Midnight waltz Cafe 

3rd Dance -第5幕ー



・・・本日未明、××町の洋館が炎上しました。もともと人通りが少なく、深夜と言うこともあり、けが人はなく、またその洋館以外に火が燃え移ったと言うことはありませんでした。
朝のニュースは、事務的に事実を伝えている。

「う~ん・・・。」
雪絵が目を覚ますと、時計の針は6時30分を指していた。
「おはよ。目、覚めたか?雪絵・・・」
涼は、少し眠そうな顔で、コーヒーカップを2つ持っている。
「・・・涼、私??」
雪絵の疑問ももっともである。
涼ははじめから話すことにした。
「・・・ということがあって、神尾が引き金を引いたんだ。」
涼は、胸を手で押さえている。
「そ、それで・・・」
雪絵は、心配そうにたずねる。
「あぁ、それからな・・・」



真理・・・いや、マリーは「さよなら」とつぶやき、引き金をひいた。
ドン。
低く重い銃声が、古ぼけた洋館の地下に響きわたる。
「くっ。」
涼は、胸を押さえてしゃがむように倒れこむ。
その瞬間、涼は手に持っていた誘惑の水晶を落とす。落ちて転がっていく誘惑の水晶は、真理の手に渡ることになる。
「神尾、お前・・・」
涼は、苦しそうにつぶやく。
クス。
「そんなに痛くないでしょ。そのまま楽にしてあげるわ。・・・なんてね。」
真理は笑っている。
「そろそろ下手の芝居は終わりにしたら。私特製の空気弾だから、衝撃はあってもけがしてないはずよ。しかも威力落としているのよ。」
「神尾、お前なぁ。」
「くす。ほんとに撃つと思ったかしら?」
真理は、笑いながら言う。
「でも、その次は実弾だろ?」
立ち上がりながら涼はそう言う。
「あいかわらず、余計なところでは、めざといのね。」
真理は、苦笑している。
「何に使う気だ?まさか・・・」
涼は、少しよろめいている。
「さて、お喋りの時間はおしまいよ。とりあえず高瀬さんを連れてここを出て。」
「お前、けが人に・・・」
涼は痛そうに言う。
「嫌ならいいのよ。ここ爆破するだけだから。」
「爆破・・・、まさかお前死ぬ気じゃないだろうな。」
「ご心配なく。そんなこと考えていないから。」
真理は、笑顔で言い、涼に早くでるように促す。
「わかったよ。外で待ってるからな。」
そう言って涼は、雪絵を抱きかかえ出て行く。

「さて、最後の仕上げよ。」
真理は、水晶2つを置いて、その反対側にあるドラム缶に銃を向ける。
「ほんとに愛しているわ。」
そう言って真理は、銃を・・
ドーン。
銃声と共に、洋館が炎上する。
真理は、水晶を置いて座り込む。
「これで、おしまいね。」
炎と煙が地下を覆いつくそうとする。真理はその真ん中に座り込む。
地下の酸素は薄くなり、そして崩れ落ちていくのであろう。

「ったく、そんなことだろうと思ったよ。」
座り込んだ真理の前に、涼が現れる。
「なんで・・・。」
真理は驚く。
・・・どうして、戻ってきたの。
「当たり前だろ。お前をほっておけるかよ。」
少し顔を背けて、涼は言った。
「ありがと。」
真理は微笑む。
「さ、行くぞ。」
そう言って、涼は、真理を抱きかかえ洋館を後にする。
洋館の地下室には、2つの水晶が残されただけであった。

そして、洋館は炎上していく。
「これで終わりなんだな。」
涼がつぶやく。
「そうね、これで終わりよ。」
真理は、そう言って小さく「さよなら」とつぶやいた。

「・・・本当に、さよなら。 アイシテ○○、滝河君。」
炎の中、彼女はその言葉を残して、夜の闇の中に消えていった。
ひとつの包みを残して・・・。


「・・・て、ことがあったんだ。」
涼は、中略しながら語り終える。
「そんなことがあったんだ。・・・涼。助けてくれて、ほんとにありがとね。」
雪絵は、そう言って涼に抱きつき、キスをする。
「・・・でも、これからも怪盗チェリー、頑張ってね。」
「まだ終わりじゃないのね。」
「水晶のことは、終わりだけど。まだまだ困っている人はいっぱいいるはずなんだから。最後までやらないとね。」
「最後までって、いつまでだよ。」
「最後までだよ。」
雪絵は、最高の笑顔で答える。
「わかったよ。こうなったら、やれるとこまでやってやるよ。」
涼は、ため息交じりに答える。
「さっすが、涼。・・・ねぇ、涼。今日って何日?」
雪絵は、少しあわてたように聞く。
「2月14日だけど・・・」
「やっぱり、ごめん!涼。チョコ作れてないの。」
「チョコ・・・なんで、あ、あぁ。」
バレンタインか。
「昨日作るつもりだったんだけどね。ごめんね」
「別にいいよ。」
「よくないよ。だって女の子にとっては大切な日なんだから。」
「いいよ。だって・・・」
涼は、赤くなっている。
「だって・・・何?」
「なんでもないよ。」
もっと赤くなる涼。
「あ、わかった。神尾さんからもらったんでしょ。」
雪絵は少しふくれる。
「そんなんじゃないって。」
「じゃあ、何よ。」
赤くなっている涼はしぶしぶ答える。
「・・・ただ、朝からキスされたから、それで十分だと思ったんだよ。」
少し叫んだような、真っ赤になっている涼の台詞である。

「・・・・・ばか。恥ずかしいこと言わないでよ。」
雪絵もつられて赤くなる。

        ・・・そして、2人はもう一度キスをする。


「ねぇ、涼。今日って学校だったよね。」
ふと雪絵が現実に帰る。
「そうだったかもな・・・。」
「涼、今何時?」
「えっと、もうすぐ8時かな? ・・・やばい!遅刻じゃねえか。急げ!!雪絵。」

 2人は、急いで教会を後にして、学校に向かうのであった。


その日の朝、ショート・ホーム・ルームの時間。
「昨日付けで、神尾真理さんが転校になりました。」
担任の先生がそう告げた。クラスのみんなが驚いたのは言うまでもない。
彼女の「本当に、さよなら」の意味は、このことなのかと・・・涼はその時心の中で思った。


「また、いつかな・・・」
涼は、誰に聞こえるでもなく、彼女に届いたらいいなと、ひとりそうつぶやいた。





                -EPILOGUE-



そして、時は流れ・・・約8年後。
12月24日、町外れの教会。
1組のカップルが、2人だけの結婚式を挙げていた。
新婦が、シスター志望だったためか、秘密の式のようだ。
新郎がマジシャンなので、妙なカップルのような気がするのだが、幼なじみというのだから不思議はあまりない。

2人が教会から出ると、外には誰もいなかったが、誰が置いたのか薔薇の花束が置いてあった。
 中にはカードが入ってあり、こう書かれていた。

       ―おめでとう、おふたりさん。
                Mary・Rose


 新婦は喜び、新郎にカードを見せる。

 そして2人は、昔からよく行っていた、風の吹く丘へと走り出した。





                               Fin.


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