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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。「セバスチャン?」「そんなに奴が恋しいのか?」 そう言ったヒョンジャは、シエルの上に覆い被さった。「やめろ、離せっ!」「何故わたしを拒む?あいつには身を委ねたのに。」 そう言いながら、ヒョンジャはシエルの夜着を剥ぎ取った。「お前、男か。」「僕に何をする気だ?」「褥の上で自分達がする事といえば、ひとつしかあるまい。」「やだっ、や・・」 ヒョンジャはシエルを手籠めにした。 ガタン、という大きな音と共に、セバスチャンは目を覚ました。(何だ?)「セバスチャン様、大変です!」「どうしましたか?」「北の蛮族が攻めて来ました!」(随分と早いですね・・) セバスチャンは舌打ちして寝床から出ると、戦場へと向かった。「状況は・・」「敵軍は三千・・こちらは、たったの二百人しか残っておりません。セバスチャン様、如何いたしましょう?」「皆を集めて下さい。わたしに考えがあります。」「どうだ、この戦は勝てそうか?」「はい。」 異民族軍の長・アルハンは、自分達の勝利をこの時確信していた。「先に村を根絶やしにして兵糧攻めにしておいてよかったな。そのお陰で敵の兵力を大きく減らす事が出来る。」 アルハンがそう言いながら酒を飲んでいると、外から轟音と兵士達の怒号が聞こえて来た。「閣下、雪崩が・・雪崩が起きました!ただちに避難を!」「なに、雪崩だと!?」(この山の雪は、まだ積もっていない筈・・それなのに何故・・)「セバスチャン様、これでいいのでしょうか?」「ええ。砲弾を新雪が積もった山へ撃ち込めば、敵陣の方で雪崩が起きます。そうすれば、後は我々の思うつぼです。」 セバスチャンはそう言うと、敵陣に向かって火矢を放った。 たちまち、敵軍は大混乱となり、総崩れになった。「今です!」 雪崩に遭い、大混乱の最中セバスチャン達に攻められた異民族軍は呆気なく彼らの前に敗れた。「セバスチャン様、万歳!」「万歳!」 セバスチャンが戦地から帰ると、彼と部下達は民達から歓迎された。「セバスチャン様、お帰りなさいませ。」「お帰りなさいませ、セバスチャン様。陛下がお呼びです。」 セバスチャンは一刻も早くシエルに会いたかったのだが、王が中々彼を離してくれなかったので、シエルが居る宮殿へと彼が向かったのは、戦地から帰還した日の夜だった。「シエル。」「セ、セバスチャ・・」 セバスチャンを出迎えたシエルの様子がおかしい事に、セバスチャンは気づいた。「すぐに帰って来たのか、つまらないな。」 ヒョンジャはそう言った後、セバスチャンに見せつけるかのようにシエルの唇を塞いだ。「シエルに何をしたんですか?」「媚薬を飲ませた。この者がわたしに抱かれるのを嫌がるから、無理にでも、な・・」「シエルを返しなさい!」「それは出来ぬ。シエルは、わたしのものだ。」「貴様っ!」「おっと、動くなよ。お前が動けば、シエルの首が飛ぶぞ?」「何が、望みだ?」「お前の色々な顔が見たいだけだ。」 兵士達に阻まれ、セバスチャンはシエルの元へ行く事が出来なかった。「僕を、どうするつもりだ?」「それは、お前次第だ。」 シエルとセバスチャンは必死に互いの手を伸ばそうとしたが、その手が繋がる前に、二人の前で非情に扉は閉められた。「お前には、わたしの子を孕んで貰う。」「僕は男だ。」「其方、何も知らぬのだな?其方の一族は、特殊な血が流れておるのだ。」「特殊な、血?」「皇子を、皇子を産め・・」 シエルは、ヒョンジャに抱かれている間、セバスチャンの事ばかりを想っていた。 ヒョンジャにシエルが東宮殿に軟禁されてから、一月が過ぎた。―世子様は、一体何をお考えなのかしら?―まさか、あの子を・・―でも、あの子には・・「っ」「どうした、セバスチャン?玄琴の名手である其方が玄琴の弦を切るなど珍しい。」「申し訳ございませぬ、大妃様。」「シエルの事が、気になっておるのであろう?」「はい・・」 セバスチャンは大妃に、シエルがヒョンジャに囚われている事を話した。「あやつは、お前に復讐しているのだろうよ。」「復讐?」「考えてもみよ、あやつは今までお前に勝った事などひとつもなかった。シエルの事なら、お前が色々と心を乱すとわかっておるから、お前を困らせてやろうとしているのだ。」「幼稚な・・」「幼稚じゃ。幼稚故、世子はお前に執着しておる。不遇であった幼少期をやり直そうとしているのよ。」「シエルが心配です。あいつに何かされないか・・」「そういえば、あの子の一族について色々とお前には話していなかったな。正確に言えば、一族の者の中に流れる血の事だが。」「血?」「あの一族―ファントムハイヴ家の者が殺されたのは、魔物の血を恐れた誰かが彼らを殺したという噂を聞いておる。」「魔物の血?」「あぁ。それは、性別関係なく子を孕める能力があるらしい。世子がシエルを離したがらないのは・・」「わたしは、どんな方法を使っても、シエルを取り戻します。」「セバスチャン・・」 シエルは、痛む身体を引き摺りながら、東宮殿から抜け出し、忍び足でセバスチャンの元へと向かった。「セバスチャン、居ないのか!?」「シエル、どうしてここに?」「助けて・・」 シエルはそう言うと、セバスチャンの腕の中で気絶した。「これは酷い。全身あちこち傷だらけ・・」 医師がそう言いながらシエルを診察していると、彼が下半身から出血している事に気づいた。「どうでしたか?」「大丈夫でした。下半身の出血は止まりましたが、暫く安静にしておいた方が良いでしょう。」「ありがとうございます。」 医師に金を払った後、セバスチャンはその足で東宮殿へと向かった。「セバスチャン、お前がここに来るなど珍しいな。」「シエルに何をした!?」「何も。」「何もせずに、シエルの下半身が出血すると思うのか!?」「落ち着け。」 ヒョンジャはそう言うと、セバスチャンの肩を叩いた。「これが落ち着いていられるか!」 セバスチャンに手を振り払われ、激昂したヒョンジャは、手に持っていた鞭で彼を打擲(ちょうちゃく)した。「お前のような者が、わたしに盾突くなぁっ!」「世子様、お止め下さい!」「ええい、離せ!」 ヒョンジャの、セバスチャンに対する暴行は、一時間続いた。「う・・」「シエル様、まだ起きてはなりませんよ。」「ここは・・」「セバスチャン様の宮殿です。」「あいつは?」「それが・・」 外から女官達の悲鳴と、男達の怒号が聞こえて来た。「東宮殿が燃えているぞ!」「早く、水を持って来い!」 シエルが寝床から這うようにして宮殿の外から東宮殿がある方角を見ると、そこには紅蓮の炎が見えた。「セバスチャン!」「シエル様、まだ起き上がってはいけません!」「シエル!」 セバスチャンは、命からがら東宮殿から逃げ出した。「怪我は・・」「ええ、大丈夫です。」 シエルの腕の中で、セバスチャンは意識を失った。 一夜明け、鎮火した東宮殿の中から、ヒョンジャの遺体は見つからなかった。「セバスチャン。」「シエル、ここは?」「お前の宮殿だ。一体、東宮殿で何があった?」「実は・・」 セバスチャンはシエルに、ヒョンジャと口論になり、彼から激しい暴行を受けた事を話した。「わたしが目を覚ました時、東宮殿は炎に包まれていました。」「じゃぁ、東宮殿に火をつけたのは誰だ?」「それは、わかりません。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年06月12日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。「それにしても、王妃様は本当に殺されたのかしら?」「そんな事、大きな声でいうものじゃないわよ!」「でもねぇ・・」 王妃が謎の死を遂げた事により、その死はセバスチャンによる毒殺なのではないかという噂が王宮内に飛び交っていた。「それにしても、セバスチャン様は都に若い娘を囲んでいるそうよ。」「若い娘?」「ええ、何でもセバスチャン様が身請けなさった妓生で、まだ十三だとか。」「子供じゃないの!」「彼女は、書画や舞踏・音曲などに秀でていて、大妃様も一目置かれている存在だとか。」「へぇ・・」「セバスチャンが、側室を迎えただと?」「世子様・・」「ただの噂ですわ、どうぞお気になさらず・・」「いや、もっと詳しく聞きたいな。」ヒョンジャは、そう言って自分に頭を下げる女官達を見た。「はぁ・・」 シエルは、今日も玄琴を奏でながら、セバスチャンが来るのを待っていた。 あれから―王妃が死んでから、セバスチャンは王宮内で雑務に追われているようで、この四日位この宮殿に顔を出さなかった。(外に女でも出来たんだろう。まぁ、僕はこんなんだし・・) シエルがそう思いながら玄琴を奏でるのを止めた時、一人の女官が彼の元へとやって来た。「あなたが、シエル様ですか?」「あぁ、そうだが・・お前、何処の女官だ?」「わたくしは、世子様の使いで参りました。シエル様、世子様がお呼びです。」「世子様が?」(世子様が、僕に一体何の用だろう?) そんな事を思いながらシエルがヒョンジャの元へと向かうと、彼は煙管で何かを吸いながらシエルを見た。「シエル様をお連れしました。」「お前はもう下がってよい。」「はい。」「世子様・・」「久しいな、シエル。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルを己の膝上へと抱き寄せた。「そなた、セバスチャンの側室になったそうだな?」「はい。セバスチャンはわたくしによくして下さいます。」「そうか。」 ヒョンジャはそう言った後、シエルの髪を撫でた。「そなた、わたしのものにならぬか?」「それは、出来ません・・」「では、力ずくでわたしのものにしてやろう。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルのチョゴリの胸紐を解き始めた。「お止め下さい!」「嫌じゃ。」「誰か~!」「人払いしておる故、ここに居るのはわたしとそなただけ。」 シエルはヒョンジャから逃れようとしたが、彼はビクともしなかった。「何をしているのです?」「おや、来たか。」 鬼のような形相を浮かべながら自分の方へとやって来るセバスチャンを見て、ヒョンジャはほくそ笑んだ。「シエルから離れなさい。」「いつもは澄ましている癖に、そなたもそのような顔をするのだな?」「あなたの目的は何なのです?」「そなたの色々な顔を見てみたいのだ。」 ヒョンジャは、シエルを抱き上げると、彼を寝室へと運んだ。「シエルに何をする?」「セバスチャン、シエルを取り戻したくば、そなたは戦場で武功を立てよ。」「貴様、最初からそのつもりで・・」「母をわたしから奪った仕返しだ、セバスチャン。安心しろ、お前が戦場から戻って来るまで、シエルはわたしが大切に預かっておく。」「セバスチャン!」「シエル!」 互いに手を伸ばそうとしたセバスチャンとシエルは、内侍達によって非情に引き裂かれた。「世子様、あなたは一体何をお考えなのですか?」「言ったであろう、わたしはセバスチャンの色々な顔を見たいと。」「わたしを、殺すおつもりですか?」「殺しはせぬ。そなたは大切な人質だからな。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルの右目を覆っていた眼帯を外した。「美しい色の瞳だ。」「お止め下さい!」「何故、隠す事がある?」 ヒョンジャはそう言って笑いながら、シエルの髪飾りを弄った。「その髪飾りは、あいつから贈られたのか?」「だとしたら、どうだというのです?」「強気なそなたの性格、気に入っておる。わたしの周りに居るのは、わたしに媚びる者達ばかり。いつもわたしの機嫌を損ねないかどうかを考える者達。そんな輩に取り囲まれ、わたしはいつもうんざりしていた。そんな中、お前とあいつだけは、わたしに媚びなかった。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルの髪を梳いた。「不思議な色の髪だ。銀が少し混じった蒼がある。あいつは、夜の闇のように艶やかで美しい髪を持っている。」「世子様の御髪も、美しいではありませんか。」「わかっておらぬな、そなた。どれだけ褒められようとも、己より優れた容姿や能力を持つ者に嫉妬するというのが人の常というものだ。」 ヒョンジャは、シエルに初めてセバスチャンと会った時の事を話した。セバスチャンとヒョンジャが初めて会ったのは、ヒョンジャが七歳の時だった。その日、セバスチャンとヒョンジャはそれぞれ母親に連れられて、王が開いた詩作の会に出席した。名妓と謳われたセバスチャンの母は見事な詩を何篇もその場で発表し、またセバスチャンも詩を即興で披露して、周りから絶賛された。―やはり王様が惚れ込んだだけの事はある。―美貌と才覚を兼ね備えた者が側室とは、余りにも惜しい・・―家柄と美貌だけでは・・ ヒョンジャは、怒りと屈辱で顔を歪ませた母の顔を、未だに忘れる事が出来なかった。 セバスチャンは、詩作だけではなく、書画や音曲、剣術などが出来た。 ヒョンジャは彼に負けぬようそれらに励んだが、天賦の才を持ったセバスチャンが彼に敵う筈がなかった。『ヒョンジャ、どうしてあなたは・・』 いつしか、母は自分を責める事が多くなった。彼女は、世子であるヒョンジャよりも、庶子であるセバスチャンの方が優れている事を認められなかったのだろう。『憎らしい・・あの女をどうしたら・・』『わたくしに、良い考えがございます、王妃様。』 母にあらぬ事を吹き込んだのは、彼女の親族だった。『あの目障りな妓生を王宮から、いえこの世から消すには・・』 セバスチャンの母は、身に覚えがない罪を着せられ、獄死した。「世子よ、安心なさい。」 邪魔な存在を消した母は、嬉しそうだった。 しかし、その母はセバスチャンに殺された。「わたしは、あいつが憎くて堪らぬ。全てを生まれながらにして持ったあいつに。しかし、あいつにもお前という弱点がある事を知り、嬉しくなった。これで、あいつにわたしと同じ思いをさせる事が出来るとな。」「やめて、離し・・」「まだお前は殺さぬ。お前は、大切な人質だからな。」 セバスチャンは、世子にシエルを人質に取られ、戦地へ赴く事になった。「そんな顔をしないで下さい、すぐに戻って来ますから。」「これ、持っていろ。」 セバスチャンが戦地へ赴く日、シエルは彼に母の形見の簪を手渡した。「ありがとうございます、この簪をあなただと思って大切に致します。」「う、うるさいっ!」「では、わたしからこれを。」 セバスチャンはそう言うと、シエルにある物を手渡した。「これは?」「わたしの母の形見で、母が父から渡された蒼玉の首飾りです。」「セバスチャン、必ず僕の元へ帰って来い!」「ええ、必ず。」 セバスチャンが向かった戦地では、異民族との戦いが長期化し、兵士達は疲弊しきっていた。「食事は皆さん、どうなさったのですか?」「そこら辺に生えている雑草で簡単な汁物や粥を作ったりしていたよ。」「そうですか・・」「ここら辺の村は、村人達を全員殺された上に食糧を略奪されちまったから、自給自足の毎日さ。」(これでは、戦いの前に兵士達が死んでしまいますね。) セバスチャンがそう思いながら山で狩りをしていると、そこへ一頭の鹿が通りかかった。 セバスチャンはその鹿を持ち帰り、その肉を鍋にして兵士達に振舞った。「あんた、その格好からして王族だろ?王族が何だってこんな所に来たんだ?」「少々、訳ありでね・・」「まぁ、王宮は色々とあるからね。」(シエル、元気にしているのでしょうか?) セバスチャンがそんな事を思いながらシエルから渡された簪を眺めていると、同じ頃シエルは溜息を吐きながらヒョンジャに宛がわれた部屋で寝返りを打っていた。(中々、眠れないな・・) シエルがそっと首に提げている蒼玉を見つめていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月06日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。 ヒョンジャがシエルを側室にするという話は、瞬く間に王宮内に広まった。―ねぇ、あの子よ・・―あんな子の何処がいいのかしら?―可愛い顔して、やるわね。 シエルがいつものように洗い場で洗濯をしていると、そこへ数人の女官達がやって来た。「あなたが、シエル?」「はい、そうですが・・」「わたし達と来てくれないかしら?」 女官の中で一番背が高い少女は、シエルの腕を掴んで彼を人気のない所へと連れていった。「どんな手を使って、世子様を誑し込んだのかしら?」「わ、わたしは、そんな・・」「お黙り!」 少女はそう叫ぶと、シエルを池へと突き落とした。「ちょっと、そんな事をしたら死んじゃうわ!」「構わないわよ、さぁ、行きましょう!」 少女―スヨンは取り巻き達と共に、池から去って行った。 シエルは苦しそうに喘ぎながら泳いでいたが、服が水を吸ってしまい、彼の身体は徐々に水底へと沈んでいった。「シエル!」 水面に何かが飛び込んだような音と共に、シエルは誰かにその身体を持ち上げられたような感覚がした後、意識を失った。“・・彼女は・・”“大丈夫です、気を失っているだけです。”“シエルを池に突き落としたのは、水刺間の者だな。後できつく叱らねば・・” シエルは誰かが話しているのを聞きながら静かに目を開けると、そこには心配そうに自分を見つめているセバスチャンと大妃の姿があった。「ここは・・」「あなたの部屋ですよ。あなたは池に突き落とされて・・」「僕は・・」 シエルがそう言って起き上がろうとした時、彼は痛みを感じて思わず顔を顰めた。「まだ動いてはいけませんよ。あなたは池に突き落とされた時、右足を痛めたのですから。」「そうか・・」「それにしても、驚いたぞ。そなたが男だったとは。」「大妃様、何故それを・・」「濡れた服を着替えさせた時、見てしまったのだ、そなたの裸を。」「いずれわたしからお話ししなくてはと思ったのですが、その手間が省けましたね。」セバスチャンがそう言った時、部屋に水刺間のユ尚宮が入って来た。「大妃様、この度は誠に・・」「そなたが謝るのは妾ではない。ユ尚宮、シエルを池に突き落とした者達はどうした?」「そ、それは・・」「形だけの謝罪などいらぬ、下がれ。」「はい・・」 ユ尚宮が部屋から出た後、大妃は溜息を吐いた。「ユ尚宮は部下の躾がなっておらぬ。一体どうなっているのか・・」「恐らく彼女達は世子様の発言―シエルを側室にするという話を真に受けたのでしょう。」「そうか。セバスチャン、シエルの傷が癒えるまで、シエルの世話を頼む。」「わかりました。」 こうしてシエルは足の傷が治るまで、セバスチャンの“宮殿”で療養する事になった。「シエル、あなたを池に突き落とした女官達は、あなたとは面識がないのですか?」「ない。僕が洗濯をしていたら、突然声を掛けられたんだ。」「そうですか・・」 セバスチャンはシエルに散歩に行って来るといい、水刺間へと向かった。―あの方は・・―どうして、水刺間に? 滅多に王宮内に顔を見せないセバスチャンが水刺間に現れたので、女官達は色めきたった。「あぁ、見つけましたよ。」「え?」「シエルがこの前、お世話になりましたね。」 セバスチャンはそう言ってシエルを突き落とした少女の頬を、勢いよく平手打ちした。「きゃぁっ!」 少女は、悲鳴を上げて泣き出した。「この程度で泣くなど、情けない。シエルは、あなたの所為で足を怪我しても泣かずに耐えているのですよ。」「わ、わたしは・・」「次は、ありませんよ。」 その日の夜、その少女は王宮から去っていった。「そなた、やり過ぎではないか?」「何の事です?」 セバスチャンはそう言うと、玄琴を爪弾いた。「昔から、そなたは愛する者の事となると見境がつかなくなるな。」「わたしは、もう喪いたくないのですよ。」 セバスチャンが母と死別したのは、彼が七歳の時だった。「お母様・・」「強く生きなさい。」 それが、母の最期の言葉だった。「憎しみに心を支配されてはならぬ。」「わかっております。」 大妃とセバスチャンがそんな話をしていると、王妃の使いが二人の元にやって来た。「王妃様が、お二人をお茶にお誘いしたいと・・」「わかりました、すぐに伺いますと王妃様にお伝え下さい。」 セバスチャンと大妃が王妃の元へ向かうと、部屋の中から賑やかな笑い声が聞こえて来た。「随分と、賑やかですね。」「ええ。今日はわたくしの誕生日なので、こうして皆さんを呼んで楽しくお話をしているのですよ。」「そうなのですか。それで、この場にわたしを呼んだのは?」「贈り物は用意したのでしょうね?」「えぇ、勿論。」 セバスチャンは王妃にそう言って微笑むと、夾竹桃を持って来た。「いいわね。」「わたしが育てた花ですよ。あぁ、この花を焚いて眠れば、美しい夢を見られるとか。」「まぁ・・」 無知な王妃はセバスチャンの嘘を信じて、その日の夜に苦しみながら死んだ。―おいたわしい―何という事・・「母上、母上~!」 強力な後ろ盾を失い、嘆き悲しむヒョンジャの姿を、セバスチャンは冷めた目で見つめていた。「お前だろう、母上を殺したのは?」「はて、何の事やら・・」「とぼけるな!母上に夾竹桃を贈ったのはお前だろう!」「王妃様はご自分が無知だから死んだのです。美しい花を敵から贈られて喜ぶなど、愚かな・・」「黙れ!」「おやめ!」 セバスチャンに殴りかかろうとするヒョンジャを、大妃と内侍(ネシ:宦官)達が慌てて止めた。「セバスチャン、後で妾の部屋に来るように。」「はい。」 セバスチャンが王妃の葬儀で騒ぎを起こしていた頃、シエルは本を読みながら彼の帰りを待っていた。(遅いな・・) シエルがそんな事を思いながら二冊目の本に手を伸ばそうとした時、一人の男が彼の前に現れた。 彼は黒衣を纏い、長い銀髪をなびかせながら黄緑色の瞳でシエルを見ていた。「ひっひっ、やぁっと見つけたよぉ。」「お前、誰だ?」「小生の事を忘れてしまったのかい?まぁ無理もないねぇ、小生と君達が会った時、君はまだ赤子だったからねぇ~」 黒く長い爪でシエルの頬を撫でた男は、風のように去っていった。(何だったんだ、あいつは・・)「シエル、遅くなってすいません。」「遅かったな、何をしていた?」「世子様と少し揉めまして・・大妃様に少し絞られました。」 セバスチャンはそう言うと、菓子が入った袋をシエルに手渡した。「どうぞ。」「ありがとう。」 シエルが袋を開けると、そこには動物の形をした色とりどりの茶菓子が並んでいた。「これは?」「王妃様のお誕生祝いに配られたお菓子ですよ。まぁ、王妃様がお亡くなりになられてしまったので・・」「王妃様を、殺したのか?お前の母親に汚名を着せた犯人なんだろう?」「わたしが王妃様を殺しました。しかし、わたしの母を死に追いやったのは、彼女ではありません。」「どういう事だ?」「わたしの母を陥れたのは、王妃様を操っていた者達ですよ。」「え?」「王妃様の死で、彼らは慌てるでしょう。」 セバスチャンはそう言って軽く咳払いした後、シエルが読んでいた本を見た。「おや、軍記物など読むなんて、珍しい。」「ここに偶々あったから読んでみただけだ。」「そうか、あやつが動き出したか?」「どうなさいます、旦那様?」「やはりあの男、“あの時”に殺しておけばよかった!」そう言った男は、悔しそうに唇を噛み締めた。にほんブログ村
2023年10月25日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。「ん・・」「おはようございます。」「うわぁ!」 シエルは眠い目を擦りながら自分の隣にセバスチャンが寝ている事に気づいた。「そんなに驚かなくてもいいでしょう?」 セバスチャンはそう言って呆れ顔でシエルを見た。「旦那様、起きていらっしゃいますか?」「えぇ、起きてますよ。こんな朝早くに一体何の用です?」「それが、世子様から文が届きました。」「そうですか。」 奴婢から異母兄からの文を受け取ったセバスチャンは、それに目を通した後、渋面を浮かべた。「僕が、宮女に?」「ええ。」「宮廷とは、どんな所だ?」「伏魔殿ですよ。」「伏魔殿?」「ええ。あそこには、厄介な魔物が棲んでいるのですよ。」「厄介な魔物、ねぇ・・」 シエルは、そう言いながら溜息を吐いた。「どうしたのです、不安なのですか?」「もしかしたら、宮廷に僕の家族を殺した仇が居るかもしれない。そう思うと・・」「あなたは、家族の仇を討とうと今日まで生きて来たのでしょう?もう覚悟はお決めになられたとばかり・・」「覚悟・・」「シエル、あなたが殺された家族の仇を討つという思いが今も変わっていないのなら、わたしはあなたの復讐に力を貸しましょう。」「わかった。」 セバスチャンはシエルが世話になっている妓楼へ文を出した。「行首様、大変です!」「何だい、天地がひっくり返ったかのように大騒ぎして。」「シエルが、宮女に・・」「何だって!?」 シエルの養母は、シエルが宮女となる為の教育を受けさせたいので、暫く自分の元でシエルを預からせて欲しいという旨のセバスチャンからの文を読んだ後、気絶しそうになった。「あの子が宮女なんて、勤まるのかねぇ?」「さぁ、こればかりは天頼みだねぇ。」 行首はそう言った後、天を仰いだ。「全問正解です。科挙の試験問題を難なく解けるとは、あなた中々やりますね。」 セバスチャンはシエルをそう褒めた後、ボロボロの布切れを見た。「“あれ”は何です?」「雑巾だが?」「あなたに料理と裁縫の才能が壊滅的にないという事がわかりました。これからわたしが徹底的に教えなければならないようですね・・」 セバスチャンはそう言って溜息を吐いた。「行首様、お世話になりました。」「まさかあんたが宮女になるなんてねぇ。ミカエリス様の言う事をちゃんと聞くんだよ。」「はい。」「あぁ、これをあんたに。」 行首は別れ際に、シエルにある物を手渡した。 それは、蒼い宝玉がついた簪だった。「これは・・」「あんたの家令が、あたしに渡してくれたんだ。いつかあんたが、ここから出て行くときに渡してくれってね。」「タナカが・・」 シエルの脳裏に、妓楼で自分と再会した時の老家令の笑顔が浮かんだ。「これは、あんたのお母さんの形見なんだってね。」「お母様の・・」「身体には気を付けるんだよ。」「はい。」 シエルは、三年間暮らした妓楼を後にした。「さてと、宮廷にあなたが入るまでまだ時間がありますからね。わたしがあなたを一から厳しく躾けますので、覚悟して下さいね。」「望むところだ。」 こうしてシエルは宮廷入りする日までセバスチャンに礼儀作法などを叩き込まれた。「料理と裁縫も少しはマシになりましたね。」 セバスチャンはシエルの髪を梳きながら、そう言うと溜息を吐いた。「シエル、これから一人で身の回りの世話が出来ますか?」「馬鹿にするな。」「冗談ですよ。」 そして遂に、シエルが宮廷入りする日が来た。「シエル、良く似合っていますよ。」「そうか?」 シエルが着ているのは、淡赤色の上着と藍色のチマだった。「まぁ、あなたの髪色に映えますね。」 セバスチャンはそう言うと、シエルに髪飾りを見せた。「それは?」「女官は王妃様や側室様のように派手な髪飾りや簪をつけてはいけませんが、この程度の物なら大丈夫でしょう。」「ありがとう。」 小さな蒼い石が刺繍された紅い髪飾りをシエルの髪に結びながら、セバスチャンはこれからシエルに待ち受ける運命を思い、溜息を吐いた。「どうした?」「いえ、何でもありません。」 セバスチャンは、シエルを連れて王宮へと向かった。「セバスチャン、良く来たな。その子が、シエルか?」 王宮に入ったセバスチャンとシエルは、女官達を引き連れた大妃と会った。「媽媽、お初にお目にかかります、シエルと申します。」「ほぉ、幼いながらも良く礼儀を心得ておる。お前の教育の賜物か?」「はい。」「シエルよ、そなたは妾の元で働くが良い。」「ありがたき幸せにございます。」 こうしてシエルは、大妃の下で宮女として働く事になった。「そうか、シエルが大妃様付きの女官に・・」「これからどうなさいますか、世子様?」「それは、あいつ次第だ。」 ヒョンジャは、そう言うと美味そうに酒を飲んだ。 宮女として働く事になったシエルだったが、朝から晩まで忙しく王宮内を走り回り、一日が終わると泥のように眠っていた。 そんな中、シエルは大妃に呼び出され、彼女が居る宮殿へと向かうと、そこにはヒョンジャの姿があった。「世子様・・」「かしこまらずともよい。近う寄れ。」「は、はい・・」 シエルがヒョンジャの隣に座ると、彼はシエルを自分の膝上に座らせようとしたが、大妃に止められた。「おやめなさい、シエルが怖がっているだろう。」「申し訳ありません。」「そなたがこの者を宮女にしたいと王様に申し出たのは、何故だ?」「それは、この者をわたしの側室にする為です。」「年端のゆかぬ娘を側室にするだと?そなた、気でも狂っているのか!?」「落ち着いて下さい大妃様、今すぐこの者を側室に迎えると思っていません。」「そうか。シエル、そなたはどう思っておる?」「わたしは・・」「大妃様、世子様もいらっしゃるとは思ってもいませんでした。」 氷のような冷たい声と共に、セバスチャンが部屋に入って来た。「セバスチャン、そなたも来たのか。」「大妃様、シエルの働きぶりはどうですか?」「良く働いてくれておる。」「そうですか、それは良かった。それよりも世子様、先程のお話、本当なのですか?」「何の話だ?」「とぼけないで下さい。シエルを側室になさろうと大妃様におっしゃっていたではありませんか?わたしは認めませんよ。」「そなたが決める事ではない。」 ヒョンジャとセバスチャンの間に、静かな火花が散った。「セバスチャン・・」「シエル、少し疲れているようですね?目の下に隈が出来ていますよ。」 セバスチャンはそう言うと、そっとシエルを抱き上げた。「申し訳ありませんが、シエルをわたしの部屋で休ませます。」「そうか。」 セバスチャンがシエルを連れて向かった先は、王宮から少し離れた宮殿だった。 長年放置されているようで、雑草が生い茂り、宮殿の柱や扉の漆喰が所々剥がれ落ちている。 だが、内装は荒れた外観とは対照的に、清潔で調度品も立派な物ばかりが並んでいた。「ここには、お前一人しか居ないのか?」「ええ。大抵の事は全てわたし一人で出来ますからね。それに、わたしは側室の子ですから・・」「側室の子?お前、王族なんだろう?それなのに・・」「どうして、このような所に住んでいるのかって?わたしの母、王の側室は、この国を混乱に陥れた悪女だからですよ。」 セバスチャンは、シエルに自分の生い立ち話を聞かせた。 セバスチャンの母は、都で名妓と謳われた妓生だった。 その美貌と才覚に、王は惚れ込み、彼女を側室にした。 だがそれを快く思わなかったのは、ヒョンジャの母―王妃・ミョン氏だった。 ミョン氏はセバスチャンの母を卑劣な罠で陥れ、彼女は悪女の汚名を着せられ、獄死した。「わたしが王宮に居るのは、真実を明らかにする為です。」 そう言ったセバスチャンの瞳に、迷いはなかった。にほんブログ村
2023年10月13日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。 とある両班の邸で、盛大な宴が開かれていた。 そこには沢山の料理や酒、そして宴席に華を添える妓生達の姿があった。「はは、こんなに美女揃いだと、宴が終わってしまうのが惜しいなぁ。」「まぁ、旦那様ったら!」 噎(む)せ返るような白粉の匂いに、セバスチャン=ミカエリスは吐きそうだったが、上役の機嫌を損ねる訳にはいかない。 セバスチャンが酒を飲んでいると、少女達の群舞が始まった。 皆揃いの韓服を着て、短刀を持って舞っている姿は、可愛らしかった。「あの子達は?」「うちの童妓(トンギ:見習い)達ですよ。」 暫くすると、少女達の中から一人の少女が出て来た。 濃紺のチマに、真紅のチョゴリといった地味な色合いの物だったが、それらを着ている少女は、とても美しかった。 蒼銀色の髪と、雪のように白い肌。 そして何よりセバスチャンを魅了したのは、美しい蒼の瞳だった。「あの子も、童妓ですか?」「ええ。水揚げ前ですが、音曲も書画も他の子より抜きん出ていてね、行首様もあの子には一目置いているんですよ。何でも、元は両班の娘だったとか。」「へぇ・・」 セバスチャンは舞を披露していた少女から暫く目を離せなくなった。「あの子を、お気に召しましたか?」「えぇ。」「では、あの子だけ旦那様のお部屋へお連れします。」 宴が終わり、妓生達はそれぞれ“仕事”の為に客と用意された部屋へと引き上げていった。 セバスチャンは、今自分の前に座っている少女を見つめていた。 少女は、濃紺のチマを握り締めながら震えていた。「そんなに怯えなくてもいいのですよ。」「あの・・」「どうして、あなたのような子が、妓楼に居るのです?男児は、童妓ではなく使用人になっている筈でしょう?」「一体、いつから・・」「最初から気づいていましたよ。」 セバスチャンはそう言うと少女、もとい少年の右目を覆っている眼帯に気づいた。「右目は、どうなさったのです?」「これは・・」「失礼。」 セバスチャンが少年の右目を覆う眼帯を外すと、その下には美しい朝焼けを思わせるかのような紫の瞳が現れた。「これは、生まれつきですか?」「はい。」「そういえば、まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。わたしは、セバスチャン=ミカエリスと申します。」「シエル=ファントムハイヴと申します。」「シエル、あなたはこれからどうしたいのですか?」「わからない。ただ、僕は自分の家族を殺した奴に復讐したい。」 シエルは、三年前自分と、自分の家族の身に起きた悲劇の事をセバスチャンに話した。 三年前― その日、シエルは風邪をひいて、母屋から少し離れた自室で寝ていた。「お父様、お母様?」 喉の渇きを覚えたシエルが母屋に入ると、中は不気味な程静まり返っていた。 足元に何か濡れたような感触がして、それが両親と双子の兄の血である事に気づいたシエルは、悲鳴を上げた。 その直後、何者かに拉致され、陵辱された後、シエルは妓楼の前に捨てられた。 本来男児は妓楼には不要で、せいぜい使用人か用心棒にしかなれないのだが、行首がシエルの美貌と聡明さに目をつけ、彼を童妓にした。 稽古や雑務の合間に、シエルは自分の家族を殺した犯人を捜し始め、それがある王族だと気づいた。 その王族に近づく為には、王宮で宮女として働く事が一番の近道なのだが、妓生として王族に近づき、情報を集める方がいいとシエルは考えたのだ。「そうですか。では、わたしがあなたの力になりましょう。わたしはこれでも、両班なので、王族の事には詳しいのですよ。」「そうか。では僕に協力してくれるな、セバスチャン?」「ええ。でも、わたしがあなたに協力する代わりに、ある物を要求します。」「ある物?」「それは・・」 セバスチャンがシエルの耳元で何かを囁くと、シエルは頬を赤く染めた。「そんな事・・」「出来ないと?ならば、あなたには復讐を諦めた方が良いですね。」「嫌だ、僕は・・」「もう後にはひけないのでしょう?ならば、わたしに身を委ねなさい。」 セバスチャンはそう言うと、シエルを褥の上に寝かせた。 唇を塞ぐと、シエルは身を捩って暴れたが、セバスチャンの鍛え上げられた身体はビクともしなかった。「嫌だ、あぁっ」「おやおや、胸を触られただけで感じるとは、この先が思いやられますね。」「おい、どこを触って・・」「旦那様、いらっしゃいますか?」「何ですか?」 セバスチャンは、シエルのチマの乱れた裾を直し、部屋から出て廊下に居る奴婢を睨みつけた。「旦那様に、お会いしたいという方が・・」「こんな夜更けに、一体誰です?」「久しいな、セバスチャン。」 そう言いながらセバスチャンの前に現れたのは、彼の異母兄・ヒョンジャだった。「一体こんな夜更けに、わたしに何の用があるのです?わたしは今、“お楽しみ中”なのですよ。」「それは失礼。では、明日出直すとしようか。」 ヒョンジャはそう言った後、そっと部屋の中を覗き見て、シエルの存在に気づいた。「可愛いな、お前?名は?」「シエルと申します。」「セバスチャン、この娘を妓楼に埋もれさせるには惜しい。シエル、そなた宮女になるつもりはないか?」「え・・」 シエルは、ヒョンジャの言葉に思わず部屋から出てしまった。「わたしと共に来い。」「そうはいきませんよ。」 セバスチャンはそう言うと、ヒョンジャの腕の中からシエルを奪い返した。「また会おうぞ、シエル。」「あの方は、一体・・」「あの方は、ヒョンジャ様・・わたしの不倶戴天の敵ですよ。」 セバスチャンはそう言うと、シエルを押し倒した。「さぁ、続きを致しましょう。」「やめろ、あっ・・」 セバスチャンは、己の胸に顔を埋めるシエルの髪を優しく梳いた。「失礼致します、父上。」「こんな朝早くからどうした、ヒョンジャ?」「ある者を、宮女にしたいのです。その者の名は、シエル=ファントムハイヴ。」「わかった。」にほんブログ村
2023年10月09日
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