今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2015.07.18
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七月号歌評(「賀茂短歌」7月号より)


原 明男

木苺を蕗の葉つぱに分けくれし母の笑顔も祖母も在まさず

(評)「木苺を蕗の葉っぱに分けくれし」、幼い子の手よりは蕗の葉のほうが大きくて
よかったのか、豊富な木苺の実を連想しました。母親が不公平のないように蕗の葉を何
枚か並べてその上に分けたのかもしれません。木苺の実を見て作者はすっかり幼いころ
にかえったのでしょう。母親の笑顔をありありと思い浮かべているようです。そして、
近くに祖母の姿も見えたのでしょう。それは多分一瞬のことですぐに現実にかえった作
者、そこにはもちろん母親の笑顔も祖母の姿もなく、採る人のない木苺の実がたわわに
なっているだけだったのではないでしょうか。

渡辺つぎ

谷底も嵐の原もくぐり抜けぽつかり浮ぶ百と四歳

(評)「谷底も嵐の原も」はひとつの喩えでしょう。どん底などという言葉もあります、
「嵐の原」もやはり厳しい生活環境のたとえなのでしょう。百四年の間には厳しい生活環
境の時期もおありだったのでしょう、それを乗り越えてきたという自負の気持ちを感じま
す。問題は「ぽっかり浮ぶ」ということばです。最初は苦しい水中より浮びあがった喩え
と思ったのです。しかし、これは水の中ではなく、空中にぽっかりと雲のように浮んだの
ではないだろうかと思ったのです。雲のように空の上から地上を見下している、そんな感
じをうけたのです。なにしろ満百四歳にして毎月五首の短歌を送ってこられる作者です。
九月の歌会は渡辺さんがショートステイを利用している施設で開催する予定です。現在も
お元気で杖なく歩いていらっしゃる作者です。

鈴木菊江

春おぼろかくれんぼうの老眼鏡いづこにじっとわれを待つらんや

(評)「春おぼろ」はおぼろ月を連想しました。老眼鏡が見当たらない、記憶をたどってみるがぼんやりとしてはっきりと置き場所を思い出せない。九十六歳の作者、家のどこかにあるのは分っているのでしょう、「じっとわれを待つらんや」とあわてず、ユーモアをもって、眼鏡とかくれんぼしているんだと歌っています。ここに作者のお人柄、人生における余裕さえ感じさせます。

                                 黒田幸子
裏庭の玉のつづじの花ざかり共に見るべき人なき初夏

(評)まず、「裏庭」です、この裏庭が非常にきいていると思います。そこに、玉のつつじが今花ざかりなのです。道に面した表の庭でありましたら、通る人も見るでしょう、「きれいですね」と声をかけてくれる人もいるかもしれません。しかし、表からは見ることが出来ない裏庭です。「共に見るべき人」はもちろんご主人です、そのご主人が亡くなられ独り見ている作者です。「初夏」は「はつなつ」と読むのでしょうか、字余りですがそのぶん思いがこもるように思います。今生命が躍動する夏になろうとしています、欠如感が身に沁みるようです。字足らずで「ショカ」と読んで欠如感を増幅する考えもあるでしょうか。

                              後藤早苗
山中に一袋百円と書きありてニューサマーオレンジ無造作に有り

(評)「山中に」、下田の近くですと、松崎に通うバサラ峠あるいは河津へ通う峰山でしょうか。そこは車の往き来が主であまり人が通らぬ道です。「一袋百円」と書いてあるところをみますと、無人売店なのでしょう。そこにニューサマーオレンジを無造作に置いてあるというのです。あるいは、百円を入れる缶も無造作に置かれているのかもしれません。オレオレ詐欺の報道がテレビ新聞等でたびたび報道されています。それとの比較を私などはしてしまうのです。まだここには日本人のある良心みたいなものが失われていない、そんなふうに考えたのです。作者もあるいは同じような気持ちだったかもしれません。

                                藤井美智子
血液が下がったままで上がれない手術台にて年令思う

(評)最初、血圧が下がったままで上がれないと読みました。私は低血圧のために、そんな読み違いをしたのかもしれません。血圧ではなく「血液」でした。血液を全身にめぐらすために動脈、静脈がありますが、心臓に血液を運ぶための静脈に異変があるのでしょうか。ただごとでない感じがしますが、手術台で考えているようですので、それほど大手術ではなさそうです。それにしましても、「手術台にて年令思う」とはどういうことでしょう。作者は事実をそのままぽつりとつぶやいているようです。「もう年だからしょうがない」でしょうか、そうじゃないでしょう。わたしたちの歌会には満百四歳の渡辺さんがおられます。「まだまだ、こんな年で死ぬわけにはいかない」そういう「年令思う」ではなかったでしょうか。

                                小池美恵子
居眠りやストレッチする人読書の人待合室に大あくびもあり

(評)病院の待合室をイメージしました。病院は空調設備が完備していますので、心地よくついうとうととなります。実際に居眠りをしている人も目につくでしょう。ストレッチをしている人もいたようです。これは、付き添いの人なのでしょうか。静かに本を読んでいる人、これは当然目にするでしょう。待ち時間の多い病院のこと、作者は色々な人を観察して時を過しているのでしょう。それにも飽きて大きなあくびをした作者、「待合室に大あくびもあり」は実は作者自身ではなかったか、そんな想像をして読ませてもらいました。

                              鈴木きみ
風情ある三つの色を身にまとい都忘れはやはり良い花

(評)「風情ある三つの色」とは、花びらの紫色、雄しべの黄色、そして葉や茎の緑いろのことでしょうか。「身にまとい」と擬人化していて、親しみを持っているようです。「やはり良い花」、「やはり」と言っていますので、あれこれ都忘れのマイナス的な面をおもいめぐらしたのでしょうか。花が小ぶりですこし地味な感じがするとか、しかし「やはり良い花」、作者自身にとって大事なかけがえのない花、確信をもって作者がつぶやいているように感じました。

                              土屋文恵
薔薇の香に包まれ巡る丘の園心のつかえいつしか溶けむ

(評)具体的にはどういうものかは分りませんが、作者は心につかえるもの、心配ごとがあったようです。多分作者は、過去にもそうしたことがあってここの丘の薔薇園を訪れたように私は思ったのです。その時、香しい薔薇の匂いにつつまれて薔薇園を巡るうちに心のつかえが溶けたのでしょう。作者は、今日も薔薇園を巡っていて、そのうち心のつかえが溶けるだろうと思っているのでしょう。理想とするもの、この場合は薔薇あるいは薔薇の香でしょうか、それとの一体感によって心の安定を計るのはだれしも経験があることではないでしょうか。






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最終更新日  2015.10.29 09:02:18
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