『Japanese Poem-かな短歌-』

『Japanese Poem-かな短歌-』

大人の童話



あるとき、良男は離れの部屋で寝ていた。その部屋の前には大きな大木があった。とつぜん大きな声で良男は目が覚めた。窓を開けると鳩ぐらいの大きさの鳥がけたたましくこちらに向かって鳴くのだった。・・・どうしたんだろう?・・・と思ったが、昨日までのテストで疲れていたのでまた眠ってしまった。

 義兵は重いよろいを脱いで木陰で休んでいた。なにしろあの信長の奇襲で主君が討ち死にした以上、もうここは逃げるしかなかった。どれだけ逃げただろうか。幸いにも雨は止んで、辺りは暗くなっていた。それにしてもすごくお腹がすいていた。そこへ一人のまだ6,7歳ぐらいの女の子が通りかかった。
「ちょいと、そなたはここらへんの子かい?出来れば、少々食べ物を馳走になりたいのだが、・・・」
「・・・」
「うーん、何でもよいのだ。家はちかいのだろ?」
 するとその子は軽く手を上げてこっちへ来るように合図した。義兵はその子について行ったがなかなかその子の家に着かなかった。ついには細い林に入っていくのだった。義兵はほとんど暗いわずかな月明かりの道をついていったが、その女の子はスタスタと歩いていくのでただ黙ってついていくだけであった。もうお腹がすいてへとへとであった。ほんとに1時間は歩いたような気がしたその時、前方に小さい明かりが見えた。・・・おお、やっと来たか・・・義兵はホッとした。
「おっかさん、ただいま!」
「ああ、お帰り、遅かったねえ。おやっ!」
「驚かして、すまん。拙者は義兵と申す者、今川様の配下であるが、主君が尾張の信長に討たれてしまったので、逃げてきたのだが、お腹がすいてのお、むすめ御になにか食べ物を、と所望したのだが、・・・」
「そうですか、何もございませんが、今、野菜汁がありますゆえ、よろしければお出ししましょう。」
「そりゃあ、ありがたい、ご馳走になろう。」
見ると、囲炉裏にはなべが掛けてあり、あったかい湯気が上がっていた。

「ああ、これは、うまい。体があったまるわい。」
「よければ、たんと、食べてくだされ。こんなものでよろしければ。あとでお風呂も沸いておりまするゆえ、お入りになられては、」
「何から何まで、かたじけない、きっとあとで、この礼は、致す。」

その女は30歳前後だろうか、色白の目のすっきりしたいかにも健康そうな体つきの美しい容貌をしていた。義兵はすっかりご馳走になってなにか眠くなってきた。
「お武家様、よろしければ、お泊りになっていって下され。粗末な夜具しかござりませぬが。」
「まことにもって、かたじけない。お言葉に甘えて、そうさせて頂こう。」

「サクや!もうお休みなされ。」
「はい、かか様、お休みなさいませ」

義兵はお腹がふくれたところで、離れにあるお風呂場へ行った。4畳半ほどの風呂場ではあったがお湯が程よい湯加減であった。からだを洗おうと風呂桶からでると
入り口を叩く音がして
「よろしければ、お背中でもお流ししましょうか」
と女が入ってきた。内心、驚いたが、
「ふむ、それは、それは申し訳ない、お願い致そう。」
さらに驚いたことに、そこにはふっくらした肌のほんのり赤みを帯びた先ほどの女とは思われぬ様子で、その笑顔がなんとも可愛い美しい女が片ひざを立ててゆっくり、義兵の肩に手をやり、背中を流すのだった。



・・・なんと、きれいな! こんなおなごと一夜を過ごしたいものだ。・・・
 義兵はそう思ったら、顔がカーッと赤くなってしまった。それを見て、その女もククッと下を向いて笑うのだった。義兵も恥ずかしくなって、苦笑いをするのだった。
「お布団も用意しておきますから、ゆっくりお入りくださいませ」
と言って、お風呂場を出て行った。義兵は持っていた筆で戸の板に

   しとやかな かわいいしぐさ ものごしに ひかれているわれ いかにあるらん

と、したためて部屋にもどると、ふとんがきちんと敷いてあったので、ふとんの中に入ったら、今日の一日の疲れがどっと出て、眠ってしまった。
 義兵は夢を見ていた。部屋にあの女がいた。義兵はそっと肩に手を掛けて静かに唇をその女の唇に重ねた。義兵は不思議な気持ちでいた。・・・今どうしてこんな美しい女と一緒にいるのだろう。・・・女のやわらかい肌にうっとりしながら、湯上りの香りに身をまかすのだった。

義兵はなにか寒さを感じてフッと目がさめた。・・・ウッ!ここはどこだ。・・・見渡すと透き間がいっぱいあるあばら家であった。すきまから朝の光がさしこんできた。よく見るともう何年も人が住んでいないような、くもの巣がいっぱい張っていて、義兵はわらの上に寝ているのだった。すると昨日のことは夢だったのか。それにしても、どうしてこんな薄暗い林の中へきたのだろうと思った。入り口の戸の辺りになにやら墨の文字らしいものが見えた。よくみると

ひとのよに うまれかわるは ゆめなれど きみのぬくもり わすれられまじ

 とうすく書いてあった。そこで義兵は昨日の女が人間ではなかったことを知ったのだった。


第二話

 今日は秋なのにとても暑い日だった。大きな蛾が部屋に入ってきた。良男はそっと窓を開けて外へ出してやった。しかしやはりあまりしっかりと飛べなくて、木の枝につかまっているのが精一杯のようだった。土曜日で明日も休みだ。と思ったらまた蒲団に入ってうとうととしていた。

義兵は田が広がっているところを歩いていた。もう身体は疲れで自分の身体ではないようなしびれがきていた。しばらく歩くと小さい川が流れていた。手にすくって飲むとそのおいしいこと、ついでに顔も洗って、すっきりして、また歩き始めると、遠くに5.6軒の家が並んで建っているのが見えた。人の影も見えたので、義兵はその家のほうに向かって歩いていった。
「やあー、若い衆、どうしたんじゃ。どうやら、今川方じゃろう。織田様もたいしたもんじゃ。どうじゃ、お前様も織田様につかれたらよかろう。とてもよくして下さるそうじゃぞ。」





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