不思議の泉

不思議の泉

22.マイセン陶器の人形

22.マイセン陶器の人形



国王の執事は、憔悴の蒼に泳ぐ目。
語るべき言葉は、流れの泡沫と消えて。


「銀狼様がお訪ねになりましたら、書斎にお連れするようにと・・・、それきり…」

「それが、国王と兄の姿を見た最後だということですか。
 ・・・なんとしても、謎を解かなくては。」


マイセン陶器の人形は机の上。
窓の外を見つめて。
若い物書きの観察眼。


「銀狼さん、普通なら正面を向けて置いてあると思うのですが、
 この人形は横を向いていますよね。」

「ええ、それには特別な意味があって。
 昔からの言い伝えで、・・・!」

「どうかされましたか、銀狼さん?」


執事に人を近づけないように言い、
書斎の扉を閉める、銀狼。


「お客人、おかげで二人の行方の見当が着きましたよ。
 この国には“魔法の森”と呼ばれる森があるのですが、
 少女が平和のハトを飛ばして森を護っているといわれています。
 人形はそちらの方角を向いているのです。
 あの森には不思議な力があって、
 この国に平和をもたらしていると信じられています。
 畏敬、それが森への人々の気持ちです。
 森はそれ自体が1つの生命体であり、誰に帰属するものでもなく、
 なにびとであっても森を破壊することは許されないのです。
 しかし、最近この森の力を悪用しようと盗掘する族が異空間から出没して
 国王と兄は秘密裏に対策を講じようとしていました。
 そのことで何かが起き、二人は森に身を潜めているのだと思います。」

「銀狼さん、一つわからないのは、
 なぜ国王自ら動かれたのかということです。
 特別な理由でも?」

「実は、盗掘をしている族は念を使って我々の五感を
 センサー代わりにして情報を得るんです。
 ただ国王と兄と私の3兄弟には、血筋なのか、
 彼らの念が効かないようなんです。」

「えっ!?国王とはご兄弟、・・・あの、
 それでは私も危うい存在ということでは?」

「いえ。お客人にはそちらの妖精さんがついておられますので。
 理由はわかりませんが、彼らは光の妖精族を恐れていますから。」

「キャンドルの妖精、そうなのかい?」

「えぇ。邪な念は光のミラーに反射されて、その源へと還り、
 体内でループし続けるから、念を放った者は苦しむそうなの。
 それに、彼らは“詩なんてもの”って言って毛嫌いしてるから、
 あなたには近づかないわ。彼らには、芸術が、
 精神を浄化したり活性化させるなんていう考えはなくて、
 すべては金儲けの道具で、
 名誉欲を満足させる手段に過ぎないのよ。」

「お客人、妖精さん、いっしょに“魔法の森”に行っていただけますか?」




黒い馬、二頭。

城の北門より出でて。

“勇気の途”をひた走る。

俊足は名馬の誉れ。

逸る心を早駆けて。




        *******

         森のなか

         “こんこん”

         なんの音?

         “こくこく”

         どこから?

        *******






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