が薄かったです.

また,彼女の作品には,専門技術者が何かを「作る」描写が必ずといっていいほど出てきますが,そこも好きです.ジャックは時限爆破装置を(リヴィエラを撃て),李歐は銃(わが手に拳銃を/李歐)をつくります.また,「照柿」では金属部品の焼成過程の描写が延々と続きます.「黄金を抱いて翔べ」では襲撃する銀行周辺の建物の位置関係を事細かに描写されるので,ノートにメモをとりながら読みました.「地を這う虫」はなんとか頭で位置関係を追えました.こういう作業が,意外と楽しいのです.作中人物になりきれるせいでしょうか.

「リヴィエラを撃て」 (新潮文庫)
初めて読んだ高村作品.ジャックの生前の言動,風景の描写に,吸い込まれるように読んみました.緊張感と爽快感と後味の悪さがないまぜになります.

「神々の火」 (新潮文庫)
私にとってのこの作品の価値は,ひとり川端さんなる女性の存在に尽きます.この人がとにかくもう,好きで好きでたまらなくなっちゃったのです.とにかく暗くて救いのない展開だったので,下巻なんぞは読みたくなかったけど,川端さんのその後が気になる一心で買い求めました.斜め読みしながら「川端」の字だけ探して,彼女が登場するとこだけ先に拾い読みしてしまいました.なので全体の感想はありません.


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芝木好子

「松の木の家」 (講談社文庫「下町の空」所収)

離婚した中年の主人公と,同じ職場の28歳の独身女性,貴久子の静かで密やかな関係.

男は元妻とのいがみあいに疲れ果て,言葉静かだが魅力的な貴久子に心惹かれた.貴久子は極端に控えめで静かな女だった.誘えば喜ぶが,親しくなりすぎることを拒み,けして心を許さない.男が知り合いから管理をまかされている洋館で二人は逢瀬を重ねた.貴久子は男の自宅へ行くことを頑なに拒む.洋館で一夜交わり,次の朝には別れるという,いつものはかない習慣を気に入っていた.男の生活に触れ,煩わしいことを背負い込むのを恐れた.

あるとき貴久子は男の勧めに折れて,男の自宅に足を踏み入れた.話をしているうち,ふとしたきっかけで貴久子は自分の生い立ちを話す.一家は戦争で全てを失ったが,豪気な母の働きで一家は持ち直した.帰還した父は覇気がなく,家庭を暗くし,ことあるたびに母を煩わせた.退職直後,父は他の女にはしり,家族を捨てた.

貴久子の弟が就職し,やがて貴久子には縁談が来,一家から不安が拭われようとしていたある日,母は早朝ふらりと出かけると父と女がいる家へゆき首を吊った.これにより貴久子は破談したが,彼女は母を哀れみ,父を憎んだ.そしてその家というのが,そのとき二人のいた家の近くだった.男は,彼女の重荷をとくことはできないものかと思い巡らせた.

貴久子はなりゆきで男の家に一夜泊まり,果たして後悔した.朝,男は彼女の母が死んだという家に行こうと提案する.彼女には新しく一歩を踏み出すきっかけが必要だと思い,強引にでも彼女を連れていこうとした.どのような結末にしろ,行けば彼女の気持ちに大きな変化が起きることが男には分かっていたし,どう転んでも別れることになるだろうことも恐らく覚悟していた.

彼女もかつてその考えを思いつきながら断念したという経緯がある.それから長い時間を経た今,ふたたび実行する気にはとてもなれなかった.ところがそこに,今は別々に住んでいる,男の娘が不意に訪れ,事態は思いもかけず解きほぐれていく.

とてもおとなしそうな娘が持ってきたのは,祖父に教わって仕立てたという一鉢の盆栽.娘は初めて会った貴久子と男に,その盆栽についてあれこれ説明する.何の繋がりもない貴久子と娘が,鉢植えについてぽつりぽつりと言葉を交わす.思いがけない訪れを境に,成り行きが変わっていく.結末は,もの哀しくもあるけれど,ふわりと救われるようだ.

ちなみに,表題作「下町の空」も名作です.



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