tomorrow

tomorrow

この広い世界のどこかで。




プルルルー、フルルルー、深夜疲れた体で酔った勢いできっと浅い眠りに着いていた。

電気スタンドは消し忘れたまま、僕は枕元の電話を探した。

「もしもし!!」僕は言葉にならない声で呟いた。

「順一!!聞こえる?誰だかわかる?」声の向こうでかすかにさざ波の音が聞こえる。

頭の中で、ゆっくりと眠りに入りたい気持ちと、必死に声の主を探そうとする交差しないままの神経がそこにあった。

「今ね、ラハイナに来ているの!!色々な国を回るつもり。
今日ね、ラハイナの海岸の前のレストランで食事していたら
隣りに座った家族連れのご主人があなたに似ていて、
あなたの事思い出しちゃった。」

順一は夢の中でその声が何となく誰なのかわかった。

「ああ、そうなんだ。僕は相変わらず君の夢を見るよ。」

順一は夢の向こうの彼女に話かける。

「私は今とても幸せ!!それをあなたに伝えたくて。。。」

順一は、言葉が出なかった。

「又電話してもいい?」静に電話の向こうにさざ波が聞こえた。

「ああ、いいよ!!いつでも電話してきて。」

「あなたならそう言うと思った。又電話するね。元気でね」

彼女はそう言うと電話は切れた。

その後、僕は行った事の無いラハイナの夢を見た。

どこまでも続く海岸線!!海沿いの道を僕はレンタカーを

借りて何処までも彼女と走る。

彼女の顔には、逆光線を浴びてよく見えないし思い出せない。

さざ波の音がいつまでも、頭の中で記憶の彼方に残ってままだった。

気がつくと僕は受話器を握ったまま、ベットで寝たまま朝を迎えた。


                   つづく。


孤独は僕だけの宝物。


あの電話は、夢だった様な気がする。大体からあいつが、実家を出た一人暮らしの僕の家の電話番号を知る術が無い。

どう考えても、夢だったと結論つける方が自然だし。。。

それでも、又あいつから電話が来る様な気がして?

と云うよりは、心のどこかで期待しているのかもしれない。

「期待してどうする?」

僕は、今日も独り言をつぶやきながら、バーのカウンターでズブロッカを煽る。

今は、あの頃のお互いの知り合いとは誰とも連絡を取っていない。

僕はあれから、あの街を逃げるように誰にも知らせずに誰も知り合いのいないこの街にやってきたのだから。

「順一ってさー、寂しく無いわけ?」

「えっ、どうして?」

会社の8つ年上の受付嬢ユキは僕に言った。

「だってさー、幼馴染とか近所にいる訳じゃ無いしさー?平気な訳?」

そういわれても、帰る家に電気が付いていないから寂しいとか正直感じた事はなかった。

きっと、寂しいとか云う感情は僕は失ってしまったのかもしれない。

あの、煙ったい実家に帰りたいと思った事も無ければ、一人で晩御飯を食べる事が寂しいとも?

もし、寂しいと云う感情があるとすれば、あいつが今何を考えていて、この広い世界のどこにいるのかわからない事ぐらいだろうか?

未練とか、女々しいとかそういう事じゃなくて、

僕の心の半分が、感情の半分がどこかに飛んでいってしまった様な時間がそこで止まった。

「もしもし。。。。元気ですか?」

僕はあの電話があいつから本当にかかって来たのではないか?と思う。

あまりに、声がリアルで、きっと僕は渋谷の雑踏の中でさえ、あいつの声を聞き分ける事が出来る。



でも、どう何度考えても夢だったと考える方が自然なんだ。


                    つづく。



10年後僕はクリスマスの飾りつけの残るオアフの友人の所にいた。

「順一!!今日は友達のマウイのコンドミニアムに行かないか?」順一は始めてマウイ島に行く事にした。

順一はマウイの空港から、仲間と別れフォードのマスタングをかりて、ジョディーとドライブに出掛けた。」

順一はサトウキビ畑を抜け、海岸沿いを走ると、いつかの夢を思い出した。

「どこかで観た光景?デジャブー?」ジュディーと海岸の近くのレストランで食事をする事になった。

ジュディーは日本に留学していた事もあり、日本語は堪能だった。

「順一、元気ないね?大丈夫?」

「ああ、ジュディー!!問題ないよ!!」

ジュデイーと出会ったのは98年の暮れ、会社の同僚と忙しい仕事を終え、日々休みが無い分年末はハワイで過ごそうと
云う事になり、親会社から出向で来ていた、ボブの友人だった。

ホームパーティーでジュディーと知り合い、年に何回か、東京と、ホノルルで逢うのが僕の楽しみでもあった。

どこまでも続く海沿いの道路!!サトウキビ畑はそこまでも続き、その脇をサトウキビを運ぶ為の鉄道が走っている。



ホノルルは都会だが、マウイは田舎だった。

「順一!!ラハイナで、ディナーでもしない?」

「ラハイナ?」順一はジュディーのラハイナと云う言葉の響きが、急に視界が開けた。

「わかった!!」そう、夢の中でユミコが電話をかけて来た街がこのマウイ島のラハイナの街からだったんだ!!

僕は、ラハイナの街に着くとユミコが電話の中で話していた
二階建てのレストランをジュディーと探した。

ラハイナの街はまだ、クリスマスの飾りつけが残り、まるで映画のワンシーンの様な町並みだった。

「順一!!待って!!何をそんなに急いで探しているの?」

「二階建てのレストランが海辺に一軒あるって夢の中で見たんだ!!」

「夢の中で?」ジュディーはキョトンとした顔をした。

海辺の真ん中辺に木造で立てた白いレストランを発見した。

そう、僕が夢の中でユミコと逢ったレストランとまったく同じだった。レストランの真ん中に大きな木が天井を突き抜けていた。

「お待たせ!!」小さな声で僕は呟いた。

二階の木の近くに公衆電話はあった。

「あれは、幻なんかじゃ無かったんだ!!ここからあいつは電話を掛けて来たんだ。」僕はあいつが掛けてきた受話器を
握った。

あいつはどんな気持ちで電話をして来たんだろう?

テーブルには、キャンドルの火が揺らめいていた。


                  つづく。





住所の無い手紙



雨上がりの今日の空気は、ラハイナの空に似ている。

僕は一人、ラハイナの空を思い出していた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

僕は次の朝、マスタングの屋根を開けて出掛けた。

ベッドの横で寝ているジュディーを起こさない様に

ベッドを抜け出し、車のキーを捜しテーブルの上のスーパーのペーパーバッグの切れ端に、英語で書こうか、日本語で書こうか迷ったあげく、

あの頃、夜中にベッドを抜け出した時みたいに、日本語で、「散歩に行ってくる。」とだけジュディーに書置きを残した。

ホテルの近くのクジラがミレルと云うホエールセンターを越えて、僕は海沿いの一本道を車で走った。

途中セルフスタンドでガソリンを入れ又走り続けた。

昨日、ジュディーと食事をしたレストランの前の道に車を止めた。

風の声があいつの声に聞こえた。「順一元気?」

「ああ、元気だよ!!」僕は風に答えた。

マスタングの屋根は開けたまま、僕は車から降りた。

白い二階建てのレストランの二階のカウンターで、店員に、

エスプレッソを頼んだ。

カウンターの側には、大きな木が屋根まで突き抜けていて、

その木に公衆電話がたてかけられていた。

僕はカウンター越しに沖のサーフボードを見ていた。

そのうちに、胸に何とも言えない感情がこみ上げてきた。

ユミコ様

お元気ですか?

あなたが、僕の夢の中で僕を思い出してくれた海を見ています。

何で僕の事なんか思い出したのか?そうそう、僕に似た家族連れが、このレストランで食事をしていたのですよね!!

僕の中でのユミコはあの時のままです。

僕はちょっと、今日は元気無いです。

幸い君と同じ海を観ながら、君に想いを馳せています。

僕には、君にここから電話出来ないけれど幸せでいて下さい。どうか幸せで。。。心から祈っています。

                   順一より。

僕は、そんな宛ての無い手紙を書いた。

住所の無い手紙をラハイナの風にユミコの元へ届けてもらった。



暫く海を眺めた。遠くの白波がクジラの群れの様に見えた。

「プルルルルー。」携帯電話がポケットの中で鳴った。

ジュディーからだった。彼女は電話の向こうで泣いていた。

「順一、どこにいるの?一人じゃスクランブルエッグも作れないないじゃない!!」

「そうだね、ジュディー!!ごめんよ!!」

「早く帰って来て、順一。。。」

「わかった。」

「朝食を一緒に食べましょう!!待ってるわ。」

僕は海の向こうのユミコに「又な!!」と挨拶すると、

通りに停めてある白いマスタングのエンジンをかけた。

来た道に戻ると、僕を待つジュディーの元へ車を走らせた。

ジュディーを悲しませない様に。。。

                    終わり。










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