今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2014.10.20
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十月号歌評

原 明男
来るたびに孫の背丈に穴のあく破れ障子に透ける青空

訪ねるたびに孫の背丈が高くなっており、障子には孫の活発さを証明するように穴があいている。そして障子の穴からはすきとおった秋空が見えた。歌の意味するところは以上のようであろうかと思います。「来るたびに孫の背丈に穴の開く」とも続けて読め、あたかもお孫さんの身体に穴があくほど成長が早く、その穴から透きとおった青空が見えるといったシュールな想像もあるいは出来るかもしれません。

渡辺つぎ
百余年のしめくくりとなる歌集なり角川『短歌』よりたまわりし宝

 この度、満百三歳を記念する歌集「一日一日はたからもの」が出版されました。この歌集は角川書店がぜひということで、角川書店の費用で出版されました。それというのも雑誌「短歌」に長年投稿されており、それが認められた結果でもありました。まさに、「角川『短歌』よりたまわりし宝」であったわけです。

鈴木菊江
花語鳥語夢みるような言の葉に心遊びて木蔭に草ひく

作者には花の歌が多くあります、また鳥の歌もかなり見受けられます。「花語鳥語夢みるような言の葉に心遊びて」、作者は花や鳥と会話ができたのでしょうか。たぶん、通じ合うところがあったように感じます。作者は静かに木蔭で草を引いています、花が風にゆれ鳥のさえずりが聞えます、あたかも言葉を話しているように…。「言の葉」の「こ」、「心遊びて」の「こ」、「木蔭」の「こ」、「こ」音の重なりが心地よく感じます。作者は満96歳と聞いております。毎月の歌会にも必ず出席されており、いつもお元気な姿を拝見しております。

                                 黒田幸子
梅桜枝垂るるものはすべてよきまして美し萩の垂るるは

 作者は歌に感情を込めないタイプだと思っています。そんな作者の歌で、「すべてよき」とか「美し」まで言っているところに注目しました。よほど作者の心に訴えるものがあるのでしょう。「実るほど頭を垂るる稲穂かな」を連想します。作者の心に叶うもの、なにか生き方みたいなものに一致するところがあるのかもしれません。そして、萩の花の散りやすさにもなにか心ひかれるものがあるのかもしれません。

                              後藤早苗
蒔き終えて雨降りくれば日頃より我の行い良きからと思う

作者は野菜を育てて、子供たちなどにそれを送ったりすることを生きがいにしているようです。農作物に雨がどれだけ大切なものか作者が一番知っています。そうした日頃の生活からこのような一首が生れたのでしょう。野菜の種を蒔き終わったところに雨が降ってきました。まさに天の恵みです。思わず、「日頃の行いがよいから、神様が雨をふらせてくれたんだ」と思ったのでしょう。同じ内容でも、たとえば他人に対して言ったとしたら多少冗談ぽく聞えるかもしれませんが、独り言のように思ったのであれば、なにか感謝に似た気持ちもあったのではないでしょうか。

                                藤井美智子
だらだらと行列くんでだらだらと猛暑日にうだる防災訓練

 だらだらとやるきのない感じで行列を組んで、だらだらと統制の取れないような感じで猛暑日のうだるような気温の中での防災訓練。こんな、だらだらした、やるきのないような感じでする防災訓練が実際に役立つのだろうか。そこまでは、作者はこの歌の中では言っていません。しかし、言外にそう言っているような作者のことばが聞えるようです。作者はあまり身体がご丈夫でない、そんな作者が猛暑のなかでのやる気のない防災訓練に疑問をもったのではないでしょうか。一種の社会詠、社会風刺の歌だと思います。

                              鈴木きみ
里帰り元気と笑い運び来て淋しさ残し息子帰りぬ

息子さんが里帰りをしたようです。家のなかがパッと明るくなった感じでしょうか。そして、数日して帰られたのでしょう。それが、「淋しさ残し息子帰りぬ」なのだと思います。一首のなかに陽と陰、「元気と笑い」と「淋しさ」がそれですが、それを含めていることがすごいと思います。短歌を始めてまだそれほど経験の無い作者と聞いています。この感性は大事にしてください。
参考:孫たちと元気と笑い運び来て里帰りの息子(こ)は今日帰りたり

                              土屋文恵
見渡せる展望台のパノラマに心広がる思いの湧きぬ

この歌は、作者が山梨県の清里高原へ旅行したときの旅行詠、五首のなかの一首です。
ところで、私は学生時代に簿記を習い、会社へ入ってはほとんど経理といいますか、会計といいますかそのような部署で働いていました。もう会社を離れ大分になりますが、最近になって逆にバランスのことを思うようになったのです。簿記で言いますと、貸借対照表(バランスシート)などのことなのですが、貸方と借方が必ずバランスすることなのです。
この歌は、「見渡せる」「展望台」「パノラマ」「心広がる思い」と広々とした光景を描写したような形で終了しています。それでは、この歌のバランスはどうなんだろうか。そんなことを考えました。多分それは、これを読んだ人の心でバランスをすればよいことなのでしょう。こころがちぢこまっているように感じている読者が読めば、何か心が晴れ晴れとするように感じたことでしょう。それがわたしのいうバランスです。作者はこの旅行でたぶん心のバランスを保てたのではないでしょうか。そんな感じがします。







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最終更新日  2014.11.26 05:16:39
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