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Pixies の哲学

ピクシーズの哲学


ピクシーズ (Pixies)というのは、80年代の終わりから90年代前半にかけて流行ったアメリカのバンドで、ニホンでは当時イギリスの4ADレーベル系のバンドを聴いているスカシ系の人たちが多く聴いていました。ボストン出身のバンドなんですが、アメリカよりもどちらかというとイギリスを主とするヨーロッパの方で流行りました。

pixies

右から、ベースのキム・ディール、ギターのジョイ・サンチャゴ、ドラムスのデヴィッド・ラバリング、そしてボーカル&ギターのブラック・フランシス(フランク・ブラック)

このバンドのエポック・メーキングなところは、いわゆる「オルタナティブ」とか「カレッジ・ロック」とか言われた、ポップともパンクともハードロックともつかない独自のジャンルのはしりだったことです。とくにピクシーズのステキなところは、「ロック・バンド」というと長髪の似合う背が高くてカッコいい白人のニーチャン4人組とかが愛だの恋だ唄っているのが相場だった頃に、ズングリしたダサい兄ちゃんや有色人種やフツウのネーちゃんが、サルがどうしたとかUFOがどうしたとか火星の山がどうしたとかいったワケの分からないことを激しいギターとドラムに合わせて絶叫していたところです。

当時、日本でも「インディーズ」というのが流行っていて、似たようなコンセプトの“ダサかっこイイ”バンドがいろいろ登場していました。有名なところでは ナゴム・レーベル の「たま」だの「筋肉少女帯」とかでしょうか。

このバンドが2005年前後に10数年ぶりに再結成したというニュースを聞いたときは、とても懐かしく思いました。というのも、このバンドを聴いていたのはちょうどワタシが日本の大学を卒業してアメリカの大学に留学していた時期に重なります。ピクシーズの曲を聴くと、渡米前後の不安とか、アメリカの大学で徹夜で絵を描いていた頃とか、ガールフレンドと楽しい時を過ごした記憶が蘇ります。

その時期というのはオイラにとって、世の中や身の回りで起きるいろんなことを否定するのを止めて、どんなツラいことやムゴイことや悲しいことも、諦念とともに受け容れることを学んだ時期です。ピクシーズの曲というのもまさに、世界というのは現実なんだか幻想なんだか作為なんだかよく分からないし、はかなくて哀しいけど、これでいいのだ、そうだ、これでいいのだ…というヤケクソの肯定を音楽にしたような世界が、当時のワタシを魅して止まなかったのだと思います。

以下がワタシの私的「ピクシーズ・ベスト5」です。

1. Monkey Gone to Heaven (“ Dolittle ” 収録)

この曲はオイラの知っている数あるポップ/ロック・ミュージックの中でも、おそらくいちばん好きでいちばん数多く聴いた曲だ。ベースギターでいちばん頻繁に弾いた曲もこれだなあ。永遠に解き明かせない謎のような単純なメロディと歌詞。キム・ディールとブラック・フランシスの”♪This Monkey Gone to Heaven…”のコーラスは何べん聴いても気が遠くなるくらい悲しくて美しい。死ぬときにはこれを聴きながら死にたい、というような名曲である。

2. All Over the World  (“Bossanova”収録)
『Monkey Gone to Heaven』がサル(人間)が天国に往くの歌なら、『All Over the World』は天使(人間)が天から地に落ちる歌だ。テーマが『世界の終わりと諦念』というのは『Monkey…』と一緒か。80年代の終わりにアメリカで栄えた「Blind Melon」とか「Weezer」だの「REM」だのいった数々のカレッジ・ロックの中でも、ブラック・フランシスらしい世界に対する怨念と諦念とが見事に表現された名曲である。

3. Into the White (ライブのみ) (“Death to the Pixies”収録)
キム・ディールがリード・ボーカルを担当している曲というと、Surfer Rosa 収録の『Gigantic』とか『Tony’s Theme』いったキャッチーな曲が思い浮かぶが、ライブ版に収録されているこの曲はベロベロのおサイケなベースで、ギターもヘビー。これがキムの愛らしいボーカルと自然に絡む、不思議な名曲である。

4. In Heaven  (デモのみ) (“Pixies at BBC”収録)
映画「イレイザーヘッド」を見たことがある人なら、主人公が幻想する「レジエーターの中に住む女性」が登場するたびにバックに流れる「♪In heave, everything is fine…」というあの曲を覚えているに違いない。これはピクシーズがあの曲をカバーしたものである。ブラック・フランシスが絶叫する曲は数々あれど、その壮絶さでこれにまさる曲はない。ブラック・フランシスの絶望と諦念が錯綜する痛々しい名曲である。

5.  a) Here Comes Your Man (“Doolittle”収録)あるいは
b) Caribou (“Come on Pilgrims”収録)または
c) Rock Music (“Bossanova”収録) 
5位はなかなか決め難い。a)はガールフレンドとの甘い思い出と交錯するし、b)はサビの「♪Repent(悔い改めよ)!」がジーンとくるし、c)はベースで弾くとハイになれる。

最後に余談ですが、ピクシーズといえば「quiet - LOUD - quiet」あるいは「LOUD - quiet - LOUD」の曲の構成を“発明”したバンドとして知られています。
ベースとドラムだけの落ち着いたトーンで始まる曲が、サビに切り替わるタイミングで絶叫調のボーカルとノイジーなギターで一気に盛り上がる。これが余韻を残しながらまたベースとドラムの“Quiet”に戻り、またサビの“Loud”で爆発する。

この曲の構成が「quiet - LOUD - quiet」の方程式です。この方程式を意識的にコピーして売れたのがニルバーナであり、それ以降にも多くのオルタナティブ・バンド、たとえばRadioheadやスマッシング・パンプキンズなんかが、「quiet - LOUD - quiet」の構成を曲に多用しています。

まあ、そんな多くのバンドに影響を与え世界中のワカモノを熱狂させたカリスマ的な崇高さを持っていたバンドも、メンバーがそれぞれ解散後に始めたソロ活動や別ユニット活動では、ベースのキム・ディールが率いたギャル・バンド「Breeders ブリーダーズ」が一時期ヒットした以外にはほとんど鳴かず飛ばずでした。

2005年前後に一時的に再結成しメディアの前に顔を出したメンバーたちは、ドラムスのDavid Lovering以外みなブクブクに太っていて、キム・ディールも高音のコーラスが出来なくなっていました。でも、当時を懐かしんでライブに駆けつけたファンたちは一様に感動していたようです。老けたメンバーたちの姿はちょっと哀しいけど、あの音楽を聴いているうちに、全てを肯定したくなったに違いありません。


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