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2014年も、創作面で充実した年となりました。2015年も、更新に励みます。2014.12.29 千菊丸
2014年12月29日
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※BGMとともにお楽しみください。 三人が改札を抜けて駅のプラットホームに着くと、列車は既にホームに到着していた。「二人とも、こっちだ。」千尋と歳三が三棟車両に乗り込もうとするのを見たレオナルドは、そう言って二人に向かってを振った。「たかが帰省くらいで一等車両に乗るかねぇ?」「いいじゃないか、別に疚しいことは何もしていないんだし、僕たち貴族にとっては当然の権利さ。」 駅のプラットホームを離れた列車は、長閑な田園地帯を抜け、帝都・リティアへと向かっていた。「チヒロちゃん、ちょっといいかな?」「何でしょうか?」レオナルドに突然話しかけられ、千尋は読んでいた本を閉じて膝の上に乗せた。「君は何故、士官学校に入学したんだい?普通、貴族の令嬢として生まれたのなら、淑女としての教育を家庭教師達から受けるはずだけれど・・」「俺は、そういったものに興味はありません。男性に守られてばかりの女性よりも、自分の身は自分で守れる、強い女性になる為に士官学校に入学したんです。」「そう・・でも、理由はまた別のものがあるんじゃないかなぁ?たとえば、君のお兄さんのこととか。」「何を、おっしゃりたいんですか?」本の上に置いていた千尋の両手が拳を象るのを見た歳三は、二人の間に割って入った。「てめぇ・・」「先輩は座っていてください。俺は大丈夫です。」「そうか。」「レオナルドさん、ここでは人目がありますから、場所を変えましょうか?」「そうだね。」 千尋とレオナルドは車両から出て、人気のないデッキへと向かった。「何故あなたが、兄の事を知っているのですか?」「僕だけではなく、君のお兄さんが起こした事件は国中が知っているよ。」レオナルドはそう言って冷たい目で千尋を睨むと、彼女の髪をそっと優しく梳いた。「こんなに短く切ってしまって・・昔みたいに伸ばしたらいいのに。」「気安く俺に触るな!」「強情なところは相変わらずだね。そうだ、あのロザリーとかいう君の幼馴染は元気だったかい?」「何故、ロザリーを知っている?」「何故って、君の事を調べたからさ。ひとつ言っておくけれど、僕はトシのように甘くはないよ。だから、僕を余り怒らせないほうがいい。」勝ち誇ったような笑みを自分に浮かべ、車両の中へと戻るレオナルドの背を、千尋は睨みつけた。 列車は長いトンネルに入り、デッキ内は瞬く間に闇に包まれた。「旦那様、歳三様がこちらに向かわれているそうです。」「そうか。あれは父親であるわたしの言うことは聞かないというのに、レオナルドの言う事は聞くのだな。」「それと、千尋様も・・」「すぐに客用の寝室の掃除をするよう、使用人達に言え。彼女は大切な客人だ、丁重にもてなさねばな。」「承知しました。」 執事が退室した後、カイゼル将軍は書類仕事の手を止めて椅子から立ち上がり、窓の外を見た。「これから楽しくなりそうだな。」そう言って笑みを浮かべる彼の顔を、稲妻が照らした。にほんブログ村
2014年12月29日
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「先輩、この方はどなたですか?」「ああ、こいつは俺の従兄の、レオナルドだ。」「初めまして、俺は・・」「ああ、君がチヒロさんだね?叔父様から君の話は聞いているよ。」蒼い瞳の青年―歳三の従兄・レオナルドは、そう言うと千尋を見た。「君みたいな可愛い女の子が、士官学校に入ったら色々と苦労するだろう?」「いいえ、ちっともしていませんよ。ここでは皆さん、俺を女だからといって特別扱いしたりしないので。」そう言った千尋の顔が、少し引き攣っていることに歳三は気づいた。「あんた、こんな田舎まで来て何をしに来たんだ?」「君を迎えに来たんだよ。まさか、今年も寮で夏休みを過ごすつもりじゃないだろうね?」「あんな家に帰ってどうなる?俺ぁあんな年増婆のご機嫌取りをするなんざ御免だね。」「君って奴は、どうしてそんなに可愛げがないんだろうね。」レオナルドはそう言って溜息を吐くと、千尋の方を見た。「チヒロちゃんも、ここで夏休みを過ごすの?」「ええ。いけませんか?」「別に、いけないことはないけれど・・」「ではわざわざ夏休みの予定を聞かないでください。」余りにも素っ気ない千尋の態度に、レオナルドは内心苦笑した。(叔父様から聞いていたけれど・・綺麗な顔をしているのに、氷のように冷たい子だなぁ。)名門伯爵家の令嬢が士官学校に入学している―そんな話を叔父・カイゼル将軍から聞いたレオナルドは、どんな少女なのかを知りたくて士官学校に来たのだが、件の伯爵令嬢・千尋は噂通りの美人だった。 しかし、その性格は棘のように鋭く、氷のように冷たかった。(全く、叔父様はどうしてこんな子に興味を持ったんだろう?)「俺の顔に何かついていますか?」「いいえ。あなたがあまりにも美しいので目を奪われてしまっていました。」「そのようなお世辞を、他の女性の方にもお会いする度に言っているのですね。」千尋はそう言うと、レオナルドに背を向けた。「レオナルド、俺はあの家には帰らねぇ。あいつにそう伝えておけ。」「こんな田舎まで来て、はいそうですかと引き下がる訳にはいかないな。用があるのは、君とチヒロちゃんなんだから。」「千尋はあの家とは何も関係ねぇだろう?」「それが、関係があるんだよ。」レオナルドは、歳三の顔を覗き込んだ。「叔父様が、チヒロちゃんに会いたがっている。だから君達はすぐに荷造りをして正門前に来て欲しい。」「わかったよ・・」 数分後、千尋と歳三はスーツケースを持って正門前に向かうと、そこには一台の黒塗りの車が停まっていた。「これで家まで行くのか?」「いいや。これに乗るのは駅までだ。君の家には列車で向かうことになっている。」「へぇ、そうかい。」駅へと向かう車中、三人は無言だった。「なぁ、あの糞親父は一体何を考えていやがる?」「それは直接本人に聞いてみないとわからないよ。」「へぇ、そうかい。」歳三はレオナルドの言葉を聞くと、そう言って舌打ちした。にほんブログ村
2014年12月29日
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※BGMとともにお楽しみください。 哀愁を帯びたギターの音色と、男の歌声と共に、踊り子が静かに踊り始めると、今まで雑談をしていた客達が急に黙り込み、ステージの方を見た。褐色の肌をした踊り子は、内に秘めた情熱を踊りで表現した。その踊りは時に炎のように激しく、氷のように静かなものだった。踊りが終わると、客達は一瞬呆けたような表情を浮かべていた。だが誰かが拍手をすると、それにつられて店に居た客達全員が踊り子に拍手を送った。歳三と千尋も、その中の一人だった。(すごい・・)情熱的な踊りを間近で見た千尋は、かつてその踊りを何処かで見たような気がしてならなかった。「どうした?」「いえ・・あの踊り、前に見たことがあるような気がして・・」「そうか。」歳三はそう言うと、ステージ上で花束を受け取る踊り子を見た。「先輩は、あの子を知っているのですか?」「ああ。ちょっと行ってくるから、ここで待っていろ。」歳三は椅子から立ち上がると、ステージへと向かった。千尋は踊り子と何やら親しげに話す歳三の横顔を見ながら、何故かその踊り子に嫉妬してしまった。何故だかわからないが、彼女に歳三を渡したくなかった。「お嬢様。」誰かに肩を叩かれ、千尋は我に返って背後を振り向くと、そこにはロザリーが立っていた。「ロザリー、どうしてここに居る?」「ここで働いているからです。お嬢様は何故こちらに?」「先輩と夕飯を食べにきたんだ。」「先輩って、あのステージに居る綺麗な方ですか?」「そうだけど・・ロザリーは先輩の事を知っているの?」「ええ。一度、会ったことがあるんです。」「へぇ、そうなんだ。」千尋がそう言ってステージの方を見ると、歳三がじっと自分のことを見ていた。(何だろう、今の?)「どうしたの、トシ?」「・・急用を思い出した。」自分にしなだれかかる踊り子を軽く押し退け、歳三はステージから降りて千尋の元に向かった。「千尋、もう行こう。」「は、はい・・」急に手を掴まれ、歳三に店から連れ出された千尋は何が何だかわからず戸惑っていた。「先輩、そんなに手を握っていると痛いです。」「すまねぇ。」「あの、さっきはどうしてあんな怖い顔で俺を見ていたのですか?」「お前、自分がどんなに綺麗なのかわかってねぇだろう?」「何ですか、それ?俺を口説いているんですか?」「そ、そんなつもりで言ったんじゃねぇ、勘違いするな!」歳三は慌てて千尋の手を放してそう言ったが、その顔は耳まで赤く染まっていた。 翌朝、歳三と千尋が食堂で朝食を取っていると、そこへ一人のスーツ姿の青年が入って来た。「久しぶりだな、トシ。元気にしていたか?」「あんた・・」「先輩、お知り合いですか?」千尋がそう言って青年の方を見ると、青年は自分と同じ色の目で自分を見た。「トシ、こちらの素敵なお嬢さんはどなたかな?」にほんブログ村
2014年12月27日
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※酒場での踊りのイメージ動画です。「こんな人気のない所に俺を連れ込んで、何をする気ですか?」「そんなの、決まっているだろう?生意気な後輩を俺達が懲らしめてやるのさ!」 人気のない講堂裏に連れ込まれた千尋は、下卑た笑みを浮かべながら自分の全身を舐め回すように見ているハロルズを睨んだ。「何だ、その目は?」「生意気だな。」「俺達が懲らしめてやろう。」ハロルズはいつも従えている取り巻き達に目配せすると、彼らは千尋の周りを取り囲んだ。「多人数で一人をリンチすることが、先輩たちの“指導”というものですか?」「そんな生意気な口を叩けるのも、今の内だぞ!」ハロルズはそう言うなり、千尋の頬を張った。「痛いじゃないですか、先輩!」千尋はハロルズの顔に拳をめり込ませると、彼の股間に鋭い蹴りを入れた。「畜生、このアマ、やりやがったな!」「そっちから殴って来たのだから、正当防衛ですよ!」千尋はそう言うと、脱兎の如くその場から逃げ出した。「二手に分かれるぞ!」「わかった!」ハロルズの声が遠くで聞こえ、千尋は音楽室に逃げ込んだ。「おいどうした、そんなに慌てて?」「先輩、お願いがあります。」千尋はそう言うと、歳三の耳元に何かを囁いた。「土方、生意気な雌狐を見なかったか?」「そんなもの、見てねぇよ。用がないからここから出ていってくれ。」「そうか。それよりもお前、夏休みはどうするつもりだ?またここに居て暇をつぶすのか?」「人の予定なんざ聞いてどうするんだ?ハロルズ、てめぇは夏休みの間パパから説教を喰らう毎日が待ってそうだな。」「うるせぇ!」ハロルズは苛立ち紛れにピアノを蹴ると、音楽室から出て行った。「もう出てきても大丈夫だぞ。」「有難うございます、先輩。」音楽準備室から出てきた千尋は、そう言うと歳三に頭を下げた。「ったく、またお前あいつを怒らせるようなことを言ったんだろう?」「別に。それよりも先輩は、夏休みどうするんですか?」「何もすることがねぇから、ここでのバカンスを満喫するぜ。さてと、もうすぐ夕飯時だが、一緒に外で食うか?」「はい。」夕暮れ時の町は、観光客で溢れかえっていた。「夏になると、この時間帯に出歩くのは危険だな。」歳三はそう言って舌打ちすると、千尋の手を握った。「はぐれねぇように、手を繋いでおいてやる。」「そんな、子供じゃないのに・・」「お前はちっせぇから、危なかしくって見てられねぇんだよ。」夕食をとる為に入った酒場も、観光客で賑わっていた。「先輩、こういうお店に来ることがあるんですか?」「まぁな。ここは安いし、美味い。それに、踊り子も美人ぞろいだしな。」「そうですか・・」千尋がそう言ってあきれたような表情を浮かべながら歳三の横顔を見ていると、突然ステージに漆黒のドレスを纏った踊り子が現れた。「一体何が始まるんでしょうか?」「黙って見ていろ。」哀愁を帯びたギターの音色が店内に響き、踊り子は静かに踊り出した。にほんブログ村
2014年12月27日
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※BGMとともにお楽しみください。「おはよう、セン。昨夜は良く眠れた?」「あんまり・・それよりもエメリー、土方先輩って、カイゼル将軍の私生児だっていうのは本当なのか?」「うん。何でも、将軍は日本人のピアニストに一目惚れして、彼女を愛人にしたんだってさ。」(そのピアニストが、土方先輩のお母様・・)千尋の脳裏に、ピアノの前で微笑む妖艶な美女の姿が浮かんだ。「荻野、お前に客が来ているぞ。」「俺に、客ですか?」「ああ、褐色の肌をしたいい女だ。」「わかりました、すぐに行きます。」 千尋が食堂から寄宿舎の中に入ると、談話室のソファに昨日会った少女が座っていた。「君は、昨日の・・」「お久しぶりです、チヒロお嬢様。わたくしのことを、覚えておいでですか?」「知らない、俺は君と昨日初めて会ったばかりだ。」「では、これには見覚えがありますか?」少女はそう言ってソファから立ち上がると、首に提げているペンダントを千尋に見せた。それを見た瞬間、千尋の脳裏に幼い頃の思い出が浮かんできた。 幼い頃、両親とともに訪れた町の酒場で踊っていた少女。 その胸には、ルビーが中央に嵌め込まれた鷲のペンダントが光っていた。「君は・・確か、ロザリー・・?」「覚えていてくれたんですね、チヒロお嬢様!」褐色の肌の少女・ロザリーは、そう言うと千尋に抱きついた。「どうしてロザリーは、俺がここに居るってわかったの?」「奥様から、チヒロお嬢様を探すように言われて・・お嬢様のことを探偵の方にお聞きしたら、士官学校に居るとわかったのです。」「そう・・ロザリー、君の家族はどうしているの?」「それはまたの機会にお話しいたします。今日はお会いできてよかったです、チヒロお嬢様。」 士官学校の前で千尋と別れたロザリーは、職場の酒場へと向かった。「ロザリー、遅かったな。」「すいません・・」「まぁいい、早く支度をしろ。」ロザリーは、病弱な父を支える為に、この酒場で数年前から働いている。夜になると、彼女はここで客達に踊りを披露するが、大した稼ぎにはならない。それでも、働かないよりはましだ。金を貯めて、父の高額な薬代を払えれば、こんな酒場ともおさらばできる。それまで、耐えなければ― 音楽祭が終わり、季節は夏になり、町には休暇を過ごす貴族達で増えてきた。士官学校では、一学期の終業式が講堂で行われていた。「諸君、休暇中も当校の生徒であるという自覚と誇りを忘れずにしたまえ、解散!」「やっと夏休みだな。エメリーはどうするんだ?」「実家に帰ってゆっくりと休むよ。センはどうするの?」「今はまだ考えていない。」千尋がエメリーとそんなことを話していると、二人の前にハロルズが現れた。「荻野、ちょっと顔貸せ。」「いいですよ。」にほんブログ村
2014年12月27日
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※歳三が音楽室で弾いていた曲です。 その日の夜、千尋はなかなか眠れずにいた。隣で寝ているエメリーを起こさぬよう部屋を出た彼女は、音楽室へと向かった。ドアを開けようとすると、中からピアノの音が聞こえた。千尋がドアの隙間から中を覗くと、ピアノの前には歳三が座っていた。彼の演奏は、まるで嵐のように激しかった。千尋は時を忘れて、彼の演奏に聞き入っていた。歳三はピアノから両手放して溜息を吐いた。その時彼の背後で、控えめな拍手が聞こえた。「荻野、まだ起きていたのか?」「ええ、眠れなくて・・先輩も?」「ああ、嫌な夢ばかり見てな。」歳三はそう言うと、ゆっくりとピアノの前から立ち上がった。「さっき、何を弾いていたんですか?」「俺のお気に入りの曲だ。昔、死んだ母親がよく弾いていたんだ。」「先輩のお母様は、どんな方だったのですか?」「さぁな・・家に余りいなかったから、良く覚えていねぇが・・死んだ母さんは、プロのピアニストで、世界中を旅していた。あの人から母さんの写真を見せて貰ったが、美人だった。」 歳三は一枚の写真を千尋に見せた。 そこには歳三と瓜二つの顔をした女性が、ピアノの前で微笑んでいた。「先輩のお母様は、何故死んだのですか?」「さぁ、母さんが何故死んだのか、よくわからねぇんだ。」「そうですか。」「荻野、俺の事はもう話したんだから、お前も俺に家族の事を話せ。」「俺、余り家族の事を話したくないんです。」「そうか。じゃぁ無理に話す必要はねぇよ。」「すいません。」「なぁ荻野、ここを卒業したらどうするつもりだ?軍に入るのか?」「ええ。軍隊が男社会だということは知っています。女だからといって俺を蔑む連中が居る事も知っています。けれど、俺は敢えて茨の道に進みます。その先に何が待っているのか、見たいからです。」「お前がそう言うのなら、俺は止めねぇよ。荻野、これからお前の事を名前で呼んでいいか?」「いいですけれど・・どうしてわざわざ俺に許可を取るんですか?」「勝手に名前で呼んだら、怒るだろう?」「そんな小さいことで、怒りませんよ。」 翌朝、千尋が眠い目を擦りながら食堂に向かうと、前に自分に絡んできた上級生・ハロルズが千尋の方にやって来た。「お前、女なんだってな?」「ええ、それがどうかしましたか、先輩?」「女の癖に士官学校に来てどうするんだ?大人しく家に帰って、花嫁修業でもしたらどうだ?」「お言葉ですが、俺はあなたよりも強いですよ?」千尋がそう言ってハロルズを見ると、彼は怒りで頬を赤く染めた。「止めろ、ハロルズ。」「トシ、どうして止めるんだ!?」「あいつがお前よりも強いってことは、ここに居るみんなが知っている。これ以上恥を晒す前に、消えるんだな。」「クソッ!」ハロルズは舌打ちすると、食堂から出て行った。 その日の夜、千尋は不思議な夢を見た。夢の中で、町で会った褐色の肌をした少女が何処かの酒場で踊っていた。千尋はその少女に近づこうとしたが、誰かに邪魔をされた。“あの子に近づいては駄目よ。”自分に話しかけた女性の顔を見ようとしたとき、千尋は夢から覚めた。にほんブログ村
2014年12月26日
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華やかな音楽祭が幕を下ろしたのは、その日の深夜のことだった。 音楽祭が終わった数日間、生徒達は特別に休暇を与えられることになっていた。家族に会いに行ったりする者も居れば、友人達と休暇を満喫する者も居た。千尋は、同室のエメリーとともに初めて寄宿舎を出て町に出掛けた。「平日なのに、人が多いね。」「ここは夏になると貴族達が海水浴に来るんだって。」「へぇ・・」エメリーと千尋が町の中心部に行くと、そこには避暑に来た貴族達がカフェで談笑したり、土産物を物色したりしていた。彼らは皆高級なドレスや靴をさりげなく着こなしていた。「セン、貴族がそんなに珍しいの?」「別に。ただ、あいつらが着ている服や履いている靴の値段は、貧しい人の何か月分の生活費になるのかと考えていたら、少し腹が立っただけだ。」「そう。僕もあんな連中の仲間ってことになるけれど、僕のこと嫌いにならないでくれる?」「なるもんか。エメリー、ドレス有難う。」「どういたしまして。」噴水の近くで笑う千尋とエメリーの姿を、貴族の青年達がちらちらとカフェの中から見ていた。 エメリーは休暇の為に用意してきた女物の服を着て、靴もハイヒールを履いていた。千尋も、エメリーから服と小物を借りて外の世界を楽しんでいた。「お嬢ちゃん達、俺らと遊ばない?」二人の前に、カフェの中から二人を見ていた貴族の青年達が現れた。「ごめんなさい、わたし達友達とここで待ち合わせしておりますの。」「いいじゃん、そんなの。俺らと遊ぼうよ。」仲間の一人がそう言ってエメリーの手首を掴んだ。「やめてください、放して!」「嫌がっているふりして、誘っている癖に何言ってるの?」「痛いから放してください!」エメリーは青年の股間に鋭い蹴りを入れた。急所を蹴られ、青年は悶え苦しんでいる隙に、エメリーと千尋はその場から逃げ出した。「はぁ、ここまでくれば大丈夫だね。」「エメリー、可愛い顔して強いんだな。」「まぁね。姉さん達から、女は可愛いだけではつとまらない、自分の身は自分で守る術を身につけろと、口が酸っぱくなるまで言われたからね。」「へぇ、そうだったんだ。」「センだって、格闘訓練でいつも自分より倍の背丈の相手を倒しているじゃない。あれって、何かコツでもあるの?」「まぁ、相手の動きを読んでいるだけかな。」「それよりも、もう帰らない?門限に遅れる前に。」「そうだな。」エメリーと千尋が町の大通りを抜け、士官学校へと向かっていると、千尋は花屋の前で誰かに手を掴まれた。「チヒロお嬢様、ご無事だったのですね!」千尋が振り向くと、そこには褐色の肌をした少女が立っていた。「あなたは誰?」「わたしを、お忘れになってしまったのですか、お嬢様?」「ごめん、あなたのことは知らない。」千尋がそう言って少女の手を振り払うと、少女は悲しそうな目で彼女の背中を見送った。「さっきの子、知り合いなの?」「知らない。」にほんブログ村
2014年12月26日
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今日は近所のイオンのフードコートで早めのランチを食べました。写真は、テキサスキングステーキの、テキサスビーフライフ。お肉がほどよく焼けるまでご飯と混ぜて食べると、お肉は相変わらず歯ごたえがあって美味しいし、ご飯もソースとの相性が良くて美味しかったです。これで680円は安いですね。
2014年12月26日
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講堂から逃げ出した千尋だったが、すぐに歳三に捕まってしまった。「何故逃げるんだ?」「知られたくなかったんです・・先輩に、俺が女だってことを・・」千尋がそう言って歳三を見ると、彼はそっと彼女を抱き締めた。「俺はお前が女でも男でも関係ねぇ。俺は、お前の事が好きだ。」「本当ですか?」「ああ。」歳三はそっと千尋の唇を塞いだ。「先輩、俺も先輩の事が好きです。」「そのドレス、良く似合っているぞ。」「有難うございます・・何だか恥ずかしいです。」千尋はそう言って頬を赤く染め、俯いた。「戻ろう。」「はい。」自分に差し出された手を、千尋はしっかりと握った。「あなた、あの子の縁談の事ですけれど・・」「エミリーはまだ幼い。」「わたくしが言っているのは、トシゾウのことですわ。」妻の言葉に、カイゼルは漸く彼女の方を振り向いた。「あの子はいずれ家督を継ぐのですから、結婚相手にはそれ相応の家柄の娘さんを迎えないと・・」「そんなこと、お前に言われなくてもわかっている。」「それなら、早く相手を見つけてくださいな。」フェリシアがそう言って夫を睨んだ時、講堂内にざわめきが起きた。(あら、何かしら?) 彼女が視線を巡らせると、数人の男女が官能的なタンゴを踊っていた。その中で一際目立つのは、千尋と歳三だった。「千尋、俺達はダンスの相性がいいな。」歳三はそう言うと、千尋の華奢な腰を掴んだ。「なぁ、知ってるか?ダンスの相性がいいってことは、あっちの相性もいいってことだ。」「そんな・・」「冗談だよ。」歳三は千尋の反応を見てくすくすと笑いながら、彼女の耳元でこう囁いた。「一度、試してみるか?」「先輩、俺をからかわないでください!」「お前の顔を見ると、ますますからかいたくなるんだよ。」二人の踊りを見ていたフェリシアは、険しい表情を浮かべながら扇子を握り締めていた。「ああしてみると、チヒロお姉様とお兄様、お似合いのカップルですわね。」「エミリー、あの子は女なの?」「何をおっしゃっているの、お母様。チヒロお姉様は、わたくしが小さい頃何度もうちに遊びに来ていたじゃありませんか?」 エミリーの言葉に、フェリシアは歳三と踊っている少女が、昼間会った千尋であることに気づいた。(まさか、そんな・・あの子が、あの時の・・)フェリシアの脳裏に、忌まわしい“あの日”の記憶が甦った。「お母様、どうかなさったの?」「いいえ、何でもないわ。気分が悪くなったから、先にホテルに戻るとお父さんたちに伝えて頂戴。」「わかったわ。」にほんブログ村
2014年12月24日
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※BGMとともにお楽しみください。「エメリー、どうしてドレスなんか持っているの?」「ちょっとした趣味に使うんだ。」 舞踏会が始まる数時間前、千尋は鏡台の前に座ってエミリーに化粧を施されていた。「趣味って?」「僕、物心ついた頃から、自分は女だって思い込んでいたんだ。僕には二人の姉達が居て、姉達やその友達とばかり遊んでいたから、自分は女だって完全に思い込んでいて、周りもそれを否定しなかった。けれど、父さんは違った。」エメリーはそう言うと、眉ペンを鏡台の上に置いた。「それじゃぁ君が士官学校に入学したのは、君のお父さんが・・」「そう。父さんは、僕の事を決して認めてくれないだろうね。でも、僕はこの趣味が恥ずかしいものだとは思っていないよ。」「ごめん、辛いことを聞いちゃったね・・」「ううん。こうして秘密を話せてすっきりしたよ。舞踏会、楽しんできてね。」「有難う。」 エメリーから借りたドレスは、千尋のサイズにピッタリだった。―あの方、どなたかしら・・―素敵な方ね。講堂へ千尋が入ると、招待客たちは一瞬にして千尋の美しさに見惚れ、千尋は瞬く間に彼らの注目の的となった。居たたまれなくなった千尋が壁際でシャンパンを飲んでいると、突然自分の前に歳三が立った。「俺と、踊ってくださいませんか?」「え・・」千尋が答えに窮していると、歳三は強引に千尋の手を取り、踊りの輪に加わった。「わたし、こういった踊りは、初めてで・・」「大丈夫、俺がリードします。」黒の燕尾服を着た歳三はいつにもまして凛々しい雰囲気を纏っていて、千尋はその横顔を見て少し胸がときめいた。「どうしましたか?」「いえ、何でもありません。」「お兄様!」ワルツの演奏が終わり、千尋と歳三の元に、亜麻色の髪をした少女が駆け寄って来た。「エミリー、何でお前がここに居るんだ?」「お兄様に一目お会いしたくて来ましたの。お兄様、ちっともお家に帰って来てくださらないんだもの。あら、そちらの方は?」歳三の腹違いの妹・エミリーは、そう言うと兄の隣に立っている少女の方を見た。輝くような金髪に、透き通った蒼い瞳をした彼女は、まるで幼い頃読んだ神話に登場する女神のようだった。その美しい少女の姿に、エミリーは幼い頃自分とよく遊んでくれた少女の面影と重ね合わせていた。「チヒロお姉様、チヒロお姉様なのでしょう?」「お前・・荻野か?」千尋が歳三の言葉に我に返って彼の方を見ると、歳三は驚きの表情を浮かべていた。千尋はドレスの裾を摘むと、そのまま歳三に背を向けて走り出した。「待て、荻野!」にほんブログ村
2014年12月24日
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24日、我が家のクリスマスディナーは豪華です。チキンとサーモンマリネのサラダは、美味しかったです。2週間前に予約したアルトロシエスタのチーズケーキ。しっとりとした味わいで、ケーキの上に乗っていたマカロンがふわっとしていて美味しかったです。
2014年12月24日
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「皆さん、お疲れ様でした。わたくしが作ったミートパイです、どうぞ召し上がってくださいな。」「有難うございます!」「いただきます!」 フェリシアからミートパイを差し入れられ、空腹だった生徒達は彼女に礼を言うなり勢いよくミートパイにかじりついた。「あなたが、チヒロさんね?あなたは、どうしてここに来たの?」「強くなるために来ました。」「そう。あなたのような綺麗な方が居る場所ではないと思うけど?」そう言ったフェリシアの目は、笑っていなかった。「奥様、俺は・・」「皆さん、まだミートパイは沢山ありますから、ゆっくり食べてくださいね。」フェリシアは千尋から視線を外し、“営業用スマイル”を生徒達に浮かべると、楽屋から出て行った。その背中を、千尋は複雑な思いで見送った。「たまには家に帰ってきたらどうだ?母さんもエミリーも、お前に会いたがっているぞ?」「俺はあんたの指図を受けねぇ。前にそう言った筈だ。」 人気のない第二音楽室で、歳三はそう言うと自分の前に立っている父親を見た。 帝国を統べる最強の男―カイゼル将軍が父親であることが、歳三にとっては最大の不幸だった。 歳三は、カイゼルが外の女との間に作った私生児として生まれ、生後間もなく彼の元に引き取られた。彼の正妻が一人娘であるエミリーを出産後、不妊症となった頃から、歳三はカイゼルから厳しく帝王学を叩きこまれた。そんな父の束縛から自由になりたくて、歳三は全寮制の士官学校に入学したのだった。「お前はわたしの大切な跡継ぎだ。いい加減、素直になったらどうだ?」「何をいまさら。」自分の頬に触れようとする父の手を、歳三は邪険に振り払った。「お前はもう子供ではない。わたしの監視など必要なさそうだ。」「理解してくださって有難うございます。」歳三は慇懃無礼な口調でそう言うと、そのまま彼に背を向けて第二音楽室から出て行った。 華やかな音楽祭のフィナーレを飾るのは、講堂で行われる舞踏会だった。この舞踏会は保護者同士の親睦を深めるという目的だが、結婚適齢期の男女を引き合わせる社交場でもあった。「歳三様、わたくしと踊ってくれるかしら?」「まさか、あなたみたいなお子様、相手にしないわよ。」 華やかなドレスで着飾った貴族の令嬢達がそんなことを話していると、漆黒の燕尾服を着た歳三が講堂に入って来た。「歳三様、制服姿も素敵だけれど、燕尾服姿も素敵だわ。」「あの方と踊れるのなら死んでもいいわ!」 令嬢達の視線を感じた歳三は少し照れくさそうに頭を掻き、溜息を吐いた。 その時、楽団がシュトラウスのワルツを奏で始め、談笑していた招待客たちが踊りの輪を作り始めた。 令嬢達は自分の手を取ってくれるのは歳三だとそわそわしながら彼の事を見つめていると、彼は壁際に立っている一人の少女に手を差し出した。「俺と、踊ってくださいませんか?」少女の返事を待たずに、歳三は彼女の手を取って踊りの輪に加わった。「わたし、こういった踊りは初めてで・・」「大丈夫です、俺がリードします。」にほんブログ村
2014年12月24日
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※この小説のテーマ曲のようなものです。 士官学校の音楽祭は、その名の通り吹奏楽のバンド演奏や管弦楽団の演奏会がメインだが、校庭を模擬店が出店し、ナイフ投げや的当てのゲームなどが楽しめる。 日頃ストレスを溜めている生徒達にとって、一年の中で最も楽しい日であり、毎年羽目を外し過ぎて警察に補導される生徒も少なくはない。 その音楽祭のメインは、何といっても生徒が演じる音楽劇だった。今年は絶世の美貌とカリスマ性を持つ土方歳三と、天使のような歌声を持つ荻野千尋が主演する『オペラ座の怪人』とあってか、劇が行われる講堂には開演前から沢山の観客で賑わっていた。「うわぁ、凄い人だなぁ・・」 舞台袖から観客席を観ていたエメリーは、開演前から緊張してしまったようで、その声が少し震えていることに千尋は気づいた。「みんな、準備は出来たか?」「はい。」「荻野、練習の時のように歌え。」「わかりました。」 一方観客席では、歳三の父親であるカイゼル将軍とその家族が開演を待っていた。「あなた、そろそろエミリーの縁談の事を考えてやってくださいな。」将軍の妻・フェリシアはそう言うと、パンフレットを見ている夫の肩を少し揺さ振った。「フェリシア、エミリーの縁談のことは後で話す。」「どうして、あなたはあの子のことばかり気に掛けるのかしら?あなたが外の女と作った間の子だというのに・・」「やめろ。」将軍はそう言って妻を窘めていると、舞台の幕が上がった。「あのクリスティーヌ役の子、綺麗ね。」「あんな子が士官学校に居るなんて、初耳だわ。」観客たちの間でそんな会話が交わされている間にも劇は進み、ファントムとクリスティーヌが歌う場面となった。ファントムの衣装を纏い、仮面をつけた歳三が現れると、観客席から黄色い悲鳴が上がった。「きゃぁ~!」「トシ様~!」歳三はそんな歓声に気も留めず、高らかに歌い始めた。そんな彼に合わせるように、千尋も美しい声を講堂内に響かせた。二人が天井に吊るされた橋の上で抱き合うのを観た観客たちから、再び黄色い悲鳴が上がった。だが千尋と歳三はすっかり役に入り込んでおり、周りの雑音など聞こえなかった。 ただ二人は、互いの体温だけを感じていた。 音楽劇は大成功に終わった。「お疲れ様でした。」「荻野、お疲れさん。」「有難うございます、先輩。」千尋が歳三から缶コーヒーを受け取っていると、楽屋にカイゼル将軍夫妻がやって来た。「将軍閣下、お初にお目にかかります、荻野千尋と申します。」「君があの歌姫か・・実に素晴らしい劇だった。歳三、話がある。」「わかった。」自分の両親とともに楽屋から出た歳三の表情が少し険しかったことに、千尋は気づいた。にほんブログ村
2014年12月22日
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※動画は土方先輩の熱血指導のイメージです。「土方先輩、おはようございます。」「遅いぞ荻野、てめえ主役の癖に10分も遅刻してるんじゃねぇ!」千尋が音楽室に入ると、そこには黒のジャージを着た歳三が竹刀片手にピアノの前に立っていた。「あの、先輩その格好は・・」「月末まで時間がねぇから、まずは基礎体力を鍛えるトレーニングからだ!全員、整列!」状況が全く呑み込めぬまま、千尋は他の出演者たちとともにピアノの前に並んだ。「まずは発声練習、お前ら腹の底から声出せ!」「はい!」発声練習から、歳三の熱血指導が始まった。「てめぇら、声が小さい!」「す、すいません!」「すいませんじゃねぇ、もっと大きな声を出しやがれ!」発声練習を終えた千尋達がくたくたになっていると、歳三は彼らを運動場へと連れて行った。「てめらそんなんで疲れてんじゃねぇ!今からランニングしながら発声練習するぞ!」「ええ~!」「てめえら、気合を入れねぇか!」歳三のペースに何とかついていこうとした千尋達だったが、昼前にみな疲れ果てた表情を浮かべながら食堂に入って来た。「これ、本当に劇の稽古なの?俺には運動部の朝練にしか見えないんだけど・・」「まぁ、土方先輩は運動部出身だからね。あの人の熱血指導は、結構キツイって噂があったけれど、本当だったんだ・・」「月末まで、身体もつかなぁ・・」その日から、歳三の熱血指導を受けた千尋達が漸く『オペラ座の怪人』の稽古に入ったのは、基礎トレーニングから二週間が過ぎた頃だった。「それじゃぁ荻野、最初の曲歌ってみろ。」「はい・・」ピアノの伴奏に合わせて千尋が『Think of me』を歌うと、彼の美しく澄んだ歌声に歳三達は魅了された。「どうでしたか?」「よかったぞ。さてと、これから忙しくなるから、てめえら気合入れていけよ!」「はい!」劇の稽古とともに、千尋達は衣装や小道具づくりなどに精を出した。「どうですか?ちょっと、おかしくありませんか?」「おかしいどころか、良く似合ってるぜ!」「そうそう、まさに“歌姫”ってカンジ!」「そうですか?」 音楽室にある鏡の前でクリスティーヌのドレスを着た千尋は、嬉しそうに笑った。「いよいよ明日ですな、閣下。」「そうだな。ネイサン、ひとつ頼みたいことがあるんだが、いいかね?」「はい、何でもわたしに頼んでください。」「荻野千尋の事を、少し調べて貰いたい。あの子がどんな環境で育ったのか、知りたいんだ。」「わかりました。」「いよいよ明日だな。」「ええ。何だか、緊張してきました。」「早すぎるだろう。明日は早いんだから、寝ろよ。」「わかりました。」 千尋はそう言うと、歳三に頭を下げて自分の寝室に戻った。一夜明け、待ちに待った音楽祭が幕を開けた。にほんブログ村
2014年12月20日
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「セン、校長がお呼びだぞ。」「わかった、すぐ行く。」 突然校長から呼び出された千尋は、一体自分が何か不味いことをしたのかと思いながら、校長室のドアをノックした。「校長先生、荻野です。」「入りたまえ。」「失礼いたします。」 校長室の中に入った千尋は、ソファに座っている歳三の姿に気付いた。「あの、俺に話とは何でしょうか?」「まぁ荻野君、座りたまえ。」「はい・・」千尋が歳三の隣に腰を下ろすと、士官学校の校長・ネイサンは話を切り出した。「二人を呼んだのは、今月末に開かれる音楽祭のことだ。」「お言葉ですが校長先生、俺は音楽祭には出演しません。」「人の話を最後まで聞き給え、荻野君。」「すいません・・」「さて、本題に戻るが・・音楽祭には荻野君と土方君の二人にぜひとも出演して貰いたい。」「理由を聞かせていただきたいのですが・・」「君が音楽室で弾き語りをしている動画を誰かが配信したらしくてねぇ。その動画を将軍自らがご覧になり、是非とも音楽祭に君と土方君に出演して欲しいという手紙が昨日届いたのだ。」ネイサンの話を聞いた後、千尋は隣に座る歳三を見た。「どうして、土方先輩が音楽祭に出演することになったのですか?」「将軍自らのご指名なのだよ。土方君は将軍のご子息だからね。」「土方先輩が、将軍閣下のご子息?」千尋の言葉を聞いた歳三は、少しバツの悪そうな顔をして俯いた。ネイサンは二人にそれぞれある台本を手渡した。「これは?」「音楽祭で君達が出演する劇だ。一度目を通したまえ。」ネイサンから手渡された台本に目を通した千尋は、そのキャスト表を見て驚愕した。『クリスティーヌ:荻野千尋 オペラ座の怪人:土方歳三』「俺と土方先輩が、主役ですか?」「音楽祭はこの学校の創設当時から続く伝統行事だ。この劇が失敗すると、君達だけの責任だけではなく、学校全体の責任なのだよ。」「わかりました・・」ネイサンから“必ず劇を成功させろ”というプレッシャーをかけられた千尋と歳三は、出演を断る事が出来なかった。 その日の夜、食堂で千尋が夕食を取っていると、そこへ同級生達がやって来た。「セン、聞いたよ。劇に出るんだって?」「それも、主役で!」「俺はあんまりそういうのには出たくなかったんだけれど、校長先生直々のご命令だから、断れなかったんだ。」「でも、主役なんて凄いよ!」「相手役があの土方先輩だから、少し苦労すると思うけどなぁ。」「どういう意味だ?」「土方先輩は、結構スパルタだから。」その言葉の意味を、千尋は稽古初日から知ることになった。にほんブログ村
2014年12月20日
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※BGMとともにお楽しみください。 木箱の中に入った三匹の子猫たちを倉庫から寄宿舎に連れて帰った歳三と千尋を見て、寮長のフランクは明らかに嫌そうな顔をしていた。「こいつらの引き取り先が見つかるまで、俺と荻野が世話をしてやってもいいか?」「それは構わないが、周りに迷惑を掛ける様なことはするなよ。」「わかった。」 こうして子猫たちの世話を始めた歳三と千尋だったが、なかなか子猫たちの引き取り先が見つからなかった。「困ったなぁ・・このままこいつらの引き取り先が見つからなかったら、俺達がひきとるしかねぇか。」「そうですね。」千尋はそう言うと、白と黒の斑模様の子猫を抱き上げた。「この子達の名前、どうします?」「適当につければいいんじゃねぇの?」「じゃぁ、この子はオセロで。他の二匹はレオと・・」「おいおい、俺にも名前を付けさせろよ。」千尋が勝手に子猫たちの名前を付けようとするので、歳三は慌てた。「先輩、何を慌てているのですか?」「お前ぇが勝手にこいつらの名前を付けようとするからだ!俺にだってこいつらの名前を付ける権利はある!」「先輩、そんなにムキにならなくても・・」千尋はそう言うと、歳三に向かって笑った。「う、うるせぇ!」自分より数年も年が違わないというのに、千尋に軽くあしらわれてしまったことが悔しくて、歳三は少し悔しかった。だが、千尋の笑顔を初めて見た歳三は、千尋の笑顔が可愛いことに気づいた。「どうしたんですか、先輩?」「な、何でもねぇよ。」「先輩、変なの。」千尋は白黒の斑模様の猫・オセロを撫でながら、またクスクスと笑った。(一体俺はどうしちまったんだ・・男相手にときめくなんて・・)歳三がそんなことを思いながら廊下を歩いていると、音楽室の方からピアノの柔らかな音色と、美しい歌声が流れてきた。その曲は幼い頃、父に連れられて観たミュージカルの中の曲だった。(一体誰が弾いているんだ?)歳三がそっと音楽室のドアを開いて中を覗くと、そこにはピアノを弾きながら歌う千尋の姿があった。その姿はまるで、天から舞い降りた天使のように美しかった。歳三は時が経つのを忘れ、千尋の歌声に聞き惚れていた。突然誰かが手を叩くのが聞こえ、千尋が我に返ると、歳三がドアの近くに立っていた。「先輩、聞いていたんですか?」「お前に音楽の才能があったなんて知らなかったぜ。」「恥ずかしいな、先輩に聞かれているなんて・・」「別にいいじゃねぇか。」 千尋達が入学してから一ヶ月を過ぎたころ、士官学校では毎年恒例の音楽祭が開催されようとしていた。「兄貴達から聞いたけれど、この音楽祭には軍のお偉いさんたちが来るみたいだぜ。」「へぇ・・」「センはどうするの?」「どうするって言っても、俺は面倒くさいから出ないよ。」にほんブログ村
2014年12月20日
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「別に、事実を言ったまでのことですよ、先輩方。」「この野郎・・」千尋が喧嘩を売った上級生は、怒りで顔を赤く染めた。「やめろ。」「こいつを放っておくのかよ、土方?」「そいつは嘘を言っちゃいねぇ。本当の事を言われて怒るお前の方がおかしいんだよ。」「クソ、覚えていやがれ!」上級生はそう言うと、椅子を蹴って食堂から出て行った。「セン、一時はどうなることかと思ったよ。」「おいそこの一年、名前は?」「まずはそちらから名乗るのが礼儀ではありませんか、先輩?」「そうだな。俺は土方歳三。」「俺は荻野千尋と申します。以後お見知りおきを。」「こちらこそ宜しくな、千尋。」これが、歳三と千尋の出逢いだった。「おい一年、倉庫の中を片付けろ。」「倉庫の片づけは、先輩たちの仕事じゃぁ・・」「うるせぇ、新入りの癖に俺達に口答えする気か?」食堂での一件以来、千尋は上級生たちから事あるごとに“しごき”を受けることになった。 兵士を教育・育成するためにつくられた士官学校では、男尊女卑・年功序列といった古い体育会系思考が根付いており、上級生たちの命令には下級生たちは絶対服従するのがこの学校での暗黙の掟だった。上級生たちは自分に逆らった千尋を上手に“躾させる”為に、彼に対して無理難題をふっかけては困らせていた。だが、そんな彼らの要求を千尋は難なくこなした。「ったく、レベルの低いいじめしやがって・・」埃が積もった倉庫の中に溜まっているゴミとガラクタを片付けながら、千尋は苛立ち紛れに近くに置いてあった木箱を蹴った。その時、木箱の中から子猫の泣き声が聞こえた。(何だ?)千尋が木箱の中を覗き込んでみると、そこには数匹の子猫たちが空腹を訴えていた。「おい、そんなところで何していやがる?」「土方先輩、どうしてここに?」「お前の事が心配で来てみたんだ。」歳三はそう言うと、千尋の肩越しに木箱の中を覗き込んだ。「先輩、この子達どうします?」「どうするって、世話するしかねぇだろう。荻野、こいつら連れて帰るぞ。」「わかりました。」にほんブログ村
2014年12月20日
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「第102期生、全員整列!」 アルティス帝国首都・リティア郊外にある士官学校には、今年も新入生を迎えた。「貴殿らはやがて、この国の礎となるだろう!その為に、常に鍛錬を怠らぬようにせよ!」「Yes,sir!」士官学校には15歳から17歳までの少年達がこれから始まる新生活に不安と期待に胸を膨らませていた。その中で一際目立つのは、金髪碧眼の華奢な少年だった。「なぁ、あいつ誰だ?」「来るところ間違えたんじゃねぇのか?」「やけに細い身体してるし・・なぁ土方、あいつのことどう思う?」「別にどうもしねぇよ。」「またまたぁ、女たらしのお前なら、すぐにあいつが女だってわかる筈だろう?」「ふん、そんなの聞かれなくたってわからぁ。」「まぁ、今年の新入生たちは俺達のしごきにいつまで耐えられるかな?」「知るかよ、そんなこと。」窓から入学式の様子を見ていた土方歳三は、そう言うと金髪碧眼の少年を見た。(今日からここで暮らすのか。) 士官学校に隣接している寄宿舎の部屋に入った金髪碧眼の少年―千尋は、空いているベッドの端に腰を下ろした。千尋がトランクの蓋を開けようとしたとき、部屋に眼鏡を掛けた少年が入って来た。「やぁ、君も同じ部屋かい?初めまして、僕はエメリー。」「千尋だ、宜しく。」「こちらこそ。」千尋は眼鏡の少年・エメリーと握手を交わした。「ねぇ、チヒロって言いにくいからセンって呼んでいい?」「いいよ。」「センは、どうして軍人になろうと思ったの?」「強くなりたいから。エメリーは?」「僕もセンと同じ理由かなぁ。僕、小さい頃から身体が弱くてよく虐められていたんだ。だから、強くなるためにここに入ろうって試験受けたんだ。」「そうか。」「これから5年間、宜しくね。」「ああ。」 入学式から一夜明け、千尋達新入生は訓練と勉学に明け暮れる日々を送っていた。「今日の授業はここまで!」「疲れたね。」「ああ。」千尋とエメリーが食堂に入ると、奥のテーブルを陣取っていた上級生のグループと千尋は目が合った。「あいつら、何でも軍のお偉いさんのお坊ちゃんたちだってさ。」「へぇ、親の七光りで入ったんだ。」「ちょっと、聞こえちゃうよ?」エメリーが慌てて千尋を止めようとしたが、時既に遅く、千尋の言葉を聞いたグループの一人が彼らの前に立ちはだかった。「おいそこの金髪、何か言ったか?」にほんブログ村
2014年12月19日
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「お母さん、しっかりして!」また、いつもの発作が起きた。キッチンの流しに手をついて、こみ上げて来る苦しみと激痛に耐えた。「大丈夫・・」息子が自分に駆け寄ろうとしたとき、彼の中に最愛の人の面影を見つけた。「大丈夫だから、早く寝なさい。」「でも・・」「お母さんは、大丈夫だから。」彼の艶やかな黒髪を撫でると、息子は安心して自分の部屋に向かった。その小さな背中を見送った千尋は、自分がもう長く生きられないことを彼にどう伝えようかと迷っていた。 そして、彼に死んだ父親が今は生きているということをどう伝えるのかも、迷っていた。にほんブログ村
2014年12月19日
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エディオンの前にあるマクドナルドで、カニコロッケバーガーを食べました。ポテトはSサイズでしたが、メインのカニコロッケバーガーは、バンズが美味しかったです。それに、カニコロッケのソースと旨味がたっぷりと味わえて満足でした。
2014年12月19日
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※BGMとともにお楽しみください。「結婚式、ですか?」「ああ。お前が退院したらすぐに挙げようと思っているんだ。」「でも、結婚式は来年の6月末に挙げる予定じゃぁ・・」「お前が病気になって、俺は不安で堪らなかった。」歳三はそう言うと、千尋の手を握った。「いつお前が死ぬんじゃないかと思うと、辛くて堪らなかった。でもお前は、俺の元に帰って来てくれた。」「歳三さん・・」「俺の我が儘を一度くらい、聞いてくれてもいいだろう?」「わかりました。でも歳三さん、結婚式はいつ挙げるんですか?」「二週間後のクリスマスだ。それまでに、元気になれよ。」「はい。」 琴子の肺を移植した千尋は、心配されていた臓器の拒絶反応や術後の後遺症はなかった。「このままだと、明日退院できますよ。」「そうですか。」結婚式の日まであと数日を控えた日の朝、千尋は看護師からそんな言葉を聞いて思わず嬉しそうに笑った。「どうしたの千尋ちゃん、そんなに嬉しそうな顔をして。」「沖田先輩、お久しぶりです。」「久しぶり。今までの事は、全部土方さんから聞いたよ。」見舞いに来た総司は、そう言うとベッドの端に腰掛けた。「さっき看護師さんから、明日には退院できるだろうって言われたんです。」「へぇ、それは良かったね。結婚式は明後日挙げるんでしょう?」「ええ。沖田先輩、ひとつ頼みがあるんですが、いいですか?」「なに?」千尋は総司の耳元で、何かを囁いた。「わかった。」「有難うございます、先輩。」「土方さん、千尋の事を支えてくれて有難う。」「そんな、お礼を言われるほどのことはしていません。」荻野家のリビングで、歳三はそう言うと育子を見た。「あの子のことを、宜しくお願いしますね。」「こちらこそ、これから宜しくお願いします、お義父さん、お義母さん。」 2014年12月25日―クリスマス。横浜市内にあるカトリック教会で、千尋と歳三は永遠の愛を誓い合った。純白のウェディングドレスを纏った千尋は、まるで天から舞い降りた天使のようだった。「千尋、これから宜しくな。」「はい。」誓いのキスを交わした二人が教会の外に出ると、白い雪が二人の未来を祝福するかのように降っていた。『幸せにおなりなさい。』ふと聞き覚えがある誰かの声が背後で聞こえ、千尋は振り返ったが、そこには誰も居なかった。「千尋、どうした?」「いいえ、何でもありません。」そう言って再び千尋が礼拝堂の方を見ると、あの湖で会った女性が彼に笑顔を浮かべながら手を振っていた。(彼と幸せになります。助けていただいて、有難うございました。)―完―にほんブログ村
2014年12月17日
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千尋は、暗い森の中に居た。何処を歩いていても、動物や人の気配さえ感じられない場所を、千尋は何度もぐるぐるとまわっていた。(ここは、何処?歳三さんや、母さんたちは何処なの?)千尋がそんなことを思いながら森の中を歩いていると、森の合間から青く輝く湖が見えてきた。その湖を見たとき、何処か懐かしい気持ちに千尋は襲われた。『来たのね。』湖の奥から女の声が聞こえ、千尋が湖の方を振り向くと、そこには青いドレスを纏った一人の女が立っていた。(あなたは、誰?)『わたしはこの世とあの世の境の案内人です。あなたは今、この世とあの世の境目に居るのです。』女はそう言うと、船着き場に繋がれている船を指した。『この船に乗れば、あなたは天国に行けます。ですが、あなたはまだ天国には行けません。』(何故ですか?)『あなたの帰りを、待っている者がいるから。』女はそう言うと、千尋の手を握った。その時遠くで、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。『あの声が聞こえるでしょう?あなたは、もうここに居てはいけないわ。』千尋は女に向かって頭を下げると、湖から去り、再び森の中へと入っていった。暗い森の中を再び彼が歩いていると、徐々に闇が消えてゆくのがわかった。闇の代わりに、太陽に照らされた緑の木々の美しさが千尋の目を奪った。 森を抜けると、青い湖に映し出された白亜の城があった。『やっと戻って来たな。』自分の肩を叩いた“誰か”を振り返ろうとしたとき、千尋は現実の世界に戻ってきた。「千尋、俺がわかるか?」「歳三・・さん?」病室で意識を取り戻した千尋は、自分の手を握っている歳三が泣いていることに気づいた。「良かった、俺達のところに戻って来たんだな。」歳三はそう言うと、千尋を抱き締めた。にほんブログ村
2014年12月17日
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「千尋君を救えるのは、臓器移植しかありません。」「では、わたし達が千尋に肺を移植します!」「申し訳ありませんが、千尋君の肺の型と、ご両親の肺の型は一致しませんでした。」「そんな・・」千尋の養母・育子はハンカチを口元に押し当てて泣いた。「わたし達は、あの子が死ぬのを待つしかないのですか?」「まだ希望はあります。」千尋の主治医はそう言って彼の養父母を励ましたが、彼らは自分達の息子が死んでしまうという残酷な現実を突きつけられ、途方に暮れていた。「土方さん、お久しぶりね。」「お久しぶりです、荻野さん。」病院内にあるレストランで、歳三と真紀は荻野夫妻と半年ぶりに会った。「千尋が助かる方法は、臓器移植しかありませんと、さっき主治医の先生から言われました。」「そうですか。」「わたし、これからどうすればいいのかわかりません・・あの子がわたし達の前からいなくなるなんて思ってもみなかったから・・」育子の言葉を、真紀は黙って聞いていた。「俺が、あいつに肺を移植したら、あいつが助かるのに・・」「それは駄目だ。」「どうしてですか?」「千尋はお前にスケートをして欲しいと思っている筈だ。お前があいつの為に滑ったあのフリープログラムでの演技に込められた想いは、あいつにちゃんと届いていた。」歳三はそう言うと、震えている真紀の手を握った。「千尋は必ず、俺達の元に帰って来る。」「はい・・」「少しお腹空いちゃったから、何か頼みましょう。」「そうですね。」 四人が昼食を取っていると、彼らが座っているテーブルへ琴子の母親がやって来た。「歳三君、お久しぶりね。」「お義母さん、どうしてこんな所に?」「琴子が、事故に遭ってこの病院に運ばれたの。でも、あの子は助からなかった・・」「お悔やみを申し上げます。」「有難う。これを、あなたに渡そうと思って・・」琴子の母親は、そう言うと歳三にある物を手渡した。それは、臓器提供カードだった。「もし自分に何かあったら、あなたに渡して欲しいとあの子は言っていたの。」「そうですか・・」「歳三君、あの子はあなたや美砂ちゃんに酷いことをしてきたけれど、あの子のことを許してやって。わたしは、あなたにそれだけを伝えに来たの。」琴子の母親は歳三達に頭を下げると、レストランから出て行った。「荻野さん、千尋君の移植手術をこれから行うことになりました。」「先生、それは一体どういうことなのですか?」「先ほど、千尋君の肺の型と一致するドナーが見つかりました。これで、千尋君は助かりますよ。」「先生、有難うございます!」 千尋の肺移植手術は成功した。だが、千尋は未だに意識を取り戻さなかった。にほんブログ村
2014年12月17日
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「千尋、どうしたんだ!?」「申し訳ありませんが、面会謝絶です。」歳三が千尋の病室に入ろうとすると、彼は看護師に止められた。「一体千尋に何があったんですか?」「急に容態が急変して、危険な状態です。」「そんな・・」病室で倒れた千尋は、そのまま集中治療室へと移された。(千尋、一体何があったんだ?)歳三はガラス越しに全身を管で繋がれた千尋を見ながら、必死に泣くのを堪えていた。「先生・・」背後で懐かしい声がして歳三が振り向くと、そこにはスペインから帰国した真紀の姿があった。「真紀、いつ帰って来たんだ?」「昨夜です。千尋は?」「あいつは危険な状態だ。」「そんな・・」真紀は千尋の姿を見て涙を流した。「真紀、大会での演技を観たよ。お前は、千尋を励ますためにあの曲で滑ってくれたんだな。」「ええ。あの曲は、千尋との思い出の曲ですから。」「そうか。」「先生、千尋は助かりますか?」「それは、千尋の生命力次第だ。」(千尋、戻ってこい・・俺達の元に。)「経過は順調ですよ。」「先生、性別は判りますか?」「ええ。男の子ですよ。」 都内の産婦人科で健診を受けた琴子は、胎児の性別が男とわかり、安堵の表情を浮かべた。一度目の結婚は失敗に終わったが、今度の結婚は失敗したくない。「男の子でよかったな、琴子。」「ええ。きっとお義父様も赤ちゃんの性別を聞いてお喜びになると思うわ。」「きっと喜んでくれるさ。」他愛のない夫婦の会話を琴子と交わしながら、彼女の再婚相手・健吾は自宅近くにある見通しの悪いカーブを曲がろうとしていた。その時、一台のトラックが信号を無視して琴子たちが乗っていた車に突っ込んできた。 事故を起こしたトラックの運転手は無傷だったが、彼がぶつかった琴子達の車は電信柱にたたきつけられ、炎上した。「交差点で交通事故発生、乗用車に乗っていた30代の夫婦が心肺停止状態です!」 瀕死の重傷を負った琴子達は、千尋が入院している病院に搬送されたが、琴子の夫は死亡し、琴子は脳死状態になった。「先生、娘は・・」「残念ですが、娘さんはもう意識を取り戻すことはないでしょう。」琴子の家族は、琴子の生命装置を外してくれるよう医師に頼んだ。一方、千尋は未だに生死の境をさまよっていた。「このままだと、息子さんの意識は一生戻らないかもしれません。」「先生、息子を・・千尋を助けてください、お願いします!」にほんブログ村
2014年12月17日
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翌朝、歳三が寒さに震えながらカーテンを開けると、窓の外は一面雪で覆われていた。「おはようございます、歳三坊ちゃま。」「おはよう、宮田さん。今日は寒いな。」「ええ。こんなに大雪が降ったのは初めてですね。」「ああ。」 空から降る雪を眺めながら、歳三は千尋の事を想っていた。「おはよう、近藤さん。」「おはよう、トシ。最近顔色が悪いようだが、何かあったのか?」「それは後で話す。」「そうか・・」 千尋は病室の窓から降り積もった雪を見ながら、歳三が来るのを待っていた。死への恐怖に怯えながら、千尋の心の支えは毎日歳三の顔を見ることだった。彼の逞しい腕の中に居れば、死への恐怖や不安などが吹き飛んでしまう。(歳三さん、早く来ないかな・・)入院してから千尋は、左手の薬指に嵌めている婚約指輪を無意識に撫でていた。今日も千尋が婚約指輪を撫でながら窓の外を見ていると、病室に誰かが入って来る気配がした。「歳三さん、遅かったですね。」「お久しぶりね、千尋さん。」 千尋の前に立っていたのは歳三ではなく、琴子と見知らぬ男だった。「琴子さん、どうして・・」「お義父様から、あなたの事を聞いたのよ。あなた、難病に罹ってもう長くないんですってねぇ?」琴子の悪意に満ちた、鋭い棘が千尋の胸を深く突き刺した。「そちらの方は?」「この人はわたしの今の夫よ。ねえ千尋さん、トシと別れてくださらない?」「あなたと歳三さんはもう赤の他人同士の筈でしょう?それなのにどうしてわたし達のことを干渉するのですか?」「“歳三さん”ですって?あなたいつから、トシのことをそんな風に呼ぶようになったの?」険しい表情を浮かべながら、琴子は千尋に詰め寄った。「琴子、やめろ。」「あなた・・」銀縁眼鏡を掛けた男が、千尋を殴ろうとしていた琴子の手を掴んだ。「驚かせてしまって申し訳ないね、千尋さん。彼女は今妊娠中だから、余り彼女を刺激しないでくれないか?」「それはこちらの台詞です。用がないのなら帰ってください。」「わかったよ。琴子、行こう。」二人が病室から出て行った後、千尋は苦しそうに胸を押さえて床に崩れ落ちた。(少し遅くなっちまったな・・千尋、怒っているかな?) 歳三が千尋の病室に向かおうとしたとき、彼は医師や看護師が何やら慌ただしい様子で千尋の病室に入っていくのを見た。にほんブログ村
2014年12月15日
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リンクに曲が流れ、真紀は無心になって弟への想いを氷上で表現した。 歳三から千尋が肺高血圧症という難病に罹っていることをメールで知らされ、大会を放り出して弟の傍に居てやりたいと思った。 だがアンドレの言葉を受け、自分にとって最高の演技を弟に見せることが自分に今出来る事なのだと真紀は気づいた。 だから今回のフリープログラムでの演技は、ジャンプの回数は少なくして、ステップと表現力で勝負しようと思ったのだった。 彼の演技は、世界中を魅了した。『マキ、完璧な演技だったぞ!』『有難うございます、コーチ。』『得点が出ました、240.4!自己最高記録を更新しました宮下真紀選手、グランプリファイナルシリーズ2連覇達成です!』画面に表示された得点を見た真紀は、今まで堪えていた涙を流し、アンドレの肩にもたれかかった。『宮下選手、感動の余り言葉が出てこないようです。』『今までの彼の躍動感溢れる滑りとは違いましたね。』 病室で歳三とともにテレビを観ていた千尋は、真紀が自分の事を想って滑ってくれていたことに気づいた。「千尋、お前は一人じゃねぇ。」「はい・・」「なぁ、結婚式のことなんだが・・少し早めに挙げねぇか?」「そんなこと、出来るんですか?」「それはやってみねぇとわからねぇだろう。」歳三はそう言って笑ったが、結婚式を挙げる来年の6月末まで、千尋が生きているのかどうかさえわからず、歳三は常に千尋を失うのではないかという不安に襲われていた。「千尋、俺はもう帰るが・・一人で大丈夫か?」「大丈夫です。」「明日、また来るからな。」「お気をつけて。」「ああ。」歳三が病室から出て行くまで千尋は笑顔を浮かべていたが、彼の姿が見えなくなった途端、押し殺した声で泣いた。本当は不安で堪らないのに、歳三の前では無理に笑顔を作り、彼を心配させないようにしている。それが、とてつもなく辛い。ひとしきり泣いた後、千尋は左手の薬指に嵌めている指輪を見た。(歳三さん・・)歳三はいつも自分の事を考えて、守ってくれている。このままだと、自分が歳三の負担になってしまうのではないか―そう思うと、辛くて堪らない。(誰か、助けて!)にほんブログ村
2014年12月15日
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「千尋様が、そんなご病気に・・」「助かる方法は、生体肺移植が確実なものらしいが、それでも完治には時間がかかるらしい。」歳三はそう言うと、ベッドの端に腰を掛けた。「俺はまだ、どう千尋の病気の事を受け止めていいのかわからねぇんだ。」「歳三坊ちゃま・・」「千尋を失いたくないんだ・・」宮田はそっと、うなだれる歳三の肩を優しく抱いた。「宮田さん、トシは?」「歳三坊ちゃまはお部屋でお休みになられました。」「そう・・」「琴子さま、あなたはもうこの家にはお越しにならないでください。」「それ、どういう意味?」「お言葉通りです。あなたはもう土方家の人間ではありません。美砂お嬢様とも二度と会わないでくださいませ。」「使用人の癖に、わたしに逆らう気!?」「お言葉ですが琴子さま、わたくしは一度もあなたにお仕えしたことなどございません。」宮田から侮辱され、怒りで顔を赤く染めた琴子はそのまま土方家から出て行った。 上海の大会で優勝した真紀は、スペインの大会に向けて練習に励んでいた。そんな時、歳三から双子の弟・千尋の病を知らせるメールが届いた。『コーチ、お願いがあります。』『どうした?』『日本に帰りたいんです。弟の事が心配で・・』真紀がアンドレに歳三から届いたメールを見せると、アンドレは首を横に振った。『マキ、弟さんのことが心配なのはわかる。だが今の君に出来ることは、最高の演技を弟さんに見せる事じゃないのか?』『それは、そうですが・・』『君には世界中にファンが居るが、君の中で最も大切なファンは誰だ?』『弟です。』『マキ、君は弟さんの為に頑張るんだ、いいな?』『はい。』『じゃぁ、音楽を流して一回通しで滑ってみよう。』 スケートリンクにAIの「Story」が流れ、真紀は曲に合わせて氷上を優雅に滑った。『演技は完璧だ。ただ、ジャンプをするときの助走が少し足りない。』『わかりました。』『大会まで時間がないからといって、無理はするなよ。』千尋に最高の演技を見せる為に、真紀は大会に向けてトレーニングを積んだ。 スペイン・バルセロナで行われたグランプリファイナルのショートプログラムで真紀は1位に輝いた。そしてフリープログラムが行われる13日の夜、病室のテレビの前で千尋と歳三は真紀の出番を待っていた。「次だぞ。」歳三がそう言ってテレビを観ると、画面には宝石を鏤(ちりば)めた衣装を纏った真紀がリンク上に現れた。リンクに「Story」が流れ、千尋は昔真紀とカラオケに行った時のことを思い出した。(この曲、確か二人でカラオケに行ったとき真紀が歌っていた曲だ・・)にほんブログ村
2014年12月15日
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やがて手術室のランプが消え、中から担架に載せられた千尋が出てきた。「千尋、しっかりしろ!」「荻野千尋さんのご家族ですね?」「婚約者です。先生、千尋は一体どうして・・」「詳しいお話は診察室で致しますので、こちらへどうぞ。」 歳三達は診察室で、千尋が肺高血圧症に罹っていることを知った。「千尋は助かるのですか?」「それはわかりません。一番効果的な治療法は、生体肺移植しかありませんが、それには千尋さんの身体に大きな負担がかかります。」「そんな・・」 病院から出た歳三達は、近くにあるファミリーレストランで昼食を取った。「トシ、これからどうするつもりなの?」「千尋が助かる方法があるのなら、それに賭けてみようと思う。」「あなたがそう言うのならいいけれど、生体肺移植手術は簡単じゃないのよ?」「わかっているさ、そんなことは・・」歳三はそう言って溜息を吐くと、コーヒーを一口飲んだ。「姉貴、今日は有難う。」「家に帰ったらゆっくり休みなさい。」「わかった。」ファミリーレストランの前で信子達と別れた歳三は、車に乗り込んでも暫くエンジンを掛けずに千尋の事を考えていた。 千尋は倒れた日の朝、いつものように華道教室に行った。それなのに、何故こんなことになったのだろうか。車のクラクションで我に返った歳三は、エンジンを掛けてファミリーレストランの駐車場から大通りへと出た。「お帰りなさいませ、歳三坊ちゃま。」「誰か来ているのか?」「ええ。琴子さまが来ております。」「そうか・・」千尋のことを冷静に受け止められないまま、歳三は琴子と客間で会った。「久しぶりね、トシ。」「お前今更俺に何の用で会いに来た?」「美砂のことで話に来たの。わたし、近々再婚することになったの。」「へぇ・・相手はさぞや俺よりも金を持っている男なんだろうな?」歳三は琴子が着ている高級ブランドデザインのワンピースを見ながらそんな嫌味を彼女に言うと、彼女は少し苛立った様子で爪を弄り始めた。「ええ、まぁね。」「それで、再婚するから美砂を寄越せって言うのか?俺が親権をお前に譲る訳がないだろう?」「違うの。わたし、新しい彼との子を妊娠しているの。だから、美砂とはもう会わないことにしたの。」「簡単に自分が腹を痛めた子を捨てられるんだな、お前は。どうせ新しい男と上手くいかなかったらまたその子を捨てるんだろう?」「どうしてそんな酷いこと言うの?わたし、あなたに祝福して貰いたくて来ているのに・・」「俺は今、忙しいんだ。お前に構っている暇なんてないんだよ。」今にも泣き出しそうな顔をしている琴子を客間に残した歳三は、そのまま二階の部屋に入った。「歳三坊ちゃま、千尋様は?」「あいつは今、病院だ。」 歳三は宮田に、千尋の病気の事を話した。にほんブログ村
2014年12月13日
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クリスマスムードが街中に溢れている12月初旬、歳三と千尋は結婚式場であるホテルのチャペルを見学しに来ていた。「ようこそいらっしゃいました、土方様。」歳三と千尋がウェディングサロンに入ると、店員が笑顔で二人の方に近づいてきた。「ドレスの試着をしたいのですけれど・・」「どうぞ、こちらへ。」店員とともにドレスルームへと向かった千尋は、様々なデザインのドレスを見て目を丸くした。「ご希望のドレスをお選びください。」「はい。」 千尋がドレスルームでドレスを選んでいる頃、歳三はウェディングサロンの応接室で結婚式のプランを立てていた。「お色直しは、どうされますか?」「やっぱり、紋付袴と白無垢でお願いします。」「かしこまりました。」「何だか、色々と準備する事があって大変だなぁ。」「わたくしどもが全力でサポートさせていただきます。」 ウェディングプランナーとの打ち合わせを終えた歳三は、ドレスルームへと向かった。「どうですか?」「綺麗だな。」プリンセススタイルのドレスを纏った千尋は、まるで天から舞い降りた天使のようだった。「このドレスでいいです。」「そうか。なぁ千尋、お色直しはどうする?」「白無垢がいいです。」その日は結婚式と披露宴の衣装を決めたり、プランを決めたりと歳三と千尋は何かと忙しかった。「少し疲れたな。」「ええ・・」歳三とウェディングサロンから出た千尋は、突然めまいに襲われた。「大丈夫か?」「少し疲れが溜まってしまっているだけです。」「そうか。」この日から千尋が感じ始めていためまいや倦怠感を、彼は単なる風邪だと思い込んで病院にもいかずに放置していた。「千尋様、少し休まれた方がよろしいのではありませんか?」「大丈夫です。」学校が冬期休暇に入り、寒さが厳しくなりつつある12月中旬のある日のことだった。その日、千尋はいつものように華道教室で稽古を受けていた。「先生、来年も宜しくお願いいたします。」「千尋さん、良いお年を。」稽古の後、千尋が華道の先生に向かって挨拶して退室しようとしたとき、彼は突然呼吸困難に陥った。「千尋さん、どうしました?」「息が出来ない・・」「誰か、救急車を呼んで!」 歳三は千尋が華道教室で倒れたことを聞き、彼が運ばれた病院に向かった。「千尋は!?」「トシ、わたし達にもわからないの。」「どうしてこんなことが・・」にほんブログ村
2014年12月13日
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「あいつは、俺と同じ大学い通っていた久田真奈美っていうんだ。真奈美の家は資産家でな、父親が俺の親父と大学時代の同期だった。俺が真奈美と知り合ったのは、同じ剣道部の近藤さんに強引に誘われた合同コンパだった。」「そんなことがあったんですか・・」「ああ。真奈美は俺のことを一目で気に入ってなぁ、手作り弁当を剣道部に差し入れたり、俺と同じ講義を取ったりして、色々と俺の気をひこうとしていたが、俺には琴子が居た。」「そうでしたか・・それで、真奈美さんは?」「あいつは、琴子を殺そうとしてあいつが住んでいたアパートの部屋に行って、警察沙汰になった。」歳三はそう言うと、溜息を吐いた。「それから、あいつは大学を自主退学して、実家に帰った。俺は大学を卒業した。」「真奈美さんはどうして、今になって歳三さんの前に現れたんでしょうか?」「さぁな。姉貴の話だと、あいつは子供を連れていたんだろう?」「ええ。ちゃんと歳三さんに認知して貰うって彼女、言っていました。」「そうか・・」歳三が再び溜息を吐くと、彼の上着の内ポケットに入れていたスマートフォンがけたたましく鳴った。「もしもし?ああ、わかった、すぐ行く。」「誰からですか?」「大学時代のダチからだ。真奈美の奴、俺に会わせろと警察で暴れたらしい。」「そんな・・」「千尋、俺と一緒に来てくれるか?」「はい。」 数分後、都内にあるホテルのラウンジで、千尋は歳三と共に彼の大学時代の友人である佐野と会った。「トシ、久しぶりだな。この子は?」「俺のフィアンセだ。それよりも佐野、真奈美が警察で暴れたって、本当なのか?」「ああ。彼女は暫く塀の中に居るようだ。子供は、あいつの母親が引き取るってさ。」「その子供だが、そいつは本当に俺の子供なのか?」「その可能性は低いと思うぞ。DNA鑑定したら、すぐにわかると思う。」「そうか、有難う。」「トシ、困ったことがあったら俺に頼んできてもいいぞ。弁護士として、力になってやる。」佐野はそう言って歳三の肩を叩くと、ホテルから去っていった。「さてと、用も済んだことだし、指輪でも見に行こうか?」「はい。」ホテル内にある宝飾店で、歳三と千尋は婚約指輪を選んだ。「この指輪が可愛いですね。」「そうだな。お前、指のサイズは?」「7号です。」「そうか。すいません、これお幾らですか?」「これは300万円となっております。ですが、今は特別ご奉仕品ですので、ペアで120万円になります。」「120万か・・高いなぁ。まぁ、冬のボーナスがあれば大丈夫か。すいません、これをお願いします。」「かしこまりました。」「先生、こんな高価な指輪、本当に貰ってもいいんですか?」「今更何言っていやがる、嬉しそうな顔して。」 左手薬指に嵌められたダイヤモンドの指輪を眺めながら、千尋はそう言って嬉しそうな顔で歳三を見た。にほんブログ村
2014年12月10日
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「トシ、もう帰るのか?」「ああ。今日は千尋と一緒に指輪を見に行く約束があるんだ。」「そうか。気を付けて帰れよ。」「ああ、またな。」歳三が仕事を終えて車で帰宅すると、自宅の前の通りで彼はパトカーと擦れ違った。「ただいま。」「トシ、やっと帰って来たのね!」歳三がリビングルームに入ると、絨毯の上にはガラス片が飛び散り、千尋が今朝活けていた花がテレビ台の前で何者かに踏みつけられていた。「一体何があったんだ?」「お昼過ぎに、千尋さんと宮田さんの三人でピザとケーキを食べながら女子会をしていたら、あんたの知り合いだって女が訪ねてきて・・」信子はそう言うと、歳三に昼間あった出来事を話した。 インターホンの画面に現れた謎の母子連れを見た信子は、千尋に警察に通報するように言った後、通話ボタンを押した。「どちら様ですか?」『ねぇ、トシそこにいるんでしょう?』「弟は今出かけております。」『嘘つかないで、トシに会わせて!』「お引き取り下さい。」「お義姉さん、さっきの人はどなたなのですか?」「あの人は、トシのストーカーだった女よ。」「え?」「トシが高校生の時、突然家に勝手に入って来て、家の物を壊して暴れたの。その時はお父様が追い出してくれたから大事にはならなったんだけど・・」信子が千尋に歳三のストーカーの話をしていると、突然リビングルームの窓ガラスが派手な音を立てて割れた。「千尋ちゃん、怪我はない?」「はい・・」「ちょっとぉ、無視するんじゃないわよ!」女はそう信子と千尋に怒鳴ると、3歳くらいの男児を連れてリビングルームの中に入った。「あなた、警察呼ぶわよ!」「うるさい、うるさい!」女は千尋が活けた花を花瓶ごとひっくり返すと、その花をヒールで何度も踏みつけた。「トシに言っておいて、ちゃんと責任取ってこの子を認知しろって!」鼻息荒く女が二人に向かってそう言って立ち去ろうとした時、タイミングよくパトカーが土方家の前に到着したのだった。「みんな、怪我はねぇのか?」「ええ。」「歳三さん、あの人は・・」「千尋、それは今から俺が説明するから、一緒に俺の部屋に来てくれ。」「わかりました。」にほんブログ村
2014年12月10日
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「宮田さん、おはようございます。」「おはようございます、千尋様。今朝は随分お早いお目覚めですね?」「ええ。歳三さんにお弁当を作って差し上げたくて・・」「まぁ、そうでございますか。歳三坊ちゃまは食べ物の好き嫌いは余りありませんよ。千尋様は、歳三坊ちゃまに何をお作りになられるおつもりなのですか?」「普通のお弁当を作ろうと思って・・お弁当屋さんで売っているような、唐揚げ弁当とかハンバーグ弁当とかを。」「そうでございますか。冷蔵庫に昨日取り寄せた鶏肉が入っておりますから、それを唐揚げに致しましょう。」「はい、わかりました。」 歳三が土方家のダイニングルームに入ると、厨房の方から千尋と宮田の楽しそうな話し声が聞こえてきたので、彼はそっとその中を見た。「歳三坊ちゃま、お喜びになると思いますよ。」「そうですか?宮田さん、今日は有難うございました。」「いいえ。わたくしでよければいつでも千尋様のお力になりますよ。」「その言葉とお気持ちだけでも、励みになります。」 朝食の後、千尋は歳三に弁当を渡した。「これ、お昼にどうぞ。」「有難う。」「歳三坊ちゃま、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」「行ってらっしゃい、歳三さん。」「ああ、行ってくる。千尋、今日は帰ったら夕食を食べるついでに指輪を見に行こう。」「はい。」 学校が試験休みである千尋は、朝食を食べた後宮田さんと一緒に洗濯や掃除などの家事をこなした。「千尋様、そろそろお昼に致しましょうか?」「はい。」「ピザでもお取りしましょうか?」「宮田さん、ピザなんて食べるんですか?」「ええ。歳三坊ちゃまはわたくしが和食しか食べないと思っていらっしゃるようですけれど、実は脂っこいものが大好きなんです。」「まぁ、そうですか。」昼食に頼んだ宅配ピザをリビングルームで宮田さんと二人で千尋が食べていると、玄関のチャイムが鳴った。「わたしが出ます。」ピザの油で汚れた手を軽くウェットティッシュで拭いた千尋は、インターホンの画面のスイッチを押した。「どちら様ですか?」『千尋さん、あたしよ。開けて。』「はい、ただいま。」信子が有名高級菓子店のケーキを手にリビングルームに入ると、そこにはピザを美味しそうに頬張っている宮田の姿があった。「あら、宮田さんがピザを食べる姿を見るの、初めてだわ。」「まぁ、信子お嬢様、いらっしゃったのにおもてなしもせずに申し訳ありません・・今お茶を・・」「いいのよ、そのままで。ねぇ、お父様は?」「旦那様でしたら、地方へ出張に出かけております。」「そう。それじゃぁ、今は昼の女子会みたいなものね。」「そうですわね。」信子と共にピザとケーキを囲みながら千尋が彼女達と談笑していると、また玄関のチャイムが鳴った。「誰かしら?」信子がインターホンの画面のスイッチを入れると、そこには見知らぬ子供連れの女性が立っていた。「信子さん、どうかなさったんですか?」「千尋さん、警察に不審者が家の前に居るって通報して!」「わかりました。」にほんブログ村
2014年12月10日
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近所に最近オープンしたドラッグストアで購入しました。甘い味わいのホワイトチョコレートと、カリッとしたラスク生地との相性は抜群でした。100円で売っていました。ギンビスは動物ビスケットが美味しいですが、このラスクも美味しいですね。
2014年12月10日
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今日のお昼はエースコックの蟹チゲラーメンです。コチジャンスープの辛味と、麺の旨さが合わさって満足な味でした。
2014年12月10日
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紅子様の記事を読んで、食べたいなぁと思い、ブックオフで本を売った帰りに寄りました。海のフォッカッチャというだけあって、プリプリとした海老カツと、辛口ソースとの相性が抜群でした。オニポテとの相性もいいです。 モスバーガーは、値が少々張りますが、味はいいです。
2014年12月09日
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2014年11月、上海。 8月にアメリカで銃撃され、右肩を負傷した真紀は、リンクの上に立っていた。『マキ、本当に出るつもりなのか?』『この日の為に、過酷な練習に耐えてきたんです。やらせてください。』『わかった。』 銃撃事件後、真紀は懸命にリハビリをして退院した後、すぐにリンクで大会に向けて練習漬けの日々を送った。まだ本調子ではないのだから早すぎるのではないかという声が周囲から上がったが、大会に出るという真紀の意志は固かった。このまま大会出場を諦めて後悔するよりも、大会に出て優勝した方がいい―そんな真紀の考えをアンドレは尊重し、彼を全力で支えた。「おい千尋、始まるぞ。」「ええ・・」土方家のリビングルームで、千尋と歳三はテレビの前で真紀の演技を観ていた。やがて、リンクに『千と千尋の神隠し』の劇中で使われた曲が流れ、真紀が優雅に氷上を舞った。映画の中の登場人物をイメージした煌びやかな衣装を身に纏った真紀は、4回転サルコウを華麗に決めた。『4回転サルコウ、決めました。』『今度はトリプルトール、トリプルサルコウのコンビネーションジャンプです。これも決まりました!』『8月に銃撃され、右肩を負傷してからまた数ヶ月も経っていませんが、その怪我の影響を全く感じさせない演技ですね。』テレビの解説者の説明を聞きながら、千尋はいつの間にかクッションを握り締めていた。ショートプログラムで真紀は1位に輝いた。『マキ、よくやった。今度はフリープログラムだ。』『はい。』アンドレと共に記者会見場に現れた真紀は、マスコミは一斉にカメラを向けた。『ショートプログラム1位おめでとうございます。フリーでの演技も期待しております。』『有難うございます、これからも精進して頑張ります。』 会場を後にした真紀はホテルの部屋に戻ると、ベッドの上にあおむけになった。銃撃された右肩はリハビリのお蔭で事件前と少しも変らず動いているが、痛みはまだあった。彼がゆっくりと深呼吸していると、サイドテーブルの上に置かれているスマホがメールの着信を告げた。『1位おめでとう! 千尋より』たった一行だけの、実の弟からのメール―それだけでも、真紀の心は癒された。『おはよう、マキ。』『おはようございます、コーチ。』『右肩はどうだい?』『まだ痛みますけど、無理をしない程度に練習をします。』『今日はしっかりと休め。』『はい。』にほんブログ村
2014年12月08日
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最近近所にできたドラッグストアで、赤城のチョコミントアイスのマルチパックを買いました。チョコミントアイスは、すっきりとした味わいで美味しかったです。
2014年12月07日
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最近、保育園の建設に建設予定地周辺に住む住民達が反対しているとう事態が多くなっているとか。その理由が、「子供の声がうるさい」だからだそうで・・まぁ他にも、保護者の送迎の車が狭い路地を通ることで事故が怒るのではないのかという安全上の理由もあるそうですが、子供の声が騒音に聞こえるのは、一理あるかなぁ。私が住んでいる家の裏が新興住宅地で、小学生が放課後になるとボールで遊びながら大声をあげています。まぁ、子供だから仕方ないよなぁと思っていますが・・子供の声って、結構響きますね。運動会の時とか、周辺に住む人たちにとっては堪らないかも。昨日のテレビで取り上げられたある保育園では、周辺住民達に対して、運動会開催に於ける騒音の発生などを説明したプリントを配布するという配慮などをしていましたし、挨拶などの基本的なコミュニケーションをしていました。やっぱり、一言あるかないかのでは、感じ方の違いがあるんじゃないでしょうかね。たとえば、引っ越してきたマンションの上下両隣が乳幼児が居る家庭で、朝から晩まで子供が走り回る音が聞こえたら、耐えられませんよね?引っ越しの挨拶の際に、上下両隣の住民が、「小さな子供が居てうるさくすると思うので、ご迷惑をお掛けすると思いますがどうぞよろしくお願いいたします」という挨拶があれば、多少の子供の声にも我慢できるでしょう。ですが、「子供は騒ぐものだから、そんなに煩く言うな。嫌なら引っ越せ」という態度だったら、子供の声は「騒音」だと思ってしまいます。しかも擦れ違って挨拶しても無視されたり、少し音を出しただけで「うるさい」と怒鳴り込まれたりしたら、悪感情しか抱きません。騒音問題を解決するのは難しいですが、周辺住民達とのコミュニケーションがないと解決できませんね。「子供のしたことだから・・」、「子供はうるさいものだから」、「子供のすることにいちいち目くじらを立てるなんて・・」そういった考えを相手が持っていると、こちらもムカッとしてしまいますね。「育児の大変さを知らない癖に、偉そうなことばかり言うな」と、この記事を読んでいる皆さんはそうお思いになっていることでしょうが、わたしはただこの問題で自分が思っていることを書いただけですので、あしからず。もし自宅の隣に保育園が出来て、一日中子供の声が響いていたら、耐えることが出来ますか?そのうえ、保育園側から何の説明もなしに、ただ一方的に「我慢しろ」と言われたら?苦情を言いたい住民の気持ちが、少し想像すれば解るのではないでしょうか?まぁ、子供はうるさいものですがね・・逆に静かな子供がいたら、怖いですよ。
2014年12月06日
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「おいミキ、さっさと帰れ。」「何よ、冷たいわね。」女はそう言うと、歳三に背を向けて土方家から出て行った。「歳三さん、さっきの人は?」「ああ、あれは俺の昔の知り合いだ。」「そうですか。」「それよりも、姉貴から聞いたんだが・・静がお前に色々と嫌がらせをしていたんだな。」「ええ。彼女は先ほど、土方家から出て行きました。」「そうか・・千尋、飯にするか。」「はい。」 歳三と千尋が二人きりでディナーを取っている頃、アメリカでは真紀が中国・上海で開催される世界選手権大会に向けて過酷なトレーニングを受けていた。『また4回転サルコウが回りきっていない、これで何度目だ、マキ!』『すいません!』リンクサイドからアンドレの怒鳴り声が聞こえ、真紀は彼に謝りながら、再び4回転サルコウに挑戦した。今度は、失敗しなかった。『いいぞマキ、その調子だ!』練習が終わり、真紀はアンドレとともにリンクの近くにあるダイナーで昼食を取った。『よく食べるな、マキ。』『そうですか?』口元についたケチャップを舐めた真紀は、肉汁が溢れ出ているハンバーガーを頬張った。『まぁ、余り食事制限をし過ぎるのも、ストレスの原因になる。食べたい時は思う存分食べればいい。』『有難うございます、コーチ。』『ただし、間食はするなよ。どうしてもしたいというのなら、ダークチョコレートとアーモンド、ドライフルーツを食べなさい。』『わかりました。』『フィギュアスケートは見た目が重要視されるスポーツだ。痩せすぎても、太り過ぎても駄目。常に中間の体型を維持しなくてはならない。』アンドレはクラブハウスサンドイッチを頬張りながら、そう言うとコーラを一口飲んだ。『ここで少し休んで、リンクに戻って練習再開だ。』『はい。』 練習が終わり、真紀がいつものようにアンドレにホテルまで送って貰う為に彼の車に乗り込もうとしたとき、突然真紀は右肩に激痛を感じた。『誰か、警察を呼べ!』『救急車!』男達の怒号が駐車場内に響き渡り、真紀は朦朧(もうろう)とした意識の中で自分が何者かに撃たれたことに気づいた。 千尋がダイニングルームで朝食を食べていると、テレビのニュース番組で、真紀が何者かに撃たれて負傷したことを知った。「何てこった・・真紀が・・」「歳三さん、真紀は無事なんでしょうか?」「あいつはきっと大丈夫だ。俺達に出来ることは、あいつの無事を祈ることだけだ。」にほんブログ村
2014年12月06日
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今日はイオンのマクドナルドで久しぶりにランチをしました。クーポンでデミチーズグラコロバーガーセットを頼みました。結構デミグラスソースとチーズ、そしてコロッケとの相性が良くて、満足な味でした。
2014年12月06日
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2日に行ったUSJ。平日だというのに混んでいました。お昼は、ジョーズの前にあるボードウィーク・スナックでピザとスープのセットを購入しました。スープはクラムチャウダーとミネストローネのどちらかを選ぶことができます。クラムチャウダーはクリーミーで美味しかったです。11時前後だと空いているお店が多いです。ラグーンを見渡すテラス席よりも、ストーブがある席がいいです。ハリポタエリアの三本の箒は、30分待ちで、中のテーブル席は満席でした。テラス席にはストーブの近くと、湖の近くにある席があります。湖からは、ホグワーツ城が美しく見えます。料理の値段は、2千円前後のものが多いです。フィッシュ&チップスとキドニーパイ&グリーンサラダ、どちらもお勧めです。グリーンサラダは、ドレッシングが3種類あり、その中から選べます。食事はアトラクションを楽しんだ後がお勧めです。
2014年12月04日
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「静さん、お話があります。」「今手が離せないので、後にしていただけませんか?」千尋が土方家のリビングで掃除をしている静にそう声を掛けると、彼女はそっけない口調で千尋にそう言った後、リビングから出て行こうとしていた。「生憎わたしも暇じゃないんです。」「何よ、偉そうに!」静はそう言うと、千尋を睨んだ。「歳三さんの婚約者であるわたしに、使用人の癖に口答えする気ですか?」「あんたみたいな小娘、歳三様の婚約者と認めるわけにはいかないと言ったでしょう!?」「そうですか・・では、この箏(こと)の絃を切ったのはあなたですか?」千尋は静の腕を掴み、彼女を無理矢理ソファに座らせると、袋から絃が全て切れた箏を彼女に見せた。「何よ、そんなもの知らないわ!」「あなた、わたしが今日教室に行くことを知っていましたよね?知っていて、わたしが部屋に居ない間に箏の絃を切ったのですか?」「だから、知らないっていっているでしょう、しつこいわね!」「どうしたの、二人とも?」「信子お嬢様、この人酷いんですよ、あたしが箏の絃をわざと切ったって酷い言いがかりを・・」「あなたのことは千尋さんから聞いているわよ。あなた、千尋さんをこの家から追い出そうと、食べ物の中に虫を入れたりして、色々と嫌がらせをしていたそうじゃない?」「信子お嬢様は、こんな方をわたしより信じるっていうんですか!?」「千尋さんはあなたとは違って、心が綺麗な子なの。」歳三の姉・信子は、テーブルの上に置かれている箏を見た。「これ、亡くなったお母様の箏じゃないの!」「そんな・・奥様のものとは知らなくて・・」信子の言葉を聞いた静は蒼褪めながら、箏と信子を交互に見た。「あなた、もうこの家から出て行って頂戴。」「そんな、信子お嬢様、お願いです!ここから追い出されたら、行くあてがありません!」「こうなったのは、あなたの自業自得でしょう。今まで働いてくれた分のお給料は、退職金と一緒にお支払いするから、今すぐ荷物を纏めてここから出て行きなさい、わかったわね?」静は今にも泣きそうな顔をしながら、リビングルームから出て行った。「信子さん、有難うございます、助けてくださって・・」「歳三から、あなたの様子が少しおかしいから見に来てくれないかと頼まれて来たのよ。まさか、静さんがあんな人だったなんてね・・」信子はそう言って溜息を吐くと、テーブルの上に置かれていた箏を手に取った。「この箏は、専門の業者さんに修理して貰うわ。捨てるには惜しい物ですもの。」「信子さん、今日はお泊りにはならないのですか?」「ええ。千尋さん、またね。」 その日の夜、千尋が歳三の帰りをリビングルームで待っていると、玄関のドアが開く音がした。「歳三さん、お帰りなさい・・」「この子、誰?」 玄関先に立っていたのは、赤いワンピースを着た派手な化粧を施した女だった。「そちらこそ、どなたですか?」「先にそっちから名乗るのが礼儀じゃないの?」女はそう言うと、千尋を睨んだ。にほんブログ村
2014年12月03日
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『コーチ、今日はご馳走していただき、有難うございました。』『余り根詰めるんじゃないぞ、マキ。一流のアスリートにとって最も大事なのは、ストレスのない生活を送ることだ。』『わかりました。』アンドレと宿泊先であるホテルの前で別れた真紀は、そう言うと車に乗り込むアンドレを見送り、ホテルの中に入った。 カードキーで部屋の中に入った真紀は、スポーツバッグの中からタブレット端末を取り出して千尋からのメールを読んだ。そこには、歳三の実家で花嫁修業することになったことや、性別を偽って女子校に転校したことなどが書かれていた。自分が知らない間に千尋が色々と苦労していることを知り、真紀は今すぐにでも弟に会いたいという衝動を必死に抑えながら、彼のメールにすぐさまこう返信した。『千尋、お前も色々と大変だろうけれど、努力すればきっと報われる。土方先生と幸せになれよ。今すぐお前に会って抱きしめたいけれど、その代わりに励ましの言葉を贈るよ。 愛を込めて、真紀より』 土方家で用意された部屋で真紀からのメールを読んだ千尋は、真紀のメールを読んで明日も頑張ろうという気が湧いた。ノートパソコンをシャットダウンさせた後、千尋はベッドに入って熟睡した。「千尋様、起きていらっしゃいますか?」「はい、起きています。」「朝食をお持ちいたしました。」 宮田が朝食を載せたトレイを押しながら千尋の部屋に入ると、彼は既に制服に着替え、鏡の前で髪を櫛で梳いていた。「宮田さん、いつも有難うございます。」「いいえ。それよりも千尋様、ここでの生活はもう慣れましたか?」「はい。宮田さんはいつから、ここで働いているのですか?」「そうですねぇ・・歳三坊ちゃまがまだ赤ん坊の頃からお仕えしておりますから、30年近くになりますかねぇ。」「そんなに・・色々と、大変だったでしょう?」「奥様は歳三坊ちゃまをお産みになった後、産後の肥立ちがお悪くて、歳三坊ちゃまの百日祝いをする前にお亡くなりになられました。わたくしは奥様の代わりに、歳三坊ちゃまを育てたようなものです。」「そうなのですか・・」「歳三坊ちゃまの事はわたくしが良く存じ上げておりますから、千尋様のお力になれると思います。」宮田はそう言うと、千尋に頭を下げて一階へと降りていった。「随分とあの子と仲良くしているじゃないの、宮田さん?」厨房で宮田が昼食の準備をしていると、静が彼女に馴れ馴れしく話しかけてきた。「あんた、もしかして歳三様に取り入ろうとして、あの子に良くしているんじゃないの?」「馬鹿な事を言わないでください。静さん、あなたこそいい加減に千尋様への態度を改めたらいかがですか?」「うるさいわね、家政婦の癖に偉そうにしないでよ!」「おい、そこで何を騒いでいる?」歳三が厨房に入ってくると、静は舌打ちして厨房から出て行った。「宮田さん、あいつと何かあったのか?」「いいえ、何でもありません。歳三坊ちゃま、静さんに気を付けてくださいませ。あの人、また千尋様に嫌がらせをなさるかもしれません。」「わかった。」 放課後、千尋が箏曲教室に入り、土方家から持参した箏(こと)を袋から出して組み立てようとした時、箏の絃が全て切れていることに気づいた。にほんブログ村
2014年12月03日
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これもハリポタエリアで買ったチョコチップクッキーです。ホグワーツの紋章が印刷された袋です。チョコチップクッキーは、紅茶のお供にぴったりの、しっとりとした味わいでした。杖の型をしたチョコレートです。味は結構美味しいです。ミルクとダークの2種類の味がありますが、ダークがオススメです。
2014年12月03日
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ハリポタエリアで買った機関車型の缶に入ったチョコクランチです。パッケージを開けると、9と4/3番線の文字が印刷された包みが。サクッとしたクランチチョコは美味しかったです。
2014年12月03日
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ハニデュークスで買ったカエルミントチョコです。ミントの味が口中に広がって美味しかったです。百味ビーンズです。果物系の味は美味しかったのですが、鼻くそ味はオェッとしました。せっけん味は爽やかな味でした。
2014年12月03日
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殆どお菓子ばかりです^_^;ピアスです。これで1300円は高いですね^_^;
2014年12月03日
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ハリポタエリアを出て、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド・バックドロップを乗ろうとしたのですが、強風の為に点検中でした。待つこと30分、漸く乗ったのですが、かなり怖かったです。でも楽しかった(≧∇≦)ショーはとても綺麗でした。ツリーは昼間見ても素敵でしたが、夜は結構綺麗でした。
2014年12月02日
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USJに母と行きました。平日なのに、結構混んでいました。早めのランチは、ジョーズの前の屋台でピザとクラムチャウダーを頂きました。ハリポタエリアの入り口です。ボグミード村です。ホグワーツ城です。ハニデュークスの前です。お店の中です。昼食兼夕食は、三本の箒です。テラス席は寒いですが、眺めがいいです。
2014年12月02日
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