蛮の狩猟戦記tri                        『新たなる一太刀』

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第13章、第14章、第15章、第16章



ココットの英雄

ハンターに限らず多くの人に広く知られている人物であり

かつてココット周辺の砂漠に現れた飛竜「モノブロス」を単身で狩った事から英雄と呼ばれた。

今と違い当時飛竜の存在は正に恐怖でしか無く、狩猟の技術もろくに無い時代

一角竜との死闘は7日間続いたと言う・・・・



ある時彼が4人の仲間と共にドラゴン討伐に向かい討伐を成した。

一人の仲間の命と引き換えに・・・・



あろう事か、その失った一人はココットの英雄、彼の婚約者であったと言う。

このドラゴン討伐を最後に、彼は剣を置いた・・・・・・



この話は何百年もの間語り継がれ、いまだに5人以上で組むと仲間を失うと言う

ハンターの間では暗黙の了解となっていた。





「・・・・そうだったんだ」

テーブルの上にある食事にも手を付けず、ただじっとその話に耳を傾けていた。

初めてハンターが4人、もしくはそれ以下で行動するのかを知った・・・・



「その後彼は剣を置いた土地に村を興したんだって、ハンターの始まりの場所って言うのかな?」

背中に折りたたまれた弓を背負った、ロンよりも年上に見える女性がビールを煽っている。

「そこ・・・なんて村なんだ?」

さっきから「ココット」という言葉が胸に引っ掛かる感じがしていた、まるで遠い昔。そこに居たかのような錯覚に陥る・・・・

「ココット村、そのまんまよ、私も聞いた事しか無いけどね、ドンドルマよりはミナガルデの方が近いかな?」

ココット村と聞いた途端、ロンは心臓を鷲掴みにされた気がした、指先が微かに震える・・・

「・・・どうかした?顔色悪いけど?」

「・・・・・いや、何でも無い」

グラスに注いであるビールを一気に飲み干した、苦味が喉を伝う

指先の震えを無理矢理止めて、落ち着きを取り戻すよう努めた。

「ところで・・・・・ミナガルデって何だ?」

ココットの言葉を頭から引き剥がすため、ロンはとっさにそう聞いた

女性はビールを一気に飲み干すと、テーブルの上に置かれた皿からモスの足を煮込んだ物をつまみ口に運んだ、口から肉汁があふれ出て頬を伝う。

「んっ、ももドンボルマもりにひにみったもころにあむまひにょ」

口に目一杯詰め込んだ状態で喋ったため口からはさらに肉汁があふれ出て、テーブルにボタボタと落ちた。

「ディラ・・・飲み込んでから喋れよ・・・・」

そう言いながらロンも皿からモスの煮込みを切り分けて自分の皿へ移した。



ガチャガチャと鎧と武器がぶつかる音、紫色の煙草の煙、グラスを置く音

いつもと変わり無い酒場、ギルドマスターが煙草を吹かし、酒場の看板娘、ティナは眠そうに頬杖をついている。



やっと肉を飲み込んだディラは脂まみれの口元を手のひらでぬぐった。



「あんたが聞いてきたからでしょ、んじゃもう一回」

右手の人差し指をロンの目の前でひらひらさせながらディラが言った。

「何もドンドルマだけがハンターの町じゃないのよ、これも人から聞いた話しだけど何でも切り立った崖の中腹にある街でそこにもハンターズギルドがあってハンターのサポートをしてくれているみたいよ?」



初めて街に来た一年前、街はここだけだと思っていた自分を思い出し恥ずかしくなった

飛竜を狩り、認められること必死になり過ぎて世界を見ようとはしていなかった・・・・



「・・・・・・・・あの」

ロンは驚いた拍子に肘でグラスを小突いてしまい割ってしまった。

カウンター奥から箒と塵取りを持ったアイルーが2匹出てくる。

「あ、あまりに静かだから忘れてたよ・・・・・」

ロンは割れたグラスを掃除しに来たアイルーに200zを渡しながら言った。

「ミナガルデ地方の話・・・・なるべく聞きたくは無いのでご遠慮願います・・・・」



そう言うとストローでビールを啜った。



空気が重い・・・・・



「と、ともかく何で4人以下でなきゃいけないのかは分かったよ、ありがとう」

「ありがとう?御礼言われるような事じゃないんだけどなぁ~」

自分でも何故ありがとうと口から出たのかは分からない・・・ただ・・・そう言わなければいけないと思った・・・・

「さってと・・・・俺もう寝るよ」

椅子から立ち上がった瞬間、思うように足に力が入らず思い切り転んでしまった。

まわりから一斉に笑い声が上がった。

骨刀【竜牙】を杖の代わりになんとか酒場から出てマイハウスへと向かった。

マイハウスへ到着するとベットに寝転がる、防具を着たままの上手入れをしていないのであっというまにシーツが雑巾のようになってしまった・・・・・





ベッドに仰向けに寝たが、胸に何かが引っ掛かる感じが抜けない・・・・

「・・・・・ココット・・・・村・・・・」

今度は何の違和感も沸かなかった、しかし瞼を閉じると広大な森と丘の風景が目に飛び込んで来た・・・・・・

(俺は・・・・知っている・・・?

そのまま瞼を閉じていると一頭の大きな生物が空を飛んでいた、見たことも無い竜が・・・

「・・・・・・リオ・・・・レウス・・・?」

しかしその体は血を焦がしたかの様な黒・・・・・そのような飛竜は存在しないはず・・・・

「・・・・・・獄・・・・・・・炎竜・・・・・・?」

その後風景は闇へ溶けて行き何も見えなくなった・・・・・


第14章「影」

黒く焼けた水車・・・

崩れ落ちた家屋・・・・

蒸発した川・・・

生きる者を拒むかのように広がる大地・・・

想像を絶する温度で蒸発したのだろう

地面に映った人や動物の影・・・・

この世界では飛竜に襲われた町の話など珍しくは無い

しかし此処は異常だった・・・

飛竜達は基本的に村や町を襲う事はない

卵を盗まれたか縄張りを侵された時以外に村を襲う事はまずありえない。

何より、いくら強大な力を持つ飛竜と言えど

ここまで酷い破壊は不可能なのだ

ならば古の時代より、この地に君臨して来た古龍種と呼ばれる者の仕業か?

いや・・・・

古龍種から見た人間など、そこいら中に転がっている石ころと何等変わらない

自らに危害が及ばぬ限り、小さな村になど見向きもしないのだ。

しかし現実は全てが滅茶苦茶になっていた・・・



無邪気な子供が、積み木の町を壊した後の様に・・・・



それは数刻前の事・・・・






「んん~っと、今日はいい天気だ・・・」

「オラッ、サボって無いで仕事しろっ」

空は青く晴れ、雲がぽっかりと浮かんでいる。

「親方ぁ~もうちょっとくらい良いじゃないですか~」

作業服を着た青年が大きく伸びをしながら起き上がり、欠伸をする

「こんな良い天気ここ最近滅多に無かったんですからちょっと昼寝くらい・・・」

「馬鹿野郎っ、この水車小屋今日中に仕上げねぇといけないんだ、ほらっ、そこ持て!」

親方と呼ばれた男が青年に激を飛ばす。

「よっこらしょっと・・・そうでしたねぇ、とうとうこれも完成ですか・・・」

屋根から降り、組み木を器用に渡りながら支持された場所へ向かう

「あぁ、この水車小屋が完成すりゃこの村の便利がもっと良くなるって寸法よ!」

青年は手際良く板を打ち付けて行く、先ほどまでのんびり寝ていた人間とは到底思え無い

「良し、こんだけやりゃ午後には余裕で終わるだろ、飯にすんぞ」

村人からもらった弁当は、米虫をドライマーガリンで炒めたガッツチャーハンだ

バテ易い温暖期に体力とスタミナを付けられるこの料理は庶民の味方だ。

「これでホピ酒があれば最高なんだけどなぁ~」

食べる、と言うよりかっ込むと言った感じで一気に平らげて一息付いた。

「真昼間から酒飲む阿呆がどこにいやがる!ま、俺が言えた事じゃねぇがな、ガハハハハッ」

弁当を食べ終わり、暫しの食休みに入る

「この小屋が出来たらしばらく仕事は休みですかねぇ~」

爪楊枝を片手に青年がため息を付いて言った。

「この村にゃあハンターがいねぇからな、たまに来てもみぃ~んな行商の護衛ばっかだ、この村にも1人2人いりゃぁモンスター達の素材でそれなりに立派なモンが作れるんだがなぁ・・・」

「・・・親方・・・我がまま言っても良いかな・・・?」

青年が寝転がり、天井を見て呟いた。

「給料上げろっつうのは聞く耳持たんぞ」

「ここが出来たら俺・・・ミナガルデ行ってみたいんだよね」

親方が驚いて持っていた煙草を落としてしまった。

落ちた煙草が足元のおがくずに引火し危うく火事になる所だった。

「み、ミナガルデだぁ?あの崖に出来た町か!?何でまた・・・・」

青年は上体を起こし、完成間近となった水車小屋を見渡した、

「俺さ、あの町が見える小さな村で生まれたんすよ、んで来る日も来る日もあの町へと続くゴンドラを眺めていていつかあの町へ行ってみたいと思うようになって行ったんですよ」

青年は立ち上がり窓へと向かう、風が心地良く吹き抜ける

「でも俺が13歳の時に親父が行商の先で飛竜に殺されてしまって、それから間もなくお袋も病で倒れてしまった・・・

親戚に連れられてこの村に着いたんすけど・・・・今でもあの町が忘れられないんすよね・・・」

外から村の子供達の楽しそうに遊ぶ声が聞こえて来る、平穏に暮らそうと思えば何の不自由も無い小さな村

まだまだこれから発展して行くであろうこの地から、働き手が去るのは痛手となる

「ま、ただの好奇心なんすけどね、ここの暮らしが不自由だなんて思ったこと無いし、飽きてすぐ戻ってくるかもしれないんで行っても・・・」

「・・・行って来いよ」

親方の言葉は短かった、今度は青年が逆に驚かされた。

「ミナガルデならここから半月って距離だ、よっぽどの事がねぇ限り飛竜に襲われる事も無い、それに上手くいきゃあハンターの一人くらい
この村に来て貰えるかもしれんからな、なぁに、仕事なら心配すんな、村長にも言っておいてやるよ」

無精髭を生やした顔がにぃっと笑っていた、熊が笑ったらこんな顔だろう・・・

「マジで良いんすか!?でも仕事が・・・・」

親方が青年の背中を叩く、その拍子で舌を噛んでしまった・・・

「こっちからも紹介状出しておくからよ!武具工房もあるんだろ?そこで暫く働いててもかまわねぇ
その代わりこの村の事よぉく言っておいてくれればいいさ、ガハハハハッ」

「親方・・・」

「さてとだ・・・・まずはこの小屋仕上げちまうぞ、そしたら今夜はパァーっと宴だ、ガッハッハッハ!」

キャ―――――!!


先ほどまで外で遊んでいた子供の声だ、何があったと言うのだろうか・・・

「何だ!?まさかモンスターでも来やがったのか・・・?」

親方が外へ飛び出た瞬間、巨大な火球に包まれ燃え尽きてしまった。

「親かっ!・・・」

目の前で起こった信じ難い光景・・・

青年は急いで外へ飛び出した直後、今出て来たばかりの水車小屋にブレスが放たれる。

着弾の衝撃をまともに受け10数メートル飛ばされてしまった。

「う・・・・ぐっ」

立ち上がろうと左手を付いたがまた倒れてしまった、見ると肘の辺りから先がありえない角度を向いている

「何が起こってんだ・・・?」

辺りを見回すと家が燃え、人が焼け、地獄としか言い様の無い光景が広がっている

バサッ、バサッ・・・・

上空を見てみると、大きな黒い影が青年を覆う、大きな翼、太い尻尾、口から吹き零れる炎・・・・

その全てが真っ黒な色をしていた・・・・

青年の目の前に着地した飛竜、大きさは優に20メートルを超えている

青年は動けなかった・・・・・

恐怖、怒り、絶望・・・・

そのどれでも無い感情・・・・

「・・・・はっ!」

青年は我に返ると同時に、目の前の飛竜の名を思い出した。

「こいつは・・・リオ・・・」

そう言う間に飛竜は大きく仰け反り高らかに咆哮を上げた・・・・

次の瞬間全てが黒い炎に包まれた、飛竜を中心に燃え盛る漆黒の火柱

それの光景はただ一言に尽きた・・・

「地獄の業火」と・・・・


第15章「始まり」

「う・・・・・ぐっ」

ロンは突然胸を締め付けらる様な苦しみに襲われ、持っていた鉄刀【神楽】を落としてしまった。

「どうした!?」

ジャンが駆け付けロンの胴に腕を回し抱え上げそのまま横に飛ぶ

そのすぐ脇を電撃が駆け抜ける

「悪い・・・・・」

「そんなのは後だ、今は体勢を立て直す事に専念して!」

ジャンはロンを抱えたまま飛竜刀【翠】の切っ先ををモンスターに向けた

「来るよ!」

およそ10メートルはあると思われる飛竜、フルフルは大地を蹴りのしかかろうと飛び付いて来る

ジャンが間一髪の所で潜り込み、事無きを得たが

ロンを抱えたまま転がったために体制を崩してしまった

フルフルが着地した場所にはロンの太刀、鉄刀【神楽】は見るも無残に真っ二つに折れて転がっている

「しまっ・・・・」

「後ろ!!」

ディラの声で振り向くと、フルフルは尻尾を地面に吸い付け様としていた

放電の予備動作だ、直ぐに離れなければ体の内側から焼かれてしまう

「くっ!!」

渾身の力で地面を蹴り、放電の範囲から離脱した、しかしそう何度も避けられない

「ぐっ・・・・」

ロンは以前として心臓を握り潰されそうな感覚に襲われていた

呼吸すらままならない、意識が遠のく・・・・

「まずいな・・・・」

ロンの表情を窺いながら冷静に状況を整理する。

「何やってんのよ!早く離れて!!」

ディラはポーチから小ビンを取り出し、空になった強激ビンと入れ替えた

「ハンナ!強走を頼む!ディラ!足元に集中攻撃!」

「了解っ!」

「はいっ!」

ハンナは狩猟笛を器用に吹き鳴らし、その場にいる全員に強走薬を使用したと同じ効果を与える旋律を奏で

ディラは十分に引き絞った矢をフルフルの足に狙いを定め射る

ディラが放った矢はフルフルの左足に3本縦に突き刺さりバランスを崩し、巨体は横に倒れた

「一旦引くよ!」

ジャンは体勢を立て直したものの、ロンは未だ胸を押さえ苦痛の表情を浮かべていたため、ジャンは皆に一時撤退を促した。







数分後すぐ隣のエリア2に到着した

「はぁ・・・はぁ・・・もう・・・だめ・・・」

ディラはそう言うと仰向けに寝転んでしまった。

ジャンはロンを抱えて来たがそう大して息は切れていない。

「ディラ、いつフルフルが来るか分からないんだ、そうで無くても此処は・・・」

「此処は狩場、ランゴスタ一匹だろうが絶対油断はするな、でしょ?わかってるわよ・・・っと」

上体を起こしたが立ち上がろうとはせず、その場で胡坐をかいて座っている

「ハンナ・・・・あんた良くそんなちっこい体であれだけ走れるわね・・・」

「私は竜人なので人間よりも多少の無理は平気です」

いつもの淡々としたどこか取っ付き難いハンナ特有の口調で一言さらりと言い放った。

「・・・・・・前にも聞いたわねその言葉」

「はぁ・・・・はぁ・・・・・皆、悪い・・・・・」

ロンは苦しみからやっと解放され呼吸こそ荒いままだが落ち着きを取り戻しつつあった

「いや、そんな事は良いけど・・・・どうしたんだい?」

ジャンの腕から離れたがすぐに倒れてしまった。

「あぁ、大丈夫大丈夫、ちょっとよろけただけだからさ・・・」

ポーチから元気ドリンコを取り出して一気に飲み干し、空になったビンを投げ捨てた

「急に息苦しくなってさ、それでちょっとうずくまってただけだよ」

そう言うとディラが血相を変えてロンを睨み付けた

「ちょっとうずくまってた『だけ』?何言ってんのよ、アンタ今にも死にそうなほど苦しんでたじゃない!」

「もうすっかり良くなったよ、心配掛けてごめんな」

ロンは何事も無かったかのように立ち上がった

「あんたね・・・・もう少しでジャンが黒焦げになっちゃうとこだったのよ!?そんな危ない目に遭ったのは誰のせいだと思ってんの!?」

「黒焦げ・・・・」

目を細めながら呟く

「(そうだ・・・少し思い出してきた・・・・)」

遠い空を見つめてロンは今見たものを必死に思い出そうとした

「(大きな・・・・ブレスが地面に着弾したんだ・・・・そこには誰かが居た・・・・・地上にに降り立った時・・・目の前に自分とそう変わらない歳の男が居たな・・・・・腕が不自然に曲がってたっけ・・・・そして・・・・・)」

パシンッ!!

大きな音と共に左頬を何かで叩かれた、ディラの平手打ちをまともに受けてしまったのだ

「っ・・・・・てぇな・・・・・・」

左頬に手を当てると少し血が出ていた、ザザミガードの突起で少々切っってしまった様だ

「何無視してんのよ!人の話し聞いてたの?」

「・・・・・あぁ・・・・・悪かったよ」

ディラの言葉はほとんど耳に入らなかった、今見たものが気になって仕方が無い・・・

「もういいよディラ、何事も無かったんだしさ」

ジャンは飛竜刀【翠】を研ぎ終えたところで、鞘に収めながら言った

「それよりどうしようか、まだ時間はあるけどロンは武器無くなっっちゃったし・・・・」

「え?あぁ!!」

ロンは今、自分の武器が手元に無い事にようやく気付いた。

「どこだ?どこに落としたんだ!?」

「ついさっき、あんたが胸押さえて倒れこんだ時自分で離したのよ、覚えてないの?」

「神楽ならフルフルに踏み潰されて折れちゃったよ、残念だったね・・・」

ロンは数ヶ月前、ジャンが持っていた鬼神斬破刀に憧れて

自分も作ろうとずっと鉱石採取系のクエストばかり受注し、やっとの思いで神楽まで強化していた

今回フルフルの狩猟に来ていたのも、次の斬破刀に強化するための電気袋を入手する為だった

「・・・・最悪だ・・・・」

がっくりと膝を付き、落ち込んでしまっていたロンに一言ジャンが声を掛けた

「・・・確かに武器が壊れてしまったら工房じゃ直せないけど・・・・・」

「けど・・・?」

「一つ、直せる所を知ってるんだ、ギルドとは関係の無い所だけどね」

ロンの脳裏に希望の二文字が浮かんだ

「本当か!?」

先ほどとは目の輝きが違う・・・・同じ人間とは到底思えない

「ちょっと高くつくけど・・・・それでも良いなら紹介するよ」

「やった!」

「ちょっと声大きいわよ、雪崩でも起きたらどうするの!」

そう言った彼女の声が一番大きかったのは伏せておこう・・・

「ははっ、それじゃそろそろ行こうか、もう少しで捕獲出来るはずだ」

全員が立ち上がりハンナは千里眼の薬を飲んだ

「フルフルは今巣に居ます、これは・・・・どうやら寝ているようですね」

「ロン、これを渡しておくよ」

ジャンが差し出したのは地面を脆くして飛竜など大型のモンスターを落とし、行動不能にする罠と

弱らせ罠にかけた所で数発当て、眠らせる捕獲用麻酔玉を数個

「最後まで出番無しなんて君は嫌だろう?大事な仕事だ、しっかり頼むよ!」

ロンは強く頷き、手渡されたアイテムをポーチにしまった。

「よし、それじゃあ行こうか!」

4人は立ち上がり、エリア3へと続く入り口へと足を運んだ



数分後、落とし穴にかかったフルフルが寝息を立てている横で真っ二つに折れた太刀をロンは見つめている

捕獲した後にエリア7まで戻って回収して来ていたのだ

「粉々になってないだけまだマシじゃない、私なんか前にイヤンクックにハンターボウバラバラにされちゃったんだから」

ディラがパワーハンターボウの手入れをしながら言う

「そのぐらいなら直すのは比較的簡単かな?ただ・・・・・」

「ただ?」

「いくらかかるか、だね・・・・・・・」

「皆さん、狼煙が見えました。行きましょう」

エリア2と3を繋ぐ通路からハンナが促した。

「まぁ、足りなかったら僕が立て替えとくよ・・・・・・もちろん利子付きでね」

ジャンとロンの話はベースキャンプに着いてまで終わることは無かったが

幸運な事に報酬で電気袋が3つ手に入った、後は神楽を直し斬破刀に強化するだけだ

そう思うとあの時見えたものなどどうでもよくなってしまった。

鍛冶屋へは次回案内するとの事だった

今日はゆっくり休もう、久し振りに良く寝付けそうだ・・・・・



大老殿地下廊下



カツン・・・カツン・・・・

一人の男が手に持ったろうそくの灯りだけを頼りに、薄暗い廊下を歩いている

とある一室の前で止まり、2度扉を叩いた

「・・・・入れ」

中からはしわがれた老人の声が聞こえる

「失礼します」

男はそう言うと扉を開けて入り、ゆっくりと閉め老人に歩み寄った

老人は竜人族の様で背丈は男の腰程しかなく

異様に足の長い椅子の上に座っていた。

「体に異変は無いかの?」

そう言うと男の目の前に小瓶を置いた、中には薬のような物が入っていた

「頂いている薬のおかげで今の所変わりありません」

男はそう言うと差し出された薬を小瓶ごと飲み込んだ

「薬を過信するでない・・・・・何よりもお主の心一つで容易く封印は解けるのじゃからの・・・」

男は一息付き、老人に向き直った

「ふぅ・・・・・大丈夫ですよ、僕は絶対に力に溺れない、絶対に・・・・・」

薄暗い部屋に沈黙が流れる・・・・

たった数分の間なのだろうが、老人が口を開くまで1時間はかかった気がした

「・・・・実はの・・・・今日、ミナガルデに近い場所に向かわせていた観測気球から気になる物が送られて来た」

老人は横にある箱から真っ黒に焼けた棒を取り出した。

「これは・・・・人骨!?」

一見黒く炭化した物にしか見えないただの棒だが、良く見ると生物の

それも人の骨である特徴があることを男は見抜いた

「そうじゃ、しかもそれは死体が焼けて出来た物では無い・・・・生きた人間のものだ」

「・・・・・・・・・」

男に思い当たる物は一つしかなかった

「あいつが・・・・・・獄炎がやったんですか・・・・・」

「まだ何とも言えん、しかしこれは先ほど届いた物じゃ・・・・・まず間違いは無いじゃろう」

男は炭と化した骨を静かに置き、手を合わせた

「それでは失礼します」

入って来た時とは対照的に、少々荒っぽく扉を明け男は出て行った

「・・・・・お主が道を踏み外す事は無いと思うが・・・・・」

老人は出て行った男が閉め忘れて行った扉へ向かい、静かに閉める

「あやつを斃すにはあの力に頼らざるを得まい・・・・・・」

そしてまた足の長い椅子に座り、煙草に火を付けた

「命の限り運命に抗うが良い、蒼き竜よ」




薄暗く日の光がほとんど射さず、一般人は愚かハンターすらも避けて通場所がドンドルマに存在する

闇市場と呼ばれる通りがドンドルマの東部にある。

ドンドルマの全体地図から抹消されてなお、大勢の人間が日の光を避けるように生活している

住人の大半は他の大陸から亡命して来た難民や、ハンター崩れの犯罪者達で構成されている。

そんな中を歩く青年が2人、一人は麻袋を背負い、もう一人は傘を手にしていた・・・・





第16章 「魔法屋」



「なぁ・・・・ジャン」

「ん、何だい?」

ロンはすれ違う人間全てに注意を払いながら麻袋を背負い直す

「俺を連れて来た目的・・・・・分かってるよな?」

すれ違った老人の手が麻袋を掴み掛けたが、ロンに睨まれたため直ぐに手を引っ込めすごすごと去って行く

「折れた神楽を直すんだろう?そりゃ確実にとは言い切れないけどまず心配無いよ」

ジャンの方はと言うと、すれ違う人間全てが避けて通るため何事も無いかのように歩を進めていた

「いや・・・そうじゃなくて・・・・」

右を見ると本来取引されないはずの素材が店に並び

左を向けば顔が半分変形した男ががぶつぶつ独り言を言ったり突然奇声を上げたりしていた

「・・・・なんなんだよここは」

この通りに足を踏み入れてから、常に背筋に何かが這うような感覚が続いていた。

「俗に言う闇市場って奴かな、あんまり脇見をしない方が良いよ」

気が付くとロンが余所見をしている隙に麻袋に穴を開けようとしている男がいた

ちまちまと小刀のような物で麻袋の端を切っている

ロンが自分の方を向いている事に気付くとほぼ同時に、男の顔に裏拳が見舞われる

軽量と言えど大型の武器に分類される太刀をロンは振り回すのだ、腕力は人一倍にある

案の定男はその場に倒れこみ気を失ってしまった

「先が思いやられるな・・・」





ジャンの後を付いて行くこと約20分、とある店の前で足を止めた。

「ここだよ......相変わらず汚いなぁ」

店と言うよりはもはや廃墟と言った方が良いかもしれない

窓のガラスは割れ、くもの巣がいたるところに見受けられる

ただ屋根の上にある奇妙に曲がった煙突からは絶えず緑色の煙が出ている。

「緑色って事は今2階にいるのか・・・・ま、直ぐ出てくるかな」

ジャンが扉に手を掛けると直ぐ上に掛けてあった看板が傾いた

反射的にその看板へ目を向ける、そこにはこう書かれていた





「魔法屋 飛龍亭」



=====================================

1時間前



武器の修復

これはギルド側から言わせれば「違法」にあたる

多少の損壊であれば問題は無いと言うが

明らかに使用不可と判る物に関しては禁止されている

ハンターが使用する武器には特別な加工により、様々な属性を持たせた物がある

そのどれもがモンスターの内臓器官が使われている、しかしこれが非常に危険な作業なのだ

ハンターの武器はそこいらの武器屋で扱っているような物ではない

飛竜を相手にする以上、切れ味はもちろん、付加された属性も相当な威力を誇る

緻密な計算に基づき、設計限界のギリギリを見極めた作りである為

下手に手を加えようとした場合思いもよらぬ惨事を引き起こす事になる

一度など工房で完全に壊れた片手剣を直そうとした事があったらしく

その片手剣に使用された火炎袋が突如爆発、修理に立ち会っていた職人数人が吹き飛んだと言われている

それ以来武器の修複は絶対禁止とされた





「って俺は聞いてたんだけどなぁ」

長めの麻袋に折れた神楽を丁寧に入れ、口を締める

「確かにその通りだよ、だから今日行く所はちょっと特別なんだ」

いつもの蒼い鎧ではなく、普段着とでも言うような格好でジャンが側に立っていた。

「それに神楽はまだ何の属性も付いて無いからね、安全だと思うよ」

「そう言う問題かぁ・・・・?何か不安になって来たな・・・・」

ロンもランポスシリーズの防具ではなく、ジャンと同じ様な服装だ。

「それにしても何でこんな袋に入れなくちゃならないんだ?折れてるって言っても鞘に入れておけばそのまま持ち運べるだろう?」

神楽を入れた麻袋を持ち立ち上がると、袋の中で金属が擦れ合う音が聞こえた

決して心地良い音ではないが、神楽を直せることを思えば気にならなかった

「これから行く場所に武器持って行くのはちょっと不味くてね、それなら問題無いと思うよ」

「武器ねぇ・・・ところで」

倉庫代わりに部屋においてある箱の中から、電気袋を入れた特殊な容器を取り出し、麻袋と一まとめにして背負い直した

直すついでに斬破刀にまで強化が出来るかもしれないとジャンに教えてもらっていた

少々荷物は多くなるが、一気に作ってしまいたいと思い一度に持っていくことにしたのだ

「今日雨でも降るのか?」

ジャンは背中に太刀を掛けるように傘を持って来ていた、しかもただの傘ではない

まずその大きさ、身の丈を優に超えるそれはとても傘には見えない

そしてその傘には何やら奇妙な絵が描かれていた。

「あぁ、これ?来る時ちょっと曇ってたから持って来たんだけど・・・・降りそうも無いね」

ジャンが出入り口の方へ歩いて行く、その後ろを追う途中窓の方を見た

見ると確かに曇ってはいるが、ところどころ光が差している

「邪魔じゃないか?何なら置いて行ってもいいぞ?」

ドアノブを回し、半開き状態のままジャンは首を振った

「いや、絶対振らないと限らないからこのまま持っていくよ」

ドアを開けるとロンの方を向かずそのまま外へ出た

「じゃ、行こうか」

ジャンにしては珍しく強引であるように思えた。



=====================================



カランカランッ

扉に取り付けられたベルが鳴る

店内は真っ暗で何も見えなかった。

「おい、本当にここで合って・・・」

「しっ、静かにっ」

その時、店内の空気が一気に下がった気がした。

「なっ・・・・何だ!?」

店の奥から凍り付きそうな声が聞こえて来る

「客人よ・・・・私の館へ何用かね?」

「え?」

ロンは面食らったまま奥からの声が続けた

「用が無くばお引取り願おうか・・・・・それともこの場で斃れるか・・・?」

「なっ、何言って!!」

ジャンの方を向くが全く動じていない、それどころか呆れた様な表情すら浮かべている

奥から冷たい風が吹いて来た、それと同時に呻く様な声も聞こえる

一瞬光る物が視界に入り、とっさに光を避けたが

左肩に鋭い痛みが走る、どうやら刃物が飛んで来たらしい。

「うくっ!?」

ジャンの方にも光が走ったが全く避けるそぶりを見せない

「ジャン!避けろ!」

しかしジャンは全く動く素振りを見せない、それどころかため息を付いているではないか

光がジャンに向けて飛ばされる、眉間に向かって真っ直ぐに

ジャンを何とか助けようと傷ついた腕を伸ばすが足が動かなかった

「っつ!!」

もう間に合わない、そう思い目を閉じた時、思いもよらぬ言葉が聞こえて来た

「つまらない茶番はいい加減にしてもらえませんか?ヘレーアさん」

光はジャンの眉間数センチの場所で止まり、消えてしまった。

「久し振りに来てくれたからちょっと嬉しくなっちゃてね~」

店の奥からは先ほどとは全く違う声がしたかと思うと

店の蝋燭に一斉に灯がともり、全体を照らす。

照らされた店内は異様の一言だった。

壁にはモンスターの頭らしき物がいくつも突き出ており、中には未だに血を流す物すら見受けられた。

その他にモンスターが描かれた絵も数点、どれも見た事の無いモンスターばかりが並んでいる。

天井からはいくつもランタンが下がり優しく店を照らしている

店にはテーブルが一つと椅子が3つあり

その上には白いテーブルクロスと一輪の花が生けられた花瓶が置かれ

奥にあるカウンターらしき台には様々な色の液体が入ったビンがいくつも並んでいる

「ジャンちゃん最近ぜ~んっぜん来ないから寂しかったのよ~?」

カウンターの扉を開けて出て来たのは何と少女だった

髪はブロンド色をしたザザミ結び

服装は女性専用装備のプライベートシリーズに似ていて

その腕には一匹のアイルーが抱かれている

ロンは面食らっていた、とても武器が直せる工房とは思えない

「ジャン・・・あのさ・・・・」

「大丈夫、ここで間違い無いよ」

ロンの先読みでもしたかのようにさらりと流す

少女はアイルーを抱きかかえながら二人の目の前まで歩いて止まる

目の前の少女はロンよりも少し背が低く、年下に思えた

少女はにっこりと笑い、アイルーを抱いたままお辞儀をする

「私のお店『魔法屋 飛龍亭』へようこそっ」











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