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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の 愛妻家の食卓
『天使の手鏡』・第12章~第14章
揺れ動く心の動揺を抑え、私とレミィは何も変わらない日々を過ごしました。
そして、教え子たちを静寂の森に連れて行くと約束していた休診日になりました。
〈先生、みんな集まりました〉
「あぁ、今行く・・・」
みんな張り切っていましたが、私は眠れぬ夜が続いていたせいで朝が弱くなっていました。
〔〔先生ー、まだですかー〕〕
[おい、アンディ大声を出すな!診療所だぞ]
「そうだアンディ、ここでそんな大声を出すんじゃない」
〔〔あっ、おはようございます。みんなとても楽しみだったのでつい・・・すみませんでした〕〕
「待たせてすまなかったな、さぁ出かけよう」
[はい!]〔〔はい!〕〕〈はい!〉
「ダニエル場所はわかるな、私は後ろを行くから先頭を行ってくれ」
[はい・・・]
ダニエルとレミィは知っていましたし、翼を重ねたまま飛ぶことにも慣れていましたが、アンディの性格上、大騒ぎするのは目に見えています。私はどうあってもサラの翼を守りたいのです。だから必要に用心をしていました。
天空で唯一の森、静寂の森は北の外れにありました。
[あれ?先生、この雲山で良かったのですよね?]
「あぁ、これが静寂の森だ」
〔〔ここが?・・・ただの巨大な雲の山じゃないですか〕〕
〈あきれた、静寂の森はとても大切な場所だから雲で覆われ、隠されているのよ、そんなことも知らなかったの?〉
〔〔うん、初めてなんだ・・・〕〕
アンディは不思議そうに雲山を見上げました。
「ほら、ここからは私に付いてきなさい」
[はい!]〔〔はい!〕〕〈はい!〉
私たちは雲をかき分けて雲の山の中に入りました。
〔〔信じられない・・・〕〕
[これが静寂の森・・・]
〈・・・〉
3人は唖然としていました。
「驚くのも無理はない、普通は入れる場所ではないからな、しかし、私も来る度に圧倒されている・・・これが静寂の森だ」
私の言葉も聞えていないように3人は呆然と立ち尽くしていました。
[あれが、やすらぎの木ですね?]
「あぁ、想像を超えた大きさだろう?」
[はい・・・]
3人が驚いている理由はやすらぎの木でした。静寂の森の中心となるやすらぎの木は大きすぎて普通の木がまるで草に見えるほどでした。
そして、私たちがしばらく立ち止まっていると、守衛の天使が飛んできて言いました。
〔おい!ここは神聖な場所だぞ!誰でも入っていい場所ではない!〕
「守衛が変わったのですね?一応、トマスには頼んでおいたのだが・・・」
〔あなた様が・・・トマス様が言ってらした・・・失礼しました!トマス様はもうしばらくでお着きになります。しかし、念のためトマス様をお待ちください、規則なので〕
「分かりました」
私たちはトマスを待つことになりました。
[先生、トマス様というのはあの有名な主天使様のことですか?]
「そうだ、主天使様の中でも権威あるお方だ」
すると、レミィが口を滑らしました。
〈驚くのはそれだけじゃないのよ、先生はあの大天使ガブリエル様ともお知り合いなのよ〉
[えっ!]
〔〔すごい・・・〕〕
すると、タイミング悪くトマスが来てそれを聞いてしまいました。
〔先生がガブリエル様と?〕
「トマス・・・その話は後からということにしてください」
〔分かりました、それよりもすみませんお待たせして、彼らがご自慢の教え子たちですね?〕
「はい、どうぞ良くしてやってください」
〔もちろんです。さすがにみんな良い顔つき、目をしている〕
「そう言ってもらえると嬉しいかぎりです。ダニエル、御挨拶を」
[はい、お会いできて光栄です。今日はお忙しいところ私たちの為に本当にありがとうございます]
〔なに、先生の頼みごとなら何でも、君たちもそうだろ?〕
[はい]
〔それでは早速、中に入りましょう〕
そうして、私たちはトマスの案内で静寂の森へと足を踏み入れました・・・
森の中は名前のとおり風もなく、とても静かでした。落ち葉や枝を踏み歩く音さえ響いています。
ここの樹木は地上には存在しないものばかりで、ほとんどは実をつけ、どれも実用的で、そのそれぞれに特殊な効果を持っていました。
ここは天使には無くてはならないもの。だからこそ、この森は特別に大切にされていました。
〔ここは、奥にいくほど古い木になっています。そして、その中心にあるのが神の木と呼ばれているやすらぎの木です。やすらぎの木はただ大きいだけではありません、他の木達に栄養を分け与え、弱った木を治している。まるで先生のようですね。やすらぎの木の根は深く、長く、他の木の根と同化しています。だから考えようによってはこの森はやすらぎの木、一つと言えるでしょう。さぁ、あれがやすらぎの木です、ご自由に自分たちの目で見てください〕
そう言って、トマスは足を止めました。
目の前には木とは認識できないほどの大きな木の幹・・・
そして足元を見るとテーブルほどの大きな木の葉が散らかっていました。
〔幹の太さは何十メートルもあり、高さは何百メートルもあります。さぁ、どうしたのですか?近くで見ても良いのですよ〕
それを聞いてダニエルが呆然と見上げるレミィとアンディに声をかけました。
[行こう!まずは上に!]
〈うん・・・〉
〔〔そうだな、行こう〕〕
そうして3人はやすらぎの木の上を目指して飛び立っていきました。そして、その間私はトマスと話をしていました。
〔なるほど夢の中に・・・それで?〕
話題はやはりガブリエル様の話になっていました。
「私に、前世で世話になったと」
〔前世で?・・・生まれ変わりがあったとするなら相当の理由があったのでしょう・・・そうですか、はっきりと先生の前世は分かりませんが、大天使ガブリエル様はあまりにも有名です。その話の中で先生を思わせる天使が一人だけ居るのですが・・・いえ、それは誰にも分からない事ですね・・・どちらにしても先生の体験したことは素晴らしいことですよ〕
「そうですね、私もそう思っています・・・」
そうして、すっかり話し込んでいると、3人が帰ってきました。
「どうだった?素晴らしかっただろ?」
と、感想を聞くと一番にアンディが少し興奮気味で言いました。
〔〔やはり神様がお創りになったものは想像を絶し、素晴らしかったです!〕〕
そして、ダニエルは冷静に言いました。
[言葉は交わせませんが、木から沢山のものを感じ取れました]
そして、レミィは目を輝かせ言いました。
〈私は、生命の美しさを感じました!〉
「それぞれ何か得たようだな。トマスも言ったように、ここで感じたものを忘れずにいなさい」
[はい!]〈はい!〉〔〔はい!〕〕
そして私たちは森をしばらく散策しました。
そして、覆われた雲から出る前にみんなで森に一礼をし、トマスにも礼を言い、再び私の診療所へと向かいました・・・
『天使の手鏡』・第13章『協和』
私たちは診療所に戻りました。
「みんな、もう少し時間はいいかい?」
[はい。いいですが、何か?]
「まぁ、まずはお茶でも飲もう」
〈今、準備をしています〉
すでにレミィがお茶の準備をしていました。そして、テーブルにみんなが座り、私は話を切り出しました。
「みんな今日は良い経験をしたな、私も初めて行った時の事を思い出したよ・・・そう、もうあれからずいぶんと経った・・・あの頃から考えると医者になり、こうして3人もの教え子が居るなんて考えもしなかった。君たちの未来も何を経験し、何が起こるかは分からない、良い事もあり苦しい事もあるだろう。私もそうだったが、しかし、それで今の私が居るんだ。分かるかい?」
3人は大きくうなずきました。
「私たちの使命は少々私のように世間知らずになってしまうが、本当に沢山の天使達と知り合い、そして翼を通してみんなの心とも触れ合うことができる。そうだな、レミィ?」
〈はい、その通りです。それがこの使命の良いところだと、ここでまた思い出すことができました〉
「それが分かっていれば、十分君はいい医者だ。そこでだ、もうそろそろレミィの助手を終えようと思う」
と、私が言うと、3人は驚いた顔をしました。そしてレミィは言いました。
〈なぜです?あまりに突然じゃありませんか・・・〉
「・・・ダニエルとアンディはどう思う?」
〔私は医者としてレミィは素晴らしいと思っています。それに、いつまでも先生の下に居ては・・・私は賛成です〕
「うん、ではダニエルは?」
[・・・私は反対です。ここに来てからのレミィの明るく幸せそうな姿を私は見てきました・・・それに、本人の意思がなければ復帰するのは無理だと思います]
すると、アンディがダニエルに反論しました。
〔レミィに優しくするだけでいいのか?甘えてばかりではレミィの為にもならないくらいは分かるだろ?〕
[・・・]
「まぁ、2人とも考えは違っていても友を思う気持ちは同じということだな」
〈私たちが何を言っても先生はもう決めたのでしょ?〉
「そうだ、助手と言っても私の所ではいつまでも生徒のままだからな、と言ってもすぐに元に戻って1人でやっていくというのも難しいだろう?そこでだ、レミィ、ダニエルとアンディの所に行きなさい」
〈ダニエルとアンディの所に?・・・〉
[どういうことですか?レミィに私の助手をしろと?それでは、まだ先生の所で居るほうが勉強になると思いますが・・・]
「助手としてでは無い、同じ医者としてただ同じ場所で診察をするという事だ。これはレミィだけに言っているのでは無い、3人一緒に同じ新しい診療所でやってもらう」
[えっ?]〈・・・〉〔どういうことです?〕
「何もこれは私が独断で決めたことではない。昼間、君たちがやすらぎの木を見ている時にトマスと話し合って決めた事だ。みんなの使命が変わった今、以前と比べて患者も半分以下になった。人から受ける影響が無くなった事と、班を組んで守り合うことが出来るようになった事が大きな要因だろう」
[確かに先生のおっしゃる通りですが・・・]
「それに君たちは私のようにずっと1人で居てはいけない、協力するということも大切なことだ、時には意見がぶつかることもあるだろうが、それもまた勉強になるだろう、ちょうど使命が変わったことで空いている大きな施設がある。そこで3人一緒にやってもらう」
〔私は良いと思います〕
「急な話だが今診ている患者にも説明して準備しておいてくれ、もう一度言うがこれはもう決った事だ」
私が話し終わると、3人は顔を見合わせ、しばらく話し合っていました。
[・・・分かりました。でも先生はどうなされるのですか?]
「私はこのままここで」
〈先生は1人で寂しくないのですか?〉
「寂しい?そうだな・・・まったく寂しくないと言えば嘘になるが、私には多くの者も君たちのことも、ここから見守るという使命もあるんだ」
〔見守る使命・・・先生は私たちをもう一人前と言われますが、たとえそうであろうとも私たちは先生の教え子に代わりはありません。離れていてもこれからもよろしくお願いします〕
「アンディ当たり前じゃないか、ずっとだ・・・永遠に君たちは私の子だ」
〔ありがとうございます!〕
「よし、みんな忙しくなるが頑張ってくれ」
[はい!]〔はい!〕〈・・・〉
そうして、ダニエルとアンディは意気揚々と帰って行きました・・・
しかし、残ったレミィは無言のまま私に目も合わさず部屋に入っていってしまいました。
私は放っておくこともできず、追いかけてレミィの部屋のドアを叩きました。
「レミィ、怒っているのかい?」
〈・・・〉
「話をしてくれないのかい?」
〈・・・〉
「そうか・・・話をしたくないのなら仕方ない・・・でも、落ち着いたら私の話を聞いておくれ」
そう言って私が戻ろうとするとレミィはドアを開けました。レミィは泣いていたようです。
〈ごめんなさい、取り乱してしまって・・・胸が苦しくて涙を止められなくて・・・いつかは離れないといけないと分かっていましたが急で・・・〉
「私の方こそ突然ですまなかった」
〈でも、もう大丈夫です・・・〉
「一緒に居たのに相談もせずにすまなかった」
〈いえ、いつも先生は私たちの事を一生懸命考えてくれているというのに・・・私は自分の事でこんなになってしまって・・・〉
「いいんだよ、レミィの気持ちと優しさは誰よりも分かっている・・・」
〈・・・〉
「・・・3人で頑張ってみてはくれないか?」
〈はい、決心はつきました・・・一生懸命頑張るので見ていて下さい・・・〉
「もちろん、いつでも見守っているよ。そしていつでも遊びにおいで」
〈はい、甘えに・・・来ます〉
「・・・それじゃあレミィ、さっそく明日から一足先に新しい診療所に行って色々と準備してやってくれないか?みんなそこまで手が回らないだろうから」
〈明日からですか?・・・分かりました〉
「ありがとうレミィ・・・」
〈いえ・・・〉
そして次の朝、私がお茶を飲んでいると、荷物を抱えてレミィが部屋から出てきました。
〈先生・・・お世話になりました・・・〉
レミィは深くお辞儀をしました。
「私こそ世話になった。それよりレミィ、荷物が少なくないか?」
〈どうせ一度に全部は持っていけませんし、ここに沢山来る用事を作っておこうかなと・・・〉
と、微笑みました。
「そうか、レミィが来るのを楽しみにしているよ。そうだ、これを持って行きなさい」
私はいつも使っているお茶のセットを手渡しました。
〈これは先生の大切なものではありませんか〉
「いいんだ、持って行きなさい」
〈・・・はい、ありがとうございます。大切に、大切に使わせていただきます〉
「それじゃあ皆を頼む」
〈はい!〉
そうしてレミィは笑顔で出て行きました。
つづく。
『天使の手鏡』・第14章『遠望』
レミィが出て行って10日ほど経ったころ、寂しさが私を襲いました・・・
長く、独りを寂しいと感じたことは無かったのにどうしてでしょう・・・
そんな時はやはりサラの事を考えていました。
そして、手鏡やユリの花の事も気にかかってしかたありません。
「サラ・・・」
しかし、手鏡はまだ手にできませんでした。
「ガブリエル様・・・」
私はテーブルに座り、再びユリの花を目の前に目を閉じて念じました。
すると、あのユリの花畑・・・そして・・・
「あなたを呼んだことを説明しなくてはいけませんか?」
〈いいえ、全てを見ていましたから・・・寂しさで苦しんでいるのですね?〉
「・・・」
〈あなたはとても心が広く強い方なのに今夜のように時より壊れてしまいそうなぐらい弱くなられる。なぜそうなってしまうか分かりますか?〉
「いえ・・・」
〈あなたは心を締め付けるものから目をそらすことでかえって心を押さえつけてしまっているのです。だから今夜、これを持ってきました〉
そう言って見せたのはあの手鏡でした・・・
「それは・・・なぜここに・・・」
ここでは夢と現実の区別ができませんでした。
〈私の、今はサラの手鏡ですね。あなたは一度しか地上に居るサラを見ていませんね・・・なぜですか?あなたは恐れているのでは?サラはこの鏡が大切だというだけでこれを手渡したのでしょうか?あなたは一度見ただけで全てを悟ったと?それではサラがあまりにもかわいそうです〉
「しかし・・・」
私は醜い嫉妬と苦しい感情にさらされたくなかったのです。
〈前世であなたは私に真実と心事はそう簡単に見えるものではないと、教えてくれました・・・もう1度、今ここでサラを見てやってはくれませんか?それほどあなたが辛いのなら私も一緒に〉
「分かりました・・・」
私はガブリエル様と一緒に手鏡を覗き込みました。
鏡の中には窓越しに夜空を見上げるサラが写っていました。サラは手を合わせ祈っているようでした。
「・・・」
〈聞こえますか?サラの心の声が〉
「いえ・・・」
〈では、聞こうとしてください。あなたとサラは心と翼で繋がっているのですよ、聞こえるはずです。サラの心の声が・・・〉
「はい」
私は信じて集中しました。
「サラ・・・」
すると・・・微かにサラの声が聞こえてきたのです。
(先生、今日は一日中雨でした。雨の無いそちらでは感じられないものを沢山感じることができました。雨は冷たいです・・・でも私は好きです。なぜなら空から落ちてくるからです・・・先生の涙でしょうか?・・・そんなことはありませんね。それではおやすみなさい。明日もいい日でありますように・・・)
「サラ!」
〈聞こえたでしょ?サラの心の声です。あなたにはサラ心の声を聞くことができるのです。サラはこうして毎夜、祈りと共に空に語りかけています。あなたに・・・嬉しいことも悲しいことも辛いことも、あなたが見守っていると信じて語りかけているのです〉
「毎夜?・・・」
〈そうです、一日も欠かすことなく・・・〉
「サラ・・・すまない・・・」
私は心からあふれ出す涙を止めることが出来ず、ガブリエル様の前で泣き崩れてしまいました。
胸が痛い・・・
「私はなんと愚かなのだ・・・辛いのは私だけだと思っていました・・・サラを信じてやれずに・・・」
〈お願いです、逃げずに見守ってやってください〉
「はい・・・」
〈では頼みましたよ、私も遠くからいつもあなたとサラを見守っています〉
そう言ってガブリエル様は目の前から姿を消しました・・・
私はゆっくりと目を開け、現実の世界へと戻りました。
すると、出してもいない手鏡がテーブルに置かれていました。私は手鏡を抱きしめ、誓いました。
「サラ、本当にごめんよ・・・もう逃げないからね、目をそらさないから・・・」
そして次の日から毎夜、同じ時間に私は鏡を手に取り、サラを見守りました。
私の言葉も届けばいいのですが、今のサラの力では叶いません・・・
しかし、それでも私はサラと同じように語りかけました。
「サラ、今日はあの祭典の時、子供に生まれ変わったオルガという天使が私の所にやって来たよ、もう上手に話せるまでになっていた、私の事を憶えているはずは無いけど、よく私に懐いてくれている。大きくなったら、先生みたいになりたいと言ってくれて、とても嬉しかったよ・・・それじゃあサラ、おやすみ・・・」
そして、サラも祈りを終えた後には必ず空に向かい、私に向かって語りかけてくれました。
(先生、今日は何かのお祝いがあったようで店に花が無くなってしまうほどの忙しさでした。先生、地上には私が覚えきれないほど沢山の花があります。いつか先生にも見せてあげたいです・・・それでは先生、おやすみなさい・・・)
いつしか私は夜が待ち遠しくなり、時も早く過ぎていきました。
そして、ある日の夜・・・
私はいつものように鏡に向かい、語りかけ、サラの言葉を待っていました。
(先生、今日は楽しい話は出来ません・・・私は花屋を辞め、ここを離れなくてはならなくなってしまいました・・・その理由は私自身です・・・私は人のように歳をとることがありません。しかし、彼を含め、周りの人達は急速に歳をとっていきます。当然、私を見る目も変わってきました・・・騒ぎになる前にと彼が言ってくれ、決心してここを離れることにしました。とても不安です・・・どうか見守っていてください・・・それでは先生、おやすみなさい・・・)
私は両手を合わせ祈りました。
「どうか、サラをお守りください・・・」
心からそう祈いました・・・
そして次の日の夜、サラは違う場所から空を見上げていました。
(先生、新しい街に来ました。ここは昨日まで居た所と違い、静かで寂しい所です・・・何より寂しいのはこの窓から月が見えないということです。この街には花屋があるでしょうか?明日、町に出て探してみます。それでは先生、おやすみなさい・・・)
私はまた祈りました・・・しかし、その街には花屋はありませんでした。
サラは家に閉じこもってしまいました・・・
しかし、しばらくした夜のことでした。
(先生、見えますか?)
サラは美しい花々が描かれた一枚の絵を空にかかげ、私に向かって見せました。
(これは私が描いた絵です。絵を描いていると落ち着きます・・・これからはずっと絵を描いて過ごそうと思っています。描けたら見てくださいね。今、私にはこれぐらいしか出来ることが無いのです。遠くまで出かけて働く場所を探そうとも思いましたが、表に出てまた前と同じようになることを避けたいのです・・・彼はもう年老いてしまったから・・・最近、人の目が怖くてしかたありません・・・それでは先生、おやすみなさい・・・)
サラは美しい花の絵とは対照的に悲しい顔をしていました。私も同じように胸を痛めました。どうしてやることもできない苦しみが私を襲いました。
見守るだけということも時には辛いのだと思い知らされたような気がしました。
時に、ただ祈り想うことしか出来ない自分を責めました・・・
それからサラは絵を描き続けました。初めの頃は花の絵や花畑の絵でしたが、いつしかそれに加え、天使が舞う絵を描き、自然の中や花畑の中を舞う天使の絵を描きました。それはとても美しく 見ているだけで癒されるものでした。
(先生、今日も一日中、絵を描いていました。想像し、想うことでそちらにいるような感じになります・・・私が今一番したいことは飛ぶことです。それでは先生、おやすみなさい・・・)
サラは少しずつ元気な顔へと戻っていきました。
「サラ、今日は使命が変わってからの成果を報告するね。サラも知っているヴィクターとシャルルが教えてくれたよ、使命にもみんなすっかり慣れ、今ではみんな協力しあって頑張っているそうだ、地上の方もほんの少しずつ自然を大切にする意識が芽生え始めているらしいね?とても良い事だね、時間はまだまだかかるとは思うが、いい未来を想像できるようになってきた、それじゃあサラ、おやすみ・・・」
私たちはこうして喜びや悲しみも、報告や普段の事も毎日語り合いました。
心の繋がりを信じて・・・愛を信じて・・・
つづく。
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