薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
薄桜鬼 薔薇王腐向け転生昼ドラパラレル二次創作小説:◆I beg you◆ 1
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 10
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
黒執事 平安昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:蒼き月満ちて 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
F&B×天愛 異世界転生ファンタジーパラレル二次創作小説:綺羅星の如く 1
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
黒執事 BLOOD+パラレル二次創作小説:闇の子守唄~儚き愛の鎮魂歌~ 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 1
天上の愛地上の恋 大河転生昼ドラ吸血鬼パラレル二次創作小説:愛別離苦 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
火宵の月 吸血鬼転生オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華 1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
火宵の月異世界転生昼ドラファンタジー二次創作小説:闇の巫女炎の神子 0
FLESH&BLOOD 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の騎士 1
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 7
F&B 現代昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説:恋はオートクチュールで! 1
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 1
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天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 3
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD 帝国ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説:炎の紋章 3
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 1
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 6
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 6
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
FLESH&BLOODハーレクインパラレル二次創作小説:海賊探偵社へようこそ! 1
天愛×相棒×名探偵コナン× クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 1
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
天上の愛地上の恋 BLOOD+パラレル二次創作小説:美しき日々〜ファタール〜 0
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOIヴィク勇火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 1
YOI×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:氷上に咲く華たち 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
刀剣乱舞 腐向けエリザベート風パラレル二次創作小説:獅子の后~愛と死の輪舞~ 1
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 2
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天上の愛地上の恋現代昼ドラ人魚転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 2
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
F&B×薄桜鬼 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:北極星の絆~運命の螺旋~ 1
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・愛の螺旋 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。総司と歳三は、港町から出て、順調に王都への旅を進めていった。(このまま、何事もなく王都に着けばいいが・・)そんな事を思いながら歳三が総司と共に街道を歩いていると、風に乗って遠くから賑やかな音楽と人の笑い声が聞こえて来た。「町の方から聞こえて来ますね。」「行ってみるか。」二人が町へと向かうと、町の広場で旅芸人達が芸を披露していた。(あの人達、確か前に会ったような気が・・)総司がそう思いながら広場の舞台の方を見ていると、舞台に一人の少女が現れた。(やっぱり、あの時の・・)「どうした、総司?」旅芸人達の後を総司が追い掛ける姿を見て、歳三も慌てて彼女の後を追った。「待って、待って下さい!」「あなたは、わたしを助けてくれた・・」ユニコーン一座の団員・キキは、そう言って総司を見た。「まぁ、貴族のお嬢様がわたし達に何の用かしら?」キキと総司の間に割って入ったのは、キキの保護者代わりの団員・エミリーだった。「突然で申し訳ないのだけれど、皆さんと一緒に働かせて頂けないかしら?」「え・・」「おいおい、一体何を言い出すんだい、お嬢さん?」そう言って総司の前に立ったのは、赤毛の大男だった。「俺は、団長のユリウス。何やら、訳有りのようだな?」「はい、実は・・」「まぁ、こんなところで立ち話も何だから、俺達が泊まっている宿へ行こう。そっちの兄さんも。」「あぁ。」ユリウス達が泊まっている宿は、運河沿いにあった。「さぁ、狭い部屋だが、どうぞ入ってくれ。」ユリウス達が泊まっている部屋は、最上階にある大きな部屋だった。「うちは大人数だから、少し値は張るがこの宿に泊まっている間は宿代を稼ぐ為に宿屋の仕事を手伝ってんのさ。」ユリウスにコーヒーを勧められ、それを一口飲んだ後、総司は自分達が抱える事情を彼らに話した。「そんな・・あのお優しい奥様が・・」「あなたも苦労したのね。」ユリウスの母・クララは、そう言った後総司の手を握った。「まぁ、俺達も色々と事情を抱えているからな。人手不足だし、雇ってやろう。」「ありがとうございます!」「ま、そっちの兄さんは用心棒として雇うにしては問題ないが、そちらのお嬢さん・・総司さんは、何が出来る?」「剣術と馬術、弓術と刺繍が出来ます!」「そうか。じゃぁ、総司さんは、暫くお袋と一座の衣装係をやって貰おう。」「はい、よろしくお願い致します!」こうして、歳三と総司は、ユニコーン一座の団員となった。「あ~、今日はツイているぜ!あんた達が幸運の女神様を連れて来てくれたのかもしれねぇな!」町での興行を終え、船で次の町へと移動しながら、ユリウスは上機嫌な様子でそう言って笑った。「総司さんは、何でも出来るのねぇ。」「わたしを助けてくれた時、見事な剣術で悪ガキ達をやっつけてくれたもの!ねぇ総司さん、今度わたしに剣術を教えて!」「えぇ、いいですよ。」総司はすっかり一座の皆と打ち解け、キキはまるで実の姉のように総司を慕った。「ねぇ、あなたは魔女の国から来たのでしょう?向こうには、本当に魔女や魔法使いが居るの?」「いいえ。でも、わたしの故郷には美しい花があるんです。」「へぇ~」「その花の花言葉は、“真実の愛”というのですって。」「わぁ~、素敵!」「そういえば、土方さんは?」「あの怖い人なら、団長と話しているよ。」「ありがとう。」「キキ、総司さん、ここに居たのね。買い物に行くから、手伝って頂戴。」「はぁ~い。」キキと総司、エミリーは、王都の近くにある宿場町の市場で買い物をしていた。「キキ、そのネックレスは、亡くなったお母さんの形見だと、昔言っていましたね?お母さんは、どんな人だったのですか?」「亡くなったお母さんは、昨年流行り病で亡くなったの。このネックレスは、わたしと本当のお母さんを繋ぐ絆のようなものなんだって、話してくれたわ。」「本当のお母さん?」「わたしは、亡くなったお母さんと、お父さんの養女だったんだって。わたしには、二人のお母さんが居るんだって、亡くなったお母さんが話してくれたの。」「そうなんですか。じゃぁ、わたしと同じですね。」そんな事を総司がキキと話をしていると、総司は一人の男とぶつかってしまった。「すいません・・」「お怪我はありませんでしたか、レディ?」そう言った青年は、美しい翠の瞳で総司を見つめた。「あなたは・・」「総司、帰るぞ。」「隊長、隊長なんですか!?」青年がそう言って歳三の腕を掴んだが、彼の手を歳三は乱暴に振り払うと、そのまま去っていった。「土方さん、さっきの方、お知り合いですか?」「さぁな。」宿場町を出た総司達が王都に着いたのは、木枯らしが吹く頃だった。「う~、寒い!厚手の上着でも持ってくればよかったな!」「そうだね。」これまで順調に稼いでいたユニコーン一座だったが、娯楽が発達し、多様化している王都の人々には、彼らの芸は全く見向きもされなかった。「どうすりゃいいんだ?」「ユリウス、あたしにいい考えがあるよ。」クララは、知り合いの貴族に会いに、総司を連れてある場所へとやって来た。そこは、教会だった。「うわぁ~、凄い・・」教会の中へと足を踏み入れた総司は、美しいステンドグラスの装飾が施された薔薇窓を見て絶句した。「さぁ、こっちだよ。」クララが総司を連れて行ったのは、金糸の美しい刺繍が施された紫のストラを肩に掛けた、一人の司祭の元だった。「司祭様、お久し振りでございます。」「クララさん、どうも。そちらの方は?」「うちの一座の衣装係の、総司です。総司、こちらがこの教会の主任司祭の、グスタフ様だよ。」「初めまして、総司と申します。」「総司、とおっしゃるのですね。成程、“あの方”に良く似ていらっしゃる。」「“あの方”?」「魔女!」クララの背後で悲鳴を上げた女は、そう言って総司を指した。「皆さん、この娘は・・」「誰か、この女をつまみ出せ!」グスタフ司祭と数人の神父達が女を教会の外へとつまみ出そうとしたが、女は身を捩って暴れた。「離せ~!」「申し訳ありません、見苦しいところをお見せしてしまって。」「あの、グスタフ司祭、さっきのは・・」「どうぞ、お気になさらず。」そう言ったグスタフ司祭は、力無く笑った。「総司さん、こちらの方はわたしの知り合いの、クラディア子爵夫人だよ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年05月01日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。総司は森を抜けて休みなしに歩いた所為なのか、宿の部屋に着いた途端、そのままベッドに横になって眠ってしまった。「ったく、しょうがねぇな。」 歳三は溜息を吐きながら総司の身体に毛布を掛けると、そのまま彼女を起こさぬようにそっと宿の部屋から出た。「いらっしゃい、新鮮なお魚はいかが!?」「魚よりも牡蠣が美味いよ!寄っていってよ!」歳三が港へと向かうと、市場で新鮮な魚介類を売っている商人達から次々と声を掛けられた。市場を抜けると、美しいレンガに囲まれた旧市街が見えて来た。「お兄さん、寄っていらっしゃいよ。」「良い夢を見させてあげるわよ。」旧市街の中を歳三が歩いていると、娼館の窓から数人の娼婦達が顔を出して、彼に声を掛けた。歳三は市場で食料品を購入した後、宿に戻った。「帰ったぞ。」「お帰りなさい。」「宿の台所を使わせて貰うよう、主人に許可を取った。」「そうですか。でもどうして自分達で料理を?」「毒を盛られないようにする為だ。」歳三と総司は、宿の台所で自分達の食事を作った後、それを部屋で食べた。「今夜はゆっくり眠れそうだな。」「はい。」夜明け前、馬の嘶きの声で歳三は目を覚ました。「総司、起きているか?」「はい・・」「客人が来たようだ。」歳三が部屋から出て、下へと降りると、案の定そこには武装したリアン達が居た。「ここに、この娘は泊まっているか?」「いいえ、知りません。」「おや、これは久しいですな。丁度あなた様をお迎えしようと思っておりましたのに。」「何だ、お前!?」「わたくしは、内藤と申します。長旅でお疲れでしょう、お茶をどうぞ。」「ありがとう、頂こうか。」リアンはそう言うと、歳三が淹れた茶を飲んだ。すると彼は、強烈な眠気に襲われた。「お客さん、起きて下さいよ!」「何だ、うるさい・・」リアンが低く呻きながら起き上がると、自分達の前には迷惑そうな顔をした宿の主人が立っていた。「こんな所で酔い潰れないで下さいよ。」「済まない。」リアンはそう言うと、痛む頭を押さえながらテーブルから起き上がった。「昨夜、わたし達に茶を振る舞った男は・・」「あぁ。さっき、出航した南行きの船に乗られましたよ。」「何だと!?」「えぇ、可愛らしい娘さんと一緒に。」(やられた!)「リアン様、いかが致しましょう?」「・・引き返すぞ。」「ですが・・」「くどい!」「はい、わかりました・・」(この借りはいつか返してやるからな!)「今、何を海の中に捨てたのですか?」「眠り薬だ。旧市街で会った薬屋から貰った。」「まぁ、そうだったのですか。」「足止め出来て良かったぜ。」歳三はそう言って溜息を吐いた。総司は、潮風に吹かれながら水平線の彼方を眺めていた。「ここに居たのか?」「えぇ。海に行くのは初めてなので・・」「今まで、あの城の周りしか出歩かなかったのか?」「はい。母様から、“あなたの為なのよ”と。」「そうか・・」「広い世界を、わたしは生まれて初めて知る事が出来ました。」「これからだ、お前ぇが広い世界を知るのは。今まで知らなかった事を、お前ぇはこの旅で知る事になるんだ。」「楽しみですね。」「まぁ、楽しい事ばかりじゃねぇがな・・」歳三の呟きは、潮風に乗って消えていった。やがて二人を乗せた船は、南の港へと着いた。その港は、様々な肌や髪の色をした人々が行き交い、活気に満ちていた。「これからどうします?」「まずは飯だ。」歳三は港の人間にこの近辺で美味い店を尋ねた後、総司と二人でその店へと向かった。その店は、海鮮料理が美味いと評判の店だった。「この店で一番美味い物を頼む。」「あいよ!」店を切り盛りしている女将は、日に焼けた陽気な女性だった。「お待たせしました!」彼女が二人の前に置いたのは、海老を丸ごと焼いたものに、バターを炒めた料理だった。「美味いな。」「えぇ。」「それにしても、お前ぇが居た所とは違って、ここは暖かいな。服を替えないとな。」「そうですね。」店を出た後、二人はこの地の民族衣装を何着か港の近くにある衣料品店で購入した。「どうですか?」「良く似合っているぞ。」歳三が総司の為に選んだのは、美しい紫のドレスだった。「あなたも、似合っていますよ。」「そうか?」「でも、髪を切る事はなかったんじゃないですか?」「男の長髪は人目につきやすい・・特に黒髪はな。」「そうですね・・」通りを歩きながら、総司は人々が皆自分達と同じような肌の者が誰一人居ない事に気づいた。「じゃぁ、わたしも切りましょうか、髪?」「お前はそのままでいい。」「そうですか。」「先を急ぐぞ。」「はい。」二人は、活気に満ちた港町を後にし、王都を目指した。「旅費が足りねぇな。」歳三はそう言うと、残り数枚になった金貨をズボンのポケットの中から取り出して溜息を吐いた。「じゃぁ、これを売って下さい。」総司がそう言って歳三に差し出したのは、美しい細工が施された純金のメダイだった。「これは?」「母様の形見です。これを売れば、当分の生活費に充てられるでしょう。」「そんな大切な物を・・」「どんな物も、命には代えられません。」「そうか・・」総司からメダイを受け取った歳三がそれを宝石店に持っていくと、高値で売れた。「こんなに見事な物、今まで見た事がない!」 店主はそう叫ぶと、感嘆の声を上げた。「本当に、良かったのか?」「えぇ。」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「あなた、これからわたくし達はどうなるのかしら?」「さぁ、それは神様にしかわからんさ。それよりもつね、少し休め。」「はい・・」「今の時期が一番大切なんだから、もっと俺に甘えてくれ。」「はい、わかりました。」 つねは夫の言葉に甘えて、天幕の中で休む事にした。 リアンが領主夫妻を殺し、街を制圧してから、領民達は日々炭鉱や紡績工場で休みなく働かせられていた。「いつまでこんな日が続くのかしら?」「もう少し辛抱すれば、きっと元の生活に戻れるわよ。」「そうね。」「それにしても、つねさんは?」「彼女なら、天幕の中で休んでいるわ。」「産後間もないっていうのに、毎日長時間も働くのは辛いわね。」「旦那さんが優しい人で良かったわよね。」 女達は針仕事をしながら、他愛のない話をしていた。「あら、皆さんお揃いで。:「マリア、良い所に来てくれたわ!」「関節痛が酷くなってしまって、参っているのよ。」「それなら、このハーブを使えばいいわ。」「ありがとう、マリア!」 エウリケはマリアの事を“汚らわしい娼婦”と忌み嫌っていたが、女達はマリアの事を慕い、頼りにしていた。「ねぇマリア、新しい領主様はどんなお方なの?」「若い殿方だったわ。まぁ、堅物みたいで、わたしからお誘いしても邪険に断られたわ。」「まぁ、ひどい!」「仕方がないわ、こんな商売をしていたら、そんな目に遭うのはいつもの事よ。」 マリアはそう言うと、溜息を吐いた。「さぁみんな、これでも食べて栄養をつけて!」 マリア達は、女達に焼き立てのパンを振る舞った。「ありがとう!何処でこんなものを手に入れたの?」「ちょっとね・・」 そう言ったマリアは、口元にいたずらっぽい笑みを閃かせた。「おい、起きろ!」「ん・・」 総司が目を覚ますと、彼女の前には何処か不機嫌な顔をした歳三の姿があった。「何?」「ここを出るぞ、奴らに嗅ぎ付けられる前に。」「わかったわ。」 歳三と共に、総司は宿場町から出た。「一体どういう事?“奴ら”って誰?」「話は後だ!」 歳三は総司にフードを被らせ、宿場町を後にして街道へと向かった。 その数分後、リアン達が宿場町へとやって来た。「この娘は居るか?」「いいえ、見ておりません。」「そうか。」 リアンは舌打ちすると、そのまま領地へと引き返した。「ねぇ、これからどうするの?」「あの山小屋で暫く暮らす。あそこなら、野宿よりマシだろう。」「そうね。」 森の中で山小屋を見つけた歳三と総司は、暫くそこで暮らす事にした。「薪があるわね。これなら当分寒さが凌げそうだわ。」「あぁ。それに、家具も調理器具も一通り揃っているし、後は冬をどう過ごすかだな。」 歳三は、山小屋の中で武器になりそうな物を探した。 すると、薪小屋の中に、新しい斧があった。(これなら、戦えそうだ。)「土方さん、そこで何をしているの?」「武器を探していた、いつでも戦えるように。」「そう。あなたが勇敢な軍人だと、つねさんから聞いたことがあるわ。」「軍人なんて、そんな大層なもんじゃねぇ。俺はただ、この手で沢山人を殺しただけだ。」 歳三はそう言うと、己の両手をじっと見つめた。「俺の手は、血で汚れている。」「土方さん・・」「飯にするぞ。」「はい。」 暫く二人は黙って宿場町で購入した野菜や鶏肉、ハーブなどを使って、簡単な料理を作って食べた。「美味いな。」「そうですね。土方さん、結構料理とかされるんですね?」「まぁな。軍隊は自給自足が基本だからな。それに、料理は気分転換になるからな。」「そうですか。」「まぁ、これからどうすべきなのか、ゆっくりと考えていく事にするか。」「はい。」「お前ぇ、一通り家事が出来るんだな。」「お母様から、“自分の事は自分でしなさい”と、物心着く頃から言われて来たので、侍女達に混じって料理や裁縫をしていました。」「そうか。」 皿を洗いながら、歳三と総司はお互いの事を話した。「なぁ総司、これから家事を二人で分担しねぇか?」「いいですね!」 総司がそう叫んだ時、彼女の頬から数センチの所に、矢が刺さった。「伏せろ!」 歳三はそう叫ぶと、腰に帯びていた長剣を抜き、外に出た。「誰だ、隠れていないで出て来い!」「あらあら、そんな顔をしていたら、折角の色男が台無しよ?」 神経を逆撫でするような声が聞こえたかと思うと、一人の女が歳三の前に現れた。 年の頃は二十前後といったことろか、豊満な胸を恥じらいもせずに晒すようなデザインのドレスを着ているその姿は、暗殺者ではなく娼婦のように見える。「てめぇ、何者だ?」「あたしのご主人様からの伝言よ。“連れの娘に危害を加えられたくなければ、大人しくしていろ”とね。」「待て!」「いつかまた、会いましょう。」 謎の女は口元に不敵な笑みを浮かべると、漆黒のドレスの裾を翻しながら闇の中へと消えていった。「土方さん、ご無事ですか!?」「あぁ。総司、怪我はねぇか?」「はい。」「まだ敵がこの近くに潜んでいるかもしれねぇから、お前ぇは小屋の中から出るな。」「わかりました。」 翌朝、二人は山小屋を後にした。「昨夜俺達を襲ったのは、お前の命を狙っている奴に雇われた殺し屋だった。」「じゃぁ、山小屋を発ったのは、わたし達があそこに居ると嗅ぎ付けられない為ね?」「そうだ、そして俺達は急いで南へ向かわなければいけない。」「南に、一体何があるのかしら?」「それは、行かなきゃわからねぇな。」「そうですね。」 森を抜けた二人は、南へ向かう船が停泊している港へと向かった。 だが、南行きの船は悪天候の為明朝まで出ないという事だった。「船が出るまで、宿で休むぞ。」「はい。」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「嘘を吐くな。」「嘘は吐いておりません。」 エウリケの毅然とした態度に、敵兵達は少したじろいだ。「どうした?」「リアン様・・」 敵兵達の中から、20代前半と思しき青年がエウリケの前に現れた。「それが・・この女が・・」「娘はここに居ないと言っているでしょう!」「引き上げるぞ。」「良いのですか?」「あぁ・・この城を焼き払ってからな。」 エウリケの胸を剣で振り向きざまに刺し貫いたリアンは、そのまま城から去っていった。 同じ頃、歳三は総司を連れて闇に包まれた森の中を駆けていった。(凄い、この人灯りも何もないのに・・)「何をしていやがる、早く来い!」「は、はい・・」 総司は言われるがまま、歳三の後をついていった。「見ろ、城が燃えているぞ!」「お母様・・」「後ろを振り向くな。」「でも・・」「お前を自分の命と引き換えにお前を逃がした母親の想いを無駄にするな!」「う・・」「泣く暇があったら、動け。」「わかったわ。」 森を抜けた二人は、賑やかな宿場町に入った。「ここで色々と買うぞ。」「わかったわ。」 歳三は食糧や着替えの服などを何着か町で購入し、総司を連れて宿屋に入った。「いらっしゃい。」「別々の部屋を頼む。」「すいません、今夜は部屋がひとつしか空いていないんです。」「そうか・・」 歳三は暫く考えた後、宿屋の主人に金貨が詰まった袋を手渡した。「宿代は弾むから、食事を豪華にしてくれ。」「承知しました!」 歳三が総司と共に部屋に入ると、総司は歳三が差し出した服を見て顔をしかめた。「こんな物をわたしに着ろと?」「文句を言うなら、裸でいろ。言っておくが、今まで豊かで何不自由ない生活をこれから送れると思うな。」「わかったわ。」「まずはその汚れたドレスを脱げ。それが済んだら、飯だ。」「わかったわ!」(ったく、これからどうなる事やら・・) 歳三と総司が宿屋で食事を取っていると、トーマの喪が明けた事を祝う舞踏会が王宮で開かれた。―何だか、変な気分ね。―えぇ、本当に。 貴婦人達がそんな事を扇子の陰で囁き合っていると、そこへトーマの妻でありアンルーシュ王国王妃であるフレイヤがやって来た。 黒絹のドレスを身に纏い、宝石類や装身具類を一切身につけていなかったが、彼女の内側からの美しさは失われていなかった。「一体何の話をしているのかしら?」「い、いいえ・・」「わたくし達はこれで・・」「未亡人というものは、辛いものだわ。同情されてばかりで、周りはわたくしを腫れ物のように扱う・・」「王妃様・・」「気分が優れないので、部屋に戻るわ。」「王妃様、お待ちくださいませ!」「王妃様!」「女官達も大変ね、姉様の気まぐれに振り回されて・・」「まぁ、イライザ様・・」「相変わらずお美しいですわ。」「ありがとう。」 フレイヤの妹・イライザは、美しくカールしたブロンドの髪を揺らした。「姉様の事は放っておいて、わたくし達は楽しみましょう!」「は、はい・・」「そういえば、あの方はどちらへ?」「リアン様は、北へ行かれました。」「まぁ、北へ!?あそこは、魔女の国だという噂が・・そんな危険な所へ、何故?」「それは、陛下が命じられたので・・」「あぁ、心配だわ!」「大丈夫ですよ。リアン様は、すぐに帰って来られますよ。」「そうよね。リアン様はお強いもの。」「さぁイライザ様、リアン様が戻られるまで、舞踏会を楽しみましょう!」「えぇ!」 遠く大広間から聞こえて来る賑やかな笑い声や音楽に耳を澄ましながら、フレイヤはそっと窓のカーテンを閉めた。(あなた、どうしてわたくしの前から居なくなってしまったの?) フレイヤは、寝台の上に横たわると、涙を流した。 舞踏会は、夜更けまで続いた。「それにしても、叔父様がお亡くなりになったから、これからこの国はどうなるのかしら?姉様との間には子供は居ないし・・」「そうですわねぇ。」「後継者は、リアン様に決まりね!」「そうですわね。」「暫く部屋で休むから、誰も通さないで頂戴。」「かしこまりました。」 この王国を治めているのは、アリューシャ王家であり、代々王位を継げるのは直系の男子のみ。 トーマ亡き後、現在王家の直系男子はリアンのみ。 このまま彼が王位を継ぎ、国王となる―筈であったが、彼には王家を継ぐ為に必要な“ある物”がなかった。 それは、代々王家に伝わる魔力であった。 その魔力は、総司が持っている。 リアンが総司から魔力を奪う方法は、ただひとつ。 それは彼女を殺す事だ。「娘はまだ見つからないのか?」「はい。」「草の根を分けてでも探し出せ!」「リアン様・・」「どうした?」「何だ?」「領民達は如何いたしましょう?」「殺すな。女子供に対する暴力は絶対に許さん。」「はい・・」 部下達を下がらせたリアンは、自分の前に現れた見知らぬ娼婦達を睨んだ。「あら、そんなに怖い顔をなさらないで。」「わたくし達は、あなた方の“お世話”をする為に来たのですよ。」「失せろ、娼婦に用はない。」「まぁ、つれないお方。」 マリアはそう言うと、リアンの前から去った。「あの女の事を調べろ。」「はい。」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「あなた、お話があります。」「どうした?」「あの子の事で、お話があります。」 城では総司の15歳の誕生日を祝うパーティーの準備が慌しく行われていた。 そんな中、エウリケはある事を夫に伝えようと、彼の書斎を訪ねた。「どうした、エウリケ?そんな深刻そうな顔をして?」「あの子を、もうすぐ安全な場所に避難させなくては・・」「それはわかっている、だが・・」「あの子はもう子供ではないのです。早く手を打ちませんと・・」「わかっている。」 妻の言葉に、彼女の夫・ハンスはそう言って深い溜息を吐いた。「では・・」「“彼”に、あの子を託そう。」「わかりました。」 その日の夜、総司の15歳の誕生日パーティーが開かれ、王国中から貴族が集まった。「総司様、おめでとうございます。」「ありがとう!」「総司、これはわたし達からあなたへの贈り物です。」「ありがとう、お母様!」 総司がそう言ってエウリケから受け取ったのは、精緻な細工が施された美しい短剣だった。「この剣があなたを守り、あなたの人生を切り開く事でしょう。」「大切にするわ!」 総司がエウリケと抱き合っていると、広間に歳三が現れた。「歳三様!」「誕生日おめでとう。」「来てくださったのね、嬉しいわ!」「あ、あぁ・・」「エウリケ、何故彼を呼んだのだ?」「それは、後で話す。ゲオルグ、これをあの方に。」「わかりました。」 ワインを飲みながら歳三が窓の外に浮かぶ月を眺めていると、この城の使用人と思しき少年が、歳三に一通の手紙を手渡した。 そこには、“わたくしの書斎に来て下さい。書斎へはゲオルグが案内致します。 E”「奥様、トシゾウ様をお連れしました。」「ありがとう。ゲオルグ、あなたはもう下がりなさい。」「はい。」「奥様、わたくしに何かご用でしょうか?」「土方様、娘の事でお願いがございます。」「お願い、ですか?」「娘を、ここから連れ出して貰いませんか?」「それは、一体どういう事でしょうか?」「実は、総司はわたくし達の実の娘ではないのです。」「というと?」「あの娘は、ある秘密を持っているが故に、命を狙われているのです。」「というと?」 エウリケは、歳三に総司が両性具有である事、そして彼女がある王家の血をひいている事を話した。「総司は、15歳になりました。彼女にとって15歳とは、魔力が覚醒する時期なのです。」「話は大体わかりましたが、奥様、何故総司様をここから連れ出せと?」「娘を、守って下さい・・彼女の命を狙う者達から。」「それは・・」「奥様、包み隠さずに話して下さい。」「総司は、アンルーシュ王国の王女なのです。娘の命を狙っているのは、彼女の叔父なのです。」「何故・・」「奥様、いらっしゃいますか?」「どうしたの?」「姫様が・・」「すぐに行くわ!」 エウリケと歳三が話している頃、総司は友人達と楽しく話をしていた。「ねぇ、先程あなたと挨拶していたのは、どなた?」「あの方は、最近ここに来たばかりなのよ。」「まぁ、そうなの。とても素敵な方だわぁ。」 友人達の言葉を聞きながら、総司は少しチリッと胸が焦げるような気がした。(何なの、今のは?)「どうしたの、顔色が少し悪いわよ?」「いえ・・」 少し外の風に当たってくるわと友人達に言い、総司はバルコニーへと向かった。 夏の少し冷たい夜風に当たりながら、総司は森の方が炎に包まれている事に気づいた。(あれは、一体・・)「姫様、どうかされたのですか?」「ねぇ、森の方に炎が見えない?」「いいえ・・わたくし達には何も見えませんが?」「そうなの。」「姫様、顔色が悪いですよ?」「少しワインを飲み過ぎてしまっただけよ。あなた達はもうさがっていいわ。」「は、はい・・」(疲れているんだわ・・今日は早く部屋で休まないと・・) 総司がそんな事を思いながら暫くバルコニーで佇んでいると、急に外から悲鳴が聞こえた。「姫様、お逃げください、賊が・・」「何ですって!?」「早く、裏口からお逃げ下さい!」 そう叫んだ女官は、総司の前で口から血を吐きながら息絶えた。「あ・・」「居たぞ、あの娘だ!」「生け捕りにしろ!」「絶対に逃がすな!」 突然銃や剣で武装した男達が広間に入って来た。 賑やかで楽しかったパーティー会場は、たちまち怒号と悲鳴が飛び交う殺戮の場と化した。「姫様!」「ゲオルグ、一体何が起きているの!?」「わかりません、それよりも、今は早くここから逃げないと・・」 混乱の最中、総司はゲオルグと共にその場から逃げた。「総司、無事だったのですね!」「お母様!」「土方様、どうか娘の事を宜しくお願い致します!」「わかりました。」「お母様!?」「総司、ここであなたとはお別れです。あなたはこれから土方様と共に南へ向かいなさい。」「そんな・・お母様達は・・」「わたくし達は、あなたが逃げる時間を稼ぎます。」「嫌よ、お母様達と別れるなんて、嫌!」「総司、どうか幸運を。」 エウリケは涙を流しながら、総司と別れの抱擁を交わした。「さぁ、行きなさい!」「お母様、さようなら。」「奥様、早く逃げて下さい!」「えぇ、わかったわ。」 エウリケはそう言うと、総司を見送った。 その直後、敵兵が部屋に雪崩れ込んで来た。「ここに娘は居ません。」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「ねぇお母様、あの方達は・・」「あの者達は、魂が汚れた者達です。近づいてはなりません。」「まぁ・・」「奥様、酷い言い様ですこと。」 信心深いエウリケがそう吐き捨てるような口調で言うと、彼女の前に、豊かなブルネットの髪を揺らしながら、一人の娼婦が現れた。「わたくし達は全ての糧を得る為に働いているだけですわ。」「汚らわしい女達ね、目障りだわ!」「行きましょう、マリア。この人には話が通じないわ。」「そうね・・」 ブルネットの娼婦はそう言って鼻を鳴らすと、ちらりと総司を横目で見た後、歳三と共に去った。「お姉さ~ん!」「あらあなた、キキちゃん?」「はい!今日この街を離れるので、ご挨拶に参りました。」「そう。また、何処かで会いましょうね。」「はい!」「エウリケ様、こちらにいらっしゃったのですか!」「近藤さん、どうしたのです?」「妻が・・つねが産気づきました!」「まぁ、それは大変ね!産婆をあなたの家へすぐ寄越すからあなたはつねさんの傍についておあげなさい!」「は、はい!」「さぁみんな、これからつねさんの出産の手伝いに行くわよ!」「はい、奥様!」 教会での炊き出しを早めに切り上げ、エウリケ達は近藤宅へと向かった。 そこには、産みの苦しみに喘いでいるつねの姿と、彼女の姿を前にして右往左往する勇の姿があった。「勇さん、ここはわたし達に任せて、あなたは外へ!」「は、はい・・」「退いておくれ!」「ナディアさん、こっちです!」 家の中から時折妻の呻き声が聞こえ、勇は妻と赤子の無事を只管祈った。 やがて、赤子の元気な産声が聞こえて来た。「産まれたよ、元気な女の子だ。」「つね!」「あなた・・」 勇が産室の中に入ると、つねが産まれたばかりの赤子を胸の上に抱いていた。「ありがとう!」「えぇ・・」「奥さんを少し休ませてあげな。」「はい・・」 勇はそう言うと、家から出て街へと向かった。「済まないが、産婦に栄養をつけさせるハーブはあるかな?」「まぁ、それでしたらローズマリーやカモミールが良いですわよ。」 そう言ってハーブの専門店から出て来たのは、教会の前でエウリケとやり合ったマリアだった。「これを。」「ラベンダーの精油?」「ラベンダーは、疲れを取るにもいいですし、ストレスを和らげる効果がありますわ。」「ありがとう。」「お子様の健やかなご成長を、お祈りしておりますわ。」 マリアはそう言うと、勇に優しく微笑んだ。「あぁ、何て可愛いの。」 総司はそう言うと、生まれたばかりの赤子を眺めた。「これからが大変ですよ。」「・・わたしも、いつか赤子を胸に抱ける日が来るのかしら?」「えぇ、来ますよ。」「まずは、その前に運命の相手を見つけなければね。」「ふふ、そうですわね。」 総司がそんな話をつねとしている頃、遥か遠く、東の大国・アンルーシュでは国王が死の淵を彷徨っていた。「父上、父上!」 アンルーシュ王国第一王子・リアンは、そう言うと父王の手を握り締めた。「リアン・・あの子を、探せ・・」「あの子・・とは?」「お前の・・妹・・」 そう言ったアンルーシュ国王・トーマは静かに息を引き取った。「父上~!」 多民族国家であるこの国を治めて来た国王の死は、やがて総司達の平穏な生活を脅かす事など、まだ総司は知る由もなかった。「兄上、父上は・・」「先程、身罷られました。」「何という事だ、父上・・」 国王の葬儀は、しめやかに行われた。「あぁ、何という事・・」「これから、どうすれば・・」「リアン、後でわたしの部屋に来い。」「はい・・」 葬儀の後、リアンは叔父・ファーリに呼び出され、彼の書庫へと向かった。「叔父上、お話とは何ですか?」「兄上は、最期に何か言い残していなかったか?」「・・いいえ。」「そうか。兄上亡き後、そなたに早く身を固めて貰わねばな。この王家の血をひく男子は二人のみ・・」「わかっております、叔父上。」「例の娘の消息は、まだ掴めておらぬのか?」「はい。」「姉上はどうされている?」「母上は相変わらず、病に臥せっております。叔父上、やはりあの娘はわたしの・・」「血が繋がったお前の妹だ。いや、弟でもあるな。」「どういう意味ですか?」「お前の妹は、両性具有なのだ。それ故、あの子が生まれた時姉上はあの子を殺そうとした。」「何と・・」「わたしは妹の乳母にあの子を託し、この城から逃げるよう命じた。しかし、彼女は刺客に襲われて命を落とし、お前の妹は未だ行方知れず・・もしかしたら、あの子はまだ生きているかもしれぬ。」「その娘の名は?」「総司・・“総てを司る”という意味を持つ。」「叔父上、仮にその娘・・総司を見つけたあかつきには、どうされるおつもりなのですか?」「殺す。」「何故です?」「兄上亡き後、“あの力”を持つ者は王家には、あの娘しか居ない。“あの力”は、この国を治める者には不可欠なもの。だからこそ、“悪しき種子”は見つけ次第摘み取らねばならぬ。わたしが言っている意味は、わかるな?」「はい。叔父上、その娘を見つけたあかつきには、殺せば良いのですね?」「・・賢い甥を持って、助かった。」 ファーリはそう言うと、根元が腐ってしまった薔薇の花を、花鋏でその茎ごと切り落とした。「あの娘が生きていれば、今年で幾つになるのですか?」「そうだな・・」「姫様、15歳の誕生日、おめでとうございます!」「ありがとう!」 この日、総司は15歳の誕生日を迎えた。「15歳・・魔力を持つ者が、覚醒する時期だ。あの娘が持つ“力”が覚醒した時、世界は大きな厄災に見舞われる事だろう。」「その前に、必ずやわたしが探し出し、この手で殺します。」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「まずは、息の合った虎達のダンス!」 座長の紹介で舞台上に現れたのは、まだ10を迎えてもいない少女と、白と茶色の二頭の虎だった。「みなさん、こんにちは!この子は、ララとハニーです!」少女はそう客達に挨拶すると、二頭の虎達と共に息が合ったダンスを踊り始めた。「まぁ、可愛らしい事!」「いいわねぇ。」 一座の芸は、観客達を魅了した。「楽しかったわね!」「えぇ、姫様。」 総司が侍女達とそう言いながら市の中を歩いていると、そこへ舞台で芸を見せた少女と擦れ違った。「あら、あの子は・・」「姫様、どうかされましたか?」「いいえ、何でもありません。」そう言いながらも、総司は少女から目を離す事が出来なかった。 暫くすると、少女の悲鳴が通りの向こうから聞こえて来た。「あなた達は先にお母様達の所へ戻って!」「姫様、お待ちを!」 総司が少女の悲鳴を聞きつけて彼女の元へと向かった。「やめて、返して!それは亡くなったお母さんの形見なの!」「うるせぇ、捨て子の癖に!」「そうだ、そうだ!」 少女の前には、数人の悪童達がそう言いながら彼女が持っていたネックレスを奪い取り、それを投げ合って遊んでいた。「あなた達、やめなさい!」総司はそう叫ぶと、いつも護身用に持ち歩いているレイピアの切っ先を悪童達に向けた。「その子のネックレスを返しなさい!」「逃げろ~!」 悪童達は少女のネックレスを地面へと放り投げると、そのまま何処かへと走り去っていった。「大丈夫?」「ありがとう。」「あなた、お名前は?」「キキと言います、あなたは?」「わたしは総司というのよ。また会いましょうね!」総司はそう言うと、キキにネックレスを手渡して去っていった。「キキ、遅かったわね。」「ごめんなさい、エミリー。市で買い物をしていたら、変な人達に絡まれて・・」「そうだったの・・大丈夫だったの?」「お母さんの形見のネックレスをあの子に取られたけれど、とても綺麗な人に助けて貰ったの!」「良かったわね。その方は、どんな方だったの?」「黒髪で、美しい蒼いドレスを着ていたわ。名前は総司っていうの!」「まぁ、そうなの・・素敵な人に会えて良かったわねぇ。」そう言ってキキの髪をブラシで梳いていたエミリーの手は、微かに震えていた。「お休みなさいませ、姫様。」「お休みなさいませ。」城へと戻った総司は、その夜自室で夢も見ずに眠った。 同じ頃、歳三は森の中で野宿をしていた。 水浴びの為服を脱いだ歳三の右脇腹には、大きな刀傷があった。 その刀傷は、歳三が負傷した敵兵を安全な場所へと避難させようとした際、背後から不意打ちにされてつけられたものだった。 敵に情けなどかけるものではなかった。 戦で歳三は武功を立てたが、そこでは沢山の仲間が死んでいった。(いつまで、俺は人殺しをし続けなければならねぇんだ!) いつから、己の両手を血で汚して来たのか、もう思い出せない。「あら、先客がいたわ。」「良い男じゃないの。」 微かな水音と人の気配がした後、市で見かけた女達―娼婦達が湖に入って来た。「その瞳、上質な琥珀みたい。」「鋼のような筋肉ね。」「ねぇ、この後わたし達と遊ばない?」 娼婦達がそう言いながら自分にしなだれかかるのを、歳三は満足気に笑いながら見ていた。 「あなた、もう休みましょう。」「そうだな・・」 同じ頃、勇は家の前で歳三が来るのを待っていたが、妻・つねと共に家の中へと戻っていった。「ねぇあなた、土方様は昔からあんなに無愛想な方でしたの?」「いや、トシは昔から良く笑う奴だった・・あいつが変わったのは、戦の所為だな・・」「この前の戦は、酷かったわねぇ。」「あぁ、北の大地が、敵味方関係なく兵士の血で赤く染まったとか・・」「土方様は、ご実家には戻られていないのでしょう?」「色々と複雑な事情があるみたいだ。」「まぁ、そうなのね。」「それよりも、今日市でお姫様にお会いしたよ。暫く会わない内に美しくなっていて、驚いたよ。」「女の子は、成長するにつれて美しくなるそうですわ。」 つねはそう言うと、大きく迫り上がった下腹を優しく擦った。「身体は辛くないか?何か手伝う事があったら遠慮せずに言えばいい。」「そのお気持ちだけで充分ですわ。」「元気な子を産んでくれ。今俺が願っているのは、それだけだ。」 市の数日後、エウリケと総司は街の中心部にある教会で炊き出しをしていた。 この日、総司はいつも下ろしている長い髪を三つ編みにして結い上げていた。「姫様、あの方が・・」 侍女の言葉を聞いた総司が通りの向こう側を見ると、そこには数人の娼婦達に囲まれている歳三の姿があった。にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「総司、総司は何処なの!?」 城では総司の不在を気づいた総司の母親であるエウリケ女王がヒステリックに叫びながら、城内を走り回っていた。「奥様にバレてしまったわ・・」「リチャードは一体何をしているのかしら?」「あぁ、どうしたらいいの?」 侍女達がそんな事を言い合っていると、そこへリチャードと城の下男であるゲオルグがやって来た。「奥様、城に戻るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。」「リチャード、総司は一体何処へ行っていたの!?」「姫様は、森へ水浴びに行き、ならず者達に犯されそうになった所を、誰かに助けられたようでして・・」「全く、いつも森には行くなと言っているのに!」「奥様、無事に姫様がお戻りになられたのですから、姫様をお部屋で休ませてはいかがでしょう?」「そ、そうね・・ゲオルグ、総司を部屋へ運んで頂戴。」「はい、奥様。」ゲオルグはそう言ってエウリケに向かって頭を下げると、そのまま城の奥へと消えていった。「どうしたんだ、エウリケ?そんなに大声を出して。」「あなた、総司がならず者達に犯されそうになったんですって!」「そうか。あの森には最近ならず者達の溜まり場になっているから、総司には後で厳しく言っておこう。」「そうですか・・」「エウリケ、怒らないでくれ。そんなに眉間に皺を寄せては折角の美人が台無しだ。」「まぁ、あなたったら・・」エウリケは夫の言葉を聞くと、頬を赤く染めて笑った。「ん・・」「姫様、お目覚めになられましたか。」「リチャード、ここは何処?」「姫様のお部屋ですよ。姫様、こんな暑い日に森へ水浴びに行きたいお気持ちはわかりますが、良く考えて行動して下さいませ。」「えぇ、わかったわ。」総司はそう言うと、ベッドから起き上がった。「ねぇリチャード、あの方はどなた?」「あの方、とは?」「わたしを助けて下さった方よ。このマントはあの方のものだわ。」「確かに、それは姫様のものではありませんね。」「ねぇリチャード、わたしを助けて下さった方を調べて欲しいの。」「はい、わかりました。」 リチャードは決して、主に対して絶対に「無理」とは言わない男だった。 数日後、待ちに待った市の日がやって来た。「嗚呼、ずっとこの日が待ちきれなかったの!」「姫様、落ち着いて下さいませ。御髪が乱れてしまいますわ。」「えぇ、わかったわ。」 鏡の前で、総司は美しいドレスで着飾った自分の姿をうっとりとした顔で見つめた。「どう、似合う?」「えぇ、とても良くお似合いですわ。」 「相変わらず、うるせぇな。」「トシ、そんな顔するな。折角祭りに来たんだ、楽しもう。」「あぁ・・」 渋面を浮かべながら、土方歳三は親友の言葉に相槌を打った。市には、チーズや野菜、ドレスなど様々な品物が売られており、大道芸人達が様々な芸をしては道行く人々を楽しませていた。「戦はどうだった?」「別に。相変わらず人が沢山死んだだけだ。」「そうか・・」「アラ、そのお兄さん、良い男ね。あたし達と遊ばない?」 歳三達が街を歩いていると、胸元を大きく開いたドレスを着たブルネットの髪の女がそう言いながら歳三にしなだれかかって来た。「生憎だが、俺は今そういう気分じゃないんだ、うせろ。」「まぁ、つれない方ね。」ブルネットの女は、そう言うと歳三から離れた。「トシ、向こうで何かあったのか?」「別に。」「そうか・・」 勇と歳三は暫く街を歩いていたが、突然歳三はフードを目深に被った。「どうしたんだ、トシ?」「いや、別に・・」 勇が親友の様子におかしい事に気づいた後、向こうから一台の馬車がやって来る事に気づいた。 その馬車に乗っているのは、プラチナブロンドの髪を高く結い上げた女と、その娘と思しき黒髪の少女だった。「あら、誰かと思ったら、土方様ではありませんか?」「おや、エウリケ様ではありませんか?あなたもこの祭りに?」「えぇ。土方様、いつから戦場から戻られたのです?」「数日前です。大変ご無沙汰しております、奥様。」「相変わらず不愛想な方ね。」 エウリケは歳三の態度に柳眉を吊り上げたが、すぐに彼にそっぽを向いた。「お母様、ここで降りてもいいかしら?」「えぇ、いいわよ。余り遅くに行っては駄目よ。」「はい、お母様。」 総司は母の手に軽く口づけると、そのままドレスの裾を摘まんで馬車から降りようとした。 だがその時、彼女はバランスを崩して転びそうになった。「大丈夫か?」「は、はい・・」 歳三に抱き留められ、総司は頬を赤く染めながら彼に礼を言った。「ドレス、汚れなくて良かったな。」 歳三はぶっきらぼうな口調でそう言うと、そのまま長い黒髪をなびかせながら雑踏の中へと消えた。「あの方はどなた?」「彼はトシ・・土方歳三と言って、数日前戦から戻って来たばかりなのですよ。」「そう・・何だか不思議な方ね。」総司はそう言った後、溜息を吐いた。「姫様、もうすぐお祭りが始まりますよ、急ぎませんと!」「えぇ、わかったわ!」 侍女達に急かされ、総司が街の中心である広場に向かうと、そこには今まさに旅芸人達の芸が始まろうとしていた。「さぁ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、夢のような世界をあなた達にお見せして差し上げましょう!」にほんブログ村
2023年05月05日
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「PEACEMAKER鐵」二次創作です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。その昔、愛する人の為に川岸に咲く花を摘もうとした騎士ルドルフは、誤って足を滑らせ、川の流れに呑まれてしまう。 彼は最期の力を尽くして花を恋人が居る岸へと投げ、恋人ベルタに、“僕を忘れないで!”という言葉を遺し息絶えた。 遺されたベルタはルドルフの墓にその花を飾り、彼の最期の言葉を花の名前にした。 ゆえに、その花―勿忘草(わすれなぐさ)の花言葉は、“私を忘れないで下さい”、“真実の愛”と言い伝えられている。 イングランドとスコットランドの中間部に、その国はあった。 遥か東の島国の血をひいた者が多いこの国の民は黒髪が多く、その所為で近隣諸国から、“魔女の国”と呼ばれていた。 だが、その国には薬効がある多くの薬草があり、その中でも特に美しい明るい青色の花―勿忘草は、万病に効くとされており、この国の象徴でもあった。 その国には、二つの王家があった。 武人として数々の武功を立てた土方家と、この国の祖先の血をひく正統な王家である沖田家である。 この二つの王家は、長い間政権を巡り、憎しみ、いがみ合っていた。 この物語の始まりは、敵同士と知らずに惹かれ合った恋人達の出逢いから始まる― 「姫様、どちらへ行かれるのですか?」「暑いから、水浴びに行こうと思って。」「まぁ、いけませんわ、こんな季節に森へ行くなど、正気ではありませんわ!」「そうですわ、姫様!」 沖田家の姫・総司が森へ行こうとすると、それを見た沖田家の侍女達が慌てて彼女を止めた。「嫌よ、こんなに暑いのにお城でじっとなんかしていられないわ。」総司はそう言って自分を森へと行かせまいとする侍女達を振り切り、愛馬に跨ると城から出て森へと向かった。「どうするのよ、姫様が居なくなったことを奥様がお知りになったら・・」「その前に、姫様がお戻りになられればいいのだけれど・・」「姫様が、どうかなさったのですか?」 侍女達がそんな事を話していると、そこへ総司の従者であるリチャードがやって来た。「リチャード、いいところに来たわ!姫様が・・」「森へ行って、姫様をお城へ連れ戻してきて!」「わ、わかりました・・」 リチャードが侍女達の剣幕に押されながら慌てて森へと向かっている頃、総司は森の中にある湖で水浴びをしていた。(あぁ、やっぱりこんな暑い日は水浴びをするのに限るなぁ。) 静寂に包まれた森の中には、総司の愛馬のジェーンの、二人きりだった。 そろそろ城へと戻ろうと総司が思っていた時、森の向こうで男達の笑い声が聞こえて来た。 彼らに見つからない内に湖から上がらないと―そう思いながら総司が岸まで泳ごうとした時、運悪く男達の一人に見つかってしまった。「おい、こっち見てみろよ!可愛い娘が居るぜ!」「こりゃ、えらい別嬪(べっぴん)さんじゃねぇか!」 男達は口元に下卑た笑みを浮かべながら、ジリジリと総司の方へと近寄って来た。「嫌、来ないで・・誰かぁ~!」「どんなに叫んでも、誰も来やしねぇよ!」「そうだ、だから大人しく俺達に抱かれ・・」 男達がそう言いながら総司を取り囲んだ時、何か黒い影が彼らの頭上を横切ったかと思うと、総司の白い頬が男達の血を浴びて赤く染まった。 一体何が起きたのか総司にはわからなかったが、辺りを見渡すと、そこには首がない男達の死体が湖に浮かんでいた。「おい、大丈夫か?」 総司が恐怖の余り声が出せずにいると、彼女の前に一人の男が現れた。 均整の取れた鋼のような筋肉を持った男は、琥珀の双眸で総司を見つめた。「嫌ぁ、来ないで!」総司はそう叫ぶと、気を失った。「クソ、困った事になっちまったな・・」 男はそう言いながら気絶した総司の身体を自分のマントで包むと、そのまま湖を後にした。にほんブログ村
2023年05月05日
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