オトキチ日記

謎の食卓

北朝鮮旅行記5日目

謎の食卓

朝、今日はちやんとモーニングコールがあつて、お馴染みの2階のレストランに李さんが案内。
私ひとり分だけの用意がしてある。
李さんはいなくなり、まづはミネラルウォーターが運ばれた。

と、料理を待つてゐると、ウェイトレスさんから声を掛けられる。
見ると、背中側のテーブルに食事のセットがされてゐて、朝鮮語と身振りで、こちらへ移つてくれとのこと。
そのとき店内は私ひとり。
理由は分らぬが、素直に従ふ。
料理が運ばれてきて、食べ始める。

そのときウェイトレスさん同士の会話が聞えた。
朝鮮語だつたが例によつて推察すると、
「なんで席替へたの?」
「だつて、あれだから」
「ああ・・・」
こんな感じ。

この位置関係はこんなふうだつた。(実際は丸テーブル)。

           ――――――――
          |          | 
          |          |
          |―――――――|
              ↑ a

     ―――――
    |     |
    |     |
    |     |← b
    |     |
    |     |
    |――――|

最初がaの席、移されたのがbの席。(ちなみにいままでの2日目、3日目の朝食もaの席だつた)。
客は私ひとり。レストランのほぼ中央の席。まはりにもテーブルはたくさんある。

食べてゐるうちにaの席の食器は片付けられた。
客は私ひとり。

なんでだ? とあまり深くは考へずに食べるうちに、背後に客の気配が。数人が朝食を摂りに来たやう。

ここでピンと来た。
aの位置だと軽く右を向くだけでかれらの姿が目に入る。
が、ここbの席だと、体を捩つて振り向かねば見えない。つまり、見ようとしなければ見えない。

かれらの姿を私に見せたくないのだな、と、感づいた。

で、さうと分れば後ろを振り向くわけにもいかなくなつた。

どのやうな人たちが来てゐるんだ?
軍のお偉方か? しかしこちらは顔も知らないわけで、わかるわけがない。

一介の日本人観光客に見せたくない人つて?
まさか金正日が飯を食つてゐるわけでもあるまい。
横田めぐみさん? まさかね。
よど号メンバー? それもどうだろ。
数人(らしい)はごく普通に談笑しつつ食事をしてゐるやう。
雰囲気からは特別のものは察せられず。

あるいは、と考へる。かれらは筋金入りの反日主義者で、こちらが日本人とわかれば問答無用で襲ひ
かかつてくるやうな輩なのか?
aの位置ではかれらからこちらの横顔が見えて日本人だとわかる。万一なにかが起こるかもしれぬ。
しかしここbの位置では背中しか見えない。危険度は減る。
私の身を守る&トラブルを避けるための席替へだつたのか?

さうかう考へるうちに朝食を食べ終へた。
席を立つて外へ出るにはかれらのほうへ歩くわけで、いやでも視界に入る。
いいのか?
しかし食べ終へていつまでも動かずにゐるのも不自然。
ご馳走さまでした、と声を出して席を立つ。
何も言はれないので、そのまま出口へ。

かれらは、・・・数人の男たちだつた。3人くらゐはこちらに背を向けてゐて顔は分らず、2人くらゐは
向き合つてゐて顔が見えたが、もちろん知らぬ顔。地元の人なのだらうとしか推測できず。

なんだつたんだらう? としか言へません。

言へることは、朝食を食べるレストランのウェイトレスさんの行動にも「ある意思」が働いてゐるといふ
ことで、ただ飯を食べさせるためだけに彼女たちが働いてゐるのではない、といふことである。

「ある意思」とは言ひ換えれば、たとへば「党の方針」といふことだらう。

・日本人観光客の安全は徹底して守れ。
・定められた観光コースでは自由に撮影させてよい。
・一般市民との予定外の接触はさせるな。
・朝鮮の主張はきつちり伝へろ。
・大事に扱ひ、今後の観光客を増やせ。

おそらく現在のところは上記のごとくが「党の方針」なのだらうと思ふ。

北朝鮮旅行は安全である。
ただし、「党の方針」の範囲内で行動する分には、である。

その範囲を踏み越えたらどうなるのか、

それは諸兄よ、各自、想像されよと云爾(しかいふ)。


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