薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
薄桜鬼 薔薇王腐向け転生昼ドラパラレル二次創作小説:◆I beg you◆ 1
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 10
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
黒執事 平安昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:蒼き月満ちて 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
F&B×天愛 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 1
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事 BLOOD+パラレル二次創作小説:闇の子守唄~儚き愛の鎮魂歌~ 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
天上の愛地上の恋 大河転生昼ドラ吸血鬼パラレル二次創作小説:愛別離苦 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
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FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
F&B 現代昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:恋はオートクチュールで! 1
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 2
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黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 3
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天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
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薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
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天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
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FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
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YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
F&B×薄桜鬼 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:北極星の絆~運命の螺旋~ 1
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・愛の螺旋 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「カイト、話したい事とは何だ?」「これを、子供達に渡して。」 海斗はそう言うと、ジェフリーにある物を手渡した。 それは、海斗がつけたジェフリーとユーリアの育児日記だった。「俺はあと、どの位生きられるのかがわからないから・・」「そんな事を言うな。」 ジェフリーはそう言うと、海斗を抱き締めた。「あのね、ジェフリー、皆で行きたい事があるんだ。」「わかった。」 週末、海斗達は海辺でのピクニックを楽しんだ。「カイト、寒くはないか?」「ううん、平気・・」 海斗はそう言った後、激しく咳込んだ。「お母様?」「ユーリア、大丈夫だからね。」 不安そうに自分を見つめる娘の頭を海斗は優しく撫でた。 それから、海斗は体調を許す限り、週末になると家族と出かけた。「ねぇお父様、お母様、良くなるよね?」「あぁ・・」 幼い子供達を安心させる為に、ジェフリーは嘘を吐いた。 だが、その事に気づいた海斗達は、子供達を寝室に呼んだ。「あのね、今日は二人に話しておきたい事があるの。」「話しておきたい事って?」「お母様の病気は、もう治らない。残念だけれど、あなた達と居られる時間は、そんなに長くないの。」「嫌だよ、そんなの!」「お母様は、あなた達を遺して逝くのが辛い。でも、その日が来るまで、お母様はあなた達と一緒に楽しい思い出を作りたいの。」「お母様・・」 子供達と話をした後、海斗はジェフリーを自分の寝室に呼んだ。「ジェフリー、子供達に嘘を吐かないで。あの子達は俺達が思っているよりも、色々と考えているから。」「わかった・・」 海斗の病状は、日に日に悪化していった。「先生、俺はあとどの位生きられますか?」「長くて一年、短くても半年でしょう。」「そうですか・・」 医師から余命宣告をされ、海斗は子供達と共に過ごす時間を増やした。「お母様、今日は勿忘草を摘んで来たよ!」「ありがとう。」「お母様は、わたしの事を忘れないでいてくれる?」「忘れないよ。だからユーリアも、俺の事を忘れないでいてくれる?」「うん、忘れないよ!」「ありがとう。」 クリスマス・シーズンを迎え、海斗はもう寝台から起き上がれない程、弱っていた。「お父様、サンタさん、うちにも来てくれるかなぁ?」「あぁ、きっと来るさ。」 クリスマス=イヴ、ロンドンは大雪に見舞われた。「うわぁ、雪だ!」「二人共、気をつけろよ!」ナイジェルがジェフリーとユーリアを連れ、凍ったテムズ川でスケートを楽しんでいると、ジェフリーが何処か暗い表情を浮かべながら彼らの元へとやって来た。「ナイジェル、カイトが・・」 ナイジェル達が屋敷に戻ると、海斗は寝室で苦しそうに息を吐いていた。「お母様!」「ユーリア、お兄様と仲良くね。ジェフリー、ユーリアを頼むわね。」「うん・・」「二人共、わたしを忘れないで。」 家族に静かに見送られ、海斗は息を引き取った。(カイト、子供達の事は俺に任せて、安らかに眠ってくれ・・) 毎年春になると、子供達は海斗の墓に勿忘草を供えた。 ジェフリーは、生涯独身を貫き、子供達を育て上げた。 幾度も季節が巡り、ジェフリーは病に倒れ、最期の時を迎えようとしていた。「お父様、しっかりして!」「カイト、迎えに来てくれたのか・・」 ジェフリーはそう言ってユーリアとジェフリーに優しく微笑むと、静かに息を引き取った。「お父様も、逝ってしまわれたわね・・」「あぁ・・」 父を見送った後、ユーリアとジェフリーは父の葬儀を終え、彼の遺品を整理した。 二人は父の遺品の中からアルバムを取り出し、それを開いた。 すると、そこには新婚時代から海斗が亡くなるまでの膨大な家族写真と、ジェフリーと海斗の書き込みがあった。「二人共、幸せそう・・」「そうだな・・」 アルバムの最後のページには、こう書かれてあった。『わたしを忘れないで』「何でだろう、涙が・・」「なぁ、ユーリア、この屋敷はどうする?」「残しましょう。」 二人を、忘れない為に――FIN-にほんブログ村
2023年04月11日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。海斗の呼び掛けに一切答えず、外からは尚一層激しくドアを叩く音が聞こえて来た。「奥様、どうかなさいましたか?顔色が悪いですよ?」「アデル・・」海斗はそう言った後床に倒れ込んで、意識を失った。「カイト、大丈夫か?」「ジェフリー、赤ちゃんは?」「大丈夫だ。それよりも、アデルから話は聞いたぞ、変な奴がここに来たんだってな?」「うん・・でも、誰なのかわからなかったよ。」「警察に連絡しろ、ナイジェル。何かが起きる前に、早めに対策を打っておいた方がいいだろう。」「そうだな。」ナイジェルの通報を受けたスコットランド・ヤードの刑事は、ジェフリーにある物を手渡した。それは、黒魔術に使われるような、不気味な人形だった。「これは処分してくれ。」「はい・・」海斗が倒れたという連絡を受け、リリーが駆け付けてくれた。「そんな事があったの。余り一人で出歩かないようにしないとね。」「うん・・」この出来事を機に、海斗に対する陰湿な嫌がらせが始まった。海斗の洗濯物だけが泥だらけで放置されたり、彼女の私物がなくなったりしていた。「そう・・あなたの私物がなくなるなんて、気味が悪いわね。なくなった物は、どんな物なの?」「化粧品とか、香水とか・・」「金目の物が盗まれていないところも、怪しいわね。」往診に来ていたリリーがそう言った時、外から食器が割れるような男が聞こえた。「申し訳ございません!」「アデル、怪我は無い?」「はい・・」アデルは慌てて割れた食器を片づけると、海斗とリリーに一礼して厨房へと戻っていった。「ねぇカイト、あの子・・アデルとは何処で知り合ったの?」「アデルとは、三ヶ月前に行きつけのパン屋さんで知り合いました。」「紹介状は、持っていなかったの?」「うん・・」「こんな事は余り言いたくないのだけれど、アデルの事がどうしてもひっかかるのよね。紹介状もなしにここに来るとか、少し怪しいわね。」「そうかな?」リリーとそんな話をした後、海斗はモヤモヤした思いを抱えながら寝室に入ると、寝台の近くに置いてあった宝石箱の位置が少しずれている事に気づいた。 中身を確認すると、ジェフリーが結婚式の時にプレゼントしてくれたダイヤモンドのブレスレットがなくなっている事に気づいた。(一体、誰が・・)海斗はその日、一睡も出来なかった。嫌がらせを受け、海斗は体調を崩して入院する事になった。「アデル、少し話したい事があるが、今いいか?」「はい・・」アデルがジェフリーの書斎に入ると、そこには険しい顔をしたジェフリーとナイジェル、そしてスコットランド・ヤードの刑事の姿があった。「皆さん、そんな怖い顔をされてどうなさいました?」「お前だな、カイトに嫌がらせをしていたのは?」「そんな・・何の証拠があって・・」「今朝、俺が贔屓にしている質店に、このブレスレットを売りに来た女が居たという情報が入ってな。その時、ブレスレットを売った女の似顔絵を店主が俺に渡してくれた。アデル、お前だろう?」ナイジェルにそう問い詰められたアデルは、突然大きな声で笑った。「何がおかしい?」「あ~あ、上手くやったと思ったのに。」「どうして、カイトを苦しめるような真似をしたんだ?」「只の嫉妬でやった事よ。わたしと同い年なのに、全てを手に入れた彼女が憎かったの!」刑事に連行される前、アデルはそう叫んで笑った。「そう・・アデルが・・」「カイト、家の事は俺達に任せて、お前は腹の子の事だけを考えていればいい。」「うん・・」海斗はそう言うと、下腹を擦った。「悪阻はもう治まったのか?」「うん・・でも、最近胎動が激しくなって、苦しいかな。」「余り無理をするなよ。」海斗の病室から出たジェフリーは、そこでキットに会った。「キット、こんな所で会うなんて珍しいな。」「実は、お前のお袋さんがここに来ているんだ。」「あの人が?まさか、カイトに何かするつもりじゃ・・」「それはないな。お前さんは、お袋さんを誤解しているな。どれ程お前さんとお袋さんが憎しみ合っていても、孫の存在は別物なのさ。」「そうか?」キットとジェフリーがそんな事を話し合っている頃、海斗はエセルと病室で対峙していた。「そんなに緊張しないで・・」「俺は・・」「この前会った時、あなたに酷い事を言ってしまったわね、ごめんなさい。」 エセルはそう言うと、海斗の手を握った。「元気な子を産みなさい。」「はい・・」海斗は、エセルと和解したことを、ジェフリーに話した。「そうか・・」「俺、あの人の事を誤解していた。」「キットが言った事は、間違っていないかもしれないな。」「彼は、何て言ったの?」「どんなに俺とあの人が憎しみ合っていても、孫は別だとな。」「そう・・」季節は瞬く間に過ぎ、海斗は臨月を迎えた。「そんなに動いて大丈夫なのか?」「リリーは、少しの運動なら大丈夫だって言っていたよ。」そう言いながら海斗が床を磨いていると、彼女は下腹の激痛に襲われ、その場に蹲った。「カイト、どうした!?」「産まれそう・・」「ナイジェル、ナイジェル!」 慌てたジェフリーは、ソファの角にぶつかり、右足を捻挫してしまった。「慌て過ぎよ、ジェフリー。産まれてからが大変なのに、父親のあなたがしっかりしなくてどうするの?」「済まない、リリー。」「ナイジェル、お湯を沸かして。ジェフリー、あなたは清潔なシーツを持って来て!」「わかった・・」産室となった寝室で、海斗は産みの苦しみに襲われて呻いていた。「大丈夫、ゆっくり呼吸して。」「はい・・」同じ頃、寝室の前ではジェフリーが落ち着かない様子で廊下を行ったり来たりしていた。「ジェフリー、落ち着け。」「ナイジェル・・」「あんたはこれから父親になろうとしているのに、そんな頼りない存在でどうする?」「リリーと同じ事を言うんだな。」「ジェフリー、子が産まれたら授乳以外全て赤子の世話をやれ。産後の恨みは一生ものだと思え。」「わかった。」明け方に産まれたのは、元気な男児だった。「おめでとう。」「カイト、頑張ったな。」「うん・・」海斗は息子を産んでから体調を崩し、寝たきりになってしまった。 ジェフリーとナイジェルは寝たきりの海斗の代わりに息子を育てた。「出産は何が起きるかわからないものなの。カイトの場合は難産で、出血が酷かったから身体への負担は大きかった筈。」「カイトは、あとどの位で生きられるんだ?」「それはわからないけれど、出来るだけカイトを支えてあげて。」「わかった・・」海斗は寝たきりになっても、体調が良い時は書類仕事をする傍ら、息子の育児日記をつけていた。彼女が命懸けで産んだ息子・ジェフリーは、五歳の誕生日を迎えた。「母さん、母さんが好きなラベンダー、摘んで来たよ!」「ありがとう、いい香り。」海斗がそう言ってジェフリーに微笑むと、頬を膨らませながら海斗の長女・ユーリアが部屋に入って来た。「お兄様ばかり、ずるい!」「二人共、仲良くしてね。」海斗は子供達の頭を撫でながら、あとどの位彼らの成長を見守れるのだろうかと思い始めていた。にほんブログ村
2023年04月08日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。「ジェフリー様・・」「俺の妻を今度侮辱したら、ただでは済まないぞ。」「この子が、あなたの妻ですって!?」「あぁ。カイトとは正式には結婚していないが、近々俺は彼女と一緒になるつもりだ。」「そんな事、認められないわ!」「認められなくても、俺達は結婚する。」「ジェフリー!」 ジェフリーの前に、怒り狂ったエセルが現れた。 彼女は、ジェフリーを睨みつけた。「あなたは、本気でこの子と結婚するつもりなの!?」「えぇ、あなたに何と言われようとも、俺はカイトと結婚します。」「勝手になさい!」 エセルはそう叫んだ後、ドレスの裾を翻してアーリントン家の大広間から出て行った。「あら、誰かと思ったらジェフリーではないの?」「お久し振りです、マダム。」「そちらの方が、あなたの伴侶ね?」 アーリントン夫人は、そう言って海斗に微笑んだ。「初めてお目にかかります、カイトと申します。お騒がせしてしまって、申し訳ありませんでした。」「いいえ、そんな事はないわ。そのネックレス、あなたに良く似合っているわ。」「ありがとうございます。母の形見なんです。」「こんな所で立ち話もなんだから、向こうで話さない?」「はい、喜んで。」 アーリントン夫人と海斗は、大広間の隅にある長椅子の上に腰を下ろした。「あの、奥様とジェフリーの関係は・・」「ジェフリーとは、長い付き合いでね。わたしは昔、彼の家庭教師をしていたのよ。」「そうなのですか・・」「ジェフリーの事を、宜しく頼むわね。」 アーリントン夫人に認められた事で、海斗とジェフリーの結婚は社交界に認められる事になった。「まぁ、素敵なドレスね!」「パリでは、コルセット無しのドレスが流行っていますのよ。カイト様には、白が似合いますわね。」 マリーは海斗のウェディングドレスの仮縫をしながら、そう言うと笑った。「結婚式は、何処でやるの?」「エディンバラだ。あそこには、カイトの母親が眠る教会があるからな。」「そう。」 結婚式まであと三ヶ月となったある日、海斗はジェフリーと共にピクニックへと来ていた。「風が気持ちいいね。」「あぁ。」 二人がそろそろ屋敷へと戻ろうとすると、突然土砂降りの雨に降られた。「濡れちゃったね・・」 雨宿りの為に避難した馬小屋で海斗がそう言うと、ジェフリーが突然彼女を抱き締めて来た。「え、ジェフリー?」「お前を、抱きたくなった。」「ん・・」 濡れたブラウス越しに乳首を弄られ、海斗は下腹の奥が疼くのを感じた。「あっ、駄目・・」「こんなに、濡れているのに?」 ジェフリーは、そう言いながら海斗の膣を弄ると、彼女の小さな分身が白濁液を吐き出した。「指、抜いて、お願い・・」「解しておかないと、辛いだろう?」「欲しいの・・」「そうか。」 ジェフリーはそっと指を海斗の膣から抜くと、己の分身を彼女の中に埋めた。「はぁっ・・」「きついか?」「あ・・奥、奥まで・・」 ジェフリーが海斗の最奥まで己の分身を進めると、柔らかい彼女の肉襞が彼を包み込み、締め付けた。「カイト、動くぞ・・」「ゴリゴリして、気持ちいい!」「カイト・・」「あ~!」 海斗は脳髄の神経が焼き切られるような激しい快感に襲われ、意識を失った。「カイト、大丈夫か?」「俺・・」「風邪をひかない内に帰ろう。」「うん。」 三ヶ月後、ジェフリーと海斗はエディンバラにある小さな教会で結婚式を挙げた。「天国から、お前の母さんやお祖母様も見守って下さっているよ。」「うん、そうだね・・」 結婚式を終え、宿泊先のホテルで二人は一夜を過ごした。「カイト様は、ジェフリー様に愛されておいでのようですね。」「え?」「情熱的なキスマークがついていますわ。」「もう、余り目立つところに痕をつけるなってあれ程言ったのに・・」 海斗は手鏡でジェフリーにつけられたキスマークを確認して溜息を吐いた後、宝石箱から黒真珠のチョーカーを取り出し、それを首に巻いた。「これで目立たない、と・・」「まぁ、お似合いですわ。」「それじゃぁ、行って来ます。」 自室から出た海斗は、ジェフリーが待つ玄関ホールへと向かった。「そのチョーカー、良く似合っているな。」「あなたがつけた痕を隠す為につけたの。」「そんなに怒るな。」 ジェフリーと海斗がロンドン市内のホテルで開かれた慈善パーティーに出席した際、海斗がつけていた黒真珠のチョーカーが貴婦人達の注目を浴びた。「何処のものかしら?」「見事な黒真珠だわ・・」 偶々海斗がつけていた黒真珠のチョーカーは、一時期貴婦人達の間で流行した。「カイト・・」「今夜は、痕をつけないでよ。」「わかった・・」 ジェフリーはそう言うと、海斗の唇を塞いだ。「奥様、どうかなさいましたか?」「少し、気分が悪くなって・・」 いつものように書類仕事をしていた海斗は、突然激しい吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。「もしかして、悪阻ではありませんか?一度お医者様に診て貰っては?」(赤ちゃん・・) ジェフリーと結婚してからというもの、彼は昼夜問わず海斗を激しく抱いた。 妊娠の可能性もあるかもしれない―そう思った海斗は、ある場所へと向かった。 そこは、海斗の知人で産婦人科医であるリリーが経営している診療所だった。「カイト、どうしたの?」「リリー・・」「その様子だと、何かあったのね?待合室で待っていて。」「うん・・」 数分後、海斗は妊娠している事をリリーから告げられた。「おめでとう、今は妊娠九週目よ。悪阻が酷くなる時期だから、余り無理しないようにね。」「わかった。」「ジェフリーには、まだ話していないの?」「うん・・」「早く話した方が良いわ。」 クリニックから帰宅した後、海斗はジェフリーに妊娠している事を話した。「そうか。」「嬉しくないの?」「いや、そうじゃないんだ。初めての事だから、どうしたらいいのかわからなくてな・・」「俺だって初めてだからわからない事が沢山あるよ。だから、これから二人で乗り越えていこう。」「あぁ。」 安定期を迎えた海斗は、仕事を暫く休む事にした。「経過は順調よ。」「リリー、俺ちゃんと育てられるかな・・」「不安になるのは当り前よ。ねぇカイト、ジェフリーのご家族はあなたの妊娠の事を知っているの?」「ううん、知らないと思う。ジェフリーは、両親と上手くいっていなかったみたいだし、ジェフリーのお母さんは、俺の事を嫌っているようだし・・」「それは、そうかもしれないわね。わたしだって、夫のジョーと知り合った時、彼のお母さんから色々と嫌な事を言われたの。まぁ、最後は和解したけど、やっぱり一度、話し合うべきだと思うのよ。」「そうか・・」 ジェフリーが、実の両親と仲が悪い事は知っているし、エセルと今更和解するのも無理だという事も知っている。「カイト。」「ナイジェル、久し振りだね。」「妊娠したとジェフリーから聞いたから、悪阻を和らげるハーブティーを持って来た。」「ありがとう。ジェフリーは書斎に居るよ。」「わかった。」 ナイジェルが持って来てくれたハーブティーの茶葉をティーポットに海斗が淹れていると、外から誰かがドアノブを激しく叩く音が聞こえた。「どちら様ですか?」にほんブログ村
2023年03月31日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「ここか・・」「ロマと警官隊が衝突した場所か。昨夜あんな騒ぎがあったのに、随分と賑やかだな。」 キットとナイジェルがそんな事を言いながらサザークを歩いていると、一人の女が彼らの前に現れた。「お兄さん達、ちょっとうちに寄っていかないかい?」 胸元が大きく開いたドレスを着た女の職業を、二人は何となく察した。「姐さん、何か知っているのかい?」「知っているも何も、ロマはうちのお得意さんでね。」「それじゃぁ、昨夜の騒ぎについては?」「ハーリントン伯爵様が、サザークの治安を良くしたいが為に、ロマを一掃させる運動を進めているようだよ。」「どうして、伯爵がそんな事を?」「さぁね。」「もしかして、暴動というのは伯爵の狂言かもしれないな。」 キットは現場近くにあるカフェで紅茶を飲みながらそう言うと、一冊の手帳を鞄から取り出した。 そこには、彼が取材して来た事件を纏めていた。「凄いな。これは何だ?」「あ、それは・・」 ナイジェルは、キットが手帳の端に自分の顔を落書きしている事に気づいた。「見逃してくれ・・」「ふん、いいだろう。」「ありがとう・・」「それにしても、ハ―リントン伯爵といえば、カイトの父親か・・何だか、因果めいたものを感じるな。」 キットとナイジェルがサザークからジェフリーの屋敷へと戻ると、客間から軽やかな笑い声が聞こえて来た。「どうした、誰か来ているのか?」「ナイジェル、お帰りなさい。」 ナイジェルが客間のドアをノックすると、中から見知らぬ女が出て来た。「はじめまして、わたしはマリー。カイト様のドレスを仕立てに来ましたの。」 そうナイジェルに名乗った女―マリーは、榛色の瞳でじっと彼を見た。「俺の顔に何かついているか?」「いいえ。ただ、あなたは女装に向いていらっしゃるなぁと思いまして。」 マリーの言葉を聞いたキットが堪らず噴き出すと、ナイジェルに肘鉄を喰らい、その場に蹲った。「やはり、カイト様にはペールブルーのドレスが似合いますわね。」「そうかなぁ?」「ペールブルーも似合いますけれど、他にもクリーム色や薔薇色、菫色も似合いますわ。アクセサリーは・・そうね、真珠のネックレスが似合いますわね。」 そう言うとマリーは、宝石箱の中から美しい真珠のネックレスを取り出した。 それは、エメラルドが先についているものだった。「これは・・」「カイト、このネックレスに見覚えがあるのか?」「あの時、手放した、母さんの形見・・」 孤児院を救う為、海斗が断腸の思いで手放したネックレスは、再び彼女の元に戻って来た。「これは、わたくしが質店から買い取りましたのよ。何でも、このネックレスを売りに来たのは若いお嬢さんだったようで・・まさか、そのお嬢さんがカイト様だったなんて!」「このネックレスは、俺の母親の形見なんです。」「まぁ。道理で、そのネックレスがカイト様に似合っていると思いましたわ。」 マリーは海斗の涙を、優しくハンカチで拭った。「さてと、これから何着かドレスを作りませんと。そうね、ウェディングドレスも。」「そんな、俺は・・」 海斗がそう言って頬を赤く染めると、ジェフリーが突然海斗の前に跪いた。「カイト、俺と結婚してくれないか?」「え?」「俺は、生涯を共にするのならお前以外考えられないと思ったんだ。」 ジェフリーはそう言うと、海斗の左手薬指にダイヤモンドが鏤められたペリドットの指輪を嵌めた。「本当に、俺なんかでいいの?」「俺は、お前無しの人生は考えられない。」 ジェフリーは、そう言った後海斗を抱き締めた。「嬉しい・・」「まぁ、ご結婚おめでとうございます!」 マリーはそう言ってハンカチで鼻をかんだ後、首に掛けていたメジャーで素早く海斗のウェストを測った。「カイト様の為に、最高のウェディングドレスをおつくりしますわ!」「頼んだよ、マリー。」 玄関ホールでマリーと熱い抱擁を交わしたジェフリーと海斗は彼女達を見送った後屋敷の中へと戻ろうとしたが、その時彼らの前に四頭立ての馬車が停まり、その中からジェフリーの母・エセルが降りて来た。」 エセルはじろりと海斗を睨みつけると、彼女の頬を平手で打った。「あなたね、わたしの息子を誑かしたのは!」「やめろ、母さん!」「いい事、わたしはあなたを決してロックフォード家の嫁とは認めないわよ!」「認めてくださらなくても結構です!」「まぁ、生意気ね!」 エセルは海斗の言葉に憤慨すると、そのまま馬車の中へと戻っていった。「ごめん、ジェフリー、俺・・」「謝るな。」 アーリントン家で開かれた舞踏会に、エリザベスは婚約者のジョーゼフと出席した。―まぁ、あの方・・―厚顔無恥もいいところだわ。 貴婦人達の非難の視線の先には、ペールブルーのドレスと、真珠のネックレスをつけた海斗の姿があった。「カイト、そのネックレスはわたしの・・」「いいえ、これは俺の母の形見です。」「このっ・・」「腐った性根は相変わらずだな、エリザベス。」にほんブログ村
2023年03月25日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「ジェフリー、あんたが今、どんな風に社交界で噂をされているのか、知っているのか?」「さぁ、俺は社交界の事に疎くてな。」「“ハ―リントン家の私生児を囲っている放蕩者”だとよ。」 ナイジェルはそう言うと、ジェフリーに新聞の社交欄を見せた。 そこには、海斗とジェフリーに対する悪辣なゴシップが載っていた。「こりゃ酷い。ありもしない事を上手くさも本当の事のように書いているな。この記事を書いた奴は、記者よりも作家の方が向いているのかもしれないな。」「ふざけているのか!?」「いいや。ナイジェル、俺達に会いに来たのは、それだけじゃないだろう?」「あぁ。」 ナイジェルはソファの上に腰を下ろすと、ジェフリーに一通の招待状を手渡した。「来週末、アーリントン家で舞踏会が開かれる。あの人は、父親は・・カイトと出席しろと言って来た。」「そうか。」「俺は、これで失礼する。」「ナイジェル、もう夜は遅いんだからここに泊まったらどうだ?」「いいのか?」「いいも何も、俺達は家族だろう?」「わかった。」 海斗が寝室で眠っていると、外から大きな音が聞こえて来た。(何?) 海斗がカーテンを開けて窓の外を見ると、向こうから黒煙が上がっていた。「カイト、起きているか?」「うん。それよりもジェフリー、あれ・・」「何だか、嫌な予感がするな。」 ジェフリーがそう言った時、ナイジェルが居間に入って来た。「ジェフリー、どうやらサザークの近くで騒ぎがあったらしい。何でも、ロマと警官隊が衝突したそうだ。」「どうして、そんな事が・・」「さぁな。今日はもう遅いから寝よう。」 翌朝、海斗達の元に一人の新聞記者がやって来た。 彼は、クリストファー=マーロウと名乗った。「キット、良く来てくれたな。朝早くから済まない。」「いいって事よ。それよりも・・」 クリストファーことキットは、そう言うとナイジェルの顎を掴んで自分の方へと振り向かせた後、その唇を塞いだ。 その直後、キットは暖炉の前まで吹っ飛んだ。「もう一度こんな事をしてみろ、次は拳だけでは済まないと思え!」「たかがキスでそんなに怒る事はないだろう。」「黙れ、今すぐその舌を引っこ抜いてやる!」「落ち着け、ナイジェル。」 ジェフリーは怒り狂うナイジェルを宥めると、ダイニングルームへと向かった。「カイトはどうした?」「まだ部屋で寝ている。昨夜は遅くまで仕事をしていたみたいだからな。」「そうか。それよりもジェフリー、この家に使用人は居ないのか?」 キットは焼き立てのトーストにジャムを塗りたくりながら、厨房の方を見た。「あぁ。使用人を雇う金がないからな。」「じゃぁ、この料理は誰が・・」「ジョー!」「お呼びですかい、旦那。」 カツカツと義足を大理石の床に響かせながら、厳つい顔をした男がやって来た。「彼はナイジェルが個人的に雇っている料理人のジョーだ。言っておくがキット、彼は俺とナイジェル、カイトの言う事しか聞かない。」「そうか・・」 大きな肉切り包丁を握りながら自分の方を睨みつけるジョーに、キットはジャム塗れのトーストを一口齧った後、ジョーから目を逸らした。「おはよう、ジェフリー、キット。そちらの方は?」「俺はクリストファー=マーロウ、ロンドン・タイムズの記者をしている傍ら、戯曲を書いている。まぁ、キットと呼んでくれ。」「カイト様、どうぞこちらへ。」「ありがとう、ジョー。」「アップルパイをお持ち致します。」「ジョー、俺にもひとつくれないか・・いや、冗談だ。」 ジョーに睨まれ、キットはそう言って軽く咳払いすると、紅茶を一口飲んだ。「それでキット、昨夜の事はわかったのか?」「あぁ。サザークでロマ達が集会を開いていると、何者かの通報を受けた警官隊が駆け付け、小競り合いになり・・といった具合だそうだ。」「一体、何があったんだろう?」「それは今から取材しようと思っている。どうやら、この事件には何か裏があるような気がしてならないんだ。」「キット、俺も一緒に行っていい?」「俺も一緒に行こう。お前にカイトは任せておけないからな。」「俺はそんなに信用出来ないか?」「あぁ。」 朝食を済ませた後、海斗は身支度をした。「カイト、入ってもいいか?」「どうぞ。」 海斗はジェフリーが部屋に入って来た時、コルセットを締めようと悪戦苦闘している所だった。「中々刺激的な格好をしているな?」「からかう暇があったら、手伝ってよ!」「わかったよ。それよりも、いつまでも男の俺がお前の着替えを手伝う訳にはいかないから、そろそろ侍女の一人か二人位雇わないとな。」「そうだね・・」「そんな悲しい顔をするな、カイト。」 そんな事を話しながらジェフリーが海斗のコルセットを締めていると、そこへナイジェルがやって来た。「ジェフリー、少し見て貰いたい書類が・・済まない、カイト!」 ナイジェルは顔を赤くしながら、海斗の部屋から出て行った。「どうした、ナイジェル?熱があるのか、顔が赤いぞ?」「何でもない。」にほんブログ村
2023年03月22日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。 クリスマスは、海斗にとって大切で大好きな日だった。 母が生きていた頃、母は僅かな収入の中から海斗へのプレゼントを買ってくれた。 母が亡くなってから、クリスマスはハ―リントン家で一年の中で最もこき使われる日だった。 だが、それでも海斗はクリスマスが好きだった。「うわぁ、雪だ!」「綺麗~!」「みんな、風邪ひかないでね。」 クリスマスの朝、ロンドンには大雪が降った。「テムズ川が凍ったってさ。」「そりゃ大変だね。」 ジェフリーが街を歩いていると、大雪の所為か商店の多くは閉まっていた。「ジェフリー、来てくれたのね。」 カフェにジェフリーが入ると、奥のテーブル席に座っていたジェフリーの継母・エセルがそう言って立ち上がった。「あなた、家には戻らないつもり?」「あぁ。」「クリスマスだというのに・・」「俺はもう、あの家には戻らない。」 エセルに背を向け、ジェフリーはカフェから出て行った。 ナイジェル―ジェフリーの異母弟とジェフリーはよく連絡を取り合っているが、両親とは殆んど会っていない。 軍に入った頃―正確に言えば、パブリックスクールに入学した頃から、実家に寄りつかなくなった。 両親は政略結婚で結ばれ、ジェフリーが産まれた頃は既にその夫婦仲は冷え切っていた。 ジェフリーは実母であるエセルよりも、乳母のアンナに懐いた。 だがそのアンナは、ジェフリーが12歳の頃に事故で亡くなった。 事故の内容は詳しくは憶えていなかったが、噂によればジェフリーの父親が殺したという。 アンナが父の愛人だったのか―今となっては、わからない。「ジェフリー。」「ナイジェル、どうした、こんな所で会うなんて珍しいな。」「母を見舞いに来た。」「そうか。お袋さん、大丈夫なのか?」「いや・・」 ナイジェルの母は、半年前にロックフォード家のメイドを辞め、入院していた。「あの人は、どうしている?」「さぁな。それよりもジェフリー、今は“天使の家”で暮らしていると聞いたが、本当なのか?」「あぁ。」「また会おう、メリー・クリスマス。」「メリー・クリスマス。」 ナイジェルと別れたジェフリーが“天使の家”に戻ると、正面玄関にはクリスマスツリーが飾られていた。「お帰りなさい。」「このツリーは?」「みんなで飾りつけたんだ。ハロッズみたいに豪華には出来なかったけど。」「センスがあっていいな。」「ありがとう。」 クリスマスの夜、海斗達はご馳走を食べ、プレゼントを交換し合った。「来年も、みんなとクリスマスを祝えたらいいわね。」「はい、お祖母様。」 だが、これが海斗とナオミが共に過ごした、最初で最後のクリスマスだった。 クリスマスの四日後、ナオミは肺炎に罹り亡くなった。「海斗、あなたはもう独りじゃないわ。彼と幸せになりなさい。」「お祖母様・・」 海斗は、涙を流してナオミの手を握った。 ナオミの葬儀が終わり、海斗は“天使の家”の運営に携わったが、無理をしてしまい、熱を出して寝込んでしまった。「カイト、大丈夫か?」「うん。」「医者が言うには、お前は働き過ぎなんだそうだ。暫く休め。」「わかった・・」 海斗が自室のベッドで休んでいると、外から突然何かが弾けるような音が聞こえた。「カイト、起きろ、火事だ!」「え?」「子供達は無事だ!」 海斗はジェフリーと共に燃え盛る孤児院から脱出した直後、建物は紅蓮の炎に包まれ、崩落した。 子供達と職員達に全員怪我は無く、ナオミの遺品や孤児院の帳簿などが入った金庫は無事だった。「これから、どうしましょう・・」「立ち止まっている暇はないよ。」 火事の後、海斗は孤児を受け入れてくれる孤児院探しに奔走した。「みんな、良い子にするんだよ。」「マザーも、お元気で。」 キング=クロス駅で孤児達を送り出した後、海斗はジェフリーと共に彼の自宅へと向かった。「ここ、本当にあなたの家?」「ああ。今朝不動産屋を叩き起こして買ったんだ。ここならお前と気兼ねなく過ごせるからな。」 ジェフリーはそう言うと、海斗の唇を塞いだ。「荷物を置いてくるね!」 赤くなった顔をジェフリーに見られないように、海斗はジェフリーが自分の為に用意してくれた部屋に入った。 そこは、薔薇色の壁紙に彩られた美しい部屋だった。「気に入ったか?」「うん。」「そうか、良かった。」 その日の夜、海斗は誰かが屋敷のドアを叩いている音で目を覚ました。「誰なの?」「俺が出る。」 ジェフリーがランプを手にして玄関ホールへと向かいドアを開けると、そこには渋面を浮かべたナイジェルの姿があった。にほんブログ村
2023年01月31日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「これから、あなたはどうするの?」「俺は、君のお義姉様とは結婚しない。そもそも、俺は彼女と結婚する気はなかった。」「そうですか・・」「カイト、君はどうしたい?」「俺はここで・・“天使の家”で暮らします。ここはあそこと違って誰にも気遣いする事無く暮らせるので・・」「そうか。」「それに、俺はあの家にずっと相応しくないと思っていました。」 海斗はそう言うと、ハ―リントン家で暮らしていた頃の事をジェフリーに話し始めた。 海斗の実母は、歌手を目指し渡英したが、ハ―リントン家のパーティーでハーリントン伯爵と恋に落ち、海斗を産んだ。 しかし伯爵は彼女を捨て、海斗の実母は失意の中病に罹り、海斗が七歳の時に亡くなった。 母を亡くし、祖母・ナオミと引き離された海斗は、使用人としてハ―リントン家に引き取られた。 庶子というだけで、海斗はハーリントン家の人間から“居ない者”のように扱われた。「孤児院で暮らした方が、マシだったかもしれません。」「そうか・・俺も、君と似たような立場だが、俺は恵まれているかもしれんな。」「まぁ、それは初めて聞きました。」「俺の父の家は、代々軍人でな。母とは政略結婚で結ばれ、母が俺を産んだ後父は愛人を作った。」「愛人?」「あぁ、相手は裕福な商人の娘で、その愛人はブルネットの髪と美しい灰青色の瞳をしていた。父はその愛人に息子を産ませた後、俺に弟が産まれた。父は色々と下半身がだらしなくて忙しい人なんだ。」 ジェフリーは自嘲気味にそう言って笑うと、前髪を搔き上げた。「そうなんだ。何処の家も大変なんだね。」「まぁな。」 孤児院の厨房で、海斗とジェフリーはじゃがいもの皮を剥きながら互いの事を話していた。「器用なんだな。」「物心ついた頃から厨房で仕事をしていたからね。裁縫も得意だよ。」「へぇ。俺も、母さんが寝たきりだったから、家事全般は俺とメイドがしていた。」「お母さんはどうして、寝たきりになったの?」「色々あってな。さてと、そろそろじゃがいもを揚げるか。」「そうだね。」 海斗とジェフリーが、フィッシュアンドチップスを子供達の元へと運ぶと、彼らは歓声を上げた。「うわぁ、美味しそう!」「みんな、慌てないで。」 子供達を寝かしつけた後、海斗とジェフリーはナオミの部屋に呼ばれた。「今日は二人共大変だったわね。さぁ、ショートブレッドを焼いたから、どうぞ。」「ありがとうございます、頂きます。」「お祖母様、お話というのは何でしょうか?」「あなた宛に、ハ―リントン家から手紙が届いているわよ。」「ありがとうございます。」 海斗はナオミからハ―リントン家の手紙を受け取り、すぐさまそれに目を通した。「あの人達は何だって?」「お前はクビだから荷物を取りに来いと。」「一人で大丈夫か?」「はい。」 翌日、海斗はハ―リントン家に荷物を取りに行った。 旅行鞄に私物の全てを詰め込んだので、屋敷には余り海斗の私物は残っていなかった。「お世話になりました。」「あんたも長い間よく耐えたねぇ、お疲れ様。」 海斗を労ってくれたのは、メイド長だけだった。「待ちなさい!」 裏口から海斗が外へと出て行こうとした時、エリザベスが彼女の腕を掴んだ。「何か最後に、わたくしに言いたい事はないの?」「いいえ。でも、お礼だけはさせて下さい。」「お礼?」「ええ。」 海斗はエリザベスに優しく微笑むと、彼女の頬を平手打ちした。「さようなら、お元気で。」 卵色の屋敷を後にすると、海斗は駅までの道を歩いた。 今度は森を抜けなかったので、疲れ果て宿屋の一番良い部屋を取らずに済んだ。 汽車でロンドンへと戻った海斗は、ハロッズの中に生まれて初めて入った。 正面玄関には、美しいオーナメントで飾られたクリスマスツリーがあった。(もう、そんな季節か。) 母が生きていた頃、毎年クリスマスには小さなクリスマスツリーを作って海斗とささやかなパーティーをして楽しんだものだった。 海斗は暫く感傷に浸った後、ハロッズで子供達へのクリスマスプレゼントを買って孤児院に戻った。「ただいま戻りました。」「お帰りなさい、疲れたでしょう。お風呂、わかしているわよ。」「ありがとうございます。」 ナオミが沸かしてくれた湯を入れた樽の中に入ると、海斗はその湯の温かさに思わず溜息を吐いた。「カイト、着替えを持って来た・・」 ジェフリーが浴室に入ると、丁度海斗は樽の中から出て来た所だった。「済まない・・」 ジェフリーは海斗に慌てて背を向けた時、彼は彼女の秘密を知ってしまった。 彼女には、その身体に男女両方の証があった。「ジェフリーさん、お話があるの。」「はい・・」 ナオミは、ジェフリーを自分の書斎へと招いた。「カイトは、あの子には秘密がある事を、あなたはもうご存知ね。」「はい。」「カイトは、わたしが居なくなったら独りになってしまいます。どうか、あの子を守ってやって下さいね。」 ナオミはそう言うと、ジェフリーの手を握った。にほんブログ村
2022年10月25日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「ここ、か・・」 エディンバラを発ってから、ジェフリーが海斗の居場所を突き止めたのは、彼がロンドンに着いて約一週間後の事だった。 ロンドンのイースト=エンド、貧民街の近くに、その孤児院“天使の家”はあった。 その孤児院は、元は美しい白亜の建物だったが、経年劣化の所為か、近くにある工場から出る煙の所為なのかはわからないが、灰色に汚れていた。 ジェフリーが通りの向こうから孤児院の中を覗くと、そこから一人の老婦人が出て来た。「すいません、マダム、あなたはこの孤児院の方ですか?」「はい。わたくしはこの孤児院の院長をしております、ナオミと申します。あなたは?」「わたしはジェフリー=ロックフォードと申します。実は・・」「カイトを捜しに来たのでしょう?あの子なら、厨房の掃除をしておりますわ。」「ありがとうございます。」 孤児院の中は、床や壁が鏡代わりに使える程、美しく磨き上げられていた。 厨房では、麻の粗末なワンピース姿の海斗が、レモンの果汁を染み込ませた布巾で頑固にコンロにこびりついている油汚れを拭き取っていた。「カイト。」「あなたは・・」 海斗は髪についた埃を手で払うと、ジェフリーを見つめた。「俺がここに来たのは、あなたのお義姉様からネックレスの件で・・」「そうですか。あの人に伝えて下さい、あのネックレスは質屋へ売ってしまったと。」「質屋に?どうしてそんな・・」「孤児院を救う為です。俺がここに来た時、孤児院の食事や衛生面は最悪でした。その状況を少しでも改善しようと思って、あのネックレスを売りました。」海斗はそう言った後、一枚のメモをジェフリーに手渡した。「ネックレスを売った質屋の住所です。」「君は、いつまでここに居るつもりなんだ?」「俺はもう、あの家には戻りません。」「そうですか・・」 ジェフリーが厨房から出て行こうとすると、そこへ孤児院の前で会った老婦人が入って来た。「カイト、そろそろお茶の時間よ。ジェフリーさんもご一緒にいかがかしら?」「はい、喜んで。」「自己紹介が遅れましたわね。わたくしはカイトの祖母の、ナオミです。さっきは黙っていてごめんなさいね。」「お祖母様、厨房は掃除中ですから、ここでお茶は・・」「着替えていらっしゃい、カイト。あなたが持っている一番上等なよそ行きのドレスにね。」「はい。」 海斗は麻のワンピースから、旅行鞄の中にしまっていた美しい薔薇色のドレスに着替えた。「お待たせ致しました。」「それじゃぁ、行きましょうか。」 ナオミが海斗とジェフリーを連れて行ったのは、ウェスト=エンドにあるカフェだった。「いらっしゃいませ。」 海斗達がカフェに入ると、ウェイターが恭しく彼らを迎えた。「お祖母様・・」「堂々としていなさい。」 周囲の冷たい視線を浴びて海斗が怯えていると、ナオミはそう言って彼女を励ました。「カイト、ここのアップルパイは美味しいのよ。」「じゃぁ、それで。」「そうだな。レモンタルトを頂こうか。」三人がカフェで楽しいひと時を過ごしていると、そこへエリザベスが友人達と共に店へと入って来た。「カイト、よくもわたくしのネックレスを盗んだわね!」「あれはあなたの物ではなく、俺の亡くなった母の形見でした。それをあなたが・・」「お黙り!」 エリザベスは海斗の言葉を途中で遮ると、彼女の頬を平手で打った。「エリザベス、あなたとはもう終わりにしたい。」「ジェフリー様、どうしてそんな急に・・」「やはり、あなたは嘘を吐いていたのですね。カイトの母親の形見を、あなたは盗んで自分の物にした。それを・・」「あのネックレスは、わたくしに似合う物だから・・」 ジェフリーに突然別れを切り出され、エリザベスはカフェに響き渡るような声でそう叫んだ後顔を蒼褪めて口を閉じたが、遅かった。「あ・・」「では、あなたの本性がわかったところで、後日あなたとの婚約破棄の旨を認めた手紙をハーリントン家に送ります。」「嫌よ!」「お客様、これ以上騒がれると他のお客様のご迷惑になりますので・・」 今にも失神しそうになっているエリザベスを、彼女の友人達が支え、周囲の客達に謝りながら店から出て行った。「さてと、わたくし達も失礼しようかしら。」「お客様は、居て下さって大丈夫です。」 エリザベスが出て行った後、カフェはエリザベス達が来る前と同じ静寂な空気に包まれた。「お客様、こちらをどうぞ。」「あら、頼んでいないわよ?」「いつもお客様には良くして頂いているので、うちのカフェのアップルパイとパンを特別にサービス致します。」「まぁ、ありがとう。」「またのお越しを、お待ち申し上げております。」 ナオミはカフェから出ると、アップルパイとパンが入った籘製のバスケットを大切そうに抱えながら、海斗達と共に孤児院へと戻った。「みんな、戻ったわよ!」「お帰りなさい、マザー!それは、何ですか?」「みんなで頂くアップルパイよ。さぁ、お茶にしましょう!」「はい、マザー!」 エリザベスがカフェで起こした騒動は瞬く間に社交界に広がり、ジェフリーに婚約破棄された彼女は暫く自室に引き籠もったまま出て来なかった。にほんブログ村
2022年10月21日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。 夜の森は、不気味だったが、海斗は何故か怖くはなかった。 夜の森よりも怖いのは、自分を騙して娼館へと売ろうとする血も涙もない人間達だった。 時折、森の中でフクロウの鳴き声がしたが、それ以外に何の音もしなかった。 もうすぐ森を抜ければ、町へ出る。 そして、汽車に乗ってロンドンへ―自分の唯一の身内である母方の祖母へ会いに行くのだ。(大丈夫、きっとやり遂げてみせる!) 漸く森を抜けた海斗は、町の宿屋で休む事にした。「いらっしゃい。」「このお金で、一番いい部屋をお願いね。」「あいよ。」 宿屋の主人は、海斗を一番良い部屋へと案内した。 森の中を一晩歩いたお陰なのか、海斗は朝まで熟睡出来た。 海斗は荷物を持って宿代を主人に払うと、宿屋から出て駅へと向かった。「ロンドン行きの切符を一枚、一等で。」「かしこまりました。」 ロンドン行きの一等客車には、昨夜ハ―リントン家のパーティーに来ていたジェフリー=ロックフォードと同じ服―真紅の軍服姿の男達が居た。彼らと少し離れた席に座った海斗は、ハ―リントン家の書斎から持って来た『高慢と偏見』を旅行鞄から取り出して読み始めた。「お客さん、もう着きましたよ。」「すいません、すぐにおります!」 慌てて旅行鞄を掴んで汽車から降りた海斗は、初めて訪れるロンドンの活気に圧倒された。「ええっと、ここだな・・」 祖母の家の住所が書かれたメモを頼りに海斗が向かったのは、イースト=エンドの中にある、孤児院だった。「すいません、誰か居ませんか?」「あら、ここへは何の用?もしかして、子供を堕ろしに来たの?」 孤児院の廊下の奥から出て来た女は、そう言って琥珀色の瞳で海斗を見た。「あの、ここで祖母が働いていると聞いたのですが・・」「ちょっと待ってな。」 数分後、一人の女性が海斗の前に現れた。 髪は白くなっていて元の色がわからなかったが、その瞳の色は、海斗と同じ黒だった。「海斗、海斗なのね?」「お祖母様・・」「会いたかったわ、海斗!さぁ、立ち話もなんだから奥へどうぞ。」 母方の祖母・ナオミと共に、海斗は孤児院の奥にある応接室へと向かった。 そこには、熱い紅茶と焼き立てのクッキーがテーブルの上に並べられていた。「これは、今朝あなたが来ると思って、取り寄せたフォートナム&メイソンの紅茶よ。クッキーはわたしの手作りだけど、許してね。」「いいえ、嬉しいです。」 祖母の手作りのクッキーは、今まで食べたどんな物よりも美味しかった。「あの子が居ないわ!」「ベス、朝から何を騒いでいるの?」「お母様、あの子が消えたのよ、わたしのお気に入りの宝石を持って!」「まぁ、何て事・・」 エリザベスとアリシアがダイニングでそんな話をしていると、そこへジェフリーがやって来た。「どうかなさったのですか?」「ジェフリー様、お願いします、あの子からわたくしのお気に入りの宝石を奪い返して下さいな!」「宝石?」「真珠のネックレスで、先にエメラルドがついているの!あれは・・」「おかしいですね、あれはあなたのものではなく、カイトの物では?」「そんな事、どうだっていいじゃありませんか!」 そうヒステリックに喚き散らしたエリザベスは、自分の部屋に引き籠もってしまった。「ジェフリー様、ごめんなさいね。あの子ったら、昔からああなのよ。」「はぁ・・」 こうしてジェフリーは、海斗を捜しにロンドンへと向かった。「そう・・そんな事があったの。」「もう、あの人達とは暮らせない。だから・・」「ずっと、あなたと暮らしたいと思っていたのよ。でも、向こうの人達が許してくれなかったの。」「どうして?」「あの人達は、白人である自分達が一番優秀だと思っているんでしょうね。」 そう吐き捨てるかのような口調で言ったナオミは、苦痛で顔を歪ませた。「さてと、もう暗い顔をするのはやめて、仕事しましょう!」「はい!」 炊事、洗濯、掃除、裁縫―孤児院での仕事は、それ以外にも沢山あった。「これは?」「これかい?これは、孤児達の服さ。あんたが着ているような絹の服なんて、ここでは必要ないからね。」孤児達が着る服は、粗末な木綿と麻のものが多かった。「靴は?」「毛糸の靴下だけで充分さ。ここでは靴なんて贅沢品なのさ。」「まぁ・・」 孤児院の運営が困窮している事に海斗が気づいたのは、その日の昼食の時だった。食卓に並んだのは、オートミール粥と、石のように硬いパンだけだった。食前の祈りを済ませ、海斗がパンを一口齧ると、中から蛆虫が出て来たので彼女は思わず悲鳴を上げてしまった。「あんた、そんなに驚く事はないだろう?蛆虫が湧いているパンなんて、ここじゃ日常茶飯事だよ。」 孤児院のメイド・ミリーはそう言って笑った。「お祖母様、このネックレスを売ってください。」「でもこれは、あなたのお母様の・・」「お母様がもし俺の傍に居て下さったら、きっとこのネックレスを売ってくれとおっしゃった事でしょう。」にほんブログ村
2022年10月15日
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画像は湯弐様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。 雪が降る中、一人の少女が溜息を吐きながら井戸で水を汲んでいた。 裏口から屋敷の中へと入ると、上階からパーティーの賑やかな音楽が聞こえて来た。(いいなぁ・・) 美しいドレス、煌めくシャンデリア、銀食器の上に載せられている美しく豪華な料理。 それは一生、少女―海斗には全く無縁の世界だ。 何故なら海斗は、この家の“忌み子”だから。「奥様、何かこちらにご用ですか?」「カイト、あなたに会わせたい人が居るのよ。」「は、はい・・」 不機嫌な奥様に連れられ、海斗は生まれて初めてハ―リントン伯爵家の居間へと足を踏み入れた。 そこには、華やかなドレスに身を包んだ伯爵の二人の娘、エリザベスとシャノンが誰かと話をしていた。「お父様、カイトをここへ呼び出してどうするつもりなの?」 シャノンは美しい琥珀色の瞳で海斗を睨むと、父親の方へと向き直った。「カイトを、いつまで階下の住人にさせておく訳にはいかないだろう。お前達と同じように、パリで教育を受けさせて・・」「そのような事、わたくしは認めないわ!だってこの子は・・」「お黙りなさい、シャノン。」 母親から叱責され、シャノンは顔を赤くして俯くと、居間から去っていった。「あの・・」「あの子の事は放っておきなさい。カイト、急な話で悪いけれど、パリの花嫁学校へ行きなさい。」「そんな・・こちらのお世話になっているだけでもありがたいというのに、パリだなんて・・」「もう決まった事なのよ。」「これから忙しくなるわね、カイト。」「はい・・」「そんな浮かない顔をしないで。わたし達はあなたの味方よ。」 奥様は、そう言うと海斗の肩を優しく叩いた。「もういいわ、下がって。」「はい。」 海斗がそう言ってハ―リントン伯爵家の居間から出ようとした時、彼女は一人の男とぶつかった。「申し訳ございません。」「君が、エリザベスの異母妹か?可愛い顔をしているな。」 英国海軍の真紅の軍服に身を包んだその男は、美しく澄んだ蒼い瞳をしていた。「あなたは・・」「この方はジェフリー=ロックフォード様、わたしの婚約者よ。ジェフリー様、この子がわたしの腹違いの妹よ。」「腹違い?」「ええ、この子の母親は・・」「ベス、お客様の前ですよ。」 奥様はそう言うと、アッシュグレイの瞳でエリザベスを睨んだ。「お母様、わたしはロックフォード様と話す事があるので、失礼するわ。」「そう。」 その日の夜、海斗は中々寝付けなかった。 今まで自分の存在を無視して来た人達が、急に態度を変えたので、海斗は色々と下らない事を勘繰ってしまい、目が冴えて眠れなかった。 以前書斎を掃除していた際に偶然見つけた本の続きを読もうと思った海斗が書斎のドアを開けようとした時、中から奥様―ハリントン伯夫人・アリシアと、その夫・ジョンの話し声が聞こえて来た。「あなたはペテン師ね、ジョン。あの子にパリで教育を受けさせるですって?よくもそんな出鱈目を思いつくものだわ。」 アリシアがそう吐き捨てるような口調で言うと、ジョンは顔を顰めた。「仕方無いだろう。客人が居る前で、あの子を娼館へ売り飛ばす話なんて出来やしない。」「大体、あの子を引き取ったのが全ての間違いだったのよ。あの女とあなたが関係を持ったというだけでも汚らわしいというのに・・」「過去の事を蒸し返しても、今更仕方無いだろう。」「そうね。」 海斗は、音を立てずに書斎の前から去った。 彼らが自分を、この伯爵家の一員として認める訳がないと、海斗は心の何処かでわかっていた。 だが、これ程までに憎まれているとわかった以上、海斗は夜明けまでに行動を起こす必要があった。 それは、一刻も早くこの忌まわしい家から出て行く事だった。にほんブログ村
2022年10月07日
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