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2016.12.29
十二月号歌評下書き(「賀茂短歌」より)
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十二月号歌評下書き(「賀茂短歌」より)
後藤瑞義
原 明男
失効の旅券も今だ捨てきれず折々記憶の証となせり
(評)
「旅券」という言葉がまず目につきます。言うまでもなく、パスポートのことです。それで、外国旅行に行ったことが分かります。それはすでに「失効の旅券」です。別の歌からナポリが出て来ます。ですから「ナポリの記憶の証となせり」ということなのでしょう。それは原さんの人生に記憶されるべき輝かしい思い出なのです。
渡辺つぎ
一日一日追い込まれゆく道なれど何だ坂こんな坂と頑張っている
(評)
あと三か月足らずで百六歳の作者です。「一日一日追い込まれゆく道」、一日一日生きて行くということは、なにか追い込まれてゆくような気持になるということでしょうか。生きてゆくということを、道を歩いて行くことにたとえているようです。その道は平坦な道ではなく坂道のようです。ですから、「何だ坂こんな坂」といまだに頑張っているのだということでしょう。天国に向かっているのでやはり坂道になるのでしょうか。
鈴木菊江
秋のひる訪う人もなき一人居は柿の落葉が便り運びくる
(評)
「秋のひる訪う人もなき一人居は」は、よく分ります。問題は、「柿の落葉が便り運びくる」です。「落葉と便り」、ハガキには「葉」の字が使われています。まして柿(書き)の落葉であったら、「落葉」と「葉書」、そして「便り」との連想が出来るように思います。それと、もうひとつは、郵便配達人が便りを持って来るとき柿の落葉を踏んで来る。そして、落葉を踏む音で郵便配達人かどうかがわかり、「柿の落葉が便り運びくる」というフレーズが浮かんだのかとも思ったのです。
黒田幸子
「ひまご」という赤ちゃんに会うよろしくね彼挨拶か力強く泣く
(評)
初めての「曾孫」誕生でしょうか。「ひまごという赤ちゃんに会う」というフレーズに、作者の思いがこもっているように感じました。初対面に大声で泣き出したようですが、作者は少しもあわてず、挨拶代わりに泣いていると言うのです。赤ん坊は泣くのが仕事とはよく聞く言葉です。それも力強く泣いているのです。男のわたしなどは、赤ん坊が泣き出すとただおろおろすると思うのですが、さすがに作者は少しも騒がず、むしろそれは作者に対する挨拶なのだとしているところがおもしろいといいますかすばらしいと思います。
後藤早苗
並んでまで食べたくないと我言えば待つこと大事と孫に言われる
(評)
「並んでまで食べたくない」というのは、私も同感です。規則正しく、時間を定めて朝、昼、晩の食事をしている私などは特にその思いが強いのです。安くて美味しい店は、すぐ評判になり行列ができるようです。行列が出来ることはむしろひとつのステータスでもあるようです。都会に生活する孫がそれを承知しているということでしょう。この場合は、少し違うかもしれませんが、「負うた子に教えられる」という諺を思い出したのでした。
藤井美智子
ゆっくりと安静に過ぐ風邪の十日落葉積む庭秋ふかまりぬ
(評)
風邪を引いた作者、家で安静にしていたようです。「ゆっくりと」というのは、たとえば五日くらいの安静のつもりを用心をして十日くらいに延ばしたようなニュアンスを感じました。やっと元気を取り戻した作者、庭を見ると落葉がだいぶ積っていたのでした。それは、風邪で庭掃除が出来なかったこともあるでしょうが、病気のあいだにすっかり秋が深まったということを実感したのでしょう。それは、作者の心に一抹の寂しさをもたらしたのではないでしょうか。
小池美恵子
「菊香る今日の佳き日に」と祝われて重ねし結婚記念日 五十二回目
(評)
「菊香る今日の佳き日に」、祝辞の決まり文句です。作者は、十月か十一月に結婚なされたのでしょうか。そして、今近くに菊の花が咲いていて、現実に香りがしているのではないでしょうか。それによって、「菊香る今日の佳き日に」という結婚式での祝辞を思い出されたのではないでしょうか。そして、思い返せばもう結婚して五十二年になることに気がつかれた。半世紀以上の年月です、その間に世の中もご自分の身の上にもさまざまなことがおありだったでしょう。そんなことが、色々思われた作者ではなかったでしょうか。
鈴木きみ
群青の空を飛び交う赤とんぼ昔とくらべ小さく見ゆる
(評)
「群青の空」。「群青」とは①岩群青の略、②鉱物から作る青色の顔料。そのように広辞苑にあります。作者としては、ただの青では物足りなかったのかもしれません。青を強調しているようで、あるいは「赤とんぼ」の「赤」を強調する効果や、赤とんぼの群れの連想もあるかもしれません。「赤とんぼ昔とくらべ小さく見ゆる」、このフレーズが作者の最も言いたいことのように思います。ただし、色々に解釈できる含みのあるフレーズです。作者が成長したので、昔の少女時代の赤とんぼのイメージに比べ小さく見えるのは自然です。また、大人となるとともに、生活上の諸々のことがあり、自然とじっくり接することが希薄になった現実もあるでしょう。「昔とくらべ小さく見ゆる」がそれを暗示しているようです。
土屋文恵
わが庭の小さき畑の蚯蚓まで取り来る猪身の毛のよだつ
(評)
猪や鹿などの害が言われて久しくなります。里と山との境がすっかりなくなり、畑のみならず田も荒らされる現実です。さて、作者は庭で作物を作っているようです。藁や草などを畝などに敷きますが、その下に蚯蚓が繁殖するわけです。それを猪が狙って来るのです。
「わが庭の小さき畑の蚯蚓まで」とは、「庭以外の畑の野菜類はもちろんのこと」という含みがあるでしょう。それにしましても、「身の毛がよだつ」とは、なかなか思い切った表現をしたものです。すこし、オーバーにも思えるこの表現は、それほど猪が身に迫っている感じを表したかったのでしょう。あるいは、猪のとげとげとした体毛の連想もあるでしょうか。そして、この嫌悪感は単に猪だけのものではなく、何か別のものの譬え(隠喩)のようにもちょっと感じたのです。
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最終更新日 2016.12.29 20:34:27
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