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2013.11.23
十一月号歌評下書き (同人誌「賀茂短歌」より転載)
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十一月号歌評下書き
後藤瑞義
(同人誌「賀茂短歌」より転載)
原 明男
七年後そんなに遠くなき五輪傘寿のいまに残る明るさ
七年後に東京でオリンピックを開催することが決定しました。作者は、七年後はそんなに
遠くないとまず言っています。ここで注目するのは、「そんなに」という言葉です。誰かに、
あるいは、ご自分自身の自問かもしれませんが、「七年後、…遠いなあ、生きているかどう
かもわからない」と言われたか、そんな思いが少し脳裏をよぎったのかもしれません。それ
に対して、「いや、七年後などすぐ来るよ、そんなに遠くないよ」とでも言ったのか、自答し
たのではなかったのでしょうか。今八十歳の作者は、「必ずオリンピックは見るぞ、オリン
ピックを見るまでは、死なないぞ」と一つの大きな目標を作ったようです。その将来にたい
する目標、生きる目標を得たことによって、「明るさ」、将来に対する「明るさ」を得た、そん
なふうに思います。
渡辺つぎ
おむかえさんいつでもどうぞだんだん歩けなくなりますからね
作者は百二歳です。まず、「おむかえさんいつでもどうぞ」と、「ちょっとそこまで」と
いった感じの言い方です。作者は現在ご自分の足で杖もつかずに歩いています。
「だんだん歩けなくなりますからね」、これもそのままの、なんの気負いもなくさらっと
言っています。先にも書きました作者のご年齢を考えますと「おむかえ」の内容はた
いへん深いものがあります。それをいとも軽々と表現しています。作者はあの世でも
歩こうと思っているからこそ歩けるうちに、まだ歩はく力のあるうちにあの世にいきま
しょうと思ってでもいるような感じがします。この一首は、三十一文字(音)に二文字
(音)不足の二十九文字(音)です。ただ、字足らずといった感じは、あまりせず、むし
ろちょっと息切れがしたって感じでしょうか。「なりますからね」の「ね」がなんとも明る
い感じがします。
鈴木菊江
召し上れさあたっぷりと大好きな新米のお粥仏前に供う
「召し上れさあたっぷりと大好きな新米」までは、親しい人への明るい呼びかけの
声のようです。次の「お粥」で少し感じが変ります。すなわち病人への呼びかけのよう
だと思うわけです。そして結局、実はこの呼びかけのお相手はすでに亡くなられた
方、ご主人への呼びかけであったと分るわけです。この歌でなんといいましても、私
の心を強く打ちましたのは、「おかゆ」のひと言でした。これにより作者の心のこまや
かさ、亡くなられたご主人に対する深い愛情を感じとったのです。単に新米をお供え
するだけではないのです。新米をわざわざお粥にして、亡くなられた人に供えるとこ
ろに涙が出るのです。
黒田幸子
瓢箪の池に生命の誕生のありて泳げる稚魚十一匹
瓢箪の形をした池があるようです。そこに鯉がいて卵が孵化したようです。歌にし
ているくらいですから、作者としては卵の孵化を感動をもって見守っているようです。
いままで余り孵化しなかったのでしょうか。まさか瓢箪に駒ということでもないでしょう
が、稚魚が感動的だったはずです。もうひとつは、十一匹です。この数字は一瞥で
分る数ではないので数を数えられたはずです。一匹、二匹、三匹…十一匹という具
合に…。それほどかわいらしかったのでしょうか。一匹一匹がいとしかったのでしょ
う。それから、十一という数字も、九・一一とか、三・一一という悲しい記憶が蘇りま
す。それとともに、なぜか私は、十一面観音菩薩像を思ったりしたのでした。
後藤早苗
畑より帰りて服を着替えればダンゴロ虫がポタリと落ちる
一読なんということもない、そのままの歌です。「畑より帰りて服を着替える」という動作
に、泥にまみれた感じがあり、農作業を連想させます。それを具体的にしたのが、「ダン
ゴロ虫がポタリと落ちる」という描写です。「ダンゴロ虫」も存在感を与えていいですが、
なんといいましても「ポタリ」に生々しさが出て胸に迫ります。
藤井美智子
雨戸くり最大級とふ台風をひとり待つなりケセラセラ云ひ
今年は、大きな台風が続きました。最近も、フィリピンで大被害があったばかりです。そ
ういった最大級の台風という報道に作者は「雨戸を繰りて」備えているわけです。ここでわ
たしが注目したのは、「繰る」という言い方です。「雨戸を閉める」より具体的に行動が目に
浮びます。作者にとっても「繰る」という行動が大切だったのかもしれません。それに、なに
よりも「待つ」、台風を待つという表現がいかにも作者のある面を表している言葉のように
おもえたのでした。たとえば、待つ人生、耐える人生、…ちょっと深読みというか、これは
わたしの根も葉もない想像ですみません。それにしましても、「最大級台風」「ひとり待つ」
という心細さに対して「ケセラセラ」 はなんとも軽めの、のんきな、気楽な言葉を配してい
ます。「ケセラセラ」という言葉もある年代にはなつかしい言葉です。ヒチコックの映画など
も思い出します、日本ではペギー葉山が歌っていたでしょうか。いろいろ思い出しました。
小池美恵子
雷が恐いと泣ける四歳は臍を押さえつ涙をこぼす
この歌だけ読みますと、われわれ世代なら納得できる幼子の仕種です。ただ、この前の
歌は、「インターネットでしらべましょと母親にスマホ持ち来る孫は四歳」です。インターネッ
トの歌は今日的な、世代の違いといいますか、いまの子はインターネットでなんでも調べ
てしまう、驚きです。それも、四歳ですから。カルチャーショックということでしょう。それにし
ましても、この雷の歌はどういうわけでしょうか。まるでタイムマシーンで昔にかえったよう
です。そういう意味でこの歌を注目しました。これは、四歳の子に昔話を、あるいはおとぎ
話を聞かせたのでしょうか。子供の心はやはり昔も今も変らない。文明が発達しても人間
の心はそう劇的に変るものではない、そんな思いをしたのでした。この昔話はお腹が冷え
ないようにするために作られたようですが、理にかなっていると思うのです。
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最終更新日 2013.11.24 02:51:52
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