今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2015.08.27
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小説「わたしの起したいくつかの奇跡」としたい(3)


「まだ十年くらいは出来ると思います。どうぞまだまだ働かせてください。天なる父よ、お願いいたします。」人は死ぬ時に自分の一生を走馬灯のように思い出す、あるいは見るといわれています。


子供の時のことなど、すっかり忘れていて、意識の中になかったように思っていましたが、ここにきてあれこれと思い出すようになったのです。前回の「5円硬貨」もそれです、また次に書く「紅茶」がやはり小学校時代のことなんです。





 これもまた、とりとめのないことで、奇跡とはなんの関係のないことなんです。戦後、すなわち第二次大戦後の混乱期ですが、温暖な伊豆には観光客だけでなく色々な人が住みやすいということでやってきたようです。


 自分が座れるだけの板に、車をつけた、すなわち前後両側に一個ずつの車をつけて、それにのって移動する、足のない、膝からか腿(もも)の付け根からかはわかりません。「いざり」の人が、防空壕の跡に暮していたこともありました。なにか英語などを教えてくれるという噂があったのです。しかし、勉強に熱心でなかったわたしには、関心がなかったことでした。


 隣の家の三つ年上の兄さんが、英語を教えてくれる人がいると紹介してくれたのは、小学五年生のころでした。「カネハン」さんといわれていたその人は屑屋さんでした。新聞、雑誌などの屑、「カネ」から察すると屑鉄なども集めていたのかもしれません。

 後に県東部屈指の進学校沼津東高等学校に入学するようになるS君となぜか二人で訪ねたわけです。どんな家だったか、さっぱり記憶にないのですが、畑の隅にある農機具を保管する小屋だったように思っています。三畳くらいの広さでしょうか、みかん箱かりんご箱がテーブルがわりで、二つくらいあったでしょうか。そこにわたしたち三人が座るとほとんど隙間がないような感じでした。なにしろ家の周りがどんなだったか、部屋の中がどんなだったかほとんどおぼえていないのです。そのころの私には、そんなことは何んら気にならなかったのでした。ですから、なにか明るくぴかぴかかがやいていたようにしか思い出せないのです。

 しゃれたカップを二つ出されたのです、電気ポットのようだったか、あるいは陶器製だったのか、おぼえていないのですが、お茶と言ってカップに茶色をしたお茶をついてくれたのです。そして、砂糖を匙で2杯、レモン(のちにレモンというものを知ったのですが)を切って入れてくれたのです。いま考えるとなんと正式なレモンティーを田舎の何にも分らない小学五年生に出してくれたんだろうかと恐縮します。わたしは、茶色のお茶に砂糖を入れて飲んだと帰って報告したのでした。船員だったようで、いろんな国に行ったようでした。神戸の商船大学を出ているなどと噂する人もいました。

 体の大きな人で、笑うと大きな歯にところどころ隙間があり、プロレスラーのオルテガのような顔をしていたのです。オルテガといっても分る人は少ないでしょうが。力道山、シャープ兄弟、ルーテーズなどの時代のプロレスラーです。

 歯と歯の間に舌を入れる、歯の付け根に舌を置く、舌をまるめて「アール」と、または「エとア」を同時に発音するなど、発音に力を入れていたように思います。発音記号なども覚えさせられたように思います。申し訳ないのですが、あまりよくおほえておりません。「君は、もう来なくていいよ」などと何回か叱られたこともありました。最初二人だった生徒は、中学三年になると、村医の息子が近くの空き部屋を提供してくれ、十人くらいになったのです。

 高校一年の五月の休みに下宿先の三島から帰ってくると、「カネハン」さんはすでにいらっしゃらなかったのです。何処に行ったか知っている人は誰もいませんでした。

 もうとっくに亡くなられていらっしゃるでしょう、「カネハン」さんはわたしに勉強をすることを教えてくれたように思います。ほんとうに有難うございました。それにしても、沼津商業高等学校への受験に成功し、合格し、有頂天になっていたわたしは、「カネハン」さんのことをすっかり忘れてしまっていたのでした。「カネハン」さんに、合格の報告もせず、お礼もせずに別れてしまったのでした。

                                (つづく)






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最終更新日  2015.08.31 01:32:44
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