気道確保と呼吸の確認


まずは、前回までのおさらいです。

倒れている人を見つけたあなたは『まわりの状況を確認して近寄り』、
『倒れている人の観察をして』、『意識のあるなしを確認』しました。
そして応急手当に必要な『協力者を集めて』、その方々に
『どういったことを協力してもらうか』まで書きました。

さて意識の確認をした後の応急手当ですが、今回以降しばらくは『意識のない場合について』書いていきます。
確かに意識があればあるなりの手当がありますが、意識のない方が手当の優先順位は高いので、とりあえず優先順位の高い方から話を進めていきます。優先順位についても後で書かないといけないでしょう。

それでは始めましょう。
「呼びかけに対して反応がない」場合は『意識がない状態』と考えていいです。
『意識がない状態』は優先して手当しないといけないのです。
それはなぜか、意識のない傷病者があお向けに倒れていると舌の根元が落ち込んで、空気の通り道(気道という)をふさぐために、呼吸(息)が出来ない状態になります。
よって、何らかの応急手当をしなければ命に関わる事になるのです。

それでは、話を戻しましょう。
「意識がない場合」は、まず助け(通報などの協力者)を求めて下さい。
ここで前回の補足ですが、119番通報を依頼するときには不特定の誰かではなくて、目に付いた人に向かって『指をさして』指名して下さい。
指名しないと、まわりの人の間にいつの間にか「誰かがやるだろう」という心理が働き、結局誰も通報しないという事が起こってしまいます。
人を指名するのは本当にやりづらいかもしれませんが、勇気を出してやって下さい。指名された人は「通報しなきゃ」という心理が働くので確実な通報が期待出来ます。

どうも話が横道にそれていますが続けます。
次にやることは『気道の確保』です。気道の確保というのは、あお向けで寝ていると気道がふさがれてしまうので、空気の通り道を開けて呼吸をしやすくすることです。
気道確保をすることだけで、息を吹き返す(いったん止まった呼吸が始まる)ときがありますので、まずはやってみることが大切です。
それでは、気道確保のやり方を説明します。まず、「頭部後屈あご先挙上法」といって気道確保でよく使われる方法を書きます。

①傷病者の片側、肩のあたりにひざをついてすわります。
②頭になる側の腕は肘(ひじ)をつき、手は額(ひたい)に当てる。
③足の側になる腕(うで)をのばし、その手の人差し指と中指は下あごのあご先に当てる。
④あご先に当てた手で、あご先をゆっくり押し上げるように頭を後ろに反らせる。
⑤額(ひたい)に当てた手は、頭が動かずに後ろに反らせた状態をキープ出来るように、しっかり押さえます。

ここで注意してほしい点が二つだけあります。十分に気を付けましょう。

一つ目は両方の手に強く力を入れすぎないようにすること。あまり力を入れすぎると、かえって首を痛めて呼吸が出来なくなることがあります。頭を後ろの方に反らせる時はあくまでもゆっくりとていねいにしましょう。

二つ目はあご先の手の当て方ですが、あご先の骨の部分を『人差し指と中指二本を支える』形にして下さい。他の指が加わると、のどの筋肉やのどを通る血管を余分に押さえてしまうので危険です。これでは呼吸を止めたり、頭への血行を止めてしまいかねません。

もう一つの気道確保の方法は「下顎(かがく)挙上法」です。
これは首(頸椎)の損傷の疑いがあって、一人で心肺蘇生法を行わなければならないときに、特に有効です。
それではやり方を説明します。
①傷病者の横に位置して、横から片方のひじを床につけて救助者自身の姿勢を安定させる。
②両手の人差し指から小指を下あごの骨の角にかけ、親指はほおに当てる。
③頭を動かさないで、下あごの歯の並びが上あごの歯の並びより前の方に出て、下あごを受け口になるように前に押し上げる。
④くちびるが閉じている時は、親指で下くちびるを開ける。
注意する点は頭の部分を左右に傾けずに、注意深く下あごを押し出すことです。

気道確保が終わったら『呼吸(息)をしているか』を10秒以内で確認します。
呼吸が止まってしまうと、脳(頭)に酸素が行かずに脳が死んでしまいます。
脳が死んでしまうと、心臓が止まってしまいます。
心臓が止まってしまうと、人間は死んでしまいます。
人が生き続けるために呼吸は必要です。その呼吸をチェックしようということです。
それでは、呼吸の確認のやり方を説明します。

①気道を確保したまま(手を添え続けたままの)状態で救助者の顔を、傷病者の顔に近づけます。この時、傷病者の胸のあたりを見るようにして横向きにする。
②傷病者が呼吸(息)をしているか、10秒間で確認します。
確認する内容は自らの五感を使います。
※目で胸の動きを見る→「胸やおなかが上下するのが見えるか」
※耳で呼吸音を聞く→「傷病者の呼吸音(スー、ハー音)が聞こえるか」
※ほおではく息を感じる→「ほおではく息が感じられるか」
 全部が○であれば「呼吸あり」、全部が×であれば「呼吸なし」と考えられます。

なお、呼吸音が「ゴロゴロ」とか「ヒューヒュー」といった音(ものが詰まったような呼吸音)であれば、気道確保が十分でないか、あるいは気道に異物があると考えられます。再度、確実に気道確保をし直すか、口やのどに異物・吐いたもの・入れ歯などがないか確認します。

呼吸がある場合は次のとおり行います。呼吸があるときの寝かせ方を「回復体位」といいます。この方法を説明します。
①傷病者の横にひざまずき、気道確保をする。
②足をまっすぐ伸ばす。
③自分に近い方の上の腕を、胴に対して直角に曲げる。その時、手の位置はおおよそ頭と平行になります。
④救助者と反対側の上の腕を、胸を横切るように曲げる。
⑤④で曲げた手の甲を、手とは反対側にある傷病者のほおに当て支える。
⑥傷病者の足側にあたる自分の手で、自分のいる位置とは反対側の傷病者の足をとり、ひざから直角に地面と水平に曲げる。傷病者のもう片方の足は伸ばしたままにする。
⑦傷病者の曲げた方の足を、自分の方に引く。傷病者の体を起こして自分の側へ横向きの体位にする。
⑧⑤で支えている下あごを傾けて、口の中のものが出やすいようにする。
⑨曲げた足のひざを床につけて直角にして、体が前に回転しないように支える。
⑩傷病者の顔を見て、きちんと気道確保されているか確認する。
⑪呼吸や循環のサイン、脈拍などに注意しながら観察を続ける。

下あごを前に出すのは、気道(空気の通り道)を確保するためです。意識がなくて呼吸をしている場合は、このような体位で寝かせながら、救急車の到着を待ちます。

もし、呼吸がない場合は「人工呼吸」をする事になります。人工呼吸の仕方については次回書いてみたいと思います。




© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: