不思議の泉

不思議の泉

2.キャンドルの妖精

2.キャンドルの妖精



陰鬱―― 暗い、じめじめとした、生あたたかい澱み。
世界から見放されたかのような、失意の底。

//嘆きのトンネル//

でも春の女神は希望の灯を用意していました。
若い物書きの足元を照らす◇キャンドルの妖精。
愛らしく、儚げな、連れ添い。

(気をつけて、物書きさん。やってくるわ。)
「やってくるって、何が?」
(しっ!)

途端に現れたのは、視界を覆い尽くすほどの巨漢。
赤く隆々とした筋骨、
白目に黒眼をギョロつかせ、

(さがしているの、魂たちの叫びを。
 どうやらこの怪物には、
 私の灯も貴方の姿も見えてはいないわ。)

この世の物とは思えぬ、形相。
ぬーっと顔を近づけられて、若い物書きは思わず、
                    うっうっ、嗚咽を、、
けれど、「ここには(獲物は)いないようだ!」
と怪物は通り過ぎて行きました。


     若い物書きが、しばらく歩いていくと…


  ぼーっ。
  ぬーっ。

ぬめぬめ、とした老獪な感覚が蹲っていました。
色艶のない肌は全身のヌード、
   _体毛はなくて
奇怪に折り曲げられた肢体、
均衡の取れない大き過ぎる額、

(近づいてはダメよ、物書きさん!)
ふと、
ふと気づくと、引き寄せられる
                  ように、よう、よ、
(あの老獪は、
 人の苦悩する思考が好物なの。
 到る所に現れては、引き寄せて脳を攻撃するの。)


     若い物書きが、さらに歩いていくと…


     >シュン>シュン>
        <シュン<シュン<
     >シュン>シュン>
        <シュン<シュン<

視覚では捉えられない、超ハイスピード。
鋭角に空気を振動させて、、

「あれは、何?」
(口を閉じて!
 一所には留まれない性質だから、やり過ごしましょう。)

        <シュン<シュン<
     >シュン>シュン>
        <シュン<シュン<
     >シュン>シュン>

(行ったわ。
 あれは、口から体の中に入って感性をズタズタにしちゃう魔物。
 感性が破壊されるときに奏でる‘嘆きの音楽’が好きなの。)

     留まるところを知らず、
     独り。
     奏でに空虚な恍惚をきく。
     何故の、陰鬱。
     創造と破壊。
     何故の、暗澹。

自らを憐れむ魔物の詩を
シュンシュンという音の中に
若い物書きは聞いた気がしました。


     その後も、いくつもの魔物たちが…


ようやくトンネルの出口を針の穴の光に感じて、
若い物書きはホッとしました。
◇キャンドルの妖精。
   愛らしく、儚げな、連れ添い。
束の間の春の羽ばたき。

     春の香しき羽ばたきよ。
     嘆きの黒マントを纏い
     蒼ざめた馬に騎乗する者を
     温かな微風に迎えておくれ。

(私を、胸のポケットにいれて!)

何やら異様な臭気が、行く手に蠢いて・・・





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